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プログレおすすめ:King Crimson「Larks’ Tongues in Aspic(邦題:太陽と戦慄)」(1973年イギリス)


King Crimson -「Larks’ Tongues in Aspic」

第207回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:King Crimsonが1973年に発表した5thアルバム「Larks’ Tongues in Aspic」をご紹介します。
King Crimson「Larks' Tongues in Aspic」

白魔術師の影響によるメカニカルなインプロビゼーション

Robert Frippは、1971年発表の前作アルバム「Islands」発表後のツアー終了と共に、いったんバンドに「解散」と云うカタチを取りますが、当時YesのメンバーであったBill Brufordの演奏を聴き、感銘を受けたことから、新たなプロジェクトを模索します。

前々作アルバム「Lizard」を含め、歌詞やサウンドで重要なパートを担っていたPeter Sinfield(詩、照明)やKeith Tippet(ピアノ)らがバンドを離れ、あらたに、Yesから引き抜いたBill Bruford(ドラム、パーカッション)、旧友のJohn Wetton(ベース兼ボーカル)、Jamie Muir(パーカッション)、David Cross(ヴァイオリン、ヴィオラ、キーボード)、Richard Palmer-James(詞)を迎い入れ、当アルバム「Larks’ Tongues in Aspic」は制作されました。

俗に、第2期King Crimsonが提示した最初の音楽性は、フリージャズに生の管弦楽器を利用したアンサンブルへ移行していった前作アルバムまでの有機性のあるアプローチよりも、無機性に溢れたミニマルなギター・プレイに、タイトなパーカッシブなリズムセクションが融合することで、ソリッドでハードなロック本来がもつダイナミックレンジさ溢れるアンサンブルへの変貌を遂げます。

当時、黒魔術に傾倒していたRobert Fippがニューヨークで出会った白魔術師Walli Elmlarkからの影響を得て、テクニカルでメカニカルなインプロビゼーションがメインとなっているように思うんです。

さあ、

ロックの名盤となる1969年発表のデビューアルバム「In The Court Of The Crimson King(邦題:クリムゾン・キングの宮殿)」と双璧を成す名盤

に耳を傾けていきましょう。

楽曲について

冒頭曲1「Larks’ Tongues In Aspic Part One」は、冒頭部から2分55秒前後までのJamie Muirの変則的なリズムのパーカッシブさ、2分55秒前後から5分前後までのDavid CrossによるヴァイオリンとRobert Frippのヘビーなギター・リフにようミニマルなフレーズでのソリッドさに続き、5分前後からJohn WettonのベースとBill Brufordのドラムのアンサンブルも際立ちアンサンブルへと繋がります。いったん、7分40秒前後から幽玄さよりも悲痛な叫びとも取れるヴァイオリンの旋律で落ち着きを払ったかと思えば、10分10秒前後に極まる旋律も含め、11秒前後から徐々に盛り上がりをみせるギターとヴァイオリンによるアンサンブルが12分30秒前後に放たれていき、パーカッションが少し穏やかさをみせつつもクロージングを迎えます。

約13分の長尺にもただただ耳を傾けてしまいます。

終始、時に暴力的で、時に繊細なJamie Muirによるパーカッションのプレイによる特筆ですが、そのJamie Muirが当楽曲にイメージした中国の古い宮廷料理の名前に興味を示し、Robert Frippがまったく意味はないとし命名したという楽曲・タイトルの和訳「雲雀の舌のゼリー寄せ」にあれやこれやと妄想霹靂してしまう神秘性と、クロージング直前のナレーションが醸し出すサウンド・メイキングには、白魔術の影響を受けたと云うRobert Frippの呪術さが発揮されているといえます。

そして、アルバムの冒頭曲にして、5人のメンバーのスキルフルさと緻密さが一体化したアンサンブルが聴ける代表曲ですね。

前曲のクロージングからスムーズに繋がる2「Book Of Saturday」は、テープの逆回転を利用したサウンドを導入しつつも、ヴァイオリンの旋律やアコースティックギターによるアコースティカルな楽曲です。後年、Asiaのライブ・レパートリーでも唄うことなるJohn Wettonの憂いを帯びた声質にも無常さを感じさせるボーカリゼーションを堪能出来ます。

3「Exiles」は、殺伐し荒涼としたサウンド・メイキングを醸し出す冒頭部から1分20秒前後より徐々に抒情さの一端を浮き彫りさせていく印象的な楽曲です。1分55秒前後からのアコースティック・ギターとヴァイオリンをメインとし、メロトロン・フルートも加わったアンサンブルと、John Wettonによる唄メロのメロディラインも含め、第1期King Crimsonの一端を魅せた抒情さを堪能出来ます。名曲「I Talk To The Wind(邦題:風に語りて)」の素朴さと、やはり名曲「Epitaph(邦題:エピタフ(墓碑銘))の幽玄さがほどよくブレンドした印象で、より幻想さを醸し出したサウンド・メイキングに、ただただ聴き入ってしまいますね。

4「Easy Money」は、冒頭部のRobert Frippによるヘビーなギター・リフとJohn Wettonのスキャットがあまりに印象的な楽曲です。特に、当ギター・リフは、後年、影響を受けたであろう楽曲を発表するロック・バンドが見受けられると思うんです。仄かにメロトロンが鳴り響きわたるなか、繰り広げられるメカニカルなギターのフレーズ、ミニマルなベースのプレイ、やはり変則的なドラムとパーカッションのプレイには、混沌さ寸前の喪失してしまった心のうちをサウンドスケープで魅せてくれます。5分13秒前後に一瞬聴かれる嘲笑うかのようなパーカッションとスキャットもアクセントに、6分50秒前後のボーカル・パートへと戻る直前までに、徐々に熱を孕み、ヒートアップしていくアンサンブルは素晴らしすぎます。そして、クロージング直前でのボーカリゼーションには、何故か、イギリスの映画「007 Live And Let Die(邦題:死ぬのは奴らだ)」でのエンディングシーンが脳裏をよぎり、ブードゥー教を想起してしまいます。

不穏なSEで幕を上げる5「The Talking Drum」は、アフリカン・ビートを醸し出すパーカッシブさにも、やはり、徐々にヴァイオリンによる不穏な旋律を含め前衛的な印象を感じる楽曲です。5分前後からのノイジーなギターのフレーズとともに、ドラムとのミニマルなフレーズがリフレインされるなか、ヴァイオリンと他楽器で繰り広げられ不協和音にも近いアンサンブルは、カタルシスを感じずにいられません。そして、そのカタルシスがピークへ達した瞬間に、次の最終曲6「Larks’ Tongues In Aspic Part Two」へと繋がるさま、ハード・エッジなギターによる目覚ましい展開に圧倒されてしまいます。

最終曲6「Larks’ Tongues In Aspic Part Two」は、ヘビーさとメタリックさにもミニマルなギターのリフに、ベースとユニゾンで変拍子な印象的な楽曲です。次作アルバム「Starless And Bible Black」の楽曲のみならず、1990年代以降の「メタル・クリムゾン」の原型ともいうべき代表的な楽曲であり、執拗なまでに繰り返されるヘビーさとメカニカルさによるミニマルなアンサンブルには、何かが擦り切れても絶え間なく破壊し続けるような美学を感じずにいられません。当アルバムの楽曲の中でも最も悲痛な叫びのようにも聴こえるヴァイオリンの旋律が不穏さや不安さを煽り、ところどころに入るベースのアグレッシブなランニング・ベースのプレイに相反的に心が腫れる素晴らしいアンサンブルが聴けます。

アルバム全篇、時として弦の響きが醸し出すヴァイオリンの幽玄さや、フリー・ミュージックになる多種多様なプレイで陶酔感を生むパーカッシブさにも、3人の弦楽奏者(ギター、ベース、ヴァイオリン)と2人の打楽奏者(ドラム、パーカッション)による変拍子をベースとしたアグレッシブなアンサンブルとサウンド・メイキングが聴けます。

[収録曲]

1. Larks’ Tongues In Aspic Part One(邦題:太陽と戦慄パート1)
2. Book Of Saturday(邦題:土曜日の本)
3. Exiles(邦題:放浪者)
4. Easy Money
5. The Talking Drum
6. Larks’ Tongues In Aspic Part Two(邦題:太陽と戦慄パート2)

第2期King Crimsonとして、抒情さは一部感じられるものの、ヘビーなアンサンブルによる切迫さや緊張感が聴きたい方にはおすすめです。

個人的に大好きなアーティスト:Jamie Muir(パーカッション)は当アルバム1枚の制作のみでバンドを脱退してしまいますが、攻撃的なキーワードでメタリックさが好きになった方は、楽曲の精度を高めるライブならではのアンサンブルとインプロビゼーションの良さが結実した1974年発表の6thアルバム「Starless And Bible Black(邦題:暗黒の世界)」と、1970年代のKing Crimsonの終焉にして名盤7thアルバム「Red」や、1995年発表のアルバム「Thrak」、2000年発表のアルバム「The ConstruKction of Light」、2003年発表のアルバム「The Power To Believe」も聴いてみてはいかがでしょうか。

「Larks’ Tongues in Aspic」のおすすめ曲

1曲目は冒頭曲1「Larks’ Tongues In Aspic Part One」
冒頭部のJamie Muirの変幻自在の変則的なパーカッションのプレイや、中間部からのDavid Crossによる悲痛な叫びにもとれるヴァイオリンの旋律、クロージング直前の呪術的なスキャットなど、印象的なパートが散りばめながらも、1つの楽曲を通じ、静と動を活かしたダイナミックな演奏が聴けるからです。

2曲目は最終曲6「Larks’ Tongues In Aspic Part Two」
ヘビーでミニマルなリフを弾くギターと、そのギターにユニゾンするベースがメインの印象があるアンサンブルに、まさにメカニカルでいて無機質さを感じてしまいます。と同時に、ヴァイオリンの旋律も交え、いつかは心が擦り切れ破滅してしまうようなイメージを抱いてしまいます。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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