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プログレおすすめ:Pink Floyd「The Wall(ザ・ウォール)」(1979年イギリス)


Pink Floyd -「The Wall(ザ・ウォール)」

第206回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:Pink Floydが1979年に発表したアルバム「The Wall」をご紹介します。

Pink Floyd「The Wall(ザ・ウォール)」

Isn’t This Where We Came In ?

アルバムの最終曲「Outside The Wall」で語られる、最後のセリフ「ここじゃないのか(=Isn’t This Where)」に辿りついた時、聴き手は何を感じるだろう・・・。

楽曲の冒頭部からの旋律も含め、きっとアルバムの冒頭曲「In The Flesh ?」が頭をよぎって、繋がりを見い出そうとするのではなかろうか。アルバムを聴き終え、再度、楽曲「In The Flesh ?」へとスムーズに繋げて・・・。

・・・前作アルバム「Animal(アニマルズ)」に引き続き、Roger Waters(ベース兼ボーカル)、David Gilmour(ギター)、Richard Wright(キーボード)、Nick Mason(ドラム、パーカッション)の4人構成で、当アルバム「The Wall(ザ・ウォール)」は制作されています。1973年発表の名盤「Dark Side Of The Moon(邦題:狂気)」と同様に、その世界観を表現するか如く、子供のコーラスやSEなどを交えたり、前作アルバム「Animals」での痛々しいまでに情感を讃えたハードなアンサンブルがごく一部に聴かれるものの、かつてのサイケデリック/スペース系や幻想さよりも、1曲1曲がコンパクトな唄モノの仕上がりです。さらに、アルバムを通じシアトリカルさを醸し出す全26曲にわたる壮大な構成の2枚組アルバムとなってます。

アルバムのコンセプトについて

前作アルバム「Animal」発表後のツアーで、Roger Watersが、ライブ中にファンとの間で起きたことをきっかけに、当アルバムはコンセプトが練られ、ロック・スターの主人公ピンクが抱える自分と世界(学校、社会)に対する抑圧や疎外を『壁』として捉え展開しています。

幼い頃に父親を亡くし母の寵愛のもとで育てられ、学校では根掘り葉掘りと教師による行き過ぎる教育体制に抑制されるさまは、同じように幼い頃に父親を亡くしていたというRoger Watersを彷彿とさせてくれます。いっぽうで、ロック・スターとして成功しながらもドラッグに溺れ、麻痺状態で辛うじて生きながらえ、まるで廃人のごとく振る舞いには、元メンバーのSyd Barrettの姿そのものと捉えてしまうかもしれません。

当アルバム発表後のツアーでは、アルバム1枚目を第一幕、アルバム2枚目を第二幕とした構成で行い、各楽曲が演奏されていました。第一幕、各メンバーがお面を被って演奏される冒頭曲「In The Fresh?」にはじまり、途中から発泡スチロールでステージ上に観客席との間に『壁』は構築されていき、最終曲「Goodbye Cruel World」とともに『壁』は完成にいたります。そして、第二幕、冒頭曲「Hey You」からは観客との間に隔てる『壁』の向こう側で、メンバーは演奏を繰り広げていたといいます。

のちに映画化、および、アルバムは驚異的な売上を記録し、全世界のCD売上枚数が3,000万枚に到達し、世界で最も売れた2枚組アルバム

で、アルバム「Dark Side Of The Moon(邦題:狂気)」と双璧をなすロックの名盤です。

楽曲について

「…We Came In ?」のセリフからはじまる冒頭曲1「In The Flesh?」は、ほのぼのとしたセピア色の色彩を感じさせてくれるSEに続き、エレクトリック・ギター、オルガン、ベース、ドラムによるアンサンブルで力強く幕を上げる楽曲です。ドゥーワップ気味なコーラスも含め、まるでオペラの序曲のような印象を感じさせてくれます。

・・・落とせ、落とせ、やつらの上に・・・

・・・やつらの上に・・・

のナレーションと共に、爆撃機からの爆弾投下を想起させるSEに続き、赤ん坊の泣き声が聞こえてきます。

そう、主人公ピンクの誕生を描き出しているかのように。

続く2「The Thin Ice」以降も含め、そのあまりにも強烈さたるRoger Watersのコンセプトの影響からか、当アルバム制作時に正式メンバーから外されたRichard Wrightによるキーボード類のアンサンブルの比重は低い印象です。

各楽曲のアンサンブルは、さまざまなSEを駆使しながらも、時に寂しげな時に狂気じみたRoger Watersのボーカルと、エレクトリック・ギターとアコースティック・ギターをエッジやエフェクトを駆使したDavid Gilmourのギタープレイによるタイトなアンサンブルやサウンド・メイキングが際立っています。いっぽうで、歌詞には、人種差別、母の過保護、学校でのいじめなど、人間の人格を否定されるかのように「壁」が綴られ、聴いているだけで、主人公の疎外さや喪失さが心に重しが乗っかるような想いへ感じずにいられません。

それでもなお、全26曲には、従来のPink Floydにはない魅力も溢れています。

聴きやすさと云う点で、アメリカのビルボート・チャートで全米No.1のヒットを記録したアルバム1枚目の5「Another Brick In The Wall Part 2」、アルバム2枚目の6「Comfortably Numb」や9「Run Like Hell」などには、David Gilmourの卓越したギタープレイも含めたクールな質感にはプログレッシブ・ロックよりもロック色が強いものの、ポップささえ感じられます。

コンセプトに相反し、ふと心に安堵を感じてしまう点では、アルバム1枚目の7「Goodbye Blue Sky」は、爆撃機のSEに、冒頭曲「In The Flesh?」のクロージング直前のSEとの兼ね合いで、将来への絶望や喪失といった虚無感が脳裏をよぎり、やりきれなくなってもしまいますが、歌詞の一節「Goodbye, Blue Sky…」を聴くたびに、同国イギリスのロックバンド:The Rolling Stonesが1967年に発表した名曲「Ruby Tuesday」のサビ部「Goodbye, Ruby Tuesday」を想起し、落ち着きを感じさせてくれます。

また、アルバム2枚目の12「The Trial」は、アルバムを総括するようなオペラ・チックな展開の従来の幻想さとは無縁に感じつつも、

・・・この判決をおまえに言い渡す・・・

・・・壁を壊すように・・・

と云う物語に出てくる”判事”の語りに合わせ続けて、群衆が

・・・壁を壊すように・・・

と何度も連呼するさまと、壁が壊され崩れることを表現するSEとともに、一瞬だけとはいえ、心に安堵を感じてしまうんです。

そして、アルバム2枚目の最終曲13「Outside The Wall」で語られる、最後のセリフ「ここじゃないのか(=Isn’t This Where)」を聴きとり、アルバムはクロージングします。

はじめてアルバムを聴いた時には、クロージング直前での短めのセリフ「Isn’t This Where」の唐突さは、単純に、このアルバムの結末とだけ感じていました。それが、後年、ある書物を読んだ際、この唐突な終わり方も、アルバム1枚目の冒頭曲1「In The Flesh?」の最初のセリフ「…We Came In ?」と繋がっていると知ったのです。

壁の内側に籠ってしまい、最終的に壁を壊したかもしれないですが、「ここは僕らが入ってきた場所じゃないのか?(=Isn’t This Where We Came In ?)」と、もともとは壁に籠っていたのではなかろうか、救いはどこにあるのだろうかと、その答えを見出すために、繰り返し何度もアルバムを聴きたい衝動に駆られてしまいます。そして、アルバムを聴き終えると云う行為は、最終曲13「Outside The Wall」を最後に聴き終えるのではなく、冒頭曲1「In The Flesh」を続けざまに聴かなければならなく、自然と、2「The Thin Ice」も聴いてしまい・・・いつまでも終わりのなさに、アルバム全体に占める閉塞さにどっぷりと嵌ってしまいます。

ただ、壁の外側にあるものは、決して他人ではなく、自分の外面にもあるとも思うんです。他人には見せない内面も、他人に見せる表面的な外面も、最終的に形成してるのは、自分自身であることに変わりはないですよね。

アルバム全篇、いちど聴くだけでも、過去のコンセプト・アルバム(「Dark Side Of The Moon」、「Animals」など)とは異なるアンサンブルやサウンド・メイキングを感じることが出来ると思います。また、その音楽性の異質さは、何度も繰り返し聴くことで、聴き手によって感じ方は異なるとも思います。

[収録曲]

[Disc 1]
1. In The Flesh?
2. The Thin Ice
3. Another Brick In The Wall Part 1
4. The Happiest Days Of Our Lives
5. Another Brick In The Wall Part 2
6. Mother
7. Goodbye Blue Sky
8. Empty Spaces
9. Young Lust
10. One Of My Turns
11. Don’t Leave Me Now
12. Another Brick In The Wall Part 3
13. Goodbye Cruel World

[Disc 2]
1. Hey You
2. Is There Anybody Out There!
3. Nobody Home
4. Vera
5. Bring The Boys Back Home
6. Comfortably Numb
7. The Show Must Go On
8. In The Flesh
9. Run Like Hell
10. Waiting For The Worms
11. Stop
12. The Trial
13. Outside The Wall

同国イギリスのロック・バンド:The Whoが1969年に発表したアルバム「Tommy」や同じく5大プログレバンド:Genesisの1974年発表のアルバム「The Lamb Lies Down On Broadway(邦題:眩惑のブロードウェイ)」などのロックとオペラを融合させたようなアルバムが好きな方におすすめです。

Pink Floydファンであれば、アルバム「Dark Side Of The Moon」やアルバム「Animals」などのように文学的要素も強く感じられるコンセプトのあるアルバムとして、ぜひ抑えておくべき1枚です。

1曲目は、アルバム2枚目の6曲目の「Comfortably Numb」のおすすめ曲

1曲目は、アルバム2枚目の6曲目の「Comfortably Numb」
4分30秒前後からのDavid Gilmourによるギター・ソロの情感さは、名曲「Shine On You Crazy Diamond (Part One) (1-5)」(アルバム「Wish You Were Here(邦題:炎~あなたがここにいてほしい)」収録)の冒頭部のギター・ソロとは質感とは異なるまでも、魅力的だからです。

2曲目は、アルバム2枚目の12曲目の「The Trial」
アルバム全篇を聴き、当楽曲での歌詞とナレーションやセリフを噛みしめたいです。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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