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プログレおすすめ:Geoffrey Downes「The Light Program」(1987年イギリス)

公開日: : 最終更新日:2015/12/02 1980年代, イギリス, 関連プログレ(5大プログレ) , ,


Geoffrey Downes -「The Light Program」

第95回目おすすめアルバムは、イギリスのミュージシャン:Geoffrey Downesが1987年に発表した「The New Dance Orchestra」名義の1stソロアルバム「The Light Program」をご紹介します。
Geoffrey Downes「The Light Program」

・・・Trevor Hornとのユニット:The bugglesで、1979年にシングル「Video Killed The Radio Star(邦題:ラジオ・スターの悲劇)」を発表し、イギリスでチャートNo.1を獲得

・・・Trevor HornともにYESに加入し、1980年に名作アルバム「Drama」を発表

・・・Steve HoweやJohn WettonらとASIAを結成し、1982年に1stアルバム「詠時感~時へのロマン(原題:Asia)」を発表し、アメリカのビルボードチャートで9週連続No.1を獲得

など、数多くの成功をおさめたGeoffrey Downesが、はじめて発表したソロアルバムです。

当アルバムは、1987年当時に流行っていた最先端のシンセサイザー:シンクラヴィアをメインに、打込み中心のインストルメンタル曲で占められ、シンセサイザーを利用してフルオーケストラを創作したいとのGeoffrey Downesの想いが詰まった仕上がりです。また、楽曲5曲で収録時間70分を超え、LP2枚組で販売していることからは、当時、全世界で流行りはじめたComact Disc(CD)による販売も視野に入れていたことが分かります。

時間に制約されない、シンクラヴィアでフルオーケストラなる世界を愉しもう

楽曲について

当アルバムは、5つの楽曲(1曲目が約14分半、2曲目が約16分半、3曲目が約14分半、4曲目が約14分)で構成されています。唄メロのポップさよりもシンセサイザーの冷やりとした質感とともに、Geoffrey Downesのもつメロディアスで哀感のあるモチーフが紡ぎ合い展開しています。1つのテーマが形を変えて展開するのではなく、1つ1つが独立したモチーフのようでいて組曲のようなイメージを与えるかもしれません。また、唄メロがない14分以上の楽曲が5曲も並ぶため、聴き手の聴く気持ちにも委ねられるかもしれません。

そうだとしても、それを補って余りあるぐらいに、ニューエイジ系や環境音楽系でのプログレッシブ・ロックな展開で楽曲が進行していくのも特徴の1つなんです。

冒頭曲1「Symphonie Electronique」は、大きく6つのパート(Prophecy/Mountain/Majesty/Softly/Funkratl/Megalyth)に分かれています、特に、第1パート(Prophecy)は、Asiaのライブでもソロ演奏で映えるぐらいのオープニング感をもち、他4曲と比べて、最も躍動感のある当楽曲でさえ、たとえば、The bugglesの「Video Killed The Radio Star(邦題:ラジオ・スターの悲劇)」やYESの「White Car(邦題:白い車)」のように、Geoffrey Downesの哀感のあるメロディセンスが濃厚に堪能出来ます。ちなみに、第3パート「Majesty」は当時のAsiaのライブでもGeoffrey Downesのソロ演奏パートに組み込まれていました。当楽曲のハイライトは、シンセの音色がパーカッシブに畳み掛ける最終パート「Megalyth」の演奏でしょう。その勢いたるや、半端なくかっこいいです。

2「Oceania」は大きく8つのパート(French/Daybreak/Steam/Surfin/Polar/Seapeace/Stellar/Spring)から分かれています。楽曲タイトル「Oceania」から察するに、第1パート「French」はオセアニアからフランスの地へ想いを馳せたパートなのでしょうか。ピアノの伸びやかでゆったりなトーンのフレーズではじまるオープニングに郷愁さを感じますね。第2パート「Daybreak」は、神秘的な印象のままにシンセとムーグによるアンサンブルが夜明けのおぼろげな時間を過ごしているようなイメージのフレーズを繰り返します。1音1音がタイトルの和訳「蒸気」を連想させる第3パート「Steam」や第4パート「Surfin」をアクセントに、Geoffrey Downesの哀感を讃えた第5パート「Polar」は1つの唄メロ楽曲として完成して欲しかったと思ってなりません。その「Polar」のモチーフが延長するかのように、サウンドスケープがより拡がっていくような展開の第6パート「Seapeace」の流れには溜息をついてしまいますね。小休止のような印象の第7パート「Stellar」を終え、よりファンタジックな音使いで魅せる最終パート「Spring」は楽曲のエンディングに相応しい盛り上がりをみせてくれます。

3「Ethnic Dances」は大きく6つのパート(Bouree/Merrydown/Jigtime/Jethro/Finale/Icedance)に分かれています。第1パート「Bouree」が示す「南アフリカの民族舞踊」や最終パート「Icedance」が示す「氷上の踊り」の言葉が示すとおり、楽曲全体がリズミカルです。第2パートから第5パートの示す言葉の意味合いを想像するのは難しいですが、タイトル「Ethnic Dances」が示す世界さまざまな地域の踊りを重ね、楽曲を構成したのではないかと考えられます。

4「East West」も6つのパート(Shooters Pno1/Chopstik/Synthcry/Bazaar/Indosax/Shooters 2)に分かれています。なかでも綴れ織りのように弾かれるピアノの第1パート「Shooters Pno1」が印象的です。また、2「Oceania」や3「Ethnic Dances」と異なり、アジア地域を意識した楽曲かと想像してしまいます。例えば、第2パート「Chopstik」は「箸」を意味することで日本を、第4パート「Bazaar」はペルシャを、第5パート「Indosax」はインドを表現しているかのようにです。アジア地域を意識したパートの演奏を終え、いよいよ最終パート「Shooters 2」は、第1パート「Shooters Pno1」のモチーフを再度提示しますが、エコー処理を行うことでより空間を意識したサウンドメイキングがなされ、クロージングに向けてダイナミックに展開します。

最終曲5「Urbanology」は大きく7つのパート(Groundfunk/Geoffunk/Stevie/Curryclub/Safari/Redrap/Regiman)に分かれています。当楽曲までの曲調とは異なり、ファンク系やフュージュン系なサウンドメイキングが施されており、アーバン・ソウル風のデジタルサウンドが展開されます。

Geoffrey Downesらしさのある哀感を持つメロディセンスが垣間見える前半の楽曲(1、2、3)から、ワールドワイドな世界観を各地域特有のメロディ感やリズム感で示した中間の楽曲(3、4)から、地域特有のリズム感からデジタルなリズム感への後半の楽曲(4、5)のように、アルバムの各楽曲がそれぞれの前曲の繋がりを意識したような構成と感じるアルバムです。

[収録曲]

1. Symphonie Electronique:
Prophecy/Mountain/Majesty/Softly/Funkratl/Megalyth

2. Oceania:
French/Daybreak/Steam/Surfin/Polar/Seapeace/Stellar/Spring

3. Ethnic Dances:
Bouree/Merrydown/Jigtime/Jethro/Finale/Icedance

4. East West:
Shooters Pno1/Chopstik/Synthcry/Bazaar/Indosax/Shooters 2

5. Urbanology:
Groundfunk/Geoffunk/Stevie/Curryclub/Safari/Redrap/Regiman

シンセサイザーで映画のサウンドトラックで有名なギリシャのミュージシャン:Vangelisなどが好きな方や、シンセサイザーによるインストルメンタル曲中心のプログレッシブ・ロックを聴いてみたい方には、特に前半部の楽曲を中心におすすめしたいです。

また、明確にPOPさやメロウなメロディや唄メロがないため、長尺70分を一気に聴くにはとっつきにくいかもしれません。それでもGeoffrey Downesが関わってきたプログレシッブ・ロックの人脈(The buggles、YES、Asia、GTR、Iconなど)で魅せたメロディセンスが好きな方には、ぜひ耳を傾けて欲しい音源です。

バンドやレコードにおさりきれないサウンドスケープ

当アルバム以降、Geoffrey Downesは、過去リメイク、セルフ・カバー、クラシックによる唄モノやインストルメンタルによる1993年発表の2ndアルバム「Vox Humana」、ロック名曲をインストルメンタルでカバーした1998年発表のアルバム「Evolusion」などのアプローチをしながらも、1999年発表のアルバム「The World Service」、2003年発表のアルバム「Shadows And Reflections」では、当アルバムと同様なアプローチを踏襲、もしくは展開させており、どれだけ重要なアルバムかと考えさせられます。筆者は、The buggles、YES、Asia、GTR、Iconなどで作曲に連なる楽曲で聴かれるメロディセンスも素敵ですが、シンセサイザーを駆使し、Geoffrey Downesが表現しようとするクリエイティブに耳を傾けてみたくなってしまうんです。バンドの枠やレコードLPの枠ではおさまりきれないキーボード奏者のサウンドスケープの向こう側に触れてみたいんです。

そんな「プログレな気持ち」・・・

みなさんはいかがですか?

アルバム「The Light Program」のおすすめ曲

1曲目は冒頭曲「Symphonie Electronique」

Geoffrey Downesらしさのあるメロディセンスに、クロージング直前2分間の畳み掛けるパーカッシブな演奏のメリハリには、シンセのみを利用した静と動による素敵な音世界と感じたからです。

2曲目は2曲目の「Oceania」

まるで、生涯3度の世界一周をしたフランスの探検家デュモン=デュルヴィユによるオセアニアへの航路、想いを表現しているかのようなサウンドスケープが素敵だからです。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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