プログレおすすめ:Ian McDonald「Driver’s Eyes」(1999年イギリス)
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最終更新日:2015/12/02
1990年代, イギリス, フルート, 関連プログレ(5大プログレ) Ian McDonald, john waite, John Wetton, Lou Gramm, Michael Giles, Peter Sinfield, Steve Hackett
Ian McDonald -「Driver’s Eyes」
第115回目おすすめアルバムは、イギリスのミュージシャン:Ian McDonaldが1999年に発表した1stソロ・アルバム「Driver’s Eyes」をご紹介します。
そのジャケットの構図が、ジャズの巨匠:Bill Evansの1979年発表のアルバム「I Will Say Goodbye」を彷彿させ、彼へのリスペクトかと想う1枚でもありますが・・・
Ian McDonaldは、King Crimsonの活動を経て、1970年に、Michael GilesとともにMcdonald & Giles名義で唯一のアルバム「Mcdonald & Giles」を制作し発表します。1970年代では、アメリカとイギリスのミュージシャンによる混合バンド:Foreignerに参加し、ヒット・チャートを賑わす名曲や傑作アルバムに関わっていきますが、Foreignerがより成功を収めるきっかけとなった名盤4thアルバム「4」の前に脱退してしまい、その後は、それ以上に目立つことなく、時は過ぎています。
しかし、1998年に、Steve Hackettのライブ・ツアーのメンバーとして世間に目が触れる機会が増え、当アルバムは発表されました。
リアルタイムで触れ合えなかったアルバムだが、筆者にとっては重要な1枚です。
多くのミュージシャンにもナイーブな感性を音楽で表現する術はあるかと思いますが、Ian McDonaldが関わる楽曲には想いを馳せてしまうんです。たぶんにメロトロンの演奏によるところもありますが、それを差し引いてもです。当アルバムは2015年現在も名盤と云われる括りではありませんが、彼の唯一ともなるリーダー・アルバムとして、忘れることが出来ないんです。
楽曲について
Ian McDonaldといえば、多種多様な楽器(ギター、シンセ、ピアノ、エレピ、ハモンド・オルガン、フルート、サックス、クラリネット、パーカッション、ベース・ギター、ストリングス)によるマルチ・ミュージシャンとして有名です。当アルバムでも楽曲により、楽器を使い分けしてます。その先入観からは、アルバム全篇インストルメンタルで素晴らしいクオリティのアルバムが制作出来るのではないかと考えてしまうのですが・・・。
アルバム全篇11曲にインストルメンタルが3曲(冒頭曲「Overture」、4「Sax Fifth Avenue」、7「Hawaii」)散りばめられている。
冒頭曲「Overture」でIanは、フルート、ギター、シンセをメインに演奏し、アルバム・タイトルやジャケットの見据える先を連想させるかの如く、軽快なタッチの仕上がりの楽曲です。軽快といっても、シンセによる音作りの妙のものなのか、車が疾走するイメージの心地良さが伝わる1999年当時の作風ではないでしょうか。
4「Sax Fifth Avenue」でIanは、アコースティック・ギター、エレピをアンサンブルに、シンセにバッキングを支えながら、ジャズのエッセンスがちらほら垣間見えるアルト・サックスによる演奏が聴ける楽曲です。
7「Hawaii」でIanは、ギターのストロークをメインのアンサンブルに、ピアノ、クラビネットやシンセを利用し、楽曲タイトルをイメージした演奏を繰り広げています。当楽曲の直前に東京の土曜日の夜と相対し、ハワイでの夜を表現しようとしているのか、想いでの地となる自分自身にしかないハワイをイメージさせているのか、思う浮かべるのは人気の少なくなった砂浜に淡々と押し寄せる波のせせらぎに、ほどやかに豊かな情景ともいうべきでしょうか。
Ian自身がボーカルを取るナンバーだけでなく、楽曲によってはゲスト・ボーカルの楽曲もある。
2「In Your Hands」はIan自身のナイーブともいえる穏やかな声質のボーカルを披露してくれます。楽曲自体は冒頭曲「Overture」以上にドライビングするビートの心地良い楽曲で、いつの間にか風に消えゆきそうなヴァースとも合いまって、終始、軽やかに楽曲は進行し、メインのアンサンブルがクロージング直前にフェードアウトしつつも微かにピアノのフレーズが聴けるのが印象強く残ってしまいますね。
3「You Are A Part Of Me」は、1970年代にイギリスで活躍したバンド:The Babysのフロントで、1984年に楽曲「Missing You」で全米1位を獲得したJohn Waiteがボーカルを担当してます。Ianによるエレピやシンセのアンサンブルに、終始、淡々ではあるが、ハスキーで広域を活かすJohn Waiteによるヴォーカリゼーションは情感に溢れ、素敵な仕上がりです。
5「Forever And Ever」は、1974年にKing Crimsonのアルバム「Red」でも共演したJohn Wettonがボーカルを担当してます。Ianによる打楽器のように感情をぶつけたようなピアノのフレーズに、アコースティック・ギターとシンセが絡み合うアンサンブルが楽曲の物悲しさを語るには十分なのに、憂いを帯びた伸びやかなヴォーカリゼーションのJohn Wettonに、さらにIanが縦横無尽にフルートを吹きまくる様に、King Crimsonを知るリスナーであれば、ポストKing Crimsonを想い描いてしまうのではないだろうか。ヴァースのメロディにはそれほどパターンがないため、よりいっそうIanのフルートに胸が掻き毟らせれそうになりますね。
6「Saturday Night In Tokyo」は、Ianによるギターをメインとしたアンサンブルに、ボーカルも担当としています。Forignerの1stアルバムでも意外とも思えるが、ドライブの効いた楽曲「Long, Long Way from Home」(1stアルバム収録)だけ唯一作曲に携わっており、それを彷彿もさせてくれるんです。そして、Ianの声質と「東京」の発音が「トッキヨー」と聴こえてしまうのが印象的で、ギターをシンセに置き換えれば、Banglesの楽曲としてもおかしくないと感じてしまうんです。
8「Straight Back To You」はForeignerの盟友:Lou Grammがボーカルを担当しています。Foreignerの楽曲の1つの特徴ともいうべき、ミドルテンポでマイナー調の切迫さある楽曲(「Cold As Ice」、「The Damage Is Done」、「Blue Morning, Blue Day」、「Blinded By Science」、「Break It Up」、「That Was Yesterday」、「Say You Will」)を彷彿とさせる楽曲です。Ianによる力強くストロークするギターにシンセのリフが特徴のアンサンブルに、アルト・サックスのソロやSteve Hackettのギター・ソロも含め、1999年当時前後のForeignerの活動を考えれば、当楽曲の方が往年のForeginerらしさ溢れてると感じます。
9「If I Was」は、5「Forever And Ever」よりもいくぶん切迫さを抑えながらも、哀愁を帯びた旋律が印象的な楽曲で、Ianによるボーカルはその声質に物悲しさが合い間って、Peter Framptonによるワウワウ・ペダルが冴えるギターのフレーズとともに、味わい深く聴かせてくれます。
10「Demimonde」もまた、Ianによるボーカルが聴けるものの、ほぼインストルメンタルな楽曲とも捉えられる楽曲です。Mcdonald & Giles名義から約30年ぶりにMichael Gilesとの共演と聴けば、アルバム「Mcdonald & Giles」のリラックスしたような2人のケミストリーが聴けるかと考えてしまいます。Michael Gilesによるリズム感には、1999年当時のライトなサウンド感に、耳を澄ませば繊細なタッチが聴かれるのが微笑ましくなりますね。Ianもまた、当アルバム中でも最もハモンド・オルガン、クラリネット、アルト・サックス、エレピなど、楽器を多用し、楽曲を彩っています。
最終曲「Let There Be Light」は、1960年代後半から1970年代にかけて活躍したProcol HarumのGary Brookerがボーカルを担当しています。また、歌詞はPeter Sinfiledであり、ianによるストリングスを交えたアンサンブルには、King Crimsonの「Red」期の重々しさあるサウンドが脳裏をよぎります。アルバムの最終曲に相応しい尊厳な響きへアンサンブルは重ねられてます。
アルバム全篇を通じ、3曲あるインストルメンタルはライトなタッチのイメージが近いのですが、アルバムの冒頭部を担うこと、また、次曲の切迫さある楽曲(5「Forever And Ever」と8「Straight Back To You」)の前奏と云うイメージであれば、聴けば聴くほど、アルバム1枚を通じた必要な要素と感じてくるんです。また、2000年代に入り、Ian McdonaldはMichael Gilesらとともに21st Century Schizoid Bandを結成し、そのライブのレパートリー楽曲として、9「If I Was」と11「Let There Be Light」を取り上げていることからも、重要なアルバムであることに変わりはありません。
[収録曲]
1. Overture
2. In Your Hands
3. You Are a Part of Me
4. Sax Fifth Avenue
5. Forever and Ever
6. Saturday Night in Tokyo
7. Hawaii
8. Straight Back to You
9. If I Was
10. Demimonde
11. Let There Be Light
Ian McDonaldが過去に参加したKing Crimsonの1stアルバム「In The Court Of The Crimson King(邦題:クリムゾン・キングの宮殿)」と2ndアルバム「In The Wake Of Poseidon(邦題:ポセイドンのめざめ」、Mcdonald & Giles名義で唯一のアルバム「Mcdonald & Giles」、Foreginerの1stアルバム、2ndアルバム「Double Vision」、3rdアルバム「Head Games」などのアルバムを聴き、そのサウンド・メイキングを好きになった方におすすめです。
また、プログレッシブ・ロックの重要な時期に短くも印象的な音楽性の発揮、および、Ian McDonaldのナイーブな感性を感じて欲しいとも思います。豪華なボーカル陣(john waite、John Wetton、Lou Gramm、Steve Hackett)の楽曲を聴いてみたい、でも構いません。ふとしたきっかけで、きっとここからプログレッシブ・ロックの人脈による様々な素敵な音楽に巡り合う機会ともなります。
アルバム「Driver’s Eyes」のおすすめ曲
1曲目は、5「Forever And Ever」
最初は、アンサンブルに隠れがちなフルートが、クロージングに向けて、楽曲の本来のテーマかと吹きまくるような構成が、John Wettonの哀愁を帯びたトーンのヴァースも楽曲の一つのパートに過ぎないと、聴いていて考えさせれる1曲だからです。
2曲目は、8曲目「Straight Back to You」
個人的に、1970年代後半から1980年代に耳にした、俗に云う「産業ロック」と揶揄されたバンドの中でも、楽曲のクオリティの良さといい、Foreginerが好きなんです。1987年のアルバム「Inside Information」以降、ヒットチャートから衰退期の印象があるため、1999年当時前後に
Lou Grammは脳腫瘍を患い、手術により声にも影響を及ぼしていた時期に重なるため、聴けば聴くほど、考えさせられる1曲だからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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