プログレおすすめ:Deluge Grander「Heliotians」(2014年アメリカ)
Deluge Grander -「Heliotians」
第65回目おすすめアルバムは、アメリカのシンフォニック系のプログレッシブ・ロックバンド:Deluge Granderが2014年に発表した3rdアルバム「Heliotians」をご紹介します。
2006年に1stアルバム「August in the Urals」でデビューし、当アルバムは、2009年の2ndアルバム「Form of the Good」に続くアルバムです。どのアルバムもインストルメンタルを基本としており、ボーカルはそれほど全面に出ず、カンタベリー調、チェンバー・ロック調など、ジャズや室内バロックにあるエッセンスを感じます。一方でどことなく屈託した構成がイギリスのプログレッシブ・ロックバンド:Gentle Giant風にも聴こえ、はたまた幻想さを醸し出すヴィンテージなメロトロンがアンサンブルに加わることで、同イギリスの5大プログレバンド:King Crimsonのような抒情性さを垣間見える瞬間があります。個人的には全体的な演奏もヘヴィーな様相があり、折衷派ともいえるシンフォニックな演奏を聴かせるプログレッシブ・ロックバンドと思いました。
これまでの2枚のアルバムと同様に、当アルバムでもDan Britton(フェンダーローズ、メロトロン、ダルシマー、アコースティックギターなど)とドラムのPatrick Gaffneyを中心に、ゲストではボーカル、および、チェンバー色のチェロ奏者、フルート奏者が加わって制作されています。
楽曲について
冒頭曲1「Ulterior」は、チェロとダルシマー、ドラムのシンバルの音に、フルートとギターが重なり、更にメロトロンが加わる約1分ほどのアンサンブルに、幽玄でいて幻想さを十分に感じるんです。また、最初のヴァースの出だしには、たとえばKing Crimsonのアルバム「Larks’ Tongues In Aspic」の楽曲「Exiles」の幻想さに一種独特の清涼さを感じてしまいます。
このイントロと最初のヴァースを聴くだけでアルバム全篇を期待せずにいられません。
その後、楽曲は力強い男性のボーカルへ代わり、更にサウンドはヘヴィーさを増して、リズムチェンジや変拍子を交えながら構成されていきます。フェンダーローズ・ピアノのフレーズも印象的なカンタベリー調にも展開し、フルートがアクセントに加わりながら、チェロによる不穏なフレーズの繰り返しがさらに焦燥感をあおる中間部に緊張感を感じずにいられないところで、11分前後から1960年代のサイケデリック調な映画のサウンドトラック如きキーボードやドラムのフレーズとクワイアがイントロの幻想さへ立ち返りクロージングしていきます。イントロからクロージングまで無理なく展開していくこのアレンジ力には、独特なトーンの男性ボーカルと同時に、不穏でいながらも幻想感のあるDeluge Granderの構成力を十分に感じさせてくれるのではないでしょうか。
2「Saruned」は男性ボーカルによるオペラチックなヴァースも印象的に、途中から女性ボーカルも加わり、後半部のヴァースをもガイドするギターのフレーズにはオリエンタルさを感じさせてくれます。当アルバム3曲の中では短い楽曲ですが、5分とはいわず、もっと尺を伸ばし展開を聴かせて欲しかったと思うのは自分だけでしょうか。
3「Reverse Solarity」はイギリスのミュージシャンのDavid Bowieの楽曲のメロディラインにあるかのようなヴァースで印象的にはじまる楽曲。ヴァースから終始鳴り響くメロトロンに、ヴァース後のインストパートでのフェンダーローズ・ピアノの単音のフレーズ、しつこく引き摺るようなギターのフレーズなどのインプレゼーションが約6分続くと、男性と女性のツインボーカルによるヴァースがアクセントで入り、次はフルートによるソロが聴けて・・・。約21分にわたり、男性と女性のメロディラインを挟みながら、ギター、フルート、フェンダーローズ・ピアノ、チェロが様々なフレーズを入れ替わり聴かせてくれる楽曲です。特に15分前後のどこまでも疾走していくサウンド感がたまりません。
そして、17分前後から男性ではなく女性をメインとしたボーカルによるヴァースが聴けてからは、当アルバムを包む暗さから希望を強く感じさせてくれてホッとさせてくれますね。クリーントーンによるギターのフレーズやチェロが優美に響き渡り、楽曲をクロージングへと向かいます。アルバムジャケットが海と太陽を表現しているのであれば、その太陽が沈んでいく様が大らかにサウンドスケープで伝えてくれる感じがしてなりません。アルバム全体のクロージングとしても後半2分間のパートは素敵なパートと思いました。
[収録曲]
1. Ulterior
2. Saruned
3. Reverse Solarity
男性ヴォーカルの抑制を効かせた暗めのトーンもアルバムの印象をアルバムジャケット以上に暗めの印象を与えているため、もしかすると、とっつきにくいアルバムと思われてしまうかもしれません。しかし、チェンバーロック系、カンタベリー系なエッセンス、屈託した構成、メロトロンなど、さまざまなプログレのエッセンスが内包された演奏を聴かせてくれるため、一概に、おすすめとなりうる対象者を判別しづらいところですが、少なくとも、1970年代の英国産のプログレ、および、メロトロンを聴かせてくれるバンドが好きな方にはおすすめです。
1stアルバムや2ndアルバムでは感じえた明るさを抑え込んだ霞むメロディラインのため、よりヘヴィーなサウンドを聴かせてくれますが、耳を澄ませば澄ますほど、独特のシンフォニックな演奏が聴けるのでおすすめな1枚です。
アルバム「Heliotians」のおすすめ曲
1曲目は、冒頭1曲目の「Ulterior」
インストルメンタルの構成力に1970年代のサウンドを感じると同時に、メロトロンや一瞬垣間見せるサイケデリック調なフレーズなど、リアルタイムで感じ得なかった1970年代のプログレを懐かしく感じもさせてくれるんです。
2曲目は、3曲目の「Reverse Solarity」
このバンドの持つカンタベリー調な要素をチェンバーロックに落とし込んだような各楽器の様々な演奏が聴けます。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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