プログレおすすめ:Mavara「Forgotten Inside」(2009年イラン)
Mavara -「Forgotten Inside」
第108回目おすすめアルバムは、イランのプログレッシブ系にクロスオーバーしたロックバンド:Mavaraが2009年に発表した2ndアルバム「Firdous」をご紹介します。
Mavaraは、2001年に、メイン・コンポンザーでキーボード奏者のFarhood Ghadiriを中心に活動開始しました。何度かのメンバーチェンジを繰り返しながら、1stアルバム「Ultimate Sound」を発売しています。そして、当2ndアルバム「Forgotten Inside」は、Farhood Ghadiri(キーボード)以外にも、Ashkan Hamedi(ボーカル)、Anis Oveissi(キーボード)、Arash Radan(ギター)、Sina khodaieefar(ベース)、Milad Gazizade(ドラム)による6人編成で制作されています。
バンドの音楽には、唄メロの良さにはネオ・プログレ系やポンプロック系のMarillionの初代ボーカル期、そして、サウンド・メイキングに5大プログレバンドのうちの1つ:Pink Floydを連想するかもしれません。それでいて、「美メロ」よりも「豊かなメロディライン」の印象が近く、ポスト・ロック系のサウンドからプログレッシブ系にクロスオーバーしたのではないかと思うんです。
楽曲について
冒頭曲「Something Is Lost」は、シンセとギターによるポスト・ロック的なアンサンブルで幕を上げます。最初のヴァースだけを聴いても静寂さに浮遊する美を感じるサウンドスケープにのめり込んでいきそうですが、2分10秒前後のサビと思われるヴァースの唄メロを聴けば、ただ単に美メロによるポスト・ロック的なバンドと片付けられない素敵なメロディラインが聴けます。楽曲のウェット感を讃えたようなサスティーンの効かせたクロージング直前のギター・ソロも流麗さもさりげなく素敵ですね。
豊かなメロディラインに、叙情さが浮遊するさまにサウンドスケープは拡がっていくんです。
2「No One We Miss」は、ミドルテンポの楽曲で、ロック色の強い前半部、POPさのある中間部、熱情をはらうようなギター・ソロの後半部と、組曲というよりもネオ・プログレ的なパートチェンジによる展開が堪能出来ます。1つ1つの楽曲が複数の独立したパートを繋ぎ合わせた組曲ではなく、歌モノをプログレッシブ・ロック的なパートで組み合わせた感じです。
3「Try to Understand」以降も多種多様なプログレッシブ・ロックのエッセンスが溢れています。特に、各楽曲はおおざっぱに3つの特徴に分けられるのでないかと思います。
[特徴1]1つ1つの楽曲が複数の独立したパートを組曲ではなく、どこまでもプログレッシブ・ロック的な展開で聴かせる。
[特徴2]3「Try to Understand」や9「What Will Be Happened」のようにPink Floyd的な解釈のポリリズムによる音処理をアンサンブルを中心に据え聴かせる。
[特徴3]唄メロのメロディラインを静と動を活かし良さを引き出すようなアンサンブルで聴かせる。
そして、上記3つの特徴がすべてブレンドし、アルバム中、最もパート展開が多く、プログレッシブな楽曲が7「Heaven and Hell」や10最終曲「Old Rain」ではないでしょうか。
また、[特徴1]や[特徴3]の楽曲が多い中でも、4「Remote Place」は、抒情を讃えたようなピアノとボーカルによるオープニングから、1分前後からピアノのフレーズとエッジの効いたギターにより劇的な展開へ流れ込み、オルタナティブ・ロック系の憂いを帯びたマイナー調のファースト・タッチの楽曲です。日本でいえば、1980年代以降のビジュアル系シーンの楽曲でも見受けられるような展開ですね。4分20秒前後からの哀愁を帯びた長尺のギター・ソロも含め、日本人好みするようなエッセンスに溢れていると思います。
冒頭曲「Something Is Lost」の3つに分かれたヴァース(第1パート、ミドル、サビ)による展開に通常フォーマットの楽曲が並ぶアルバムと思うと、2曲目以降のプログレッシブ・ロック的なパートで組み込まれた楽曲に驚きを隠せなくもなりますが、バンドが影響を受けたプログレッシブなエッセンスを各楽曲に盛り込んだバラエティ豊かなアルバムと思いました。
[収録曲]
1. Something Is Lost
2. No One We Miss
3. Try to Understand
4. Remote Place
5. Become Faithless
6. Forgotten Inside
7. Heaven and Hell
8. Awake
9. What Will Be Happened
10. Old Pain
ロック然としたスタイルからプログレッシブ・ロックへクロスオーバーした楽曲構成という観点では、例えば、イギリスのMr So & So、アメリカのThe Dear Hunterなど、当レビューでも取り上げたバンドに興味を抱いた方におすすめです。
ポンプロック系やネオプログレ系よりは、コーラスを多用したハーモニーを効かせたメロディラインが少ないため、スウェーデンのMoon Safariまでとはいきませんが、輪郭が整った唄メロのメロディラインで、唄メロも重視しプログレッシブ・ロックを聴きたいという方にもおすすめです。
アルバム「Firdous」のおすすめ曲
1曲目は、冒頭曲「Something Is Lost」
3つに分かれたヴァース(第1パート、ミドル、サビ)による展開には、メロディーメーカーとも云える素敵なメロディセンスが溢れており、そのメロディラインを活かすように奏でる各楽器のアンサンブルも含め、素敵だからです。
2曲目は、2曲目「Remote Place」
アップテンポで憂いを帯びた唄メロのメロディラインは日本人が好みそうな旋律と思ったからです。ただし、聴き込むほどにプログレッシブなエッセンスを包括しているのが気が付きます。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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