プログレおすすめ:Ananke「Shangri-la」(2012年ポーランド)
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最終更新日:2016/11/24
2010年‐2013年, ネオ・プログレ, ポーランド Ananke
Ananke -「Shangri-la」
第286回目おすすめアルバムは、ポーランドのプログレッシブ・ロックなバンド:Anankeが2012年に発表した2ndアルバム「Shangri-la」をご紹介します。
ギリシャ神話に出てくるパンテオンである女神で、運命、不変の必然性、宿命が擬人化したアナンケーに由来すると云うバンド:Anankeは、2009年に、ポーランドでプログレッシブ・バンド:Abraxasで活躍していたKrzysztof Pacholski(キーボード)とAdam Lassa(ボーカル)に出逢うまで遡ります。2人は、Karol Szolz(ギター)、Bartek Stys(ベース)、Wiktor Wyka(ドラム)らとともにバンドを結成し、2009年12月にはフル・アルバムの楽曲を作り上げ、2010年に、1stアルバム「Malachity」として発表します。
その後、バンドからKarol Szolz(ギター)、Bartek Stys(ベース)、Wiktor Wyka(ドラム)が脱退し、あらたにMichal Sokol(ギター)とMarcin Mak(ドラム)がメンバーに参加します。そして、ベース奏者:Wojciech Burghard、アコースティック系のギター奏者:Michal Sokolの2人をゲストに迎えて2012年に制作されたのが当2ndアルバム「Shangri-la」です。
バンドの音楽の特徴は、Krzysztof PacholskiとAdam Lassaが参加していたAbraxasや、Collage、Quidamなど1990年代に活躍したネオ・プログレ系のプログレッシブ・ロックにカテゴライズされます。ただ、薄暗さや陰鬱さなどがイギリスの5大プログレ・バンド:King Crimsonを想起させたAbraxasのように、ネオ・プログレ系でも、より北欧系のもつ寒々とした荒涼さあるサウンド・メイキングは独特のものがあります。たとえば、アンサンブルのヘビィネスさはスウェーデンのバンド:Anekdoten、激情さや物憂げさや退廃感さにはノルウェーのバンド:Gazapachoを想起してしまいます。当アルバム「Shangri-la」は、1stアルバムから劇的な変化はなく、
続編とも云うべきサウンド・メイキングとアンサンブルが愉しめる幽玄さとメランコリックに溢れるアルバムと思います。
楽曲について
ベース・ギターに導かれヘビーなギターのリフで幕を上げる冒頭曲1「Obietnice」から、物憂げさや退廃感さに溢れたキーボードと唄メロのメロディラインが進行し、随所にヘビーなギターのリフを交えシンフォニックなサウンドを構築していきます。拡声器を通じた低音を聴かせたボーカリゼーションから仰々しさ溢れるボーカリゼーションへと自由自在に駆使するAdam Lassaのメロディラインが迫り、さらに2分前後から流麗なピアノをアンサンブルで聴かせるKrzysztof Pacholskiの存在、そして、ついAbraxasを想起させてしまうコーラスには、徐々に前半部よりも物憂げさや退廃感さが綴られていき、聴き入ってしまいますね。
パーカッシブなプレイで幕を上げ、ヘビーなギターのリフやフレーズときっちりとしたリズム隊がアンサンブルによる物憂げなトーンの2「Sara」、いくぶんアトモスフェリックなサウンド・メイキングでスローな展開で聴かせる3「Luna」、スタッカートを効かせたギターのフレーズで軽快に幕を上げ、随所にその軽快さを挟みつつも、やはり物憂げな展開の4「Gniew」、シンセの旋律に女の子のヴォイスと雷雨のSEで幕を上げ、ポーランド語のナレーションが独特の響きを聴かせ、ヴァースへと入り徐々に盛り上げていく5「Fatima」など、アルバム前半部の楽曲を通じてぶれることのクリエイティブさを聴かせてくれます。
アルバムタイトル楽曲6「Shangri-la」では、前曲よりもヘビーなギターのアプローチを極力抑え、アコースティック・ギターとピアノをメインに展開するアンサンブルには、より物憂げさや退廃感さが研ぎ澄まされた感覚を憶え、消え入るような蜉蝣をサウンドスケープしてしまいます。中間部で盛り上げるを魅せるものの、アコースティック・ギターのストロークが力強さを増し、バグパイプの音色のようなシンセとオルガンの音色が木霊していきます。2分45秒前後からの東欧の民族性かのようのコーラスが入るも、ベースとドラムのリズム隊がアンサンブルに入るも、楽曲はアコースティックなテイストを損なわずクロージングを迎えます。どこで溜息をついて良いのか分からず、息もつけずにただただ聴き入ってしまいますね。
個人的にアルバム楽曲中で初期Gazapachoを想起してしまうアップテンポな7「Schizofrenicus」や9「Eden」、2「Sara」と5「Fatima」のハイブリッドのような物憂げなトーンで展開する8「Nostalgia」を挟み、約9分にも及ぶ長尺な最終曲10「Lustra」では、静から徐々に動へとアンサンブルがアプローチを変え展開していきます。5分30秒前後からは、仄かにサイケデリック/スペース系のサウンド・メイキングを盛り込みつつ、ピアノの音階の羅列に導かれ、ベースラインにユニゾンするかのようにエッジの効いたギターのリフが炸裂し、シンセの旋律も伸びやかに響き渡ります。7分30秒前後からはドラムが強烈なタムを繰り広げ、シンセの旋律が伸びやかにクロージングを迎えます。
アルバム全篇、さまざまな音楽ジャンルをクロスオーバーというよりも、サウンド・メイキングやアンサンブルには一本の筋があり、それでいて単調さを感じさせずに、その物憂げさや退廃感さを感じさせてくれる世界観が淡々と綴られ、脳裏に物事の後味悪く絶望さをサウンドスケープさせてくれる、この手のアプローチが好きな方には嵌ってしまうアルバムと思います。
[収録曲]
1. Obietnice
2. Sara
3. Luna
4. Gniew
5. Fatima
6. Shangri-la
7. Schizofrenicus
8. Nostalgia
9. Eden
10. Lustra
物憂げさ、退廃感さ、激情さ、北欧系のプログレなどキーワードに聴きたい方におすすめです。
もちろん、中心人物であるKrzysztof PacholskiとAdam Lassaが参加していた同国ポーランド:Abraxasを好きな方でまだ聴いたことがない方には1stアルバム「Malachity」とともにぜひ聴いて欲しい1枚です。
個人的には、ノルウェーのバンド:Gazapachoがフェイバリットなバンドであり、その初期サウンドを好きな方に触れて欲しいと思いますし、当レビューで興味がもち、他にも同系統を聴いてみたい方には逆にGazapachoもおすすめです。
アルバム「Shangri-la」のおすすめ曲
1曲目は、6曲目の「Shangri-la」
他楽曲と異なり、アコースティック・サウンドをベースに、ヘビーさのあるアプローチを感じさせないサウンド・メイキングに、アルバム楽曲中では刺々しさを感じずに聴き入ってしまいます。
2曲目は、10曲目の「Lustra」
楽曲中間部でのサイケデリック/スペース系のアプローチやアルバム後半でのヒートアップする展開も、物憂げさや退廃感さで包まれたトーンに不思議と淡々と心へずっしりくる様が聴いていて何ともいえないです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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