プログレおすすめ:The Abstract Truth「Silver Trees」(1970年南アフリカ)
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最終更新日:2015/12/29
1970年代, サイケデリック, フルート, 南アフリカ共和国 The Abstract Truth
The Abstract Truth -「Silver Trees」
第50回目おすすめアルバムは、南アフリカ共和国のプログレ・フォーク系のプログレッシブ・ロックバンド:The Abstract Truthが1970年に発表した1stアルバム「Silver Trees」をご紹介します。
The Abstract Truthは、南アフリカ共和国にて、ごく短期間(1969年~1971年)に活動していたバンドです。
当アルバム「Silver Tress」は、1970年後半に、Ken E Henson(ギター、ボーカル)、Peter Measroch(ピアノ、オルガン、フルート、ハープシコード、ボーカル)、George Wolfaardt(ベース、フルート、ドラム、ボーカル)、Sean Bergin(フルート、サックス)の4人編成で制作し発売されています。
その音楽の特徴は、うずまくサウンドを醸し出すオルガン、リズミカルにも一定のシークエンスのベースラインのグルーブ、フルートやサックスによって、いくぶんサイケデリック/スペース系のカンタベリー系にエッセンスがあるプログレッシブ・ロックと思います。
さまざまなジャンル(ジャズ系、プログレ・フォーク系、ブルーズ系)を感じる楽曲が聴かれますが、聴き手によっては、淡いかすみかかったサウンド・メイキングが冴えるカンタベリー系や、イギリスの5大プログレバンドであれば、ところどころに、第1期King Crimsonを想起してしまうかもしれません。雑多にのイメージをもたれるかもしれませんが、プログレが夜明けを指し示す1970年前後に、
ユーロ圏を離れた地で、英国ロックを意識し吸収したプログレッシブ・ロックの音楽が聴けるアルバムなんです。
楽曲について
全7曲、本当に雑多なイメージとなる楽曲が聴けますが、リズミカルにも一定のシークエンスのベースラインのグルーブに、オルガン、サックス、フルートが加わったアンサンブルの色彩の豊かさは、まさにサイケデリック/スペース系と感じる楽曲から、それほど感じられない楽曲とに分かれています。
冒頭曲1「Pollution」は、明るめのトーンに、まさに淡いサイケデリック/スペース系のビート・ポップとおぼしめき楽曲です。55秒前後から一定のシークエンスのベースラインに、フルート・ソロとオルガンの旋律が響きのは、ラガーロック系のエッセンスが、そして、突如として、2分6秒前後からのサックスとギターによるアンサンブルには明朗なカントリー・フォーク系のエッセンスが、それぞれ感じられる一風変わったプログレッシブ・ロックな展開が聴けます。
1970年当時の南アフリカ共和国でネイティブさを活かしたクリエイティビティも、現代では、多くのプログレッシブ・ロックバンドでは、さまざまなジャンルの音楽とクロスオーバーをしているのも見受けられるため、当楽曲の展開こそ、プログレッシブ・ロックと感じずにいられませんね。
約8分にも及ぶ2「Silver Trees」は、まさにサイケデリック/スペース系のサウンド・メイキングとアンサンブルに満ちており、ヴァースは冒頭から2分前後と7分30秒前後からクロージング直前までに短めにあるだけで、後は、各楽器によるインプロビゼーションが堪能出来ます。ベースラインの緩急さに全体のアンサンブルが委ねられるように、オルガンやサックスが吹き乱れながら、4分前後にテンポアップするとともに、ギターが高速フレーズで唸り上げ、5分前後にテンポダウンするとともに、スペーシ―なサウンドに、ゆったりとオルガンの音色をバックに、フルートの旋律が流れ、再度、ヴァースへと辿りつき、クロージングします。
3「In A Space」は、重苦しいピアノの旋律とワウワウを効かせたギターに、サックスの淡い旋律が絡み、そのリズムセクションに、1分10秒前後からリズムセクションが入り、ギターのシタール風のフレーズが聴かれます。全体を包み込む、淡いサイケデリック/スペース系のサウンドと抑制気味にクールな曲調には、同時期に活躍したイギリスのカンタベリー系のバンド:Caravanの1stアルバムや2ndアルバムのクリエイティビティを想起してしまいます。楽曲のタイトルを想起させるようなサウンドに満ちているといえます。
4「Moving Away」は、スローテンポにも淡いサイケデリック/スペース系のサウンド・メイキングと、1960年代のブリティッシュ・ポップにあるメランコリックな唄メロのメロディラインが感じられ、ハープシコードの音色も印象的に、やはり、初期Caravanのアンサンブルに、サックスが加わったイメージが近いかもしれません。
5「Two」は、いくぶんジャズ系のスイングさを感じるアンサンブルに、初期King Crimsonを彷彿とさせるキメのタイミングを感じられる楽曲です。2分前後からクロージングに向けて、フェードアウトしていくフルートの寂しげな旋律も印象的です。
6「Blue Wednesday Speaks」は、ブリティッシュ・ロックにもあるヘビーなグループのブルーズをいくぶんライトなアンサンブルで聴かせてくれる楽曲です。ヴァースでの唄メロにユニゾンするギターのフレーズや、インストメンタル部でのオルガンやサックスでの旋律などには、1970年前後のアートロックからブルーズを下敷きにヘビーなロックへとアンサンブルを転換していくイギリスのバンドが脳裏をよぎることでしょう。
最終曲7「It’s Alright With Me」は、ピアノはホンキートンク調に、ギターは鋭角なフレーズで切り込みに、絡み合うサックスがアンサンブルには、英国ロックよりも、アメリカ南部の香りも豊かに感じてしまうぐらい、アルバムの世界観にそぐわないと感じるとともに、冒頭曲1曲目「Pollution」とは異なる意味で、爽快なイメージを抱いてしまいます。
メンバーが「African jive」と語る冒頭曲1「Pollution」のプログレッシブな展開と、アメリカ南部を想起させる最終曲7「It’s Alright With Me」に挟まり、ほのかにもサイケデリック/スペース系のサウンド・メイキングを効かせたプログレッシブ・ロックの楽曲が聴けます。
そう!南アフリカ共和国でプログレッシブ・ロックを奏でるバンドと云う先入観をなくし聴くと驚くほどに、英国ロックっぽさを吸収したメンバーの技量が十分に伝わってくる好アルバムと思います。
[収録曲]
1. Pollution
2. Silver Trees
3. In A Space
4. Moving Away
5. Two
6. Blue Wednesday Speaks
7. It’s Alright With Me
1970年代初頭の、ほどよくサイケデリックなサウンドがるブリティッシュ・ロックを聴きたい方におすすめです。
仄かにサイケデリック/スペース系を漂わせたアシッド・フォーク系やプログレ・フォーク系のアンサンブル、最もイメージに近いと思ったのが、イギリスのカンタベリー系のCaravanの初期アルバム(1stアルバムと2ndアルバム)を通じて名残あるビート・ロックから、淡いサイケデリック/スペース系のサウンド・メイキングもあるジャズ系のアンサンブルに変貌する過渡期です。ピンときたがいたら、ぜひ、当アルバムを聴いてみて下さい。
アルバム「Silver Trees」のおすすめ曲
1曲目は、3曲目の「In A Space」
仄かなサイケデリック/スペース系に、抑制されたアンサンブルが醸し出すクールな雰囲気がたまりません。
2曲目は、4曲目の「Moving Away」
アシッド・フォーク系にも通じる、まさに英国ロックを感じさせるハープシコードも交えたアンサンブルに、唄メロのメランコリックなメロディラインがたまりません。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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