プログレおすすめ:角松敏生「The Moment」(2014年日本)
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最終更新日:2015/12/02
2014年, 日本, 関連プログレ[日本] 角松敏生
角松敏生 – 「The Moment」
第51回目おすすめアルバムは、日本のミュージシャン:角松敏生がプログレッシブ・ロックを意識し、2014年3月に発表したアルバム「The Moment」をご紹介します。
前作「Citylights Dandy」を発表後、約3年7ヵ月ぶりのアルバムに、唄モノを意識したうえでプログレのエッセンスを包括した長尺2曲を含む、プログレッシブ・ポップというべきアルバムを届けてくれました。
過去のツアーで「次はプログレを作りたい。」とのMCをしたとのエピソードが残っているみたいです。
昨年2013年12月に当レビュー「プログレの種」をリリース後、日本でプログレを意識し発表するアルバムをリアルタイムで感じえたのなら、是が非でも購入し聴かずにはいられませんよね。
楽曲について
アルバムは、SEと共にはじまり、フュージュン色を強く感じるサウンドに跳ねたリズムが印象的な冒頭曲1「OPENING ACT feat.SHIENA」の前半約2分間を聴いてると、もう心がわくわくさせられますね。サウンドにはギターやサックスのフレーズにプログレッシブさよりもアグレッシブさも感じ、アルバム全体で捉えると、プログレフォーマットとしての2曲目と3曲目の序章として期待感が高めてくれる楽曲と思いました。
2「The Moment of 4.6 Billion Years ~46億年の刹那~」は、楽器のアンサンブルやリズムチェンジが印象的な約22分のプログレッシブな楽曲です。エクスペリメント、クワイアを交えたアンビエントな響きが印象的なイントロで楽曲は始まり、リズムチェンジを重ねるフュージュン色が強い伴奏に、角松敏生さんの歌声が数小節聴けたと思ったら、またリズムチェンジします。
サックスとギターのソロ、既にAメロ、Bメロ、サビ、ブリッジという基本フォーマットを壊した楽曲進行に、プログレッシブなロックの自由さを感じ、ニンマリしちゃいます。
ドラム、サックス、エレピ、オーケストレーションのそれぞれの楽器が見せ場を作れば、ギターのアルペジオに導かれ、少し長めのテーマを唄う角松敏生さんの唄メロと、交互にフルートやギターのソロが添えて・・・当楽曲はドラマチックでいてメロディアスな感覚の楽曲かと脳裏に思い浮かびそうになる瞬間に、15分前後から突如パーカッシブなサウンドが流れ出します。そのミニマルなアクセントに驚かされ、そのアクセントが落ち着いたかと思えば、ベースのフレーズも印象的なイントロに近いサウンドへと移行します。19分前後での4分4拍子による伴奏と唄メロが聴ければ、以降通常のロックフォーマットに聴ける楽曲には、贅沢にも長尺な序章とも思える19分までの音像に、あらためて驚かされてしまうんです。ギターソロが途絶え、再度イントロと同様にエクスペリメント、クワイアを交えたアンビエントな響きが提示され、クロージングします。どことなくイギリスのプログレッシブなバンド:YESが1971年発表の5thアルバム「Close To The Edge」の同タイトル曲で感じえた「生命力」を想起させるような感覚になりました。
当曲を角松敏生さんは某インタビューで「歌を作って、言葉を作って、そこから自分のなかでイメージすることが出来たのが『46億年の刹那』というタイトルなんです。」と語られたり、ライブでの初演奏時にはタイトルがなく『長い新曲』って呼んでいたとのことで、地球誕生から現在までの「46億年」の地球の軌跡を感じたのかと思ってしまいました。「生命力」が漲るような、何度も聴きなおしたくなってしまうんです。
3「Get Back to the Love」は、複数のテーマによる唄モノを組曲風に纏め上げた印象の約16分のプログレッシブな楽曲。楽曲の出だしは、アメリカのミュージシャン:Billy Joelの楽曲「The River Of Dreams」の世界観を想起するように軽快な曲調でこれからはじまる長尺な楽曲にすんなり心が入っていけるような感じがしましたね。また、それぞれのテーマに呼応するかのようにゴスペル調のコーラスのサビがアクセントになっていると思いました。そのゴスペル風に唄われるサビの英詞に交じり、日本語による「アリノママニウケトメテ」がとても印象的に響くんです。イギリスのロックバンド:Queenが1976年発表したアルバム「A Day At The Races(邦題:華麗なレース)」の最終曲「Teo Torriatte (Let Us Cling Together)」のサビでの日本語のように、より一層メッセージ性を強く感じもするんです。
最初に唄われるテーマは少し感傷的ですが、楽曲の出だしのゴスペル調のサビに続き躍動的なサウンドとなり、2番目のテーマは溌剌としており、呼応する変貌するゴスペル調のサビも素敵に躍動しつづけます。少しリズムチェンジし、ブラスセクションが聴けてからは、印象的なピアノの伴奏や、エレピとギターのソロにダイナミックさが印象的です。そして、ピアノのみの伴奏となり、3番目のテーマでは夜明けの空を待ちわびるような角松敏生さんの素晴らしい歌唱が聴けるんです。ブラスセクションに、クレジットされている本田雅人さんのサックスのソロもテーマに色を添えるように素晴らしい世界観を創りあげてからピアノの伴奏が途切れると同時に、当楽曲の出だしのゴスペル調のサビが繰り返されて、クロージングします。ハッピーな気持ちが溢れてるなと思い、何度でも聴きたくなる約16分ですね。
4「THE LIFE ~いのち~」は、CHIAKIに提供した楽曲のセルフカバー。アコースティックなピアノでの伴奏だけによる唄モノであり、抑制された角松敏生さんの歌声が沁みてきますね。「眠れ眠れ~」がとても印象的です。
5「I SEE THE LIGHT ~輝く未来~」は、2010年のディズニーアニメ映画「塔の上のラプンツェル」挿入歌のカバー曲。角松敏生さんは某インタビューでもディズニーの世界に音楽を反映させていく姿勢にリスペクトしているとのことで、この楽曲への思い入れが伝わってきますね。アコースティックピアノ、エレクトリックピアノ、フルオーケストラのアンサンブルに、CHIAKIの歌声、唄メロをなぞるオーケストラによるソロに次ぎ、角松敏生さんの歌声が聴けて、CHIAKIとのデュエットでクロージングする様相は、まるで映画のエンディングシーンを連想してしまうのは自分だけでしょうか。
各楽曲の音1つ1つにしっかりと耳を傾ければ分かることですが、そして、これは本当に勝手な解釈ですが、インタビューでも好きと公言しているディズニーランドを想起させるようなプログレッシブ・ロックのジャンルの中でもファンタジックさの印象をアルバム全体に感じるんです。
そして、プログレッシブ・ロックの位置付けとしては、唄モノにプログレッシブなエッセンスをコンパイルするのではなく、楽曲全体を包括するような「プログレッシブ・ポップ」としてのアルバムではないでしょうか。
[収録曲]
1.OPENING ACT feat.SHIENA
2.The Moment of 4.6 Billion Years~46億年の刹那~
Ⅰ.The Birth of Coral~珊瑚礁の誕生~
Ⅱ.The Depths of Love~愛の深淵~
Ⅲ.Setting Sail~船出~
Ⅳ.Bonds~絆~
Ⅴ.The Memories of Eternity~永遠の記憶~
Ⅵ.Dawn of the Island~島嶼の夜明け~
3.Get Back to the Love
Ⅰ.Get Back to the Love
Ⅱ.You are Still with Me
Ⅲ.Hero
Ⅳ.Show Me the Way
Ⅴ.Get Back to the Love(Reprise)
4.THE LIFE~いのち~
5.I SEE THE LIGHT~輝く未来~
アルバム収録曲は5曲ですが、プログレを意識した長尺2曲(2と3)を含めると約52分のアルバムもあります。陰鬱さも抒情さよりもファンタジックさやアグ
レッシブさを強く感じます。そのサウンドはとっつきにくくなく、プログレを聴き慣れていない方にもプログレッシブなポップとしても聴き楽しめると思いますのでおすすめします。
プログレッシブな姿勢と変わらぬクオリティと
たとえば、イギリスのミュージシャン:Paul Wellerは長いキャリアの中で、常に音楽にプログレッシブに挑む姿勢がみえ、ここ最近では、ロック、ソウル、フォーク、ジャズ、クラシック、レゲエ、ダブ、エレクトロ、クラウト、インダストリアル、ミニマル、ミュージックコンクレートを内包し、クラウトロックに接近した11thアルバム「Sonik Kicks」を発表し全英1位を獲得しています。
過去に模倣するのではなく、新しい音楽性を取り込んで提示する貪欲さをアルバムで表現する手法は、時にファンの間で賛否両論を引き起こし、ファン離れが起きるかもしれないにも関わらず、角松敏生さんは制作し発表してくれたんです。
みなさんはいかがですか?
プログレッシブな姿勢の素晴らしさと、年月を経っても変わらぬ普遍なクオリティの良さに耳を傾けてみませんか?
アルバム「The Moment」のおすすめ曲
※あえて当アルバムではおすすめ選曲は控えさせて頂きます。プログレッシブな2と3以外もどの楽曲も素敵ですから。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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