プログレおすすめ:Big Big Train「Wassail」(2015年イギリス)
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最終更新日:2015/12/30
2015年, イギリス, ヴァイオリン, シンフォニック, フルート Big Big Train, Dave Gregory
Big Big Train -「Wassail」
第116回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:Big Big Trainが2015年に発表したEP「Wassail」をご紹介します。
EPとしては、2013年発表の「Make Some Noise」以来の作品ですが、重要な1枚です。Big Big Trainは、初期には、Anthony PhillipsやSteve Hackettなど、Peter Gabirel期のGenesisに影響を受けた音楽性を感じられもしました。ボーカルの印象もありますが、アルバムを出すごとに、Genesisらしさが溢れるファンタジックさあるプログレのエッセンスを想起させると言われてきました。しかし、2012年発表の7thアルバム「English Electric Part One」以降の楽曲では、特に1960年代から1970年代にかけての古き良きブリティッシュ・ポップシーンのメロディアスさやサウンドをも感じさせてくれるのです。
たぶんに、メンバーの一員であるXTCの元ギター奏者:Dave Gregoryによる影響も高いのではないかと考えられます。2009年発表の6thアルバム「The Underfall Yard」でゲスト参加し、前々作「English Electric Part One」や2013年発表の前作にあたる8thアルバム「English Electric Part Two」ではバンドの一員として、それを前後し、ブリティッシュ・フォークを感じさせてくれるクリエイティブ性が楽曲に垣間見せてくれます。それこそ、XTCの名作5th「English Settlement」や8th「Skylarking」にも感じえたThe BeatlesやThe Beach Boysなどのイギリスやアメリカを代表するバンドが発表した楽曲が持つポップさを想起させてくれるんです。
当EPは前作に引き続き、David Longdon(ボーカル、フルート、バンジョー、マンドリン、オルガン、グロッケンシュピール)、Andy Poole(ベース兼キーボード)、Greg Spawton(ギター兼キーボード)、Nick D’Virgilio(ドラム)、Danny Manners(ベース)、そして、Dave Gregory(ギター)で制作されています。
ダブル・キーボードに、オルガンが織りなすトリプル鍵盤によるアンサンブルは磨きがかかり、当EPではストリングス、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロが加わることで、よりレンジを拡げたサウンド・メイキングで聴かせてくれます。
楽曲について
David Longdonによるフルートに導かれ幕を上げる冒頭曲「Wassail」は、アイリッシュさを感じさせてくれながら、フォーク要素の強いギターのアンサンブルに、キャッチ―なコーラスが重なりあうヴァースが印象的な楽曲です。サビ部にあたる「Wassail」の発声やメロディラインには、Phill Collins期のGenesisっぽさも感じえるのですが、それはあくまで感じさせてくれるのであって、もう既にBig Big Trainによる個性ともいうべきクリエイティブさになっていますよね。アンサンブルに色を添えるストリングス、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロや、4分30秒前後のギター・ソロなど、これまでになく大胆さやエッジを効かせてくれる素晴らしい仕上がりと思います。
2「Lost Rivers Of London」はメランコリックなヴァースのメロディラインと、絡み合うコーラス感が素敵な楽曲です。XTCを通じたThe Beatles初期の唄メロのメロディアスさやThe Beach Boysのコーラスワークを想起するには十分過ぎるほどに展開力のあるメロディに聴き入ってしまいますね。そして、おそらくメインとなる冒頭メロディラインをヴァースだけでなく、フルートをはじめとする楽器が展開する様には、Steve HACKETTの演奏性が高いGenesisの楽曲の構成力は感じるかもしれません。
3「Mudlars」はピアノのフレーズに、ギターの一定のシークエンスで幕をあげ、オルガンとベースがメインに楽曲をリードするのが印象的なインストルメンタルです。4分30秒前後に、2「Lost Rivers Of London」の楽曲の一部とも想起させるようなコーラスが若干聴かれるものの、終始、インプレゼーションのような印象ですね。
最終曲4「Master James Of St. George」は、6thアルバム「The Underfall Yard」の収録曲のスタジオ・ライブ・バージョンです。
ビートやハードエッジなどではなく、過去作品よりもポップさやブリティッシュ・フォークさに多種多様な鍵盤や管弦楽器を加えたアンサンブルで躍動さの印象が強い楽曲ばかりです。個人的には、メランコリックさのあるメロディラインが変わらず継承してくれていることが嬉しかったです。本当に、8thアルバム「English Electric Part Two」に続くフルアルバムのリリースが待ち遠しくなります。
[収録曲]
1. Wassail
2. Lost Rivers Of London
3. Mudlars
4. Master James Of St. George(Live)
1970年代や1980年代中期にあたるGenesis初期や中期に感じ得るファンタジックさやダイナミックさのあるシンフォニック系のプログレッシブ・ロックが好きな人におすすめです。かといって、Big Big TrainはGenesisを意識しているというよりも、アメリカのTranstlaticのNeal Mooseのように、古き良きプログレッシブ・ロックのエッセンスと、ロックの持つポップさを吸収しオリジナリティ溢れる楽曲が愉しめるため、現代の正統派のプログレッシブ・ロックのバンドとして受け止めるべき音楽とも思います。
当アルバムを聴き、Big Big Trainを好きになった方には、前述にあるとおり、6thアルバム「The Underfall Yard」、7thアルバム「English Electric Part One」、8thアルバム「English Electric Part Two」もおすすめです。
アルバム「Wassail」のおすすめ曲
1曲目は、2曲目「Lost Rivers Of London」
コーラスの間に、The Beach Boysの幻の名盤「Smile」の楽曲(「Wonderful」や「Good Vibrations」など)の一部に聴かれる対立法のあるコーラス感が脳裏をよぎってしまうことや、聴いていて心地良さが堪らないからです。
2曲目は、3曲目「Wassail」
特に、次作のフルアルバムを期待させてくれる構成力にも、根底には、プログレッシブ・ロックの持つ変拍子やリズムチェンジを纏っており、どことなく安堵してしまったからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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