プログレおすすめ:The Tangent「A Spark In The Aether」(2015年イギリス)
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最終更新日:2015/12/10
2015年, イギリス, カンタベリー・ロック, フルート Parallel Or 90degrees, The Tangent
The Tangent -「A Spark In The Aether」
第97回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:The Tangentが2015年4月21日に発表した8thアルバム「A Spark In The Aether」をご紹介します。
当アルバムは、ファンの間で名作と云われる2003年に発表された1stアルバム「The Music That Died Alone」の続編にあたり、アルバムには、サブタイトル「The Music That Died Alone Volume Two」が添えられてます。
当アルバム制作時、当プロジェクトをソロ・プロジェクトして開始したイギリスのシンフォニック系のプログレッシブ・ロックのバンド:PARALLEL OR 90DEGREESのAndy Tillison(ボーカル、オルガン、ピアノ、ムーグ、ギター)と、Jonas Reingold(ベース)の2人が1stアルバム制作時のメンバーであり、他には、2ndアルバム「The World That We Drive Through」に参加したTheo Travis(サックス、フルート、クラリネット)をはじめとし、Luke Machin(ギター)とMorgan Agren(ドラム)による5人編成です。
5大プログレバンドの1つ:Yesのようにテクニカルさやスキルフルさのある楽曲構成や、独特のコーラスワーク、カンタベリー系やジャズ風のエッセンスがあった1stアルバムの続編といっても、これまでのThe Tangentのアンサンブルに特有なスピーディな展開やR&B調のグルーブやムーディな唄メロはしっかりと維持されています。いっぽうで、1stアルバムで管弦楽器を担っていたDavid Jacksonに代わり、Theo Travisが奏でる管楽器(サックス、フルート、クラリネット)がアンサンブルに加わることで異なる印象をもたれるかもしれません。
楽曲について
冒頭曲1「A Spark in the Aether」は、シンセとサックスの旋律と音色がもたらす快活なイメージのままに、幕を上げ、ギターとシンセが変拍子を多用しつつも、タイトなビートが効いた楽曲です。1stアルバムの冒頭曲「In Darkest Dreams」のスピーディな展開を意識しつつも、コーラスワーク「A Spark in the Aether」とギターのリフによるサビ部の繰り返しに、心弾まずにはいられません。
コーラスワークを活かされ、変拍子を多用したシンセとギターを中心としたカラフルなリフとフレーズが満載で、POPさ溢れる唄メロのメロディラインが満載の冒頭部「a. We’ve Got The Music!」、5分前後からのミニマルなギターオルガンによるアンサンブルにワイルドなメロディが印象的な第2部「b. Geronimo – The Sharp End Of A Legacy」、7分前後からのハードロック調のギターのリフに速弾きのギター・ソロが炸裂する第3部「c. Trucks & Rugs & Prog & Roll」、9分10秒前後からのライブ・ステージをイメージするかのようなサウンド・メイキングを挟み込み、ジャージーなタッチのエレクトリック・ピアノのプレイと、フルートのソロによるカンタベリー系のアンサンブルが聴ける第4部「d. A Night At Newcastle City Hall, 1971」、そして、10分20秒前後からは冒頭部のリプライズとなる最終部「e. We’ve Got The Music!(Reprise)」で楽曲はクロージングします。
フルートの旋律が、前曲の最終部の心美良さの余韻を仄かに残したかのようにはじまる3「Clearing The Attic」は、中間部でオルガンとギターが繰り広げるインストルメンタルの長尺なパートにカンタベリー系のエッセンスをちらほらと感じさせつつ、イントロから終始響き渡るフルートの旋律と、その旋律を反復するギター・プレイによるアンサンブルと、唄メロのメロディラインを含めた構成に、朗らかさを漂わせた、ミドルテンポのジャズ・ロックが聴けます。
一連の楽曲が持つ軽快さや清涼感の印象を一瞬にして消し去るような楽曲があるとすれば、インストルメンタルの4「Aftereugene」でしょう。イントロのスパニッシュ風のギターのフレーズ、オルガンのリフ、フルートの旋律、シンバル音など、他楽曲と比べても、当楽曲が異質と感じるぐらいに、1つ1つの音に切迫さや緊張感を漂わせています。とりわけ、ベースが一定のシークエンスで淡々とランニングし、突如、3分40秒前後からサックスがフリーキーな旋律を吹き乱れるさまは、身震いしてしまうには十分すぎるほど不穏さを漂わせつつ、そのまま楽曲がクロージングしてしまうアンサンブルにもただただ圧倒されてしまいます。5大プログレバンド:King Crimsonの3rdアルバム「Lizard」や4thアルバム「island」でのスローテンポの楽曲にあるダークで混沌さを彷彿とさせます。
5「The Celluloid Road」は、R&B調のグルービーなリズム感などによる動のアンサンブルから、ジャズ系とサイケデック/スペース系の静のアンサンブルまで、6つのパートに分かれてた約21分にも及び長尺の大作です。
コーラスワークも極力抑え、ホーンセクションを盛り込みつつも、他楽曲とは印象を異にする渋めの声質によるボーカリゼーションでヴァースが進行する冒頭部「a. The American Watchworld」、4分50秒前後からのホーンセクションを効かせR&B調のグルーブにもスピーディなアンサンブルにオルガンのテーマと唄メロが冴える「b. Cops And Boxes」、7分30秒前後からのサイケデリック/スペース系とアダルトタッチなアンサンブルをアクセントに、同国イギリスのバンド:Dire Straitsのボーカル:Mark Knopflerが唄うブラック・コンテンポラリーのような錯覚をしてしまう「c. On The Road Again」、小休止後、12分50秒前後から静寂さに包まれたサウンド・メイキングに、時としてジャズ系の時としてサイケデリックさも漂わせる「d. The Inner Heart」、15分30秒前後からは、男性の声とサイレンのSEをサンプリング音に交えながら、ホーンセクションを盛り込みR&B調のグルーブのスピーディーなアンサンブルと唄メロの「e. San Francisco」、そして、最後に、20分15秒前後からは、ピアノの伴奏とボーカルだけによる静寂さを効かせる冒頭部のリプライズとなる最終部「f. The American Watchworld(Reprise)」で楽曲はクロージングします。
最終曲6「A Spark In The Aether(Part Two)」は、静寂な空間を忙しくも響かせるジャージーなピアノの旋律で幕を上げ、そのまま1分30秒前後からはエレクトリック・ピアノもアンサンブル加わり、テーマとなるメロディラインをサックス、ギターが奏でていく楽曲です。5分前後にオルガンが躍動的なフレーズを弾くと同時に、冒頭曲1「A Spark in the Aether」のシンセによる7拍のリフが再度奏でられ、「A Spark in the Aether」のメロディックなコーラスワークが繰り返され、楽曲はクロージングします。
[収録曲]
1. A Spark in the Aether
2. Codpieces and Capes
– a. We’ve Got The Music!
– b. Geronimo – The Sharp End Of A Legacy
– c. Trucks & Rugs & Prog & Roll
– d. A Night At Newcastle City Hall, 1971
– e. We’ve Got The Music!(Reprise)
3. Clearing The Attic
4. Aftereugene
5. The Celluloid Road
– a. The American Watchworld
– b. Cops And Boxes
– c. On The Road Again
– d. The Inner Heart
– e. San Francisco
– f. The American Watchworld(Reprise)
6. A Spark In The Aether(Part Two)
随所にR&B調などのグルーブもありますが、カンタベリー系やジャズ系のエッセンスのあるプログレッシブ・ロックが好きな方におすすめです。
オルガン、エレクトリック・ピアノ、グランド・ピアノなど、キーボードが中心ながらも、ギターやサックスをまじえた時にスリリングでいて、テクニカルなアンサンブルを聴かせてくれますが、1stアルバム「The Music That Died Alone」の続編にあたり、プロジェクトを「初心に戻した」かのような心地良いビート感のあるキャッチ―な唄メロの楽曲が多いため、聴きやすさもあります。
5大プログレバンドで、強いていえば、やはり初期YESの3rdアルバム「The Yes Album」あたりを好きな方にはおすすめしたいです。
アルバム「A Spark In The Aether」のおすすめ曲
1曲目は4曲目「Aftereugene」
一聴した時に、アルバムのそれまでの楽曲で感じえた空気感を一片させる切迫さを強く感じたからです。
2曲目は2曲目「Codpieces and Capes」
YESはボーカル:jon andersonの唯一無比なイメージがありますが、そのYESをはじめ、Queenなどに代表される清涼感のあるコーラスワークとビート感の冒頭部と最終部で挟みながら、長尺な楽曲を聴かせる展開が素敵だからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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