プログレおすすめ:Hostsonaten「Summereve」(2011年イタリア)
公開日:
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最終更新日:2015/12/03
2010年‐2013年, イタリア, イタリアン・プログレ, ヴァイオリン, フルート, メロトロン Hostsonaten
Hostsonaten -「Summereve」
第141回目おすすめアルバムは、イタリアのシンフォニック系のプログレッシブ・ロックバンド:Hostsonatenが2011年に発表した6thアルバム「Summereve」をご紹介します。
Hostsonatenは、元Finisterre、1st同名アルバムが傑作と云われる現La Mashera Di Ceraを率いるFabio Zuffantiによるバンドです。初期には、Finisterreのメンバーも参加し、フルートの調べも特徴的なクラシカルさ溢れるシンフォニック系のエッセンスを聴かせてくれます。
バンド名は、スウェーデンのIngmar Bergmanが1978年に映画監督を務めた著名な映画「Hostsonaten(邦題:秋のソナタ)」から名付けられ、Fabio Zuffantigaが敬愛する音楽(プログレッシブ・ロック、ジャズ、フォーク、エスニックなど)で、映像のようにサウンドスケープをさせようとしたのがコンセプトのようです。
「Seasoncycle Suite」というプロジェクト
春・夏・秋・冬それぞれをテーマにシンフォニックなアルバムを制作する「Seasoncycle Suite」というプロジェクトを立ち上げ、2002年の3rdアルバム「Springsong」を皮切りに、2008年には4thアルバム「Winterthrough」、2009年には5thアルバム「Autumn Symphony」を発表しています。
そう、当アルバムは、四季をコンセプトに立てた最終4作目「夏」の作品なのです。
アルバムには、「夏」と云うサウンドスケープを創出するためにか、多種多様な楽器が利用されています。
Fabio Zuffanti自身は、ベース、ムーグ・シンセ、ペダル・ベース、アコースティック・ギター、タンバリン、チューブラー・ベルズを駆使し、Matteo Nahum(アコースティック・ギター、12弦ギター、クラッシック・ギター)とのギター相互のアンサンブルを作り上げています。リズムセクションは、Maurizio Di Tollo(ドラム、コンガ、タンバリン)とFausto Sidri(オーストラリアの民族楽器:ディジュリドゥ、フィンガーシンバルの民族楽器:ジル、イランの民族楽器:ダルブッカ、ペルー発祥の楽器:カホン、西アフリカの民族楽器:ジャンベ)の2人が担い、多くの民族楽器がパーカッシブに用いられてることでネイティブなビートを感じさせてくれているのではないでしょうか。
さらに、Fabio Zuffantiの相棒ともいうべき、Luca Scheraniがメロトロン、ハモンド・オルガン、チャーチ・オルガン、ミニムーグ、グランドピアノ、ローズピアノ、クラビネット、シンセ、エレクトリック・ピアノ(Farfisa社製)、RMIエレクトロピアノ、ストリングアンサンブル、CP80(Yamaha社製)など、多種多様な鍵盤を使い分けている点も音像を感じるに聞き逃せません。
さらにさらに、ストリングアンサンブルのみならず、フルート、オーボエ、ヴァイオリン、チェロの各奏者を加えることで、サウンドにオーガニックさ溢れ厚みをもたらしています。
レコーディングに利用された楽器の多彩さだけでも、想像しがたいクオリティのアルバムです。
さあ、当アルバムが「夏」をテーマにどのようなサウンドスケープを描き出すのか、一緒に聴いてみませんか?
楽曲について
ヨーロッパでは、夏至の祝祭が「夏のクリスマスの日」とも呼ばれる聖ヨハネの日(6月24日)前後に行われることも印象深く、一年のうちで最も昼が長い夏至の日(6月21日)は、北半球にあるイタリアも日本もほぼ同時期に迎えるそうです。
異なるのは、イタリアの夏至の日は、夜が更けない。とも云われていることです。
アルバム・タイトル「Summereve」(the night before Midsummer Day)の和訳「夏至の日の前の夜」は、その夏至前夜にあたります。夕焼けにも取れる薄暗く赤い空のもと、照りつけるような暑さ、だらだらした湿気など、夏が象徴するストレスとは無縁の朧げなサマータイムの趣きをアルバムで表現しているかのように思いました。
夏至を過ぎれば、徐々に短くなっていくサマータイムの喪失さが映像美に見て取れるようなサウンドスケープともいうべきでしょうか。
冒頭曲「Seasons Overture:」は6部構成にもなる約11分にも及び楽曲です。エレクトリック・ギターによる伸びやかなトーン、民族楽器を駆使したパーカッシブなアンサンブル、出ては消えていくオーロラのようにも表現しうるキーボード、うねるベースライン、3分前後からのメイン・テーマを奏でるムーグ・シンセとオブリガードに連なるエレクトリック・ギターのフレーズ、12弦ギターとフルートのアンサンブルなど、多種多様なパートが溢れ、哀愁を帯びたエレクトリック・ギターにムーグ・シンセのフレーズがリレーしながら楽曲はクロージングします。
草原に寝そべり、夏至の前夜を過ごそうとする雄大なイメージをサウンドスケープさせてくれます。
2「Glares of Light」は、ピアノと弦楽器によるマイナー調のアンサンブルに、フルートがメインのパートを奏で、さらに呼応するかのようにカウンタメロディを聴かせるのが印象的な楽曲です。仄かな光が消え入りそうにも、まだ続いていくようなイメージを想起させてくれます。3分前後にリズムイン後のチェロとフルートのアンサンブルが叙情的にも刹那さ響かせてくれます。ギターの伸びやかで優美なフレーズも印象的ですが、このチェロとフルートのアンサンブルはピアノによるクロージング直前まで心へ迫ってくるものがあります。
3「Evening Dance」は、アコースティック・ギターをメインのアンサンブルに、ボサノバ調に近しい統制されたビートのパートは楽曲タイトルのイメージを具現化した化のようなビートさを醸し出し、フルートやヴァイオリンの独奏のパートが続き、エレクトリック・ギターのエクセレントリックなフレーズとともに、4「On the Sea」へ繋がります。4「On the Sea」は、刹那さ溢れるエレクトリック・ギターのソロパートがメインに展開し、中間部でのエレクトリック・ピアノの流麗な調べとともに、フルート、オーボエ、ヴァイオリンのアンサンブルは大らかにも楽曲のタイトルを意味する「海の上」を表現しているかのようです。
チューブラー・ベルズの音と共に、間髪を入れず5「Under Stars」へ移行し、1分30秒前後から羅列したピアノの打音と男性によるMCもアクセントに、アコースティック・ギターの一定のシークエンスのアルペジオとエレクトリック・ピアノの流麗なフレーズのアンサンブルはただただゆったりと重ねられます。そして、再度、チューブラー・ベルズの音と共に、エレクトリック・ギターのビートが効いたリフがリフレインしながら6「Blackmountains」は幕を上げます。ムーグ・シンセによるベットを不安定にさせたソロ・パートなどを交えながらも、終始、民族楽器を交えたリフやパーカッシブさ、スパニッシュ風のギターによるつづれ織りのソロと呼応するヴァイオリンのフレーズなど、リズミカルさやサウンド感は当アルバムでも異色ともいえる構成を魅せてくれます。
7「Prelude of an Elegy」はベースの一定のリフがビートを刻み、楽曲をリードしながらも、ムーグ・シンセ、オルガン、クラビネットなどの鍵盤が入れ替わりメインでアンサンブルに加わる頃にはアフロ・ビートを聴かせてくれます。3分前後からは、冒頭曲1「Seasons Overture:」のようなダイナミックなギターのパートが聴けて、SEとともにクロージングします。
雨のSEとともにピアノの独奏ではじまる最終曲8「Edge of Summer」は、40秒前後からは、ピアノはリリカルさ溢れたフレーズへと移行し、チェロやヴァイオリンの弦楽器とともに気品高いパートを聴かせつつも、エレクトリック・ギターとシンセが時に交互に、時にオブリガードで叙情さあるメロウ溢れたソロを展開していきます。アルバムの最終曲として有終の美を飾るかのように、「大円団」という言葉が似つかしく、どこまでも突き抜けていくようなギターのソロが印象的にもクロージングします。
いずれの楽曲にも共通し、叙情さを讃えたメロディラインが浮き彫りにされ、オリエンタル感も瑞々しくプログレッシブ・ロックでもシンフォニックなエッセンスで聴かせてくれます。また、楽曲ごとに多種多様な楽器を使い分け、その音色やフレーズでも色彩豊かにもメロウで、それほど緩急をつけず、終始リラックスしたムードの楽曲展開が多く、まさに「夏至の前夜」といかないまでも、薄暗くもそれほど更けない夏の夕暮れに、ひっそりと聴きたいアルバムですね。
[収録曲]
1. Seasons Overture:
i) Rite Of Summer
ii) In The Rising Sun
iii)The Last Shades Of Winter
iv) A Church Beyond The Lake
v) La Route Pour Finist?re
vi) Springtheme
2. Glares of Light
3. Evening Dance
4. On the Sea
5. Under Stars
6. Blackmountains
7. Prelude of an Elegy
8. Edge of Summer
全篇インストルメンタルのプログレッシブ・ロックを聴く方におすすめです。
そして、当アルバムを好きになった方は「Seasoncycle Suite」なるプロジェクトで制作された残り3枚のアルバム(3rdアルバム「Springsong」、4thアルバム「Winterthrough」、5thアルバム「Autumn Symphony」)を聴いてみてはいかがでしょうか。
アルバム「Summereve」のおすすめ曲
※アルバム1枚を通じ全インストルメンタルな楽曲ですの、おすすめ曲は控えさせていただきます。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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