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プログレおすすめ:Aphrodite’s Child「666」(1972年ギリシャ)


Aphrodite’s Child -「666」

第235回目おすすめアルバムは、ギリシャのシンフォニック系のプログレッシブ・ロックバンド:Aphrodite’s Childが1972年に発表した3rdアルバム「666」をご紹介します。

Aphrodite's Child「666」

名盤が名盤を生む。

・・・ギリシア神話で、サテュロスの息子オルキスがバッコス祭で女官を犯して八つ裂きになりランに変わったという・・・

そのランの根から作られる生薬サレップ(=salep)の使用影響下から傑作アルバム「666」が生まれたともいう。

その「666」を愛聴したJon Andersonは、きっとYesの名盤「Tales from Topographic Oceans(邦題:海洋地形学の物語)」の制作構想時にも多いに影響を受けたのだろうと考えています。聖書の黙示禄、お互いに共通し民族音楽の導入とフレーズ、語りやスキャットの導入などが酷似し、名盤が名盤を生んだと云う傑作アルバム「666」・・・

Aphrodite’s Childは、1967年に、ギリシャで、Vangelis Papathanassiou(キーボード、フルート、パーカッション、ヴィブラフォン)、Demis Roussos(ベース、ボーカル)、Lucas Sideras(ドラム、ボーカル)、Anargyros Koulouris(ギター、パーカッション)の4人が結成したバンドが母体です。

フランスのパリにて、Vangelis Papathanassiou、Demis Roussos、Lucas Siderasの3名がAnargyros Koulourisに出逢い、西洋ポップスとサイケデリックにギリシャ特有の伝統音楽が融合した新しいバンドを結成しようと試みますが、ギリシャ国内のクーデターを期に国外へ出ようとするが労働ビザの影響で、バンド結成後すぐに、軍役でAnargyros Koulourisがバンドを離れてしまいます。

1968年には1stアルバム「End of the World」、1969年には2ndアルバム「It’s Five O’Clock」をそれぞれ発表ししながらも、当時はプログレッシブ・ロックとも捉えていなかったであろう、Aphrodite’s Childの余りある創造性豊かな音楽性に、Vangelis Papathanassiouと他の2名に相違が生じ、いったんバンドは解散してしまいます。

当アルバム「666」は、バンド解散後にレコード会社との契約上の問題もあり、Anargyros Koulourisが合流した4人編成で再結成し制作された唯一のアルバムです。

Demis RoussosとLucas Siderasのポップス嗜好よりもシリアスでより芸術的な音楽を創造したかったVangelis Papathanassiouの想いは、英国ロックのサイケデリック/スペース系とギリシャの伝統的な宗教音楽が融合したシンフォニック系のプログレッシブ・ロックに満ちた傑作アルバムとしてカタチを残すことなったのです。Harris Chalkitis(ベース、テナー・サックス、コンガ)とMichel Ripoche(トランポリン、テナー・サックス)のサックス奏者とパーカッション、John Forst(ナレーション)と女優のIrene Papasをゲストに迎え制作された約78分に及ぶ2枚組の大作は、ヨハネの黙示禄(The Book of Revelations)をコンセプトに、

ギリシャの伝統宗教音楽がサイケデリック化した感覚は聴きすすむにつれて深みに嵌ってしまう癖になりそうなサウンドが満載の傑作アルバムです。

さあ、のちに映画音楽の巨匠として知名度を上げるVangelisが注ぎ込んだクリエイティブに触れてみましょう。

楽曲について[Disc One]

宗教朗読とも云える小曲の冒頭曲1「The System」に不安さを感じてしまいますが、続く2「Babylon」ではライブ歓声のSEに、アコースティック・ギターの歯切れ良いストロークをメインのアンサンブルに展開するサイケデリックなポップが聴けます。

それにもまして、[Disc One]には、男女ナレーションとそのナレーションの伴奏の楽曲か、幻想さや前衛さを醸し出すサウンドの音の断片の楽曲の大きく2つに分けた1分から2分程度の小曲がいくつも並んでいます。

ナレーションでは、ピアノを伴奏にコーラスが印象的にも女性のナレーションが綴られる3「Loud, Loud, Loud」、シタールの旋律を伴奏に男性のナレーションが綴られる6「The Seventh Seal」、シンセサイザーの旋律にギリシャ音楽の王道を行く幻想さに溢れるアンサンブルと男性ナレーションに哀愁を帯びたギターソロが聴ける7「Aegian Sea」、シンセサイザーが前衛的なサウンドを醸し出し、呪術のようにギリシャ語が綴られる8「Seven Bowls」と音の断片が展開していく9「The Wakening Beast」、静寂に宗教の祈りのように聞こえる10「Lament」、男性のナレーションにアナーキーなギターが炸裂する12「The Battle Of The Locusts」と13「Do It」、男性ナレーションと咆哮による16「Ofis」など、豊富なアプローチが聴けます。

音の断片では、電子音楽的なサウンドにラガーロック調によるサイバー系の5「The Lamb」、オリエンタルな旋律のサックスとピアノによる11「The Marching Beast」、サックスの旋律の断片の14「Tribulation」など、幻想さや前衛さを醸し出す様々なサウンドが聴けます。

中でも、聴きどころなのは、ナレーションの比重が高い楽曲では4「The Four Horsemen」、音の断片の比重が高い楽曲では5「The Lamb」でしょうか。5大プログレバンドの1つ:Pink Floydにも通じる前衛さや幻想さを想起してくれます。また、シャッフルビートにアヴァンギャルドな唄メロの15「The Beast」では、第1期King Crimsonのアルバム「Lizard」のフリー・ジャズさも感じえます。

ただそれも、[Disc One]の最終曲16「Ofis」のクロージング直前の男性の咆哮に聴き心に変な余韻を残し、[Disc Two]を手にしてしまうのが辛いところですね。

楽曲について[Disc Two]

男性の高らかなアナウンスの宣言にもとれる小品の冒頭曲1「Seven Trumpets」に続く楽曲も[Disc One]と同様な展開が聴けます。

ピアノとヴィブラフォンをアンサンブルに男性の一定のスキャットのリフレインが楽曲をリードし、サックスと男性のナレーションが聴ける2「Altamont」、音の断片では、シンセサイザーのバグパイプ風にミステリアスな旋律からパーカッシブさへと繋がり、次第に前衛的な音の断片が交錯する3「The Wedding Of The Lamb」と4「The Capture Of The Beast」と続き、5「”∞” (Infinity)」以降は、アルバムのハイライトともいうべき楽曲が並んでいます。

5「”∞” (Infinity)」は、ギリシャ人の女優のIrene Papasによるスキャットが絶叫しオルガスムに達するかのように煌びやかさせて、そのオルガスムの起伏に呼応するかのようなパーカッションやシンバルの演奏も印象的です。約5分間に詰め込まれた音源には、眩惑よりもリアルさ極まりない奇跡的な瞬間を感じることでしょう。

6「Hic Et Nunc」は、[Disc one]の1「The System」と2「Babylon」のリプライズともいうべき印象を与え、[Disc one]で別曲だった2曲を融合させるクリエイティブにより聴かせ方への工夫を強く感じるんです。

7「All The Seats Were Occupied」は、当アルバムでのナレーション、音の断片による前衛さ、ラガーロック調やサイケデリック/スペース系、メロディラインなどがすべて盛り込まれた集大成ともいうべき音楽を詰め込んだ約19分にも及ぶ大作です。

最終曲8「Break」は、たとえば、The Beatlesの名曲「Good Night」が、俗に「ザ・ホワイト・アルバム」と呼ばれる名盤のセルフ・タイトル・アルバム「The Beatles」のクロージングを担うような感覚を憶えます。ただ、ここには、よりドリーミーで幻想的なサウンドに満ちたシンセサイザーとピアノをアンサンブルに優しげに語られクロージングを迎えます。

クロージング直前[Disc One]の楽曲「Do It」での一節が盛り込まれ、アルバム全体を「音」でも十分過ぎるほど、有機的にコンセプト・アルバムへ仕立てるクリエイティブの高さを感じられるアルバムです。

[収録曲]

[Disc one]
1. The System
2. Babylon
3. Loud, Loud, Loud
4. The Four Horsemen
5. The Lamb
6. The Seventh Seal
7. Aegian Sea
8. Seven Bowls
9. The Wakening Beast
10. Lament
11. The Marching Beast
12. The Battle Of The Locusts
13. Do It
14. Tribulation
15. The Beast
16. Ofis

[Disc two]
1. Seven Trumpets
2. Altamont
3. The Wedding Of The Lamb
4. The Capture Of The Beast
5. “∞” (Infinity)
6. Hic Et Nunc
7. All The Seats Were Occupied
8. Break

サイケデリック/スペース系、ラガーロック系、前衛的音楽、ギリシャ音楽など、当アルバムのキーとなるキーワードを上げることは出来ますが、音楽をアートと感じ、前衛さや幻想さを感じたい方におすすめです。

また、映画音楽の巨匠として知名度を上げるVangelisの創造した音楽の素晴らしさを知りたい方、もしくは、当アルバムが発表された1年後に、Yesが1973年に発表する名盤「Tales from Topographic Oceans(邦題:海洋地形学の物語)」との関連性を知りたい方におすすめです。

アルバム「666」のおすすめ曲

1曲目は、[Disc two]の5「”∞” (Infinity)」
ギリシャ人の女優のIrene Papasによるスキャットには、ミステリアスさを通り越えて、身震いしてしまう、聴いていけない禁断の音楽に触れてしまった心地になってしまいます。必聴です。

2曲目は、[Disc two]の7「All The Seats Were Occupied」
当アルバムの音楽性がすべて詰め込まれて、約19分にも及ぶ大作は聴き応え十分です。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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