プログレおすすめ:Dogma「Na Ne」(2016年アルメニア)
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最終更新日:2020/01/04
2016年, アルメニア, プログレッシブ・メタル, 女性ボーカル Dogma
Dogma -「Na Ne」
第290回目おすすめアルバムは、アルメニア共和国のプログレッシブ・メタル系の:Dogmaが2016年7月に発表した3rdアルバム「Na Ne」をご紹介します。
Dogmaは、1990年代から活躍するアルメニアのメタルバンド:Manic Depressive PsychosisのHeno Grigoryan(ギター)、Vardan Grigoryan(ベース、ギター、キーボード)が、2007年に同国のメタルバンド:AramazdのDerik Vardumyan(ドラマー)を迎い入れ、さらに、当時はほぼ無名に近い女性ボーカルのZara Gevorgyan(ボーカル)を加えて、2008年に結成したバンドです。
バンドの音楽の特徴は、アルメニアの地特有のトラディショナルさを讃えたエスニック系のエッセンスをプログレッシブ・ロックでもプログレ・メタル系へと昇華させたところでしょうか。さらに、紅一点であるZara Gevorgyanの繊細さや艶やかさなど幅広い表現しうるボーカリゼーションが際立つかのように、プログレ・メタル系をベースとしつつも、アコースティカル系のエッセンス含むアンサンブルとサウンド・メイキングも特徴です。
たとえば、アメリカの著名なロック・バンド:Toolがもつプログレ寄りなエッセンスに、英国プログレッシブ・バンド:Jethro Tullのリリカルさと、同じく英国シンガー・ソングライターのKate Bushの情感さが合わせた持った感覚というのは形容は難しいだろうか。アルメニア語をメインに、時として英語を交え唄うメロディラインには、一種、中近東的でエスニックなエッセンスが独特な様相を呈した世界観を感じずにいられません。
バンド結成後、2009年に1stアルバム「Ethnic-Methnic」、2014年に2ndアルバム「Under Doma」を発表するも、ドラマーのDerik Vardumyanが脱退しています。当アルバム「Na Ne」は、10代のGor Avetisyan(ドラム、パーカッション)を新たに迎えて制作されたアルバムです。
プログレッシブ・メタル系のバンドと紹介されることが多くとも、トラディッショナルさも芳醇にアコースティカルさとメタルが共存したポスト・フォーク系とも形容したい素晴らしいアンサンブル、サウンド・メイキング、唄メロのメロディラインが聴ける好作品です!
楽曲について
ループしうる一定シークエンスのエコライジンされたギターフレーズに導かれ、冒頭曲1「The Soil / Hoghe」は幕を上げます。シンセによるフレーズがヴァースに於いて、エスニック系のエッセンスを漂わせつつ、Zara Gevorgyanは艶やかにも伸びのあるボーカルゼーションで唄い上げます。1分30秒前後など、突如、男性がコーラスワークでユニゾンするパートが挟まれつつ、メタル系とトランディッショナル系フォークともいうべきエッセンスが交互に、または、共存し合い楽曲が構築されていきます。
メタル系と云われるほど圧迫感をもたぬと感じるのは、メタルな質感、アコースティックさ、エスニックさ、多彩な男性ボーカルのゲスト(Derik Vardumyan、Tigran Petrosyan、Serge Melkonyan)によるコーラスワークがバランス良く共存されたアンサンブルの妙と感じました。
2「The Spring / Garune (feat. Arto Tuncboyaciyan)」は、メタル系のリフで幕を上げ、1番目と3番目のヴァースはZara 、2番目のヴァースはゲストの男性ボーカル:Arto Tuncboyaciyan、4番目と5番目のヴァースはZaraとArto、とデュエット形式で、アルメニア語とも相まってトラディッショナルさ満載の唄メロディラインが聴かれます。そして、ブレイク時や4番目以降のヴァースで執拗にリフレインされるメタル系のギターのアンサンブルが特徴です。
3「Hoy-Nay」は、アコースティック・ギターによるスタッカートが効いたフレーズから、メタル系のギターのフレーズ、アコースティックなストロークなど、多種多様なギターのフレーズが繰り広げられつつ、楽曲タイトル「Hoy-Nay」を表情豊かに連呼する様を見ても、Zaraの1「The Soil / Hoghe」や2「The Spring」以上のボーカリゼーションの奥ゆかさを感じさせてくれます。
4「I… Am」は、トラディッショナルさよりも幾分洗練された印象で、メタル系の比重を下げ、アコースティカルな比重が高いアンサンブルに、1950年代か1960年代の英国のクラシック・ソウルやポップなどを想起させる唄メロのメロディラインが特徴な前半部のパートと、前曲までのメタル系のパートを活かした後半部のパートに分かれます。前半部と後半部で印象はまったく異なりますが、終始、粒だったベースラインによるビート感があります。
5「Na Ne」は、退廃的で物憂げなサウンド・メイキングによるアンサンブル、憂いを帯びたZaraのボーカリゼーションから、3分前後に、メタリックなアンサンブルへと変貌していく様は、当楽曲が生まれる所以となった想い(第一次世界大戦でのアルメニア人虐殺を悼む歌)に溢れ、その世界観にただただ圧倒されてしまいます。
Alone, she is alone…
Will she ever return home ?
1「The Soil / Hoghe」や3「Hoy-Nay」など、アコースティカル系とメタル系が共存し合うバンドの典型的な6「Silence」、幾分サイケデリックさも感じえるエスニック系なフレーズを奏でるギターがメインのアンサンブルが特徴的な7「Foxy」などを挟み、
8「The River / Getake」では、男性ボーカルのゲスト(Derik Vardumyan、Serge Melkonyan)を交え、メタル系の比重よりもパーカッシブでタイトなベースラインが終始際立ち、当アルバムの楽曲では異色な仕上がりです。
最終曲9「You Hear / Du Lsum Es」は、タイトなリズムとギターのリフも唄メロも含めファンキーな仕上がりとなっており、アルバムを疾走感を持ってクロージングさせてます。
アルバム全篇、アルメニア吟遊詩人音楽のような趣きがありつつも、Zara Gevorgyanの艶やかなヴォイシング、英語を交えアルメニア語で謳われるボーカリゼーション、アルメニアのトランディショナルさが融合することで、素の感触が心へ訴えかける感覚と、いっぽうで洗練された印象がついアルメニアのバンドと忘れてしまい聴いてる感覚とで、戸惑いを隠せくなってしまいます。
[収録曲]
1.The Soil / Hoghe
2.The Spring / Garune (feat. Arto Tuncboyaciyan)
3.Hoy-Nay
4.I… Am
5.Nane
6.Silence
7.Foxy
8.The River / Getake
9.You Hear / Du Lsum Es
アルメニアの地特有トラディッショナルさがあることでうまく判断しづらいのですが、たとえば、北欧スウェーデンでいえば、Agusa、Carptree、Kaukasus、Pattosなどの翳りに抒情さあるバンドや、当WEBサイトで紹介したバンドでは、たとえば、スイスのプログレッシブ・バンド:Nucleus Tornの前衛さよりもメタル系のアンサンブルを好む方におすすめです。
当アルバムを気に入った方は、ぜひ、2009年発表の1stアルバム「Ethnic-Methnic」、2014年発表の2ndアルバム「Under Doma」にも手を伸ばしてみてはいかがでしょうか。
アルバム「Na Ne」のおすすめ曲
1曲目は、4曲曲の「I… Am」
偶然にもyoutube動画で見つけ、はじめて当バンドを知るきっかけとなった楽曲です。前半部のZara Gevorgyanは艶やかにも伸びのあるボーカルゼーションとクリーントーンの比重が高いギターの音色を活かしたアンサンブルは、その唄メロのメロディラインが古き良き1960年代以前の英国や米国のクラシック・ソウルやポップを想起させてくれます。
2曲目は、5曲目の「Na Ne」
楽曲に込めた想いがひしひしと伝わってくる、当アルバムの中で最もずっしりとした感触の楽曲だからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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