プログレおすすめ:Kenso「内ナル声ニ回帰セヨ」(2014年日本)
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最終更新日:2021/01/28
2014年, ジャズ&フュージュン, 女性ボーカル, 日本 kenso
Kenso -「内ナル声ニ回帰セヨ」
第118回目おすすめアルバムは、日本のJazz/フュージュン系のプログレッシブ・ロックバンド:Kensoが2014年7月23日に発表した9thアルバム「内ナル声ニ回帰セヨ」をご紹介します。
Kensoは、医学博士で現役の歯科医師をつとめる清水義央(ギター)を中心にしたバンドで、小口健一(キーボード)、光田健一(キーボード)、三枝俊治(ベース)、小森啓資(ドラム)による5人編成のバンドです。当アルバムは、前作8thアルバム「うつろいゆくもの」から8年振りのアルバムであり、発売年(2014年)はバンド結成40周年でした。また、Kensoのバンド名が気になって調べたところ、清水氏が高校生の時分に組んでいたバンド名「県相」、つまり、母校の県立相模原高等学校が由来だそうですね。
先入観もなく各楽曲を聴けばプログレッシブ・ロックでもジャズ系のエッセンスを感じるところですが、ジャズのアプローチでもイギリスのカンタベリー・ロックシーンで有名なバンド:Hatfield And The northやBrand Xなどをイメージしてしまいます。また、発表されるアルバムには、日本のバンドのアイデンティともいうべき、和音や和を彷彿させる管楽器による抒情性が垣間見えたり、フュージュンっぽさやローファイなサウンドも感じます。
当アルバムでは、冒頭の2曲(「若き日の私へ」と「新宿厚生年金に空」)は清水氏の青年期の楽曲のリメイクだったり、最終曲は、過去でもボーカル入りの楽曲は珍しく、なおかつ、女性ボーカルによる楽曲であったりと、
過去の記憶と、これからのバンドを予見させる未来をリンクするようなアルバム
という印象を持ちました。
楽曲について
冒頭曲「若き日の私へ」は、一瞬、Emerson Lake & Pamlerを彷彿させるオルガンのワンフレーズも交えながら、イギリスのカンタベリー・ロックやイタリア・プログレでいう大らかさ明朗さを連想させるテーマのオープニングが印象的な楽曲です。リズム主体からアヴァンギャルドのソロ・フレーズなど幅広いレンジのギターや、キーボードの心身良いフレーズをまじめる中間部に続き、4分30秒以降、オープニングのテーマが再度提示され、サスティーンの効いたギターとキーボードによるメロディアスなフレーズが聴ければ、アルバム冒頭の相応しいドラマチックな構成力を感じずにはいれません。
2「新宿厚生年金に空」は、イスラエルのバンド:Atmospheraが1970年代に残した幻のアルバム「Lady Of Shalott」の楽曲を彷彿とさせるピアノのシークエンスに、メロトロンのサウンドが重なる哀愁を帯びたアンサンブルと、女性ボーカルによる高音のスキャットがある冒頭部のパートが印象的です。当パートは楽曲中に何度となく提示されながら、ハープに近しいサウンド・メイキングなども聴けば、やはりイタリアは地中海の音楽のイメージを想起させてしまいます。ギターだけでなくベースのソロ・フレーズも交え、特徴的なのはリズミカルに聴かせるバンド・サウンドの一体感でしょうか。そして、約5分前後から、キーボードのフレーズにギターのアルペジオを交えながら、女性ボーカルによる高音のスキャットがゆったりと聴かれクロージングするさまを聴けば、冒頭曲も含め、個人的にはイタリア・プログレ的なイメージを抱かずにいられません。
冒頭2曲は聴き手によって異なる印象を抱かせるかもしれないが、過去の楽曲をリメイクしたもとには、制作当時の西欧のプログレッシブ・ロックに対する情景を思わずにはいられません。
3「江天暮雪」は、アコースティックギターとピアノがユニゾンでメロディラインを重ねていく、しっとりした印象の楽曲です。テクニカルさやアヴァンギャルドさとは無縁で、室内楽というよりも、楽曲全体で和を感じさせてくれる、時に煌びやかさを感じさせる音と音の交錯が印象強いです。
4「Voice of Sankhara」は、3分前後のパイプオルガンの音色をともなうリズミカルなリフから、ベースのリフがあうアンサンブルに、シンセのフレーズをともなうサウンド・メイキングも新鮮さに溢れ、楽曲全体ではミドルテンポで聴かせてくれる楽曲です。シンセを中心とした空間処理が特徴にあげられ、5分40秒前後からのシンセによる印象的なフレーズや、ギターのソロ・フレーズには、より壮大でドラマチックにシンフォニック系の拡がりをもたらせています。
5「朱に交わればRED」も、前曲に引き続き中盤のパートが印象的な楽曲です。シンセ、ギター、ベースが奏でるアンサンブルはカンタベリー系のエッセンスを強く感じさせてくれます。特に、2分30秒前後からのギターとピアノによる変拍子のパートから楽曲はクロージングに向け、徐々にテンポアップしていきます。その高揚感たるや、おそらくライブで聴けば自然と体を揺り動かされてしまいそうな衝動にかられます。
6「農耕民族に告ぐ!」は、タイトルから連想してしまう畑の刈り取り時期のニュアンスをサウンドスケープさせてくれる冒頭部が印象的な楽曲です。強いて言えば、1970年前半初期にジャズ系のエッセンスを持つKing Crimsonの持つアンサンブルに和の感覚がブレンドしたような独自さを当アルバムの楽曲の中では最も感じます。また、アヴァンギャルドさに足を踏み入れる一歩手前で、ハードエッジにでなく、ファンキーさ、メロウさ、ミステリアスさなど、バラエティ豊かなサウンド・メイキングが聴けるのは、土壇場という言葉が似つかわしく、アルバムのハイライトの1つと言えると思います。
7「心は過去へ向かう」は、イギリスのThe Beatlesが1966年に発表したサイケデリックの幕開けともいうべき、評価の高いアルバム「Revolver」の楽曲(「I’m Only Sleeping」や「Tomorrow Never Knows」など)で試みた音源の逆回転サウンドをキーボードのフレーズに感じさせてくれる楽曲です。ギターのフレーズにも浮遊さがあり、約2分の小曲でありながらも、サイケデリック系のエッセンスが脳裏にインパクトを与えてくれます。
最終曲8「A Song of Hope」は、アコースティック・ギターの流麗なフレーズに、ソプラノの声質が極まった30秒前後までの冒頭パートは、聴いていて当楽曲に惹きこまれるには十分すぎるぐらいです。シンセもアンサンブルに加わる30秒前後から2分前後のパートには1970年代初頭の英国をはじめとするブリティッシュ・フォークを彷彿させ、2分前後からはギターのアンサンブルにプログレ・フォーク的なエッセンスを垣間見せてくれます。そして、ギターのハイエンドなリフにボーカルの高音のスキャットとともに、中間部のパートでは、リズムセクションも加わり、静から動へとアンサンブルがシフトします。ヴァースと掛け合うギターのフレーズをはじめとする各楽器のパートが印象的に重ねられ、6分前後のピアノの一定のリフから、アコースティックギターやピアノを主体とした静のアンサンブルに移行し、特に、高音のスキャットがシアトリカルさも印象的に聴かせてくれます。このまま静のアンサンブルでクロージングしてもおかしくないところに、7分30秒前後から残り30秒間は、各楽器がリズミカルに畳み掛け、高音のスキャットがこだまし、楽曲はクロージングします。
アルバムの前半部では、個人的にイタリアなどの西洋のプログレッシブ・ロックのエッセンスを感じさせ、中間部では前半部とは異なるプログレのエッセンスで躍動する5「朱に交わればRED」と6「農耕民族に告ぐ!」に、7「心は過去へ向かう」をはいることで、アルバムに幅をもたせ、最終的に、ソプラノ歌手の半田美和子がボーカルをとる8「A Song of Hope」がより別格さを感じる素敵な楽曲の構成と思いました。
[収録曲]
1. 若き日の私へ
2. 新宿厚生年金に空
3. 江天暮雪
4. Voice of Sankhara
5. 朱に交わればRED
6. 農耕民族に告ぐ!
7. 心は過去へ向かう
8. A Song of Hope
イタリア・プログレ、カンタベリー・ロック、その両者にも共通するジャズやフュージュンのエッセンスなどをキーワードに聴くことをおすすめ出来ればと思います。
インストルメンタルな楽曲中心のアルバムです。ハードエッジやメタルなエッセンスではなく、アヴァンギャルドさも希薄なインストルメンタルのプログレッシブ・ロックを聴きたいと云う方にもぜひおすすめです。
個人的には、和のテイストを感じさせてくれる音色やフレーズがちらほら聴けるたびに、日本のプログレッシブ・ロックバンドのアルバムを聴けて嬉しいなと思う1枚です。
アルバム「内ナル声ニ回帰セヨ」のおすすめ曲
1曲目は、最終曲8「A Song of Hope」
静と動のアンサンブルを数パートに分けて聴かせる構成力とともに、ソプラノ歌手の半田美和子による歌詞をともなったヴァースと、高音のスキャットのパートが素敵なんです。アルバム前半部で聴けた女性の高音のスキャットも伏線となり、よりいっそうアルバムのハイライトへ繋げる効果を感じました。本音では、半田美和子によるボーカル曲を複数収録して欲しかった、聴きたかったという想いもあります。冒頭曲1「若き日の私へ」と2「新宿厚生年金に空」が過去へのリンクであれば、未来へのリンクとイメージしてしまう当楽曲に、次作アルバムのカタチを心待ちにしてしまうんです。
2曲目は、5曲目の「朱に交わればRED」
個人的には、2曲目「新宿厚生年金に空」をおすすめしたい気持もありますが、この曲の持つ中間部から後半部のパートへのバンド一体となったテンションは音楽をライブ会場で愉しみたいという気持ちがうずうずさせてくれるアルバムの1曲のため、あえてこの楽曲を選曲させて頂きました。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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