プログレおすすめ:YES「Relayer(リレイヤー)」(1974年イギリス)
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最終更新日:2020/01/04
1970年代, YES(5大プログレ), イギリス Alan White, Chris Squire, jon anderson, Patrick Moraz, Steve Howe, YES
YES – 「Relayer(リレイヤー)」
第83回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:YESが1974年に発表したアルバム「Relayer」をご紹介します。
YESの7枚目にあたるアルバム「Relayer」は、前作「Tales from Topographic Oceans(邦題:海洋地形学の物語)」を制作後、4thアルバム「Fragile(邦題:こわれもの)」からキーボードで参加していたRick Wakemanが脱退してしまいます。おそらく当時のYESファンでRick Wakemanのキーボード奏法がなくなること、強いてはバンドが存続するのかと落胆していたかもしれません。
YESは特に4thアルバム「Fragile」以降の成功はYESファン周知のとおりですが、過去のアルバムでもメンバーチェンジをすることで存続をはかっています。既にアルバム構想を練られていたというから、その構想に叶う新メンバーとして、スイス出身のPatrick Morazが加わったのであろうか。また、当時所属していたバンド:refugeeを脱退してでの加入とのことだから、どこまでの構想に関与していたのか、その経緯を知ったうえで、あらためてアルバムを聴いてみると、YESファンにとって愉しめると思いましたよ。
キーボード奏者としてPatrick Morazが新加入し、ボーカルにJon Anderson、ベースにChris Squire、ギターにSteve Howe、ドラムにAlan Whiteというメンバーで当アルバムは制作され、ツアーを実施されました。
楽曲について
冒頭曲「The Gates Of Delirium(邦題:錯乱の扉)」は、当アルバムのコンセプト「戦争と平和」を色濃く表現した楽曲。イントロのPatrick Morazがシンセサイザーで表現するキラキラとした質感は、「Close To The Edge – 第1パート:The Solid Time Of Change」(4thアルバム「Close To the Edge(邦題:危機)」とは異なり幻想感よりリアルさを感じずにいられません。とはいってもSteve Howeによるギターのハーモニクスやフレーズもまじえ、ドラムとのタイトなリズムには切迫さが感じられます。2分10秒前後からアコースティカルでメロウなアンサンブルにJon Andersonがメインのテーマともいうべきヴァースを唄い上げ、5分前後や7分前後のSteve Howeによるギターリフの1つのモチーフを変奏でシークエンスも交えながらも、よりソリッドでスリリングな展開には「Close To The Edge」を比較してしまう気持ちも抑えられません。特に、8分前後からChris Squireによるベースのうねりとともに、Patrick Morazのシンセサイザーのサウンドメイキングと、Steve Howeによるギターソロの応酬には、まるで「戦闘中」ともいうべきパートを想起させて圧倒されます。Chris Squireのベースの硬質なリフはより存在感を増し、10分前後からはさらに演奏技巧やエフェクティブに、これまでのYESには魅せないがクールな表現が展開されます。とても激しく、「戦闘の混乱」をも想起してしまいます。12分30秒前後のAlan Whiteの印象的なスネア音の連打ともに、シンセサイザーによる演奏には「戦争の終止符」のようなイメージも想起し、Steve Howeのギターも呼応し、フュージュン系のテンションに委ねてしまいます。15分前後から1分ほどは前テーマの残像音がかすかにこだまし、16分からはSteve Howeによるスティールギターで奏でらえる「Soon」のパートへ移行します。そのギターのフレーズをガイドにし、Jon Andersonが「Soon~」と唄うヴァースは「平和の訪れ」と感じてしまう表現ですね。アコースティカルなギターのストロークとともに何とも美しく儚く、シングル・エディットされたことも頷けます。
「戦争」=「動」と「平和」=「静」のメリハリがとても色濃く長尺20分はあっという間に過ぎてしまうほど聴き入ってしまう。
2「Sound Chaser」はエレピを軸に、ドラムとベースが奏でるジャズ系の張りつめたイントロにはただただ圧倒されていきますね。1分前後からの各楽器が忙しく激しく奏でる各フレーズ、特に2分30秒前後から30秒間のアプローチには、同国の5大プログレバンド:King Crimsonが、2ndアルバム「In The Wake Of Poseidon(邦題:ポセイドンのめざめ)」や3rdアルバム「リザード」で軸とするジャズ系のアンサンブルを垣間見せてくれますが、キーボード奏者がPatrick Morazであろうが、他メンバーによる演奏はYESのものであり、その持ち味を発揮するかのように、3分以降や6分30秒前以降、8分以降のSteve Howeの即興を活かしたギターのソリッドなフレーズを中心に楽曲はすすんでいきます。決して、Jon Andersonの高音によるヴォーカリゼーションがあるからというわけでなく、YESによる前衛的でジャズ系の即興音楽といえるのではないでしょうか。
3「To Be Over」は1分50秒前後からのJon Andersonのスローで優しげに唄われるヴァースでアルバムを落ち着かせてくれます。当アルバムの中では、最もこれまでのYESのサウンドメイキングに近しいかもしれません。それでもPatrick Morazがもたらしたと思われるラテン音楽を意識したフレーズを、Steve Howeもギターのフレーズで呼応し、3分30秒以降に、これまでと異なる幻想的でいてメロウなイメージで色を添えてると思うんです。イントロの静けさのある透明さから、雄大な拡がりでアルバムがクロージングする構成に一役買っていると思いますし、一瞬、4tアルバムの組曲「Close To The Edge」の最終章((iv)Seasons Of A Man)を想起したのは自分だけでしょうか。アルバムの曲構成も3曲であり、どこか意識しがちですが、とても素敵なクロージングです。
キーボード奏者:Patrick Morazによるシンセサイザーの妙を含め、特徴的な演奏技巧がアルバム全篇に盛り込まれ、決して、旧キーボード奏者:Rick Wakemanの演奏スタイルをあからさまに模倣しようとせず、1つの楽器として捉え、他メンバーの楽器とのアンサンブルとが生み出すインプロヴィゼーションによる切迫感は、YESの全アルバムの中でも見受けられない異質で素晴らしい演奏力と思います。
[収録曲]
1. Gates Of Delirium
2. Sound Chaser
3. To Be Over
Rick Wakemanによる神秘的でメロウなシンフォニック系ではなく、Patrick Morazによるラテン音楽とフュージュンのフレーズの取り込みや、無音を活かすなど演奏技巧を凝らしたアルバムです。新旧キーボード奏者を比べるのではなく、「戦争と平和を」を表現しようとしたYESの音楽性を素直に聴いてみたいという方に、おすすめです。
筆者としては、キーボード奏者がTony KayeからRick Wakemanに変わった時と同様に、Patrick Morazを迎えることで、新しい領域に入ろう、プログレッシブに目指そうとする意欲が伝わってきますよね。1つの楽曲だけ聴かせるだけでなく、アルバム全体として聴かせる、聴くことを意識させてくれるプログレッシブ・ロックが素晴らしいと思える瞬間の1つです。紛れもなく当アルバムは傑作であり、おすすめです。
コンセプト「戦争と平和」の最後のワンピース
前作アルバム「Tales from Topographic Oceans(邦題:海洋地形学の物語)」はボーカルのJon AndersonがYES来日公演時に、東京滞在時、ヒンドゥー教の経典から読み、ギターのSteve Howeと共同作業で構想をまとめたという経緯がありました。その音楽表現には、当時のメンバーが好んだというギリシャのバンド:Aphrodite’s Childのアルバム「666」が起因しているのではないかとも云われています。どちらかというと、プログレッシブ・ロックよりもサイケデリック系のPOPさを感じさせてくれるアルバムです。「666」は聖書の黙示禄、お互いに共通し民族音楽の導入とフレーズ、語りやスキャットの導入など酷似しているんですよね。マーラーの交響曲並みに圧倒的なスケール感で迫るアルバム「Tales from Topographic Oceans」として完成したものの、YESファン、強いてはプログレッシブ・ロックのファンから見ても、客観的に一歩ひいて評価してしまう結果ともなり、キーボード:Rick Wakemanの脱退へと繋がってしまいました。脱退前に当アルバムのテーマ「戦争と平和」の構想があったにも関わらずにです。
物事は憶測にしか過ぎませんが、「戦争と平和」を表現するうえで、アルバム「Tales from Topographic Oceans」のようになってしまうことを危惧し、新たなメンバーが必要だったのか、当時所属していたバンド:refugeeを脱退してまで参加したPatrick Morazの存在が当アルバムを表現する最後のワンピースと考えれば、また異なる趣きでアルバムの表情を感じられるかもしれませんね。
みなさん、いかがですか?
アルバム「Relayer」のおすすめ曲
1曲目は冒頭曲の「The Gates Of Delirium」
Rick Wakemanの模倣ではないPatrick Morazによる鍵盤の演奏スタイルと、コンセプト「戦争と平和」を20分で纏め上げた構成力が素敵だからです。
2曲目は3曲目の「To Be Over」
これまでのYESの幻想感に、ジャズやフュージョンの要素よりも、ラテン音楽のトロピカルさの要素が楽曲の中で「うく」ことなく、素敵な仕上がりになっている印象があるからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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