プログレおすすめ:McDonald & Giles(マクドナルド・アンド・ジャイルズ)(1970年イギリス)
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最終更新日:2015/12/02
1970年代, イギリス, フルート, 関連プログレ(5大プログレ) Ian McDonald, Michael Giles, Peter Giles, Peter Sinfield, Steve Winwood
McDonald & Giles(マクドナルド・アンド・ジャイルズ)
第100回目おすすめアルバムは、イギリスのIan McDonaldとGiles兄弟(Michael Giles、Peter Giles)が1970年に発表した唯一のアルバム「McDonald & Giles」をご紹介します。
「もしも無人島にアルバム10枚を持っていくとしたら、どのアルバムを持っていきますか?」と質問されたら、プログレッシブ・ロック系のアルバムでは、当アルバムが候補として真っ先に思い浮かびます。記念すべき第100回目の「プログレおすすめアルバム」として、当アルバム「McDonald & Giles」を取り上げたのは単純な理由でした。
アルバム制作の背景について
King Crimsonが1stアルバム「The Court Of The King Crimson(邦題:キングクリムゾンの宮殿)」発表後、初の全米ツアーを実施中に、Ian McDonaldとMichael GilesがRobert Frippに脱退の意志を伝えます。King Crimsonでの音楽志向の食い違いだけでなく、ツアーに明け暮れる日々が二人に合わなかったということもあるみたいです。突然のこととはいえ、Robert Frippは「自分が辞めるから、二人はバンドに残って欲しい。」と伝えてもなお、二人の決意は固く脱退してしまいます。King Crimsonは新たなメンバーを追加することがままならないため、次作2ndアルバム「In The Wake Of Poseidon(邦題:ポセイドンのめざめ)」に関わる一連のレコーディング、テレビ出演などの一部に、Giles兄弟(Michael Giles、Peter Giles)は戻って参加しています。
リズムセクションには、Giles兄弟(Michael Giles、Peter Giles)、サウンド・メイキングという点でマルチ・プレイヤーのIan McDonaldで制作されています。また、一部に、元トラフィックのsteve Windwoodがオルガンとピアノでゲスト参加もしています。たった一度きりで終わってしまったプロジェクトですが、本来、Ian McDonaldとGiles兄弟(Michael Giles、Peter Giles)が志向したのは「音楽の情熱やエネルギーをスタジオでアルバム制作に注ぎ込みたい」という想いが実現したアルバムではないでしょうか。
様々な重圧から解き離れてナチュラルなイマジネーションが溢れた1枚
楽曲について
5つの楽曲のうち、Michael Gilesが唯一制作の4曲目「Tomorrow’s People-The Children Of Today(邦題:明日への脈動)」以外は、少なからずKing Crimsonに関連した楽曲であり、かつ、Ian McDonaldの制作によるものです。
5曲目「Birdman(邦題:バードマン)」は、King Crimsonの黎明期にPeter Sinfieldの作詞で、冒頭曲「Suite in C(邦題:組曲ハ長調)」と3曲目「Is She Waiting?(邦題:イズ・シー・ウェイティング)は、King Crimson在籍時にツアーの合間に制作しています。そして、2曲目「Flight Of The Ibis(邦題:アイビスの飛行)」は、King Crimsonの2ndアルバム「In The Wake Of Poseidon」に収録曲「Cadance And Cascade(邦題:ケイデンスとカスケイド)」の原曲にあたります。1970年5月に発売された2ndアルバム「In The Wake Of Poseidon」から遅れること6か月後の1970年11月に当アルバムが発売されるにあたり、他者の協力のもと改作しています。
同時期のKing Crimsonと比較しがちですが、アルバムを一聴すれば、レイドバックといかないまでもより肩の力を抜き、King Crimsonよりもさまざまな音楽のジャンル(ロック、モッズ、フォーク、ジャズ、クラシック、エスニック、ミニマムなど)がとても良いケミストリーで生まれた楽曲ばかりと感じるでしょう。
King Crimsonの1stアルバム前後を彩ったクオリティ(緻密に組まれた楽曲の構築美と実際に表現するための音楽水準の高さ)がある
冒頭曲1「Suite In C」は、フックが効いたギターとボーカルによるオープニングだけを聴くだけで、一気に惹き込まれてしまいますね。ギターとドラムをメインとしたアンサンブルの緻密さには緊張感や切迫感ではなく、脱力さを感じるのは筆者だけでしょうか。続く、ベース、フルート、ピアノ、オルガンによる音の粒が交錯し合うジャージーなインタープレイでさえ、落ち着いて聴けてしまうんです。いっぽうで、6分前後のIan McDonaldによる発声とともに溢れだすパートを聴けば、King Crimsonの叙情性や幻想性をIan McDonaldとMichael Gilesによるものと感じずにいられません。ただし、その抒情性や幻想性だけに焦点を置くのではなく、フォークやブルースなど下敷きにジャージーに紡ぎ纏めてます。たとえば、元The BeatlesのPaul McCartneyが1971年に発表した2ndソロアルバム「Ram」の各楽曲に溢れる様々な音楽ジャンルを1つの楽曲に落とし込んだような印象です。1曲に纏め上げる楽曲の構築美こそ、プログレッシブ・ロックの要素の1つですよね。
2「Flight Of The Ibis」は、歌詞も含め改作されたことで日常生活的なラブ・ソングとなり、より快活さあるメロウなイメージです。木管の音色も印象的に、「Cadance And Cascade」でのGordon Haskellの声よりも頼りなさのあるIan McDonaldの声も含め、優しさが溢れています。
前曲が木漏れ日のような佇まいの「陽」であれば、3「Is She Waiting?」は、彼女を想う切々とした気持ちをマイナー調に綴られる「陰」のようなイメージです。King Crimsonの同系列の楽曲にある抽象的な歌詞と比べて、歌詞を含めた世界観はよりブリティッシュ・フォーク的な印象です。
4「Tomorrow’s People-The Children Of Today」は、Michael GilesがボーカルによるR&Bな曲調の楽曲です。フルートやサックスが交錯し、ブラス・ロックとも捉えるべきサウンドが印象的です。また、ほんの一瞬ですが、4分前後のフルートとサックスのアンサンブルを聴くと、King Crimsonの7thアルバム「Red」にゲスト参加したIan McDonaldが「Starless」で印象的な演奏をする姿がよぎってしまいます。
5「Birdman」は、当時のLPB面すべてを埋め尽くした約22分にも及ぶ大作です。オープニングの「Bird」のアカペラに、2分前後までのクラウト・ロック寄りのサウンド・メイキングに、風変りと感じた瞬間に惹き込まれる楽曲ですね。その後は、当アルバムの他楽曲の主題性ともいうべき、さまざまな音楽ジャンルがパートを埋め尽くしています。ジャージーさと叙情性や幻想性の2面性によるエッセンスで纏め上げられています。ストリングスが高揚させて楽曲はクロージングしたと思いきや、最後に微かなオルガンとサックスによる演奏が残響音のように響き、うっすらと消えていきます。この感覚に、当時のSummer Of Loveを感じてしまいますね。当楽曲の全体的なアプローチは、現在のプログレッシブ・ロックバンドの大作と云われる楽曲の多くに大きく影響を与えたといっても過言ではないと、よく耳にするような構成だと思います。
筆者が唯一残念なことは、不思議とメロトロンが利用されていないことなんです。Ian McDonaldは、ギター、ピアノ、オルガン、サックス、フルート、クラリネット、チターなどを駆使し、マルチ・プレイを発揮しているものの、King Crimson脱退後にメロトロンの使用を拒否するばかりでなく、シンセでのサンプリングの形跡もないのです。その独特の翳りある音に叙情性の一端を憶え、サウンドスケープしてしまうんです。代表的なプログレッシブ・ロック系の他のキーボード奏者のRick Wakeman、Tony Kaye、Keith Emersonはその音の不安定さに困惑していましたが、Ian McDonaldも同様だったのでしょうか。
メロトロン云々に関係なく、素晴らしいアルバムであることに変わりはありません。ふと脳裏を掠めるの田園のような風景です。時代に縛られない、時代を超え、後世に名盤として語り伝えて欲しい1枚です。
[収録曲]
1. Suite in C(邦題:組曲ハ長調)
2. Flight Of The Ibis(邦題:アイビスの飛行)
3. Is She Waiting?(邦題:イズ・シー・ウェイティング)
4. Tomorrow’s People-The Children Of Today(邦題:明日への脈動)
5. Birdman(邦題:バードマン)
King Crimsonの持つクオリティ(緻密に組まれた楽曲の構築美と実際に表現するための音楽水準の高さ)でプログレッシブ・ロックを聴きたいという方は抑えておくべき1枚です。
広く言えば、1970年代のイギリスが生んだプログレッシブ・ロックの名盤の1つとして、プログレッシブ・ロックを聴きたいと感じ方には聴いて欲しい、おすすめの1枚です。
「In The Wake Of Poseidon」のおすすめ曲
1曲目は5曲目「Birdman」
現代のロック然としたバンドがプログレッシブ・ロックへクロスオーヴァーしたり、カンタベリー系のプログレッシブ・ロックバンドの長尺の楽曲を聴くたびに、想う浮かべてしまう楽曲だからです。
2曲目は2曲目「Flight Of The Ibis」
当楽曲を、King Crimsonの楽曲「Cadance And Cascade」の原曲として、改作しても後発として発表したIan McDonaldを考えながら、聴いてしまうからです。いつも答えは見いだせないけれど、それだけかげろうのように今にも消え入りそうな儚さではない「陽」を感じてしまうからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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