プログレおすすめ:Anderson-Bruford-Wakeman-Howe(邦題:閃光)(1989年イギリス)
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最終更新日:2015/12/30
1980年代, YES(5大プログレ), イギリス Bill Bruford, jon anderson, Rick Wakeman, Steve Howe, Tony Levin, Vangelis
Anderson-Bruford-Wakeman-Howe -「Anderson-Bruford-Wakeman-Howe(邦題:閃光)」
第87回目おすすめアルバムは、イギリスで元YESのメンバーが集結し、Anderson-Bruford-Wakeman-Howeとして1989年に発表したアルバム「Anderson-Bruford-Wakeman-Howe(邦題:閃光)」です。
名盤「Fragile(邦題:こわれもの)」を制作したメンバーたち(Jon Anderson、Bill Bruford、Rick Wakeman、Steve Howe)が集まり制作されました。ただ、「YES」ブランドの権利を持っていたベースのChris Squireが参加しなかったことから、制作されたアルバムはメンバー4人の名前をとり「Anderson-Bruford-Wakeman-Howe」名義での発売となりました。
当時、メンバー4人が集うきっかけは、Jon Andersonによる発案だったと云われています。そのきっかけに、最初からきっちりとレコーディングしてアルバムを制作するのではなく、ソロアルバムの制作をしていたSteve HoweやRick Wakemanの既音源を活かしています。
1980年代よりも1970年代のYESのイメージに近いアルバム
レコーディングに新しく導入されたBill Brufordの電子ドラムやRick Wakemanのキーボードなどの1980年代の要素に、Chris Squireによるリッケンバッカー特有のごりごりしたフレーズではなく、ベースのTony Levinによるスティック・ベースのフレーズなども加わることで、ワールド・ミュージックともいうべきプログレッシブ・ロックよりも、より広義的な「ワールド・ミュージック」と「ニューエイジ」のスタイルが反映されたと思うんです。
YESらしさを感じつつもモダンな耳触りのアルバムと
YESの過去現在のアルバムを聴き、あらためて聴くなおすと、1980年代のYESの他アルバムよりも1970年代のイメージに近いサウンドを聴かせていると思うのです。もちろん、名盤(「Fragile」や「Close To The Edge」など)のように切迫さとは異なります。
そして筆者が、YESを含め、YES関係のプログレッシブ・ロック系のアルバムに、ほぼリアルタイムではじめて出逢ったのは当アルバムでした。
個人的に思い入れのある好きなアルバムです。
楽曲について
穏やかにも躍動さのある印象的なイントロで幕を上げる冒頭曲「Themes」は、1分前後にバスの効いたドラム音も加わり、Jon Andersonによるスリリングなヴァースが聴けます。リズミカルなRick Wakemanのキーボードのフレーズに、Bill Brufordの電子ドラムとTony Levinによるスティック・ベースは、第3期King Crimsonの1973年発表の5thアルバム「Lark’s Tongues In Aspic(邦題:太陽と戦慄)」の冒頭曲「Lark’s Tongues In Aspic Part 1」でパーカッションのJamie MuirやスキッフルなBill Brufordによるプレイとは異なるものの、晴れやかさを感じ、ポジティブな気持ちにさせてくれます。楽曲は3部構成であり、この印象的な「Sound」と云われるパート以外にも、よりアグレッシブなSecond Attention」やさらにフュージュンさもある「Soul Warrior」のように、冒頭曲に相応しいサウンドが聴けます。
2「Fist of Fire」はアンニュイでいながらもメリハリの効いたヴァースに、特にRick Wakemanのソリッドなキーボードのプレイが印象的な楽曲ですね。Steve Howeのヴァースでのギターや残り30秒前後のソロがさりげなく聴けるぐらいに、1970年代のYESというよりもソロでのキーボードのプレイに近しいイメージです。
3「Brother Of Mine」も1「Themes」と同様に、3部構成(「The Big Dream」、「Nothing Can ComeBetween Us」、「Long Lost Brother Of Mine」)ですが、よりミディアムテンポで唄メロやアンサンブルのバランスを練られた印象がある約10分の楽曲です。3分前後に聴けるRick WakemanのキーボードとSteve Howeのギターのフレーズもアクセントに、メロウさとスリリングさが行き交うヴァースが良いですよね。そして、6分30秒前後からの最終部「Long Lost Brother Of Mine」はよりロックっぽさのあるフレームが心地良いパートは、共作者に名を連ねる現YES、そして現ASIAであるGeoffrey DownesとSteve Howeのイマジネーションからは、たとえば、第1期ASIAの3rdアルバム「Astra」の挿入歌「Rock And Roll Dreames」のサビで感じ得るはつらつさがありますね。やはり、1980年代のYESでもアルバム「Drama」での活気を感じえます。
Steve Howeのアコースティック・ギターのソロがマイナー調の残響さを様相させる4「Birthright」は、どことなく物憂げなイントロですが、最初のヴァースにもかなりハードなディスト―ションが効いたギターのリフが加わったり、中東風のギターのアクセントがあったりと、アンニュイなサウンドメイキングが楽曲を占めています。3分以降のヴァンゲリス風のRick Wakemanのプレイや、Bill Brufordのポリリズム的なリズムも含め、当アルバムではサウンドが実験的でありながらも、YES風に昇華した仕上がりではないでしょうか。最初から最後まで鳴り響くSteve Howeによるアコースティック・ギターが楽曲に統一感を与えていると感じるんです。
5「The meeting」は、Rick Wakemanによる穏やかなキーボードのプレイが聴けるスローな楽曲。ほのかに哀愁さがありつつも、淡々とすこやかに唄い上げるJon Andersonのヴァースも含め、郷愁さを感じさせてくれます。当楽曲までのRick Wakemanのキーボードのプレイとは異なり、1980年代のソロアルバムでの一側面を見せた「ニューエイジ」さをシンセとともにアンサンブルで際立たせています。
5「The meeting」の余韻をほのかにひきずるようにはじまる6「Quartet」は、より1970年代のYESの楽曲に垣間見えた牧歌的なヴァースが素敵ですね。この曲もまた4部構成(「I Wanna Learn」、「She Gives Me Love」、「Who Was The First」、「I’m Alive」)ですが、第2部「She Gives Me Love」や第3部「Who Was The First」でのトランペット風のサウンド・メイキング、YESらしさのあるコーラスワークもあることで、ほのぼの感があるメロウさに心地よく感じますね。7分前後の最終部「I’m Alive」のマイナー調で哀愁を帯びた唄メロが異なった楽曲のイメージを与え、いつも違和感を感じてもしまいますが・・・。
当アルバムが「ワールド・ミュージック」と明確に感じ得る瞬間が7「Teakbois」ではないでしょうか。冒頭からのカリブ音楽のリズムやサウンドメイキング、さらに3分前後からのどことなく1960年代のようでありモータウン風のコーラスワーク、5分前後のラテン風のコーラスワークなど、ただただ驚かされます。そうだとしても、実験的でいて、Bill Bruford、Tony Levin、Rick Wakemanのリズム感をうまくブレンドしていると感じるんです。3分前後のモータウン風のコーラスワークで聴かせてくれた「cool
running」をカリブ音楽のリズムにのせて、楽曲最後にフェードアウトする演出にも、このままこの楽曲の世界観を拡げていけば、どのようになるのかと想いをめぐらせずにはいられません。
8「Order Of The Universe」はアルバムのクライマックスと云われる楽曲。4部構成(「Order Theme」、 「Rock Gives Courage」、「It’s So Hard To Grow」、「The Universe」)の終始ソリッドなアンサンブルとヴァースから、もしかすると当アルバムで最も1980年代のYES風とも感じるかもしれません。他楽曲とは異なるアクティビティは、Jon Andersonのボーカリゼーションからも感じえるんです。最終部の「The Universe」は前曲「Teakbois」のサウンドのアプローチや冒頭曲「Themes」の最終部「Soul Warrior」のベースプレイが仄かに聴こえ、当楽曲がアルバム全篇の最終楽曲のイメージをもたせてくれるのではないでしょうか。
そして、ヴァンゲリスが共作者に名を連ねるラスト「Let’s pretend」は、アルバムの最後のプレゼントのような印象ですね。アコースティック・ギターをメインにアンサンブルに、5「The meeting」と同様に郷愁さを感じさせてくれながら、アルバムはクロージングします。
[収録曲]
1. Themes – I) Sound, II) Second Attention, III) Soul Warrior
2. Fist of Fire
3. Brother Of Mine – I) The Big Dream, II) Nothing Can Come Between Us, III) Long Lost Brother Of Mine
4. Birthright
5. The meeting
6. Quartet – I) I Wanna Learn, II) She Gives Me Love, III) Who Was The First, IV) I’m Alive
7. Teakbois
8. Order Of The Universe – I) Order Theme, II) Rock Gives Courage, III) It’s So Hard To Grow, IV) The Universe
9. Let’s pretend
1970年代前半のYESのメロウさ、そして、その当時のメンバーによるアルバムの新しい楽曲を追い求めるのならば、50%以上、期待を裏切らないアルバムと思います。各メンバーがソロを含めて音楽経験を重ね、さらに音楽技術の発展などもありますが、1980年代のYESが発表したどのアルバムよりも1970年代前半のYESらしさを感じさせてくれると思うからです。
筆者は、プログレッシブ・ロックのバンド:YESのオリジナル・アルバムに最初に出逢っていれば、また異なった気持ちで、当アルバムと接していたかもしれません。1970年代のYESの一連のアルバムのことなど何も知らずに出逢ったわけですから、その意味では先入観なしで聴けて、良質なアルバムと思いました。アルバム制作のいきさつは後からインプットされればいいのです。
切迫さやリリカルさはないものの、「ワールド・ミュージック」や「ニューエイジ」のサウンドメイキングにも違和感なく接することが出来て、メロウなシンフォニック系のプログレが好きな方におすすめのアルバムです。
アルバム「Anderson-Bruford-Wakeman-Howe(邦題:閃光)」のおすすめ曲
1曲目は冒頭曲「Themes」
第1部「Sound」の冒頭部のイントロのアンサンブルがとても好きなんです。また、ほぼリアルタイムで当アルバムを聴いた当時、家族で外出時にカーステレオで意図的にかけた時、母が「素敵な曲ね。」と言った言葉をいつまでも忘れられません。家族をプログレの音楽に巻き込んだ初めての瞬間としても記憶に留まっています。
2曲目は6曲目「Quartet」
アルバムを聴き続けることで好きになった楽曲です。2015年現在も活躍するYESや元YESのメンバーの楽曲を聴くことで、筆者の心のどこかでは、1970年代前半のYESの楽曲のテクニカルさや切迫さとともに牧歌的なサウンドスケープも追い求めてしまうのですが、当楽曲には充分すぎるぐらいに、活き活きと響くメロウさに心躍ってしまいますね。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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