プログレおすすめ:Izz「Everlasting Instant」(2015年アメリカ)
Izz -「Everlasting Instant」
第152回目おすすめアルバムは、アメリカのシンフォニック系のプログレッシブ・バンド:Izzが2015年4月に発表した7thアルバム「Everlasting Instant」をご紹介します。
Izzは、Tom Galgano(キーボード、ボーカル)とJohn Galgano(ベース、ギター、ボーカル)の兄弟を中心に、ニューヨークで結成されたバンドです。当アルバム「Everlasting Instant」は、2009年発表の5thアルバム「The Darkened Room」、2012年発表の6thアルバム「Crush of Night」を含め3部作となる最終作です。
その音楽の特徴には、まずトリプル・ボーカルとツイン・ドラムの編成に触れなければなりません。2005年発表の4thアルバム「My River Flows」以降、一時期バンドを離れ、今作で復帰した女性ボーカル:Laura Meadeと、男性ボーカル:Tom Galganoと女性ボーカル:Anmarie Byrnesによるトリプル・ボーカルは、他メンバーのコーラスも含め、多彩なコーラスワークを生みだしています。また、John Galganoのベースと織りなすGreg DiMiceliとBrian Coralianによるツイン・ドラムのポリリズム溢れるリズムセクションはGentle Giantsを彷彿とさせてくれます。
さらに、Paul Bremner(ギター)を交えた7人編成によるアンサンブルは、プログレ5大バンドのYesやGenesisなどに代表されるダイナミックさもあるシンフォニック系のエッセンスや、オルタナティブ・ロック系のRadioheadのポスト・ロック的なアプローチも随所に魅せてくれます。
そして、同国のプログレッシブ・ロックバンド:Spock’s Beard、強いては、The Beatlsの持つポップセンス溢れるメロディラインの唄メロを交えたバンドのクリエイテビティは、アメリカのプログレ・ハードなアプローチ寄りもブリティッシュ・ロックの薫り高きモダンなシンフォニック系の音楽を感じえるのではないでしょうか。
楽曲について
8「Can’t Feel The Earth」(アルバム「The Darkened Room」収録)の「Part IV」を収録することで、たぶんに3部作として連作である印象を強めています。たとえば、5大プログレバンド:King Crimsonが1973年に発表した楽曲「Larks’ Tongues In Aspic Ⅰ」(アルバム「Larks’ Tongues In Aspic」収録)を、第3期1984年に楽曲「Larks’ Tongues in Aspic Part Ⅲ」(アルバム「Three of a Perfect Pair」収録)のように。
ただし、その8「Can’t Feel The Earth」に先入観をもってしまうと、電子音で幕を上げる冒頭曲「Own the Mystery」に驚きを隠せずにいられなくなります。Radioheadの2000年発表のアルバム「Kid A」の世界観を彷彿とさせるアンサンブルが展開しながらも、印象的な「it’s Been a Long time」のリフレインによる唄メロのメロディラインや、コーラスワークも含むポップセンスは、機械的な無機質さと人間味のある有機さに聴き入り、楽曲タイトルの一部「Mystery」に似つかわしい心地にさせてくれます。
まるで眠い目を擦りながらも夢見心地のようにアルバムに惹かれてしまう。
躍動的なインストルメンタル曲の2「Every Minute」に続き、物憂げなベースのリフで幕を上げる3「Start Again」は、3分55秒前後からのシンセのソロ、5分30秒前後のギターのソロを交えながら、高音を活かしたベースとオルガンをメインとしたアンサンブルがミステリアスなサウンドを聴かせてくれます。いっぽうで、トリプル・ボーカルのヴァースは、マイナー調の唄メロも合い間って、刹那さや儚さ溢れ、聴き入ってしまいます。
4「If It’s True」は、まるでジャズ・バーで唄われるかようにエレガントなピアノのアンサンブルは、お洒落なジャズのムードを讃えてくれますが、それでもただしっとり聴かせるのではなく、シンセやギターをアクセントに交え、プログレッシブ・ロックなエッセンスを付け加えているのが、たまらないですね。
5「The Three Seers」もまたピアノをメインとし、男性ボーカルによる楽曲です。4「If It’s True」と異なるのは、驚くぐらいに、前半部は1960年代や1970年代の古き良きポップス・フィーリング溢れるシンガー・ソングライター然とした構成で展開していることです。いっぽうで、3分30秒前後からの後半部はシンセをメインとしたプログレッシブな展開に場面が変わり、クロージングではまた前半部のピアノのフレーズが聴かれる点です。
6「The Everlasting Instant」は、ハード・ロック調のアンサンブルをまじえ、ロックン・ロール調の唄メロが心地良い楽曲です。アメリカのプログレ・ハードの特徴である大らかな唄メロのメロディラインと、後半部のキーボードとギターのソロの繰り返しや、並奏するギター、ベースのリフも印象的です。聴き手によって異なる印象があるかもしれませんが、当バンドをアメリカのバンドと再認識しました。
7「Keep Away」は、オルナタティブ・ロックを美麗なメロディ感やノイズ―なギターのアンサンブルではじまり、ギターのスタッカートを効かせたカッティングに跳ねるベースのラインによるファンキーなパート、ピアノとシンセのミニマルなシークエンスのパートなど、豊富なアイデアを存分に聴かせてくれます。そして、冒頭曲「Own the Mystery」で聴かれた印象的な「it’s Been a Long time」のリフレインを耳にすれば、次曲8「Can’t Feel the Earth, Part IV」の存在を考えれば、当楽曲で、いったんアルバムの第1楽章が終了したかのような感覚を憶えます。
そして、8「Can’t Feel the Earth, Part IV」は、リード・ベースな印象も感じさせるテクニカルなベースが楽曲全体をリードし、ヴァースのメロディラインもアンサンブルも含め、ファンキーさ溢れる楽曲です。男性ボーカルに女性ボーカルが掛け合う唄メロも印象的ですが、1分30秒前後からオルガンの音色とともに展開する1分弱のギターの縦横無尽なソロは聴きどころです。そして、ギターのソロ後に展開する、ビブラフォンを想起させる音色のパートとギターのリフによるパートの緊張感や切迫さ溢れるアンサンブルは当アルバムのハイライトでしょう。
9「Illuminata」は明朗な唄メロのメロディラインにライトなタッチのイメージのフォーク寄りな楽曲を、エコーを効かせたサウンドや独特なコーラスワーク、アルバム前半部の楽曲で聴かれたエレガントなピアノなど、当バンドらしさにプログレッシブな展開を魅せてくれます。
10「Sincerest Life」は、4分の4拍子によるピアノをアンサンブルとしたヴァースから、メロウでドラマチックな展開が聴ける楽曲です。2分30秒前後のギターのソロ・フレーズをアクセントに、シンセにピアノのテクニカルなフレーズが聴けるパートや、Maroon5の楽曲「Harder to Breathe」を彷彿とさせる跳ねたリズムなど、躍動的にも唄メロを大切にし展開するのが印象的です。そして、前曲の印象を踏襲つつ幕をあげる最終曲「Like a Straight Line」は、前半部のヴァースと後半部のピアノのソロも含め、アルバムのラストに相応しい流麗な展開を魅せてくれます。
ツイン・ドラムやベース、ギター、ピアノをメインとするキーボードなどによるプログレッシブな展開に耳を奪われがちになりますが、Spock’s BeardやThe Beatlsを引き合いにだしてしまう独特の唄メロのメロディセンスに、カウンター・メロディ、掛け合い、ハーモニウムを使い分ける男性と女性によるトリプル・ボーカルは、ボーカルをメロウな音楽を奏でる表現方法の1つとして聴かせてくれます。その表現方法は、過去アルバムの楽曲よりもコンパクトに纏め上げられた印象があり、素敵なアルバムです。
[収録曲]
1. Own the Mystery
2. Every Minute
3. Start Again
4. If It’s True
5. The Three Seers
6. The Everlasting Instant
7. Keep Away
8. Can’t Feel the Earth, Part IV
9. Illuminata
10. Sincerest Life
11. Like a Straight Line
まず、同国のSpock’s Beardを聴く方におすすめです。また、ツイン・ドラムのポリリズム溢れるリズムセクションはGentle Giantsという印象もありますが、それ以上に、オルタナティブ・ロックやポスト・ロックを想起させる音楽性も垣間見えたり、メロウな唄メロのメロディラインがあるため、はじめてプログレッシブ・ロックを聴く方にもおすすめです。
当アルバムを気に入った方は、3部作の1枚目5thアルバム「The Darkened Room」と2枚目6thアルバム「Crush of Night」も聴いてみて下さいね。
アルバム「Everlasting Instant」のおすすめ曲
1曲目は、4曲目の「If It’s True」
まるでジャズ・バーで唄われるかようにエレガントなピアノのアンサンブルに、イギリスで1980年代前半のネオアコブームに活躍したユニット:Style Councilのアルバム「Cafe Bleu」にあるお洒落なジャズのムードを含む楽曲の雰囲気を彷彿とさせてくれます。ただ、それだけで終わらないプログレッシブ系のバンドとしての味付けがあることが素敵だからです。
2曲目は、8「Can’t Feel the Earth, Part IV」
5thアルバム「The Darkened Room」の収録曲の続編を制作することもあり、当アルバム中で最も緊張感や切迫さを感じさせてくれます。当楽曲で発揮する各楽器スキルがあるからこそ、ミディアムテンポでメロウなアンサンブルが中心の当アルバムの他楽曲のクオリティが伝わってくるからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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