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プログレおすすめ:Farmhouse Odyssey「Rise Of The Waterfowl」(2016年アメリカ)

公開日: : 最終更新日:2016/03/05 2016年, アメリカ, ジャズ&フュージュン


Farmhouse Odyssey -「Rise Of The Waterfowl」

第260回目おすすめアルバムは、アメリカのプログレッシブ・ロックバンド:Farmhouse Odysseyが2016年1月5日に発表した2ndアルバム「Rise Of The Waterfowl」をご紹介します。
Farmhouse Odyssey「Rise Of The Waterfowl」

2016年1月初頭の私的中毒アルバム

2016年1月に入り、プログレッシブ・ロックのアルバムを探していて、ふとこの音源を購入しました。アルバムをさらりと3曲目か4曲目に聴き続けていたら、そのユニークなアンサンブルとメロディラインが脳裏に強く残ってしまったんです。気がつけば、ここ2週間ばかり朝夜の時間が許せる限り聴き続けていましたね。

それは、2016年1月に世界で発売されたプログレッシブ・ロック系のアルバムのうち、個人的に3本の指に入るフェイバリットなアルバムといえます。

Farmhouse Odysseyは、2012年に、アメリカはカリフォルニア州の北部アーケータで、Alex Espe(ボーカル、キーボード)、Aaron Laughlin(ギター)、Alex Pepe(ギター)、Ian Taylor(ベース)、Thatcher Holvick-Norton(ドラム)の5人の大学生による結成されたバンドです。

太平洋岸北西部の自然の景観に魅せられたと云うバンドの音楽の特徴は即興で綴られるスタイルに、オーガニックさに溢れる独特なサウンドが満載です。2015年に発表された同名1stアルバム「Farmhouse Odyssey」では、プログレッシブ・ロック、サイケデリック系、ジャズ系、ファンク系やはたまたワールド・ミュージックの影響を垣間見せるムードを漂わせながらも、バンドとしてのアイデンティはしっかりとした1本の芯があり、流れるままにフリースタイルなアンサンブルを聴かせてくれました。

そして、1年振りに発表された当アルバム「Rise Of The Waterfowl」では、プログレッシブ・ロックやジャズ・ロックにも通じる複雑なリズムやアンサンブルが縦横無尽に駆け巡り、アンサンブルと唄メロのメロディラインには爽やかさとエモーショナルさが行き交う不可思議な魅力を増した仕上がりになっています。

一聴すれば、イギリスのThe Tangentの1stアルバム「The Music That Died Alone」や8thアルバム「A Spark In The Aether」を想起させるスピーディでいてムードたっぷりなアンサンブルを感じさせるジャズ系やカンタベリー系をベースとしたプログレのエッセンスを感じてしまいますが、時にサンバやボサノバを感じさせるパートを盛り込みながら、爽やかさなメロディラインを聴かせるのは、2000年代を代表するフランスのポップバンド:Tahiti 80を想起してしまうんです。それでいて、急にエモーショナルなメロディラインへと辿るわけですから、脳裏を離れられなくなってしまうんです。

音楽がこんなにもナチュラルに湧き出ると感じつつ、スタイリッシュさとムーディさが同居した素敵なアルバムです。

楽曲について

冒頭曲1「Daybreak」は、ヴィブラフォンの音色に導かれエコーかかったクリーントーンのギターのリフが繰り返されていきます。徐々にリズムセクションはアンサンブルを強め、さらにディスト―ション・ギターの旋律が躍動的に切り込む約1分25秒前後までのオープニングの静から動へのスムーズなテンションに聴き入ってしまいます。ヴァースでは、ギターのテクニカルなフレーズをメインとしたアンサンブルによるジャズ・ロックが展開していきます。無機質さも感じさせる唄メロにも、2分50秒前後からテンポ・アップしたパートで聴かれる唄メロにはどことなく朗らかさや爽快さを感じてしまいます。4分10秒前後からの2度目のテンポ・アップしたパートは、1度目のテンポ・アップしたパートよりも短めのヴァースで締めくくられ、ファンク系にも通じるデジタル・ビートへと移行しオリエンタルなムードを繰り広げながらも、混沌さへと変貌しクロージングします。

2「Slumberless Sun」は、アップ・テンポでジャズ・ロック系の展開が聴ける楽曲です。メインのボーカルにまとわりつくようなコーラスワークもポスト・ロック系に通じる印象的なメロディラインはジャズ・ロック系の複雑なアンサンブルが組み合わさったような印象すら感じえます。

3「Brain Song」は、ジャズ・ロック系にもよりサーフ・ミュージックさにも通じる爽やかなイメージから急転してエモーショナルなイメージを行き交うユニークなメロディラインをもつ楽曲です。テンションやコード進行のユニークなメロディラインにただただ心惹きつけられ何度も繰り返し聴いてしまいます。憂いを帯びたメロディラインとコーラスワークも合わさり、脳裏を捉えて離れないスタイリッシュさとムーディーさが同居したバンドのクリエイティビティさを濃厚に強く感じてしまいます。

そして、4「Calligraphy」を聴く頃には、イギリスの著名なオルタナティブ・ロックバンド:Radioheadの唄メロに、ジャズ・ロック系やワールド・ミュージックが出逢ったかのような錯覚さえ感じてしまいます。この4「Calligraphy」でもまた、エモーショナルさから爽やかさへと繋がるヴァースの展開を聴き、ただただ聴き入ってしまいます。ピアノの旋律はドラマチックさやエレガントさに溢れ、アルバム後半の楽曲へと布石となるようなアンサンブルが重ねられていきます。1分45秒前後や5分30秒前後のサンバ調にも通じるリズムによるワールド・ミュージックさが爽やかさを感じさせてくれるし、後半部では、そのワールド・ミュージック系から連なる太陽が燦々と輝くさまを描くようにギター・ソロも聴かれます。

5「Space Revealed」は、ピアノ、ドラム、シンセ、ギターなど各楽器が見せ場を魅せる約8分30秒にも及ぶインストルメンタルの大曲です。ピアノをメインとし変拍子を多用したアプローチで幕を上げ、1分30秒前後からはピアノのミニマルな旋律にタイトなリズムセクションとシンセによるアンサンブル、3分20秒前後からのピアノによるエレガントな旋律、4分30秒前後からのシンセ・ソロ、5分前後からのドラム・ソロとシンセが醸し出すサイケデリックさ溢れる旋律、6分45秒前後からのギター・ソロ、8分10秒前後からはギターとベースが変拍子をまじえたユニゾンによるリフでクロージングへと駆け抜けます。

6「Shipwreck」は、前曲5「Space Revealed」のクロージング直前のギターとベースによるユニゾンのパートに繋がるかのようなギターのプレイで幕を上げる楽曲です。変拍子が盛り込まれたヴァースはいくつかのパートに分かれながらも共通するのはどことなく朗らかなメロディラインであり、ジャズ・ロック系のアンサンブルです。2分40秒前後から加わるシンセの旋律によるサウンド・メイキングによる変化や、4分30秒前後からクロージングまで駆け抜けるギター・ソロなど、変拍子が盛り込まれたヴァースによる展開だけでなく、工夫をもたせる構成が展開されます。

7「Speedbump Catalyst: Upon The Wheel, Blessing In Disguise, Energetic Tides, The Road Alone」は約16分にも及ぶ大曲で、そのたえまなく曲調を変えていくカメレオンのような展開には、カンタベリー系やジャズ・ロック系のエッセンスに溢れ遊び心さえ感じさせてくれます。ピアノを中心としたアンサンブルでは、時に優美さ、時に幽玄さが行き交いそれぞれのパートがあることで楽曲の長尺さえを忘れさせてくれます。また、ピアノだけでなく、ギターはボーカルにユニゾンしたり、8分30秒前後からは当アルバム中で最も豪快なソロが聴けます。とりわけ、11分前後からのリズム・チェンジと変拍子を織りまぜたアンサンブルの妙は聴きどころと思います。

前曲7のクロージングのピアノの旋律がそのまま繋がりはじまる8「Safe Passage」は、ピアノのエレガントなフレーズにフルートやヴィオラの旋律が重なり合う音の断片による1分ほどの小曲です。

最終曲9「From The Night Sky」は、ピアノをメインとしたアンサンブルにはスイングするリズムセクションと、ヴァースの唄メロのメロディラインも合い間って優美さとムーディーさが感じえます。2分30秒前後からシンセやフルートの旋律が加わり、3分前後からはリズム・チェンジと変拍子をまじえたアンサンブルのパートさえアクセントとした趣きのままに、ただただ夜空をゆったりと眺めているかのようなサウンドスケープです。

アルバム全篇、フュージュン系っぽさがありながらも、ジャズ・ロック系をメインとしたアンサンブルには、カンタベリー系のバンドがもつスタイリッシュさとムーディさが同居するアンサンブルが聴けます。そして、ボーカルのボーカリゼーションには、ワールド・ミュージックを感じさせる楽曲の曲調によって朗らかさや爽快さに溢れてたアルバムです。

[収録曲]

1. Daybreak
2. Slumberless Sun
3. Brain Song
4. Calligraphy
5. Space Revealed
6. Shipwreck
7. Speedbump Catalyst: Upon The Wheel, Blessing In Disguise, Energetic Tides, The Road Alone
8. Safe Passage
9. From The Night Sky

スタイリッシュさ、スリリングさ、ムーディーさの緩急を使い分け、ジャズ・ロック系やフュージュン系のテクニカルな演奏が好きな方におすすめです。

また、ファンク系やワールド・ミュージックのエッセンスを織り交ぜ、自由に湧き出るようなアンサンブルとメロディラインに、カンタベリー系のプログレッシブ・ロックを聴かれる方にもおすすめです。

1970年代のプログレッシブ・ロックを代表するカンタベリー系のバンド(Hatfield And The North、National Health、Caravan)が好きな方、もしくは、個人的に、イギリスのThe Tangentを好きな方におすすめです。

アルバム「Rise Of The Waterfowl」のおすすめ曲

1曲目は、3「Brain Song」
テンションや曲調によるものと思いますが、爽快さとエモーショナルさ行き交うユニークなメロディラインに一気に心が捉えられ何度も当アルバムを聴くきっかけとなった楽曲です。

2曲目は、4「Calligraphy」
エモーショナルさから爽快さへ綴られ、そのワールド・ミュージックなパートへの展開が、3「Brain Song」に続き、何度も当アルバムを聴く気持ちへ背中を押したような感覚があります。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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