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プログレおすすめ:藤枝匠太(as ButterFlyKIss)「Wisteria Violet 2」(2016年日本)


藤枝匠太(as ButterFlyKIss)-「Wisteria Violet 2」

第273回目おすすめアルバムは、日本のゴシックロックバンド:ButterFlyKIssでキーボード奏者として活躍する藤枝匠太が2016年4月に発表した2ndソロアルバム「Wisteria Violet 2」をご紹介します。
藤枝匠太(as ButterFlyKIss)「Wisteria Violet 2」
2014年2月に発売された前作1stアルバム「Wisteria Violet」では、ButterFlyKIssのボーカルであるmitsukoさん、サポートミューシャンでもある松川さんといった帰心の知れた方々をゲストに交え、1人のコンポンザーとして、1人の鍵盤奏者としての可能性を提示した印象のアルバムでした。

藤枝さんは、イギリスの5大プログレバンド:King Crimsonなど、1970年代古き良きプログレッシブ・ロックの造詣をお持ちになり、バンド:ButterFlyKIssにおいても、数々のスタジオ音源に、またライブでもプログレのアレンジを施しています。1stソロアルバムでは、Phil Collinsボーカル期のGenesisがポップ路線へと移行する直前のファンタジックさ、強いては、ロマンさを彷彿とさせるアレンジも感じさせてくれました。

いっぽうで、1つの楽曲においても心情描写を彩るかのような鍵盤の音色の多彩さ、息遣いを感じるかのような緩急での弾き分けなどに、ピアニストのKieth Jarret、癒し系にGeorge Winstonなどを思い浮かべるとともに、個人的には、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:YESの元メンバーであるRick Wakemanのクラシカルなエッセンス、1980年代以降のニューエイジ風のソロアルバムで魅せる演奏スタイルを感じてしまうのです。

2年振りに発売された当アルバムは、1stソロアルバムとは印象が異なり、
鍵盤1つ1つのピアノの音色を大切に弾き伝え、徐々に音使いや奥行きを拡げていく構成を感じるアルバムと思いました。

全篇に渡り、プログレッシブな展開で魅せるのではなく、随所にプログレッシブ・ロックな感性を魅せる、心くすぐられる素敵なアルバムでもあります。

楽曲について

アルバムは、1つ1つの音をピアノの音色で大切に聴かせる楽曲「Truth」で幕を上げます。まるでアルバム・ジャケットに想像しうる花木が生い茂るファンタジックさに包まれ、ピアノ・リサイタルを目の前で体感しているかのようなイメージが伝わります。また、前作アルバムの8曲目「Before The Down」で個人的に脳裏を掠めた日本のユニット「S.E.N.S.」も想起してしまいます。

ちなみに、当楽曲は、藤枝さんが所属するバンド:ButterFlyKIssのシングル楽曲「Love Humanity」のタイトル楽曲の2曲目に、また、同時期の2016年4月13日にitunesで発売された2ndアルバム「Eternity」でも楽曲「Love Humanity」の次に位置しています。個人的に、シングル楽曲「Love Humanity」には、聴くたびに、舞い降りた天使がふと傍に寄り添うイメージを抱いてしまうため、続く当楽曲「Truth」には、その想いをふと落ち着かせる感覚を憶えています。そのため、当アルバムの冒頭曲にあることで、

楽曲「Before The Down」からの続きと感じるとともに、アルバムを聴くに当たり、まずは気持ちを静めて耳を傾けようと思うのです。

2「Camellia」は、起承転結でいえば「承」から開始するかの如く、数小節先のピアノの旋律に気持ちが想いを馳せてしまいそうになる楽曲です。おそらく3部構成をとり、それぞれのパートに、Kieth Jarret、George Winston、そして、Rick Wakemanなどを思い浮かべてしまうほど表情豊かに変化する展開に、ただただ聴き入ってしまいます。前作の楽曲「Spiral Cloud」や「Moon」よりもアコースティカルな肌触りは、1「Truth」に続き、ピアノ・リサイタルを目の前で聴いてるかのようなイメージですね。タイトル「Camellia」に、藤枝さんは、どのような意味を込めたのだろう、そう思いながら聴いていると、3分前後からのマイナー調の旋律へとただただ淵ってしまいます。

3「Exploration Part 3」は、その楽曲タイトルから、オーケストラとデジタルの融合を感じえた楽曲「Exploration Part 1」(ButterFlyKIssのシングル楽曲「Soldier Of Love」収録)と、デジタルなサウンドでプログレッシブな展開を魅せる楽曲「Exploration Part 2」(1stアルバム「Wisteria Violet」収録)の続編にあたるだろう楽曲です。ただ、よりフラットで終始弾かれるシンセサイザーの旋律には、たとえば、イギリスの5大プログレバンドの1つ:Pink Floydがキーボード奏者:故Richard Wrightによる楽曲「Cluster One」(アルバム「The Division Bell」収録)などのサウンド・メイキングを彷彿とさせてくれます。そのシンセサイザーの旋律と、緩やかでエスニックなリズムをバックに、アルバムの最終曲「From The New World」の原曲であろうメロディを彷彿とさせるテーマを想起させるか如く、ゲスト参加のayuさん(ギター)と藤枝さんのピアノが綴れ織りで交錯していきます。穏やかにもプログレッシブなエッセンスが溢れているのではないでしょうか。

4「Prophet」は、オーケストラが主旋律に、ピアノがもう一方の旋律で並奏し展開が聴ける楽曲です。ハープシコード風の音色によるフレーズや、1分15分前後のピアノのフレーズなど、楽曲「Labylinth」(1stアルバム「Wisteria Violet」収録)よりも重心を下げ、鍵盤をベースとした前曲までの流れに相応しい感覚ですね。

5「Save The World Piano Ver.」は、ButterFlyKIssのシングル楽曲「Save The World」のピアノ独奏曲です。プログレッシブな展開で覆われる原曲から、唄メロのメロディラインを抜きだし、ただただ切々と歌い上げるかのように、藤枝さんが弾くイメージが素敵なんです。原曲の唄メロのメロディラインの持つ普遍性が十分に伝わってくる構成で、ピアノとボーカルのみの楽曲として再レコーディングではなく、ピアノ独奏の構成に、アルバムの統一感と云う意味で、1人の音楽ファンとして嬉しい仕上がりと感じました。ピアノ独奏であるからこそ、随所に魅せる”おかず”がたまりませんね。

6「With You」は、藤枝さんの唄心に溢れたテーマを独奏に感じてしまいます。その唄心に、個人的には、当アルバムでは最もRick Wakemanのクラシカルさなエッセンスや、Richard Wright風のシンセサイザーのフレーズなど、随所にプログレッシブ・ロックのフォロワーならニンマリしてしまうはずです。

7「Moon And Flowers」は、ButterFlyKIssで共に活動する、みつこさんのコーラスも印象的な楽曲です。前作1stアルバム「Wisteria Violet」の中で、個人的に、藤枝さんの鍵盤の音使いやタイミングなどに最も息遣いを感じさせてくれる楽曲であり、その主旋律をもとに、ButterFlyKIssのみつこさんによるボーカル楽曲として聴いてみたいとも感じていました。ただ、その想いを良い意味で裏切るかのように、よりアーティスティックなアレンジが施されています。ピアノの旋律をただ普通に唄メロに充てるのではなく、コーラスを重ねることで、原曲のもつ月の神秘性も大切にするかのようなクリエイティブを感じたのです。スウェーデンのプログレッシブ・バンド:The Opium Cartelなどの幻想さや耽美さを想起してしまいました。

8「Fairy Dance」は、変拍子のリズムに、ピアノの音の断片が絡み、徐々にエレガントさ際立つ旋律を奏でる冒頭部、1分15分前後からのリズムやシンセサイザーの音使いには、Phill Collinsボーカル期のGenesisの複雑なリズムやファンタジックなサウンド、2分前後からのデジタルビートとシンセによるパートなど、そして、Peter Gabrielボーカル期のGenesisを想起させるシンセサイザーによるサウンドなど、楽曲タイトルの和訳「妖精のダンス」をイメージさせる、ファンタジックで程良くドラマチックな展開は、前曲と同様に、プログレのフォロワーにはたまりません。

同時期の2016年4月13日にitunesで発売された2ndアルバム「Eternity」の冒頭曲であり、ゴシックなエッセンスにデジタル・ビートと華麗なるピアノのミニマルなフレーズが絡み合う楽曲9「Alexander」を挟み、最終曲10「From the new world」は始まります。当楽曲は、チェコのクラシック作曲家:ドヴォルザークが、渡米し1893年に発表した「交響曲第9番 ホ短調 作品95、B.178「新世界より」」の第2楽章の旋律が原曲と思います。

コーラングレで奏でられる「家路」の旋律を、藤枝さんのシンセとピアノ、そして、ゲスト参加のButterFlyKIssのサポートミューシャンでもあるmatsさんのギター・プレイが冴えわたり、アルバムの最終曲に相応しくも劇的な演奏を聴かせてくれます。楽曲9「Alexander」が前曲にあることで、不思議と当楽曲でのデジタル・ビートも違和感なく感じられます。前作アルバムでの楽曲「Before The Down」とは真逆に「動」で終わりを迎え、晴やかさもあります。

そして、アルバムを繰り返し聴くことで、鍵盤をベースとした統一感をアルバムに感じもしますが、いっぽうで、3「Exploration part Ⅲ」のアレンジは当楽曲の序章でもあると感じてしまうんです。ゲスト参加のayuさん(ギター)によるギター・プレイの出だし(約12秒前後のフレーズ)に、ふと「家路」の旋律が続くのではないかと脳裏に思い浮かべてしまうんですよね。

アルバム全篇、前作以上に、1人の鍵盤奏者がピアノをメインに取り組む楽曲を中心に、シンセなどを盛り込み、さらにゲスト参加による楽曲などでプログレと解釈されるサウンドも堪能出来ます。誤解のないよう伝えたい、心落ち着き聴きたい好アルバムです。

[収録曲]

1. Truth
2. Camellia
3. Exploration part Ⅲ
4. Prophet
5. Save the world piano ver.
6. With you
7. moon the flowers(Wisteria Violet Ⅱver)
8. Fairy Dance
9. Alexander
10.From the new world

まずは、当Webサイト「プログレの種」の音楽ジャンルとしてのテーマである「プログレッシブ・ロック」を考えず、ピアニストのKieth JarretやGeorge Winstonを聴く方におすすめです。

そして、前作アルバム以上に、藤枝さんの鍵盤のアコースティカルさが活きた楽曲が多く、心リラックスして聴きたい方におすすめです。

いっぽうで、随所に、古き良きプログレッシブ・ロックのバンドやキーボード奏者のレジェンドとなる方々をリスペクトするかのような音使いやアレンジを想起してしまいます。プログレッシブ・ロックを聴いていて、ふと鍵盤を中心としたインストルメンタルな楽曲を聴いてみたい方に、ぜひおすすめしたい1枚です!

アルバム「Wisteria Violet 2」のおすすめ曲

1曲目は、7「moon the flowers(Wisteria Violet Ⅱver)」
アシッドさとはいかないまでも、スピリッチュアルさを感じるアーティスティックなクリエイティブがたまりません。

2曲目は、8「Camellia」
緩やかにも心情風景が移り変わるが如く展開するさまに、”ピアニスト”のクラシカルさもある楽曲を大切に聴きたいと思わせる楽曲です。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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