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プログレおすすめ:Anathema「The Optimist」(2017年イギリス)

公開日: : 最終更新日:2020/01/04 2017年, イギリス, ヴァイオリン, オルタナティヴ, 女性ボーカル


Anathema – 「The Optimist」

第297回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックなバンド:Anathemaが2017年6月9日に発表した11thアルバム「The Optimist」をご紹介します。
Anathema - 「The Optimist」

美しさ(beauty)、激しさ(intensity)、ドラマ(drama)、静けさ(quietude)などの次の到達点とは・・・

発表当時に、バンドがこれまでの作品で綴ってきた音楽のエッセンスから”Anathemaらしさ”をコンパイルさせて、その極致と言わしめた前作「Distant Satellites」の世界観。新機軸ともたれるエッセンスを感じながらも、Danny Cavanagh、Vincent Cavanagh、John Douglasらソングライターから生まれるケミストリーと、聴き手の心を鷲掴みさせる女性ボーカリスト:Lee Douglasの歌声に、何度となく、心癒され、心掻き毟らさせられ、心躍りつつ、心鎮められた方は多いと思います。

・・・美しさ(beauty)、激しさ(intensity)、ドラマ(drama)、静けさ(quietude)らキーワードに続く存在として、約3年振りとなる当アルバム「The Optimist」は制作され発売されてます。

2001年発表の6thアルバム「A Fine Day to Exit」が基とも云われてるカバー・アートワークは、デイライトに砂浜に停められた車中から海の潮の満ち引きを眺める構図とは逆に、デイナイトにライトを照らした車を真っ向から臨む構図が特徴的です。

この特徴的なカバー・アートワークがあるアルバム「The Optimist」は、前作アルバム「Distant Satellites」からDanny Cavanagh(エレクトリック・ギター、アコースティッイク・ギター、ベース、ピアノ、キーボード、ボーカル)、Vincent Cavanagh(キーボード、プログラミング、ギター、ベース、ボーカル)、Jamie Cavanagh(ベース)、John Douglas(ドラム、キーボード)、Daniel Cardoso(ドラム)、Lee Douglas(ボーカル)のメンバーは変わらず、制作されてますが、従来のアルバムと異なる点として、

メンバーのDanny CavanaghとVincent Cavanaghによれば、アルバム「A Fine Day to Exit」のカバー・アートワークを映し出したアメリカのカリフォルニア州サンディエゴのシルバー・ストランド・ビーチから辿り、楽観主義者(=The Optimist)による旅路(Danny Cavanaghによる半自伝をベースと思わしき内容)を描いたバンド初のコンセプトアルバムとして仕上げられてます。

・・・「彼にとって新しい生活への旅立ちなのか?」、「彼が最後に迎える運命に屈服してしまったのか?」など、Danny Cavanaghは多くを語らず、世に送り出されたアルバムは、既に、英国のプログレ誌Prog Magazineが主宰するアワード「Progressive Music Awards 2017」にて、「Album of the Year」を飾ってます。

1人の男の「終わり」から始まる旅路を描いたロード・ムービーのサウンドドラックのような印象も、前々作「Weather Systems」、前作「Distant Satellites」の系譜を辿るヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、トロンボーンなどの編成によるオーケストレーションとデジタルなサウンド・オブストラクトを交え、サイケデリック/スペース系から研ぎ澄まされたポスト・ロックのアプローチが盛り込まれたシンフォニック系のアンサンブルとサウンド・メイキングに、メインボーカルとなる男性のVincent Cavanaghと、女性のLee Douglasの2人のボーカルも堪能出来ます。

楽曲について

・・・波打ち際での息遣い、砂浜を歩く男。車のドアを開けて乗り込み、エンジンをかけてノイズまみれにラジオから聴こえる音楽のオブストラクト・・・。イメージは「A Fine Day to Exit」のカバー・アートワークに近いかもしれません。そう、楽曲タイトルがまさにシルバー・ストランド・ビーチの緯度経度を表す冒頭曲1「32.63N 117.14W」で約2分間に演出される、これからはじまる当アルバムの世界。

ラジオから流れる音楽と女性のナレーションに交錯するノイズにも掻き消されないデジタルなリズムに身を委ねれば、2「Leaving It Behind」が幕を上げます。左右に分けられたディスト―ションが効いたギターによるリフをメインとしたアンサンブルが展開する様は、個人的に、同国イギリスで2000年に発表されたRadioheadのアルバム「Kid A」の冒頭曲「Everything in Its Right Place」をロック色を濃厚にした印象が受けました。デジタルにもオルタナティブ系で構築されるシンフォニック系のアンサンブルの躍動感がたまりません。

そして、ピアノのバッキングとLee Douglasのボーカルで幕を上げる3「Endless Ways」に、Anathemaらしさ溢れる儚さと力強さにホッと一息おいてしまいます。個人的にアルバム「Weather Systems」をリアルタイムで出逢い、バンドが奏でる音楽のエッセンスに魅了されており、静寂から力強く構築されていくシンフォニック系のサウンドで心奮わされ、透き通ったクリーントーンに伸びやかなボーカリゼーションのLee Douglasの歌唱力に何度となく心癒やされてきたものか、自らが典型的と感じうるAnathemaなんです。

表題曲4「The Optimist」もまた、Vincentがリードボーカルに、時折魅せるLee Douglasのコーラスワークが楽曲の世界観を際立たせてます。約3分前後からエンディングに向けてピアノとオーケストレーションによるアンサンブルに、バンド・サウンドが絡み合い構築していくアンサンブルは、楽曲冒頭部から盛り上がるを魅せるサビ部までのパートをリプライズさせ余韻を感じさせるには十分なクリエイティビティと感じます。

5「San Francisco」は、鍵盤とスタッカートが効いたギターがディレイ残響さが響き渡り、シンセのリードも盛り込まれるインストルメンタルな楽曲です。日本での四季とは異なるアラスカからの海流と風による冷やかさに、まるで北太平洋高気圧からの風が西海岸へ拡がる、軽やかにも雄大な風景をサウンドスケープさせてくれます。

6「Springfield」は、Lee Douglasがリードボーカルによる楽曲で、前曲まで以上に、静から動へのコントラストが際立つアンサンブルで、特に、2分30秒前後から4秒前後までの荒れ狂う嵐が如くポストロック系のアプローチによる動のパートが印象的です。クロージングでの吹き荒れる風とサイレンのSEに、男性のナレーションが楽曲から受ける焦燥感や不安感を煽り立てるように感じてしまい、続く7「Ghosts」も含め、心癒やされると云うよりも、心掻き毟られ後に動揺を隠せずにいる心情が描いてるかのような心地にさせてくれます。

8「Can’t Let Go」は、静と動によるアンサンブルの構築美よりも、オルタナティブ系を彷彿とさせるオリエンタルなギターとベースラインのバンド・サウンドが展開し、疾走感のある楽曲です。アルバム楽曲中にも云えることですが、名作「Wethear System」の楽曲のように、激情溢れるボーカリゼーションよりも淡々とした印象のボーカリゼーションに、当楽曲での従来にはあまり聴き慣れない唄メロのメロディラインは新鮮に聴けてなりません。楽曲後半で聴かれるミニマルなギターのフレーズにも楽曲の一アンサンブルであるかのような印象を受けます。

そして4分30秒前後に・・・足を運び、扉を開けて部屋に入る。男は一息ついたとともに、ラジオのチャンネルを切り替えては選曲をしている・・・。そんな光景が思い浮かぶSEとともに、次曲9「Close Your Eyes」が幕を上げます。

ピアノとオーボェがメインのアンサンブルに、Lee Douglasがリードボーカルでただ目を閉じて、夢を見よう、と囁くように進行する唄メロのメロディラインのヴァースが展開していきます。そして、約2分10分前後からは、トロンボーンの旋律がメインのメロディを奏でて、ジャズ系のアンサンブルへと移行します。まるで当アルバムのアートワークを想起させるに最も近しい夜の帳りをサウンドスケープさせてくれます。張り上げるLee Douglasのボーカリゼーションよる短めなヴァースと、ピアノの繊細なフレーズ、そして、Lee Douglasによる呟きとともに、楽曲はクロージングします。

it’s OK… It’s OK… It Just Dream… Go back To Sleep…

楽曲はじめから最後まで1つ1つの音粒まで、楽曲が物語る世界観をどこまでも繊細に表現しうるクリエイティビティにただただ溜息をついてしまう。

10「Wildfires」は、ピアノの一定のシークエンスの打鍵とともに、ベースラインとコーラスワークによる幻想的なアンサンブルが展開し、1分20秒後にバリエーションを変えたコーラスワーク、デジタル・ビートなど、徐々に無機質なサウンド・アブストラクトが積み重なっていき、最後は金管風の音色による羅列に包まれ、楽曲はクロージングを迎えます。

潮の満ち引きによるSEとともに、アコースティック・ギターの旋律と男性の歌がセピアの色彩によるサウンド・コラージュが、記憶を揺り起こすかのようなサウンド・スケープを想起させて幕を上げる最終曲11「Back To The Start」は、1分30秒前後は、そのセピアかかった色彩から解き放たれ、目の前(現代)にあるかのようにアンサンブルが進行していきます。アルバム当初からのSEや、サウンド・オクブストラクト、サウンド・コラージュなど、イギリスの5大プログレバンドでいえば、Pink Floydを想起させてくれる世界観ですね。アルバムの最終曲に相応しく、楽曲は、「Back To The Start」のコーラスとともにオーケストレーションが加わり、サウンドは盛り上がっていきます。

フィードバック音と残響さがフェードアウトしつつ、7分00秒前後に・・・下車し、男は扉を叩いた。本人の声なのか、扉の向こう出迎える男の応答の声なのか・・・楽曲はクロージングを迎えます。

「終わり」から「はじまり」へ辿り着いたのか、男は何に辿り着いたのか、バンド側から詳細な説明はありませんが、最終曲の無音後(冒頭部から10秒30秒前後)、アコースティック・ギターをバックに、子供と戯れ唄う男、さえずる小鳥のSEが聴かれます。楽しげにも聴けるこのSEは、夢の中なのか、辿り着いた「はじまり」なのか、それも想像への1つの材料となるかもしれません。個人的には、この数秒のSEに、Pink Floydの楽曲「Alan’s Psychedelic Breakfast」を彷彿とさせる世界観と、その世界観で感じえるポジティブな印象を受けました。

・・・そんなプログレな気持ち。みなさんはいかがですか?

アルバム全篇、従来のアルバムよりも淡々とした唄メロのメロディラインが印象的にも、オーケストラレーションに、プログラミングされたデジタル・ビートと、ギターをメインとしたミニマルな奏法、残響さ、ポストロックなアプローチなど、ここ数作におけるAnathemaが構築してきたシンフォニック系のアンサンブルとサウンド・メイキングが活きた充実したアルバムと思いました。

個人的には、2「Leaving It Behind」、8「Can’t Let Go」、9「Close Your Eyes」などに、時代性を感じるノスタルジックなサウンドのアプローチに、同国イギリスのRadioheadの2000年発表の4thアルバム「Kid A」や2001年発表の5thアルバム「Amnesiac」でのアプローチを感じずにいられません。

[収録曲]

1. 32.63N 117.14W
2. Leaving It Behind
3. Endless Ways
4. The Optimist
5. San Francisco
6. Springfield
7. Ghosts
8. Can’t Let Go
9. Close Your Eyes
10. Wildfires
11. Back To The Start
– (silence)
– (untitled hidden track)

オーケストレーションと電子音によるデジタルな質感、ミニマルな奏法、Pink Floydを彷彿とさせるサウンド・コラージュからアトモスフェリックなサウンドなどもありますが、男性と女性によるボーカルのプログレで、シンフォニック系のアルバムを聴きたい方におすすめです。

また、当アルバムを聴き、Anathemaを好きになった方には、6thアルバム「A Fine Day To Exit」、7thアルバム「A Natural Disaster」、8thアルバム「We’re Here Because We’re Here」、9thアルバム「Wethear System」、10thアルバム「Distant Satellites」を順に聴いてみてはいかがでしょうか。順にアルバムを聴くことで、9thアルバム「Wethear System」を前後に、儚くも力強さのナチュラルな風合いが極まりつつ、Anathemaのサウンドの構築美が一貫して素晴らしいのも感じると思います。

アルバム「The Optimist」のおすすめ曲

1曲目は3曲目「Endless Ways」
分かっていても聴くことでAnathemaの叙情さや儚さを感じてしまう唄メロのメロディラインとアンサンブルですが落ち着き聴き入ってしまいます。だからこそ、はじめてAnathemaを聴く方にもおすすめしたい1曲でもあるのです。

2曲目は9曲目「Close Your Eyes」
ノスタルジックなイメージが思う浮かぶジャージーな曲調の楽曲でAnathemaには異色にも感じてしまいますが、楽曲の最初から最後まで世界観を損なうことなく、1つの音にも隙もない構成力にモダンなプログレッシブ・ロックに於けるアプローチを感じてしまうんです。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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