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プログレおすすめ:Steven Wilson「To The Bone」(2017年イギリス)

公開日: : 最終更新日:2020/01/04 2017年, イギリス, ロック, 女性ボーカル , ,


Steven Wilson -「To The Bone」

第296回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:Porcupine Treeのメイン・コンポンザーであるSteven Wilsonが2017年8月18日に発表した5thアルバム「To The Bone」をご紹介します。
Steven Wilson「To The Bone」
既に、当アルバム「To The Bone」は、発売後の8月27日付でフィンランドのチャートで1位を飾るなど、スコットランド、ドイツ、スイス、イギリスなどで10位圏内にランクインしています!

2015年2月27日に発売された前作4thアルバム「Hand. Cannot. Erase.」から2年振りとなるオリジナル・フルアルバムだったわけですが、多くのファンから期待され待ちわびたアルバムだということがチャート上でも物語ってますね。発売までの2年半までの間には、2015年9月に過去のアルバム楽曲に関わるアウトテイク集を集めたアルバム「Transience」が、2016年1月にSteven自身が当アルバムとアルバム「Hand. Cannot. Erase.」をリンクさせる重要な意味合いを持つアルバム「4 1/2」が発売されてますので、どうしても過去制作時の楽曲のイメージに捉われてしまい、この純然たる新作のアプローチに気持ちは入り込んでしまいます。

当アルバム「To The Bone」は、Peter Gabrielのアルバム「So」、Kate Bushの「Hounds of Love」、Talk Talkの「The Colour of Spring」、Tears for Fearsの「The Seeds of Love」のように、Stevinが若い頃に好きで聴いていたプログレッシブ・ポップ系のレコードに影響を受けて制作されたといいます。そして、あらためてアルバム「Hand. Cannot. Erase.」、アルバム「4 1/2」、当アルバムと聴き続けてみると、Stevinが思い描き、スキルフルなミュージシャンを参加させて再現させた世界観が脈絡してると思います。

アルバム制作には、Steven Wilson(ボーカル、ギター、キーボード、メロトロン、ベース・ギター、バンジョ)がマルチに携わり、前作アルバム「Hand. Cannot. Erase.」の収録楽曲「Routine」やPorcupine Treeが1999年に発表したアルバム「Stupid Dream」の収録楽曲のカバー楽曲「Don’t Hate Me」で美声を聴かせていたイスラエルの女性歌手:Ninet Tayebが先行シングル3「Pariah」をはじめとし、ら一部のボーカル、およびバッキングとして参加してます。また、従来の作品で関わったミュージシャンの中では、鍵盤に、一部の楽曲を除き、Adam Holzman(ピアノ)がほぼ全曲に関わりつつ、曲によって、クラビネット、オルガン、一風変わったレトロなソリーナ・ストリングスなどを駆使してます。

楽曲について

アルバムに収録された楽曲は、既シングル楽曲やNinetの歌声の楽曲が全体を占めており、キャッチでメロウな唄メロのメロディラインに溢れているのが特徴です。

1「To The Bone」は、女性のJasmine Walkesによるナレーションによる冒頭部から、XTCのメンバー:Andy Partridgeによる歌詞に、Steven Wilsonによるボーカリゼーションと、David KilminsterとNinet Tayebのコーラスワークが冴えわたり、ゴリゴリとしたベースラインも印象的に、ファンキーなリズムが特徴な楽曲です。

2「Nowhere Now」を挟み、Ninet Tayebがボーカルで参加した先行シングル楽曲3「Pariah」をはじめとし、4「The Same Asylum As Before」、5「Refuge」、6「Permanating」、9「Song Of I」の各シングル楽曲と、やはりNinet Tayebがボーカルで参加した7「Blank Tapes」と8「People Who Eat Darkness」のように、アルバム前半から後半にかける楽曲の流れには、本来のポップでキャッチさもあるエッセンスに統一感さえある構成といえます。そして、10「Detonation」と11「Song Of Unborn」でアルバムは締めくくられます。

・・・といっても、2「Nowhere Now」でさえ、Dave Stewartがストリングスで参加し、繊細にもメロウで優美なメロディラインが冴え、印象的なサビのコーラスワークが素敵な仕上がりの楽曲であり、アルバム「Hand. Cannot. Erase.」とアルバム「4 1/2」のメロディックな唄メロが好きな方は惹かれてしまいますね。

3「Pariah」は、2「Nowhere Now」よりも大らかな唄メロのメロディラインを、StevenとNinetが交互にリードを取りつつ進行するヴァースが印象的です。まるで、Stevenが語ったPeter Gabrielのアルバム「So」に収録された名曲「Don’t Give Up」で、Peterのナイーブなボーカリゼーションに女性のNinetが、そして、Kate Bushの穏やかなボーカリゼーションに男性のStevenが唄いかえたかのようなイメージが交錯してしまいます。Tears For Fearsの「The Seeds Of Love」でいえば、冒頭曲の名曲「Woman In Chains」も想起してしまうかもしれませんね。まるで、アルバム「4 1/2」の収録された「Don’t Hate Me」に聴きやすくリプライズさせたイメージもします。

4「The Same Asylum As Before」は、どちらかというとアンニュイでボーカリゼーションも含めたヴァースが、個人的に、元Red Hot Chili Peppersのギタリスト:John Fruscianteのソロ期「Inside of Emptiness」を想起してしまいます。ただそれも、ヴァースからサビ部、そして、ブレイク部でのアコースティック・ギターとエレクトリック・ギターがメインに、The London Session Orchestraによるストリングスが絡み合いダイナミックに魅せるプログレッシブに展開する様は、Stevenの素晴らしきクリエイティブと舌を巻かずにいられません。

物憂げにはじまる5「Refuge」は、従来の浮遊さ溢れるサウンド・メイキングが活かされつつも、シークエンスなサウンド・メイキングには1980年代に活躍したイギリスのグループ:Depeche Modeを彷彿とさせてくれます。3分10秒前後から咆哮を上げるMark Felthamによるハーモニカ、3分45秒前後からのPaul Staceyによるギター・ソロ、そして徐々にレンジが強まるアンサンブルの音圧が4分55秒前後でいったん落ち着き、人声のSEを挟み、ピアノとハーモニカの旋律が楽曲をクールダウンさせて、最初のヴァースへと戻り、約6分40秒にも及ぶ楽曲はクロージングを迎えます。

6「Permanating」は、1980年代にはKajagoogooのメンバーとして、現在ではThe Mute Godsのメンバーとしても記憶に残るミュージシャン:Nick Beggsで参加してます。Stevenが引き合いに出したTalk Talkが1986年に発表した3rdアルバム「The Colour of Spring」でいえば、楽曲「I Don’t Believe In You」や3「Living In Another World」のような弾む感覚が冴えわたり、ファルセットのボーカルを聴くと、個人的には、1980年代にフランスで活躍したTahiti 80のヴァースの疾走感あるパッセージを想起し、さらにサビ部では、ご当地のThe Beatlesにも通じるポップなメロディメーカーなるStevenが創りだすメロディセンスに脱帽してしまいます。

StevenとNinetが交互に唄う約2分ほどの小曲7「Blank Tapes」を挟み、やはりStevenとNinetによるボーカルによるパンキッシュな冒頭部からビートが効いた8「People Who Eat Darkness」です。3分前後にアコースティカルなパートを挟み、アルバム楽曲中では最もロッキングなビートが聴けます。

9「Song Of I」は、スイスのジャズ系の女性シンガーソングライター:Sophie Hungerが参加し、Ninetと異なるボーカリゼーションでStevenとのデュエットを聴かせてくれます。Talk Talkが3rdアルバム「The Colour of Spring」で展開したエレクトリックな色彩に、ニューロマンチックから抜け出しつつ、Stevenが創りだす幻想さを醸し出すサウンド・メイキングが妖しくもただただ綴られていくのが特徴的です。

無機質なエレクトリックな色彩が濃厚にも展開される10「Detonation」もまた幻想さを醸し出し、妖しさよりも幽玄さに溢れた世界観が拡がっていきますが、2分20秒前後から突如として有機質なエレクトリック感が炸裂した躍動的なパートへ移行します。4分前後のスローテンポ、4分40秒前後の前半のパート、5分30秒前後のサウンド・オブストラトがメインのパート、6分30秒前後の跳ねたベースのリフレイン、続いてギター・ソロなど、無機質にも有機質にもエレクトリックな様々な色彩が交錯しては行き交うプログレッシブな展開が堪能出来ます。

最終曲11「Song Of Unborn」は、アルバム「Hand. Cannot. Erase.」での11「Ascendant Here On.」を想起させるスピリッチュアルさを女性コーラスに想起してしまう楽曲です。

アルバム全編、女性ボーカルとのデュエットが大半を占めた印象も強いですが、アルバム「4 1/2」がアルバム「Hand. Cannot. Erase.」をリンクさせる重要な意味合いを持つということが、優美なメロディックさよりも、楽曲「Year Of The Plague」や楽曲「Don’t Hate Me」のような浮遊さや幽玄さから辿り着き、聴けばすんなりと心に沁みてくるアルバムと思います。

現在のStevenが残す音楽の数々が、若い頃に好んで聴いてきた音楽を自らのアイデンティで吸収し軌跡を辿るように語りかけるアルバムとも感じると、リスナーとしては嬉しくもあり、自らもその影響を受けた音楽を辿ることで、プログレッシブ・ロックを聴く幅をもたせられたら糧になると感じてしまいます。

[収録曲]

1. To The Bone
2. Nowhere Now
3. Pariah
4. The Same Asylum As Before
5. Refuge
6. Permanating
7. Blank Tapes
8. People Who Eat Darkness
9. Song Of I
10. Detonation
11. Song Of Unborn

Steven Wilsionが引き合いに出した音源(Peter Gabrielのアルバム「So」、Kate Bushの「Hounds of Love」、Talk Talkの「The Colour of Spring」、Tears for Fearsの「The Seeds of Love」)を聴いたことがある方に、また、プログレッシブ・ポップとも称される、メロディックで優美なメロディラインの唄メロや、エレクトリックな色彩、無機質や有機質から醸し出される幻想さや幽玄さのサウンド・オブストラクトが好きな方におすすめです。

もちろん、2015年発表の4thアルバム「Hand. Cannot. Erase.」、2016年発表のミニアルバム「4 1/2」に収録された楽曲のアンサンブル、サウンド・メイキング、サウンド・オブストラクト、メロディックな唄メロが好きな方にぜひともおすすめです。

Steven Wilsonが引き合いに出した音源について

今回のアルバム発売に当たり、Steven Wilsionが若い頃に好きで聴いていたプログレッシブ・ポップ系のレコードと云うことで引き合いに出されたうち、手元にある3種の音源(Peter Gabrielのアルバム「So」、Talk Talkの「The Colour of Spring」、Tears for Fearsの「The Seeds of Love」)を振り返ってみました。

・・・Peter Gabrielのアルバム「So」でのワールド・ミュージックになるサウンド・アプローチ、Talk Talkの「The Colour of Spring」のエレクトリックで幽玄でいてヒップホップ的な感覚、ヒット楽曲(有名なサイケデリックな色彩の楽曲「Sowing The Seeds Of Love」とクールな楽曲「Advance For The Young At Heart」に異なる意味で印象を分けてしまうので)を脳裏から外してTears for Fearsの「The Seeds of Love」のアルバム全般の浮遊さや幽玄さあるサウンド・メイキングなど、おそらくこれまでプログレッシブ・ロックな感覚で聴いたことがなかっため、あらためてこれまで聴いてきた音楽の異なる側面の素晴らしさも感じえました。

アルバム「To The Bone」のおすすめ曲

1曲目は、3「Pariah」
前作アルバム「Hand. Cannot. Erase.」での楽曲「Perfect Life」や楽曲「Happy Returns」、アルバム「4 1/2」の楽曲「Lazarus」などに代表される、Stevenのメロウな唄メロのメロディセンスが素敵です。

2曲目は、5「Refuge」
個人的には、”Tahito80 Meets The Beatles”とも感じてしまう、今までにない弾むプログレッシブ・ポップ感に驚きをもってしまいました。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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