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プログレおすすめ:Mantra Vega「The Illusion’s Reckoning」(2016年イギリス)


Mantra Vega -「The Illusion’s Reckoning」

第265回目おすすめアルバムは、イギリスのシンフォニック系のロック・バンド:Mantra Vegaが2016年1月23日に発表した1stアルバム「The Illusion’s Reckoning」をご紹介します。
Mantra Vega「The Illusion's Reckoning」
Mantra Vegaは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:元Mostly Autumnの女性ボーカリスト:Heather Findlay(ボーカル、パーカッション、アコースティック・ギター)と、アメリカのミュージシャン:Dave Kerzner(ボーカル、キーボード)を中心に、Mostly Autumnの現在のメンバー:Chris Johnson(ギター)とAlex Cromarty(ドラム)、Heather Findlay BandのStuFletcher(ベース)、Steven Wilsonのアルバム制作やツアーにも参加するDave Kilminster(ギター)が結成した6人編成のバンドです。

アルバムには、他にもMostly AutumnのAngela Gordon(ボーカル、リコーダー)、NightwishのTroy Donockley(ボーカル、ギター)をはじめとし、オランダのロック・オペラ・プロジェクトであるAyreonで活躍する女性ボーカリスト:Irene Jansen(ボーカル)と、その主宰:Arjen Lucassen(ギター)、および、フルート奏者:Remko de Landmeter(バンスリ)やマンドリン奏者:Matt Dorsey、フランス人のミュージシャン:Brett Kaldas-Lima(サウンド・デザイン、キーボード)もゲスト参加しています。

個人的に、Dave Kerznerが関連するプロジェクトは、そのクリエイティブやサウンド・クオリティの高さから、イギリスのミュージシャン:Steve Wilsonや同国アメリカのミュージシャン:Neal Morseが関連するアルバムと同様に、その動向をチェックしてしまいます。Heather Findlayが、Dave Kerznerの2015年のソロ・アルバム「New World」でボーカルとしてゲスト参加していたこと、その後、Dave Kerznerと当バンド:Mantra Vegaとして、楽曲「Island」を4曲入りシングルを発売していたことからも、次なる展開を待ちわびていました。

Heather FindlayとDave Kerznerがデュエットとした楽曲「Island」のフォーク・タッチのスタイリッシュさと、バンドの大半を占めるMostly Autumnの現メンバーの存在、フルートやマンドリン、アコースティック・ギターがアンサンブルに加わることで、英国プログレ・フォーク系のエッセンスを想起していまいます。しかしながら、Dave Kerznerのソングライティングによる時に翳りもある物悲しくもメロディアスな唄メロのメロディラインは、Heather Findlayの歌声の良さが活かし活かされるとともに、サイケデリックさによるドリーミーな感覚も冴えたシンフォニック系のアンサンブルを聴かせてくれます。

きっと、Heather FindlayとDave Kerznerによる次なる音楽展開を待ちわびたファンには期待を裏切ることないアルバムであると同時に、新たなる女性ボーカルのシンフォニック系のバンドを探す人にとって、好アルバムと思います。

楽曲について

サウンド・プロダクションと女性のナレーションによる約2分30秒ほどの冒頭曲1「Every Corner」を皮切りに、アルバムを徐々に聴き入れば、アコースティック・ギターのストロークがメインのアンサンブルによるマイナー調でミドルテンポ2「Island」のシングル楽曲としての存在は、決してリード曲として浮いていない、その楽曲から拡がりを魅せるかのように、ドリーミーさやサイケデリックさが溢れる楽曲を耳にすると思います。

3「Veil Of Ghosts」は、冒頭部から奏でられるギターのアルペジオによるディレイを効かせたフレーズが印象的に残る楽曲です。2分30秒前後に、変拍子を効かせたパートを皮切りに、5大プログレバンド:Pink Floydを彷彿とさせるアトモスフェリックなサウンド・メイキングを挟みながらも、ギターのアルペジオから醸し出すミステリアスさ、、ヴァースの唄メロのアンニュイなメロディライン、ヴァースに続くコーラスは翳りに満ちており、エッジの効いたギターのリフに、ドラマチックに唄い上げるサビ部やクロージング直前のささくれたったギター・ソロとともに、胸の奥に刺さりゆく刺のように、重苦しく張り裂けそうな心地になってしまいます。

4「Lake Sunday」は、水の滴る音のSEで幕をあげ、プログレ・フォーク系よりも、ブリティッシュ・ポップの憂いを帯びたメロディラインが活きた印象の楽曲です。ミドルテンポで抑制を効かせつつ唄い上げるHeather Findlayの歌声に、サビ部で絡み合うハーモニーにはやるせない気持ちで聴き入ってしまいます。そのメロディラインをアコースティック・ギターのストロークがメインに抑え、3分45秒前後からはキーボードによるフレーズがサウンドを彩り、ドリーミーにも、再度、水の滴る音のSEに紛れ、楽曲はクロージングを迎えます。ふと、楽曲の和訳である「日曜日の湖」を湖畔で一望するサウンドスケープですね。

5「Mountain Spring」は、アコースティック・ギターの力強いストロークに、メロトロン・シンセやオルガンが織りなす旋律がサイケデリックなサウンドで重厚に拡がる楽曲です。徐々にサイケデリックさが混沌へと繋がるも、サウンド・メイキングの妙が活き、スタイリッシュな仕上がりになっており、アルバム中盤のハイライトの1曲といえるでしょう。

さらに、リコーダーの旋律と後半部の男女混成や子供によるコーラスワークが印象的な6「In A Dream」、Heather Findlayの低音を効かせたボーカリゼーション、刺々しいギター・ソロ、無機質なリズムによる7「Learning To Be Light」、トラッド調で唄メロのメロディラインと牧歌的なアンサンブルによる8「I’ve Seen Your Star」など、フォーク系の楽曲が並ぶも、決して聴き手に楽曲を単調にさせないサウンド・メイキングのメリハリはさすがと言わずにはいれません。

タイトル通り、2「Island」のリプライズともいうべき、9「Island (reprise)」に続いて、最終曲10「The Illusion’s Reckoning」は、メロトロン・シンセとギターがサイケデリックなフレーズで幕をあげる約10分にも及ぶ大作です。Heather Findlayのメロディラインに寄り添うハーモニーとサイケデリックさを感じさせるコーラスワーク、第1ヴァース以降、メロトロン・シンセの旋律も絡み合い、徐々に楽曲を壮大に盛り上げていきます。Heather Findlayの伸びやかな歌声を引き継ぐかのように7分15秒前後から繰り出す優美なギター・ソロ、そして、そのギター・ソロにシンクロするかのようにシンセ・ソロが奏でられ、コーラスとともに楽曲はクロージングします。ふとYesの名曲「Starship Trooper」(アルバム「The Yes Album」収録)のクロージングをよりスタイリッシュでモダンなプログレッシブな楽曲の展開を感
じえるアルバムのクロージングに相応しい楽曲です。

アルバム全篇、Heather Findlayの声質やボーカリゼーションの素晴らしさを然ることながら、Dave Kerznerのプロデュース力やクリエイティブの高さをあらためて思い知らされるアルバムでした。

女性ボーカルによるシンフォニック系のプログレッシブ・バンドとして、次作2枚目も楽しみでなりません。

[収録曲]

1. Every Corner
2. Island
3. Veil Of Ghosts
4. Lake Sunday
5. Mountain Spring
6. In A Dream
7. Learning To Be Light
8. I’ve Seen Your Star
9. Island (reprise)
10. The Illusion’s Reckoning

All About Eve、Iona、Karantaka、Heather Findlayが元在籍していたMostly Autumnなど女性ボーカルによるシンフォニック系やプログレ・フォーク系のプログレッシブ・バンドが好きな方におすすめです。

また、ドリーミーな感覚にも繊細さ、メロウさ、ダイナミックさをキーワードに、フォーク系やシンフォニック系のプログレッシブ・ロックにも、メリハリやスタイリッシュさをのぞむ方におすすめです。

アルバム「The Illusion’s Reckoning」のおすすめ曲

1曲目は、3「Veil Of Ghosts」
変拍子を多用したテクニカルさと、アトモスフェリックさによる中盤のPink Floydを彷彿させる展開にも、唄メロも含めた楽曲のメロディラインとアンサンブルを損なうことなく、共存させて、翳りあるメロディラインを引き立たせるバランスの良さを感じます。

2曲目は、4「Lake Sunday」
楽曲の和訳である「日曜日の湖」を湖畔で一望しているかのように、アルバムで最もサウンドスケープを感じさせてくれます。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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