プログレおすすめ:Spring「1st Album(邦題:早春の幻)」(1970年イギリス)
Spring -「1st Album」
第245回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックなバンド:Springが1970年に発表したバンド唯一の同名アルバム「Spring」をご紹介します。
Springは、1970年に、イギリスはレスターシャ―州のレスタ―を拠点に、Pat Moran(ボーカル、メロトロン)、Ray Martinez(ギター、メロトロン)、Kipps Brown(ピアノ、オルガン、メロトロン)、Adrian ‘Bone’ Maloney(ベース)、のちに、同国イギリスのロックバンド:Dire Straitsのメンバーとして有名になるPick Withers(ドラム)の5人編成で結成されたバンドです。
その音楽の特徴に、Pat Moran、Ray Martinez、Kipps Brownの3人がそれぞれメロトロンをプレイすることによる「トリプルメロトロン」の存在に触れなければなりません。ただし、その「トリプルメロトロン」の存在があろうとも、たとえば、第1期King Crimsonの初期楽曲(名曲「Epitaph」)に見る叙情さや陰鬱さの一端が垣間見えるメロトロンと同様に、3台あるからと云って、いずれの楽曲にもメロトロンが多用されているというわけではないのです。
たしかに、アルバムの冒頭曲と最終曲で印象深きメロトロンの旋律があるのですが、12弦ギター、エレクトリック・ギター、オルガンをメインとしたアンサンブルに、力強くもあたたかみのあるメロディックなメロディラインには、ブリティッシュ・ロックのフォーク系や、プログレ・フォーク系のエッセンスがベースにあるのではないかと思います。有名デザイナー:Keefによる見開き3面のアートワークも印象的に、
トリプルメロトロンはアレンジの1つに、早春を想起させるような素朴なプログレ・フォーク系のサウンドが聴けるアルバムです。
幽玄さあるメロトロンの調べにばかり耳を奪われてしまうのではなく、アルバム全体をバランス良く聴いた方が、バンドが目指した音楽の良さを感じられると思うのです。
楽曲について
冒頭曲1「The Prisoner (Eight By Ten)」は、冒頭25秒間でのメロトロン・フルートの旋律が覆い、異なるメロトロン・フルートがテーマを奏で、アタックの強いベースラインともたれ気味のドラミングによるリズムセクションに、やはり古き良き翳りある陰鬱さや抒情さを濃厚に感じてしまいますね。儚くも寂しげな心地となった想い出をサウンドスケープしてしまうかもしれません。
25秒前後から展開されるユニークなベースラインとメロトロン・フルートが印象的なアンサンブルのヴァースでのメロトロンによる音色、1分10秒前後など、随所にエレクトリック・ピアノのフレーズとマーチ風のドラムのパートなど、その陰鬱さや抒情さは徐々に深まっていきます。それでもなお、2分55秒前後からのオルガンが加わったアンサンブルのパートを聴けば、King Crimsonの名曲「Epitaph」などと比べても、Springの音楽性のベースにあるどことなくあたたかみを感じてしまいます。
クロージングに向けて、オルガンやドラムが徐々に畳み掛けるようなプレイを展開していくさまは、楽曲を聴き終わった時に、陰鬱さや抒情さで埋め尽くされた楽曲と印象を持って終ろうとも、何度となく聴き返すことで、それだけで終わらない何かを心に抱いてしまいます。
2「Grail」は、プログレ・フォーク系のエッセンスを感じる楽曲です。2分30秒前後からの低音のフレーズを淡々と繰り出すギターとアタックの強いベースライン轟音に近いメロトロンの旋律、3分25秒前後からのオルガンによるミステリアスな旋律とアコースティック・ギターの鋭角なストロークにギター・ソロのパートなどを交えつつも、ギターによる印象的なフレーズやメロトロン・フルートを交えた冒頭部や第1ヴァース、4分15秒前後からの第2のヴァースも含め、あたたかみある素朴でほのぼのと感じてしまいます。そして、トリプルメロトロンの存在は、クロージング直前に向けて、徐々に、陰鬱ではないこの素朴でほのぼのとした感覚に奥行きを魅せてくれます。
4「Shipwrecked Soldier」は、カントリー調の約1分強の小曲3「Boats」の唄メロがフェードアウトしながら繋がり、1960年代中盤から後半にかけて隆盛を極めたアートロック期にハードなアプローチを魅せたスーパー・トリオバンド:Creamの時代のEric Claptonを彷彿とさせるギター奏法のアンサンブルや、マーチ風から畳み掛けるドラミングなど、躍動的なビートで効かせてくれます。3分前後に、よりいっそうマーチ風のリズムセクションに、たからにホーン風の旋律が奏でられるパートもアクセントに、ヴァースでのワイルドなギターのプレイがイカシテいます。そして、メロトロンを含め不安げさを醸し出すアンサンブルにて、楽曲は突如クロージングを迎えます。
5「Golden Fleece」は、随所に盛り込まれるオルガンのリフや、ブルージ―なギターとオルガンのソロがありながらも、メロトロンが奏でる旋律が楽曲全体の印象を変えていくようなファンタジックな味わいもある楽曲です。冒頭部からのミスティックさ、2分30秒前後からの不穏さ、4分30秒前後からの幻想さには、トリプルメロトロンと云う存在があるからこそ、めくるめく聴き手にさまざまなサウンドスケープを感じさせてくれると思います。
6「Inside Out」は、ギターとオルガンがユニゾンでリフを奏でる冒頭部から、シンプルなリズムセクションに、骨太でストレートなロックからファンタジックなパートへとプログレッシブな展開が聞ける楽曲です。
1分50秒前後からは突如としてビヴラフォンの音色に、淡々としたベースラインへと変わり、2分30秒前後に、アコースティック・ギターとメロトロン・フルートが加わりファンタジックな一面を感じさせてくれたと思いきや、2分45秒前後にはまた、突如としてハードなアプローチのギターのリフを挟み、前半部のロックなヴァースへと戻ります。12弦アコースティック・ギターのストロークが印象的に、再度、ファンタジックさあるパートへ雪崩込み、4分20秒前後に、畳み掛けるリズムセクションとともに、ギターのストロークも歯切れ良さをまし、オルガンのミニマルなフレーズも加わり、楽曲はクロージングします。
ピアノを伴奏に、同国イギリスのシンガー・ソングライター:Elton Johnの初期ナンバーを想起させる凛々しさ溢れるバラード調の7「Song To Absent Friends (The Island)」を挟み、シンバルがこだまし、アコースティック・ギターのフレーズに、メロトロンの旋律で幕を上げる最終曲8「Gazing」は、アルバムのクロージングにして、淡々と早春のほんのりとした輝きを待つようなサウンドスケープを感じさせてくれる楽曲です。アコースティック・ギターによる淡々としたヴァースは、時にオルガンが加わったタイミングでビート感、さらにメロトロンの旋律やエレクトリック・ギターのリフやソロも加わりドラマチックな展開を聴かせてくれますが、陰鬱さを深く吸い込むほどに心が敷き詰められていくよりも、アルバム・タイトルの邦題「早春の幻」を的に得たような、儚くも夢を見ても哀しみに明け暮れない想いを感じてしまいます。クロージングを迎えれば、ネガティブにもポジティブにも明確にボーダーラインがひけないアンニュイな感覚が堪能出来ます。
アルバム全篇、幽玄さあるメロトロンの調べにばかり耳を奪われてしまうのではなく、アルバム全体をバランス良く聴いた方が、バンドが目指した音楽の良さを感じられると思います。素朴でのどかな田園を想起させるような空気が詰まった印象が多い楽曲には、あたたかみを感じてしまいます。そして、トリプルメロトロンがあることで、バンド名:Springの意味する「春」に、早春のほんのりとした時期をサウンドスケープしてしまうクリエイティビティを強く感じるアルバムです。
[収録曲]
1. The Prisoner (Eight By Ten)(邦題:囚人)
2. Grail(邦題:大きら)
3. Boats(邦題:ボートの歌)
4. Shipwrecked Soldier(邦題:離波した兵士)
5. Golden Fleece(邦題:金の髪)
6. Inside Out
7. Song To Absent Friends (The Island)(邦題:去りし友への歌)
8. Gazing(邦題:凝視)
[Bonus Tracks]
9. Fool’s Gold
10. Hendre Mews
11. A World Full Of Whispers(邦題:ささやきに満ちた言葉)
1992年発売されたオリジナル・リマスタリングされたCDが手元にありますが、そのボーナス・ディスクとして、1972年に制作を断念となった幻の2枚目のアルバムの収録予定だった3曲が収録されています。
なんだかんだいっても、メロトロンが好きな方にとっては、当アルバムにトリプルメロトロンの存在がフォーカスされ、興味をひくことは間違いないと思いますので、きっかけはメロトロンとして聴きたい方にもおすすめです。
また、プログレ・フォーク系のバンドで、アシッド・フォーク系やアート・ロック系など、かすみかかったサウンドが聴きたい方に、1970年代初頭のブリティッシュ・ロックの1つのシーンを切り取った忘れがたき1枚として、聴きたい方におすすめな1枚です。
アルバム「Spring」のおすすめ曲
1曲目は、8「Gazing」
楽曲タイトルの和訳「凝視」よりも、アルバム・タイトルの和訳「早春の幻」を感じてしまう、ほんのりとアンニュイな感覚は何度聴いていても、遠望を募ってしまいます。
2曲目は、5「Golden Fleece」
トリプルメロトロンであるからこそ、楽曲に奥ゆかしいアレンジが映え、さまざまなサウンドスケープを感じさせてくれるファンタジックさが素敵です。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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