プログレおすすめ:Focus「Focus 3」(1972年オランダ)
Focus -「Focus 3」
第230回目おすすめアルバムは、オランダのシンフォニック系のプログレッシブ・ロックバンド:Focusが1972年に発表した3rdアルバム「Focus 3」をご紹介します。
Focusは、1969年に、オランダで、Jan Akkerman(ギター)、Bert Ruiter(ベース)、Pierre van der Linden(ドラム)、Thijs van Leer(ボーカル、オルガン、ピアノ、アルト・フルート、ピッコロ、ハープシコード)の4人で結成されたバンドです。
当アルバム「Focus 3」は、名曲「Hocus Pocus」を含み、名盤と云われる1971年に発表された2ndアルバム「Moving Waves」に続き、当時レコード2枚組で発売されています。
バンドの特徴は、メタルやヨーデルのエッセンスなども盛り込み、管楽器、キーボード、ギターをメインとし、クラシカルさやジャズ系をダイナミックに聴かせるアンサンブルでしょうか。Jan Akkermanによる唄心さえ感じるギターの旋律と、Thijs van Leerによるクラシカル素養からの表現の豊富さには、旋律の一音一音にきらびやかさが散りばめられ、優雅な印象を感じます。また、インストルメンタル主体として、その2人のリードに対し、Bert RuiterとPierre van der Lindenの絡みつくようなリズム・セクションのスイング感も素晴らしいです。
Thijs van Leerは「カチッと作った楽曲はない」と語ったという、当アルバムは、シングル・ヒット曲「Sylvia」を含み、
奔放なアプローチに溢れ、それでいてメロディックさ濃厚に感じるサウンドの極みが楽しめるアルバムで、2ndアルバム「Moving Waves」に比肩するバンドを代表する傑作アルバムです。
楽曲について
ドラム・ソロで幕をあげる冒頭曲1「Round Goes The Gossip」は、ヨーデルとバロックが盛り込まれたアンサンブルが印象的であり、はじめてFocusを聞いた音楽ファンにとっては、いっきにFocusらしさが脳裏に焼き付くではないかと思います。そう、名曲「Hocus Pocus(邦題:悪魔の呪文)」(2ndアルバム「Moving Waves」収録)をフュージュン系に構築したアンサンブルを感じ、ハードロック系のアプローチでないことからも、Jan Akkermanのギターの速弾きがよりいっそう楽曲を軽快に聴かせてくれます。
2「Love Remembered」は、アコースティック・ギターがアルペジオや高速のフレーズを奏で、シンセサイザーはうすらとこだまするメロウなアンサンブルに、フルートが優雅にメイン・テーマを奏でる楽曲です。ゆったりとし優美なサウンドには、イギリスのCamelを彷彿とさせてくれます。
3「Sylvia」は、ギターのカッティングで幕を上げ、程よくタイトで程よくリズミカルに、いちど聴いたら忘れられないような、愛くるしいテーマを奏でるギターのメロディックな旋律が印象的な楽曲です。1分50秒前後からのヨーデルさえアクセントと感じさせるぐらいに、オルガンをアンサンブルに、ただただメロディックさに聴き入ってしまいますね。
4「Carnival Fugue」は、ピアノ・ソナタから、楽曲タイトル風に静から動へ展開する楽曲です。ピアノはまるでピアノ・ソナタの断片を弾くごとくクラシカルな旋律を冒頭部から奏で、1分40秒前後からはアコースティック・ギターとベースがユニゾン、もしくは、トロール風にアンサンブルに加わり、エレガントさを感じる室内音楽風に進行していきます。2分55秒前後からはテンポアップしフュージュン系のアンサンブル、そして、3分30秒前後からは、ホイッスルやギターがカーニバル風のアンサンブルへと展開するや、オルガンやフルートなども有機的に絡み合っていきます。午前から午後昼時にかけて穏やかな心地が高まっていくようなサウンドスケープで魅せてくれます。
5「Focus III」は、楽曲「Focus Ⅱ」の続編ともいうべきエレガントな楽曲です。オルガンとベースラインの旋律によるメランコリックさとギターの旋律によるメロディックさを共存してしまう感覚は、たとえば、英国ロックがアートロックで魅せるメランコリックにも、メロディックさを兼ね備えれば、Focusにしかなりえない唯一無比なアンサンブルと思うんです。共存する感覚は、聴き手にどちらともつかず、曖昧な聴き心地にさせて脳裏に焼き付けてくれるでしょう。ただ、それもスムーズ次曲6「Answers? Questions! Questions? Answers!」でのファンキーなサウンドの冒頭部を聴けば、その序章でしかなかったのかと、また驚きを隠せくなります。
オルガンの旋律が時にギターとリフでユニゾンし、ギターは奔放なアプローチを繰り返し、フルートはジャージーなアンサンブルに寂しげでも優雅な旋律を奏でると云うダイナミックなアプローチが素敵過ぎます。
7「Anonymous Two」は、1972年当時、2枚組のレコードで盤面を分けて、7「Anonymous Two (Part 1)」と8「Anonymous Two (Conclusion)」に分かれていた約26分にも及ぶ大作です。終始、強度の高いハイハットの刻みに、オルガン、フルート、ギター、ドラムが『弾き倒し』という言葉に似つかわしいアンサンブルが聴けます。リズムチェンジをし重ねていく各パートのアンサンブルは、インプロビゼーションさも感じえる奔放なアプローチに溢れていて、聴いていて恍惚となってしまいます。
最終曲8「Elspeth Of Nottingham」は、アコースティック・ギターの独奏に、1分10秒前後からフルートが加わり、宮廷音楽のようにバロック調の味わい深い楽曲です。1分50秒前後や2分40秒前後からのギターとフルートのユニゾンによるメロディラインも印象深く、小鳥のさえずりのSEなども交え、ニューエイジ系を彷彿とさせてくれ、リラックスした心地にさせてくれます。
アルバム全篇、ヨーデルを盛り込みつつ、ロックさ、ファンキーさ、ジャズさのアンサンブルは、各楽器の奔放なアプローチが印象的ですが、それでいて、個々の楽曲でテーマにするメロディラインの違いにより、しっかりとしたメロディックさ、ポップさ、叙情さ、メランコリックさが聴けます。
[収録曲]
1. Round Goes The Gossip
2. Love Remembered
3. Sylvia
4. Carnival Fugue
5. Focus III
6. Answers? Questions! Questions? Answers!
7. Anonymous Two
8. Elspeth Of Nottingham
はじめてオランダのプログレッシブ・ロックを聴いてみたいという方におすすめです。
メロディックなギターと云う点で、イギリスのプログレッシブ・バンド:Camel、クラシカルさと云う点では、5大プログレバンドのうち、Peter Gabriel在籍時の初期Genesisを好きな方におすすめですし、イメージ頂ければと思います。
当アルバムを聴き、Focusを好きになった方は、1972年発表の2ndアルバム「Moving Waves」と1974年発表の4thアルバム「Hamburger Concerto」に触れてみてはいかがでしょうか。
アルバム「Focus 3」のおすすめ曲
1曲目は、3「Sylvia」
たとえ、メロディックなギターの旋律はいちど聴いて忘れてしまったとしても、次回聴いた際に、聴き忘れてしまったことに後悔するのはなく、聴けて良かったと感じるぐらいに、エレガントで愛くるしさを感じてしまいます。
2曲目は、5「Focus III」
プログレッシブ・ロックのバンドがメランコリックさとメロディックさを共存させる楽曲を構築するにしても、1970年代前半に、1曲の中でこれほどまでにスムーズに行き交う展開を耳にした楽曲はありません。メランコリックであれば、メランコリック、メロディックであればメロディックな印象がつきまとうんです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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