プログレおすすめ:White Willow「Ex Tenebris」(1998年ノルウェー)
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最終更新日:2015/12/19
1990年代, シンフォニック, ノルウェー, フルート, メロトロン, 女性ボーカル Anglagard, Jacob Holm-Lupo, Mattias Olsson, Sylvia Erichsen, White willow
White Willow -「Ex Tenebris」
第11回目おすすめアルバムは、ノルウェーのWhite Willowが1998年に発表した2ndアルバム「Ex Tenebris」をご紹介します。
1stアルバム「Ignis Fatuus」では、メインボーカルは女性がイメージ強い印象があったかもしれませんが、当2ndアルバムの前半の楽曲では、男性がイメージ強い印象のアルバムと感じるかもしれません。その歌声はイギリスのプログレッシブ・ロックバンド:Alan Person Projectの曲で歌唱するボーカリストのイメージすら想起させてくれます。
Jacob Holm-Lupo(アコースティック・ギター、エレクトリック・ギター、オルガン、キーボード)を中心としたプロジェクト・バンドであることは、2ndアルバムに連なるメンバー構成で明確になってきており、1stアルバムからのメンバーではJan Tariq Rahman(ピアノ、メロトロン、ハモンド・オルガン、シンセサイザー、テルミン、ボーカル)が残り、あらたに、Frode Lia(ベース)や女性ボーカルにはSylvia Erichsen(ボーカル)が加わり、また、AnglagardのMattias Olsson(ドラム、パーカッション)や楽曲によって、フルート奏者をはじめとして、複数のゲストを迎え、アルバムは制作されています。
1stアルバムと同様にフルートの旋律は健在ですが、チェロ奏者による弦楽器の印象は薄まり、どちらかと云うと、鍵盤がより印象的に組み込まれ、唄モノとしての比重が高く
プログレ・フォーク系による抒情性を濃厚に讃えたメランコリックな世界とプログレッシブな展開のインストルメンタルなパートが愉しめる1枚です。1970年代のヴィンテージなクラシカル・ロックの味わい、特に、とりわけメロトロンやフルートの旋律がイギリスの5大プログレバンド:King CrimsonやGenesisの初期のフォーキーさを彷彿させて懐かしき心地に郷愁を誘い聴き入ってしまいますね。
楽曲について
冒頭曲1「Leaving the House of Thanatos」と2「The Book of Love」を聴けば、唄メロの中でもサビと捉えるべき唄メロのパートでは、ワンフレーズがリフレインされる比重が高まり、確かに唄モノとしての意識が高いと感じます。また、そのボーカリゼーションからはどことなく抑制されたセンチメンタリズムが溢れてくると感じるのは自分だけでしょうか。
1stアルバムと異なるサウンドとして、オルガンの音色も際立つ3「Soteriology」の構成や展開力です。冒頭曲2曲続いたたおやかなボーカリゼーションの男性から感傷的なボーカリゼーションは、当楽曲から感傷的に憂いを帯び何か嘆願するかのように問いかけるボーカリゼーションが印象的な女性にメインボーカルが移行します。エレクトリック・ギターによるソロ・パートや女性の淡々としたナレーションのパートが続く後半部の薄暗さや不穏さもある後半部の展開も印象的な4「Helen & Simon Magus」も含め、キーボードの生音が際立ち、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:Renaissanceの楽曲に感じるエレガントさを想起させてくれるかもしれません。
5「Thirteen Days」は、1stアルバム「Ignis Fatuus」ではフルートやヴァイオリンで演奏されたであろうフレーズがギターとフルートをメインで構成されています。「移行」をテーマに1stアルバムとの違いを意識しながらも聴いてみることも良いかもしれません。
後半2曲(6「A Strange Procession…」と最終曲7「A Dance of Shadows」)は、プロジェクト・バンドとして、よりプログレッシブな実験性も感じられる構成を感じます。
おそらくMattias Olssonがもたらしてであろうドラの音をこだまさせるVolvo hub capsによる一定のリズムと共に、ハモンド・オルガンが高鳴る6「A Strange Procession…」は、途中からクワイアも加わり、異質な尊厳さを醸し出すインストルメンタルな楽曲です。この6「A Strange Procession…」の存在が、次に続く大曲7「A Dance of Shadows」の異質さに多少の戸惑いを感じえても、プログレッシブな構成力にただただ耳を傾けてしまいます。
その最終曲7「A Dance of Shadows」は、イントロのピアノのフレーズ、そしてギターとのユニゾンから一転し、30秒前後からリズムを裏拍子で奏でられるシンセのサウンドを交えたアンサンブルは、6曲目までのどの楽曲とも異なりどこか異質さを感じるとともに、北欧スウェーデンの寒々とした地をサウンドスケープさせてくれます。エクレトリック・ギターを中心としたアンサンブルへ移行し、そのまま、女性ボーカルによるヴァースは、唄メロの骨格はアルバム前半部の楽曲と変わらないものの、メロトロンも交え、最終曲に相応しいメリハリの効かせ聴かせてくれます。
4分30秒以降のシンセ、チェロ、テルミン、メロトロンなどによるインストルメンタルなパートには、King Crimsonの薄暗さを想起させてくれるアヴァンギャルド寸前の仄かな混沌さが垣間みえます。8分前後からのギター・ソロは、9分以降にベースのユニークなフレーズとともに、呪文を奏でるようなフレーズが印象的で、さらにシンセが加わることで、薄暗さと云うよりもゴシックさも感じえるダークな世界観を形成していきます。11分30秒前後からは、最初の女性ボーカルのヴァースへと戻り、約14分にも及ぶ当楽曲はフルートが並奏しクロージングします。
アルバム全篇、メロディックでスローテンポの唄メロをもつ洗練されたプログレ・フォーク系のパートが多い前半部と、プログレッシブな展開のインストルメンタルとエレクトリックパートを活かした唄メロのヴァースもある後半部で、くっきりとコントラストを取り、そのバランスの良さにエレガントさを感じさせてくれる良好なアルバムです。
[収録曲]
1. Leaving the House of Thanatos
2. The Book of Love
3. Soteriology
4. Helen and Simon Magus
5. Thirteen Days
6. A Strange Procession…
7. … A Dance Of Shadows
当アルバムは、前作1stアルバムや次作3rdアルバム「Sacrament」では更なるサウンドの変化があります。それでもWhite WillowがKing Crimsonを意識しているであろうサウンドメイキングは一貫して根底に感じられます。
King CrimsonやRenaissanceのプログレ・フォーク系が醸し出す抒情性(たとえば楽曲「I Talk To The Wind」や「Cadence And Cascade」など)に、1stアルバムよりもキーボード主体で洗練された世界観は、
よりエレガントでトラッドなフォーキーさを感じたい方や好みな方におすすめです。
アルバム「Ex Tenebris」のおすすめ曲
1曲目は2曲目の「The Book of Love」
ヴァースの唄メロにアンサンブルの一部として奏でられるメロトロンや、サビ部でリフレインする一節に寂しげではあるが切々と唄う展開に、心ゆったりと聴き入ってしまうからです。
2曲目はラスト7曲目の「A Dance Of Shadows」
唄メロと唄メロ以外のサウンド感覚のメリハリさが飽きをこさせないからです。特に、ギターのフレーズには、薄暗さや陰鬱さを超越した暗黒さの様相で、アルバム前半を聴くことでアルバム全体の楽曲へ期待してしまうプログレッシブな展開を良い意味で裏切るように切り裂き、魅力的な構成にしていると思いました。ゴシックさを醸し出すシンセを利用した電子音でのテクノロジーも当楽曲では極力抑えられ、ほんのりと3rdアルバムの世界観への布石をみせ留めているところにもニンマリしてしまいます。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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