プログレおすすめ:Mystery「Delusion Rain」(2015年カナダ)
Mystery -「Delusion Rain」
第196回目おすすめアルバムは、カナダのネオ・プログレ系のプログレッシブ・ロックバンド:Mysteryが2015年11月1日に発表した6thアルバム「Delusion Rain」をご紹介します。
Mysteryは、1986年に、Michel St-Père(エレクトリック・ギター、アコースティック・ギター、キーボード)のプロジェクトとして6人編成で結成され、1992年に同名1stアルバム「Mystery」でデビューを飾っています。
大きな変化と云えば、ボーカリストのBenoit Davidが脱退してしまったことです。イギリスの5大プログレバンド:YesのJon Anderson(ボーカル)が急性呼吸不全で体調を崩してしまい、その声質に魅了されYes側からスカウトされたと云われています。
2012年発表の前作5thアルバム「The World is a Game」からMichel St-Père以外のメンバーを刷新し、Benoît Dupuis(キーボード)、François Fournier(ベース、キーボード)、Sylvain Moineau(エレクトリック・ギター、12弦ギター、Jean-Sébastien Goyette(ドラム)に、新たなボーカリストとしてJean Pageau(ボーカル、キーボード、フルート)を迎えて(他にもHUISのAntoine MichaudとMonochrome SeasonsのSylvain Descoteauxのギタリストがゲストで参加し)、結成当時の6人編成に戻ったとはいえ、2007年発表の3rdアルバム「Beneath the Veil of Winter’s Face」以来、過去3作ではボーカリストだったBenoit Davidの不在は、ファンには気になるところだと思います。
バンドの音楽性の特徴は、コンポンザーを担うMichel St-Pèreによるメロディックなメロディラインを際立たせるメロウでファンタジックなサウンドの構築には、アメリカのロックバンド:Journeyの1996年発表のアルバム「Trial By Fire」以降を想起させる力強くも情感にも相通じる感覚があるんです。もちろん、プログレッシブ・ロックの観点でいえば、ネオ・プログレ系のエッセンスが近しいのではないでしょうか。前作以上に、アコースティック・ギター、フルート、キーボードも交え、5大プログレバンドでいえば、もちろんYesやGenesisを想起させると同時に、1980年以降に隆盛したネオ・プログレ系のエッセンスを系譜するに十分過ぎるふくよかなアンサンブルが聴けます。
そう、同国カナダで著名なホッケー選手と同名(Jean-Gabriel Pageau)の新たなボーカリスト:Jean Pageauにより、ファンタジックなアンサンブルにどのようなケミストリーが発生するのか?
ツイン・ギターでのハーモニウムに、ゲスト参加のギタリストがブレンドするメロディアスでファンタジックな世界
が聴けるかと期待せずにいられないアルバムです。
楽曲について
冒頭曲1「Delusion Rain」は、哀愁溢れるキーボードやピアノによるアトモスフェリックさに包まれ、ロングトーンを効かせメロディックにも哀愁溢れるギターの旋律で幕を上げるオープニングから、2分15秒前後のメロディックなコーラスを重ねたヴァースへの展開が印象的な楽曲です。2分40秒前後からのアコースティック・ギターをメインにアンサンブルにコーラスのないボーカリゼーションや3分15秒前後のよりぐっとメロディックに落とし込んでいくメロディラインのフックなどを聴けば、ネオ・プログレ系のファンにとっては堪らないと思います。個人的には、1980年代初頭に活躍したバーレーンのネオ・プログレ系のバンド:Osirisを想起してしまいましたよ。
そして、Michel St-Pèreによるプロジェクト色が強いとはいえ、メンバー刷新で、かつボーカリストが変わったことなってそれほど足るに足らないと感じるかと思います。激情とも云えるシンセとギターによるアンサンブルの後半部も含め、ただただ哀愁溢れるメロウなサウンドに聴き惚れたい。と感じてやみません。
アコースティカルなアンサンブルも活かし清涼さやメロウさとほんのりファンタジックなアンサンブルの2「If You See Her」や激情さに溢れハードなアンサンブルで迫る3「The Last Glass of Wine」と3分30秒前後からミニマルなフレーズやヘビー・ロック系のサウンドも印象的な5「Wall Street King」などを聴けば、Jean Pageauのボーカリゼーションは、清涼さでも哀愁さでも高音を活かした伸びがあり、少し高音を抑え気味であるけれどメロウな楽曲を伸びやかに唄うBenoit Davidとは異なるけれども遜色ない、いや、それ以上にメロウさやファンタジックさにフィットしていると感じるんです。
聴き手によってアルバムのハイライトを感じるのは異なるかと思いますが、個人的には、冒頭曲1「Delusion Rain」同様に10分越えで、約19分にも及ぶ4「The Willow Tree」と約12分にも及ぶ最終曲6「A Song for You」の長尺の楽曲でした。
4「The Willow Tree」は、静と動をメロウに聴かせるシンフォニックな楽曲です。冒頭部から5分前後までのアコースティカルな比重が高い静のパート、5分前後からのエレクトリックな比重が高い動のパート、8分30秒前後からのアコースティカルな比重が高い静のパートから11分前後から哀愁あるギターのソロへと繋がる展開には、まさしくファンタジックさのあるシンフォニック系の展開が堪能出来ます。いったん13分前後に展開は落ち着き、再度、アコースティック・ギターの比重が高いパートから14分前後には鍵盤も含めたアコースティカルなアンサンブルへと移行します。1980年代に隆盛を極めたニュー・ロマンチック期の代表格でイギリスのロック・バンド:Duran Duranや、現代のプログレッシブ・ロックシーンの重要人物のSteve Willsonを彷彿とさせる優美なサウンドスケープを魅せてくれます。
最終曲6「A Song for You」は、ミニマルなキーボードのリフと、ハードエッジなギターのリフ、そしてユニゾンするハードなオープニングで幕を上げながらも、1分前後からシンセとギターをメインに場面は拡がり、琴線を誘う哀愁ある唄メロのメロディラインをもつヴァースが展開し、6分前後から8分前後まで複数のギターがミニマルなフレーズをユニゾンするテクニカルなパートもアクセントに、フルートの旋律に導かれ、冒頭部の哀愁ある唄メロのヴァースへと戻り、エレクトリック・ギターもシンセも含め、どこまでも哀愁溢れたアンサンブルのままにクロージングまで続いていきます。
アルバム全篇、哀愁さ溢れるメロディラインに、ネオ・プログレ系のメロウさやファンタジックさで満載の好アルバムと思います。
[収録曲]
1. Delusion Rain
2. If You See Her
3. The Last Glass of Wine
4. The Willow Tree
5. Wall Street King
6. A Song for You
ネオ・プログレ系をはじめて聴く方でも、哀愁あるメロディラインもありますが、メロディアスでドラマチックさがあるロックを聴きたい方におすすめです。
5大プログレバンドのうち、Genesisでいえば、Peter Gabrielボーカル期のアルバム「Selling England By The Pound」とPhill Collinsボーカル期のアルバム「A Trick Of The Tail」で魅せるメロウさやファンタジックさ溢れるサウンド・メイキングや、重鎮バンド(Pendragon、Marillion)などをはじめネオ・プログレ系を好きな方におすすめです。
また、同国カナダのプログレッシブ・バンド:SagaやInner Odyssey、アメリカのロックバンド:Journeyの1996年発表のアルバム「Trial By Fire」以降のアルバムを好きな方にもおすすめです。
「Delusion Rain」のおすすめ曲
1曲目は6曲目の「A Song for You」
楽曲中間部でテクニカルなパートを挟みつつも、哀愁溢れるメロディラインを際立たせるギターやシンセをメインとしたアンサンブルは、クロージング直前まで、アルバムの他楽曲以上に感じて取れるからです。
2曲目は冒頭曲1の「The Willow Tree」
静と動のパートを繰り返しながらも、静と動のメリハリを効かせたシンフォニックな展開だけで終わるのではなく、静のパートで魅せるファンタジックさと、楽曲後半部での優美な唄メロのメロディラインとアンサンブルが素敵すぎるからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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