プログレおすすめ:Emerson, Lake & Palmer「Trilogy(トリロジー)」(1972年イギリス)
公開日:
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最終更新日:2016/12/10
1970年代, ELP(5大プログレ), イギリス Carl Palmer, Emerson Lake & Palmer, Greg Lake, Keith Emerson
Emerson, Lake & Palmer -「Trilogy」
第189回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:Emerson, Lake & Palmerが1972年に発表した3rdアルバム「Trilogy」をご紹介します。
Greg Lake(ボーカル、ベース、ギター)、Keith Emerson(ピアノ、ハモンド・オルガン、ムーグ・シンセサイザー)、Carl Palmer(ドラム、パーカッション)によるトリオ編成で、スタジオ・アルバムとしては3枚目にあたりますが、ライブ・アルバム「Pictures at An Exhibition」と前作2ndアルバム「Tarkus」、次作4thアルバム「Brain Salad Surgery(邦題:恐怖の頭脳改革)」にうずもれやや地味な印象のアルバムです。
「Tarkus」、「Pictures at An Exhibition(邦題:展覧会の絵)」、「Karn Evil #9(邦題:悪の経典)」など、20分強にも及ぶ緩急の”急”も豊かな大作組曲がないことで大人し目な印象は受けるものの、それが功を奏して、聴けば聴き込むほどに、オルガンとムーグ・シンセサイザーを十人分に活かした
バンド史上、様々な音楽ジャンルが散漫せずに昇華し合ったクオリティの高いアルバム
と思います。
楽曲について
ムーグ・シンセサイザーの独奏的なフレーズに、続いて絡み合うピアノとパーカッションのアンサンブルで幕を上げる冒頭曲1「The Endless Enigma (Part One)」は、そのオープニングで映画でミステリアルさや奇怪さを伴うシーンでふと耳にするような音色やフレーズで聴き手に緊張感をもたせ、楽曲の和訳「永遠の謎」を想起させるに十分な展開を示してくれます。さらに、パーカッションにハモンド・オルガンがミニマルなシークエンスを繰り返し、堰を切ったように2分30秒前後からは、ハモンド・オルガンをメインとしたGreg Lakeによる讃美歌を彷彿とさせるヴァースの唄メロが聴けます。後半部のピアノの独奏から雪崩込むようにはじまる2「Fugue」では、Keith Emersonのバロック調にピアノのスキルフルなプレイもさることながら、途中から並奏するGreg Lakeのベースプレイが聴きどころです。リズミカルに乱舞するピアノの旋律とともに、1「The Endless Enigma (Part One)」の唄メロのリプライズともなる3「The Endless Enigma (Part Two)」で当組曲はクロージングしますが、ミステリアルさからダイナミックさへ縦横無尽と云う言葉が似つかわしいトリオの力量をまざまざと魅せてくれます。
4「From The Beginning」は、アコースティック・ギターが水を得た魚のように終始楽曲をリードし、Grek Lakeのメロディックな唄メロが聴ける楽曲です。2分15秒前後からのハワイアン風のギター・ソロ、終始リードするカントリー風味かサザンロック風のギターの旋律など、当楽曲でもさまざまな音楽ジャンルを垣間見せながら、ベースがブレイクするフレーズとともに3分前後からクロージングまでのKeith Emersonのムーグ・シンセサイザーによるソロも合い間って、名曲「Lucky Man」や「Still…You Turn Me On」と同様に、叙情性で終わらせないクリエイティビティを存分に魅せてくれます。
5「The Sheriff」は、Carl PalmerのパーカッションとKeith Emersonのハモンド・オルガンをメインとしたアンサンブルが醸し出すコミカルさも合い間って、親しみやすさ溢れる唄メロが小気味良い楽曲です。冒頭部のSE、2分50秒前後からクロージングまでのKeith Emersonによるホンキートンク・ピアノや唄メロのメロディラインなどから、1860年代から1890年代にかけて、アメリカの西部開拓時代を主題とした映画での酒場や暴れ馬での愉しげなワンシーンをサウンドスケープさせてくれます。
前曲5「The Sheriff」のクロージング直前のホンキートンク・ピアノのイメージが脳裏に仄かに残しつつ、ムーグ・シンセサイザーが高らかにうなり、小気味良いハモンド・オルガンがリードする6「Hoedown (Taken from Rodeo)」は、いやがおうにも心は高揚させてくれますが、発表当時、レコードA面最後に配置しているのが印象的でしたね。20世紀に活躍したアメリカの作曲家:Aaron Coplandの作品「Hoe-Down」を編曲し1970年代前半のEmerson, Lake & Palmerのライブでは決まってオープニングを飾った名曲です。
アルバムタイトル7「Trilogy」は、Keith Emersonのエレガントなピアノに導かれ、優美な唄メロを歌唱するGrek Lakeのボーカリゼーションとピアノのみのアンサンブルに、心うっとりと聴き入ってしまう前半部から、2分前後からクラシカルにも性急だったピアノの独奏に導かれ、3分前後からムーグ・シンセサイザーがアンサンブルに加わるインストルメントルのパートでは一気にダイナミックなレンジと変わり、フリーキーさやコミカルさも交え縦横無尽に鳴り響くシンセの旋律にはたただた圧倒されてしまいますね。猪突猛進すらあるハード・ロック系でのスピーディな思考の展開の中で、思えば、当アルバムの発売前後でイタリアでのライブ時に知り合うPremiata Forneria Marconiをはじめとするイタリアン・プログレにも合い通じるプログレッシブ・ロックの展開力の妙も抱かせてくれます。
8「Living Sin」は、ハモンド・オルガンをメインとしたベースとパーカッシブなリズム・セクションも含めたアンサンブルとGreg Lakeのボーカルゼーションには、エクセントリックにも怪奇さも存分に、アヴァンギャルト手前のエキゾチックなテンションを感じます。このアルバム全体に占める音楽のトーンからすれば異色過ぎる当楽曲は、アルバム「Tarkus」以降、必ず1曲は耳にする特徴の1つと思うんです。
9「Abaddon’s Bolero」は、フランスの作曲家:Maurice Ravelが1928年に作曲したバレエ音楽の楽曲を彷彿とさせる大胆極まりないアンサンブルが聴ける楽曲です。行進曲のようでいて、抑制を効かせるCarl Palmerのドラミングの存在があるからこそ、縦横無尽に様々な音色を駆使しフレーズを構築しては積み重ね展開するKeith Emersonのムーグ・シンセサイザーのプレイや旋律が活きてくると思いました。約8分にも及ぶインストルメンタルの楽曲ですが、あっという間にクロージングまで聴かせる展開力は素晴らしいです。
アルバム全篇、様々な音楽ジャンル(カントリー、ブルース、現代クラシック、バロック、ハード・ロック、ラテン、ウエスタン、ホンキートンク)などを聴けば、「散漫」としたイメージを思い浮かべてしまいますが、クラシカルさやミステリアルさを醸し出す旋律とともに、個々のメンバーのセールス・ポイントとなるピアノ、ムーグシンセサイザー、ハモンド・オルガン、ギター、ベース、パーカッションの限られた機材で、テクニックやスキルフルを存分に活かしていることがバランス感覚を十分に感じさせてくれるのではないでしょうか。最小単位でクリエイティビティ溢れるトリオ編成の一体感があるからこそ、「Tarkus」、「Pictures at An Exhibition(邦題:展覧会の絵)」、「Karn Evil #9(邦題:悪の経典)」など、20分強にも及ぶ緩急の”急”も豊かな大作組曲がないからといって、聴かず嫌いで放りっぱなしに出来ないアルバムと云えます。
[収録曲]
1. The Endless Enigma (Part One)(邦題:永遠の謎 パート1)
2. Fugue(邦題:フーガ)
3. The Endless Enigma (Part Two)(邦題:永遠の謎 パート2)
4. From The Beginning
5. The Sheriff
6. Hoedown (Taken from Rodeo)
7. Trilogy
8. Living Sin
9. Abaddon’s Bolero(邦題:奈落のボレロ)
全篇キーボードを主体として、時にハード、時にリリカルに抒情さあるアプローチで聴かせるクラシカルさを醸し出すロックが好きな方におすすめです。
当アルバムでEmerson, Lake & Palmerを好きになった方は、あらためて、最高傑作でロックの名盤として挙げられる次作4thアルバム「Brain Salad Surgery」までの全5枚(1stアルバム「Emerson, Lake & Palmer」、ライブ・アルバム「Pictures at An Exhibition(邦題:展覧会の絵)」、2ndアルバム「Tarkus」、3rdアルバム「Trilogy」、4thアルバム「Brain Salad Surgery」)を順を追って聴くことをおすすめします。
「Trilogy」のおすすめ曲
1曲目は7曲目の「Trilogy」
静と動の展開に、優美さと激しさで聴かせてくれますが、個人的に、どことなく1970年代のPremiata Forneria MarconiやBanco del Mutuo Soccorsoなどの代表されるイタリア・プログレ系の予測つかない可憐な楽曲の展開をも想像し、印象的だからです。
2曲目は7曲目の「Abaddon’s Bolero」
ムーグ・シンセサイザーの音色、フレーズ、そして構築されていくボレロの展開力と、ボトムをしっかり支えるドラミングに安定感のあるアルバムのクロージングを感じます。個人的に1stアルバムをクラシカルな「原石」のイメージを持っているのですが、当アルバムはカラフルさを散りばめたクラシカルさにも、冒頭曲に「The Endless Enigma (Part One)」と最終曲に当楽曲があることで、アルバムを聴き終える頃には、他アルバム以上にプログレッシブ・ロックの皮を被ったクラシックに近づいたロックを感じずにいられないのです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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