プログレおすすめ:The Pineapple Thief「Variations On A Dream」(2003年イギリス)
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最終更新日:2015/12/30
2000年代, イギリス, オルタナティヴ, メロトロン Pineapple Thief
The Pineapple Thief -「Variations On A Dream」
第159回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:The Pineapple Thiefが2003年に発表した3rdアルバム「Variations On A Dream」をご紹介します。
The Pineapple Thiefは、元VULGAR UNICORNのBruce Soord(ギター兼ボーカル)が、Porcupine Treeの音楽に影響を受けたことがきっかけで結成したバンドです。Nick Lang(ドラム)とMark Harris(ベース)のリズムセクションに、Adrian Soord(メロトロン、フェンダー・ローズ、ハモンド・オルガン、ピアノ、シンセ)を中心としたサイケデリック/スペース系による浮遊さ溢れるアンサンブルを聴かせてくれます。また、唄メロはポストロックにも通じる美メロに満ち溢れており、ボーカルのBruce Soordのボーカリゼーションも合い間って、聴き手へリラクゼーションを抱かせてくれるのではないでしょうか。
先に触れたPorcupine Treeによる薄暗系だけでなく、プログレッシブ・ロックにも近づくRadioheadや、イギリスの5大プログレバンドでいえば、Pink FloydやKing Crimsonの音楽に近いエッセンスを感じさせてくれます。
特に、2003年に発売された当アルバムは、Porcupine Treeへのアプローチ回答ともいうべき次作4thアルバム「Tightly Unwound」や、以降のアルバムで比重を増すエッジの効いたギター、エレクトロ、オーケストラと云ったアプローチは少なく、静けさの向こう側から聴き手の心へ繊細にも訴えかけ、穏やかにも切ない気持ちにもさせてくれるアルバムの1枚と思います。
楽曲について
冒頭曲「We Subside」は、シンセとギターが物語の始まりを綴られるかのように、Bruce Soordによるヴァースのスィートな唄メロを包み込むように淡々と進行するのが印象的な楽曲です。2分30秒前後からのトランペットの音色、続くギターのフレーズも、静から動へと急激な移行するのではなく、どこまでも冒頭部からの流れを大切にしロマンチックなアンサンブルを奏でます。たとえば、スウェーデンのバンド:Immanu ElやEskju Divine、フランスのA Red Season Shadeなど、ポストロックに近いメロディアスでセンチメンタルなメロディ比重の高い唄メロとサウンドにただただ目を瞑り想い耽ってしまうサウンドは、このままアルバムに身を委ねてしまいたいと感じさせてくれるのに十分ですね。
アンサンブルに交えたメロトロンの音色も印象的に、ロマンチックさよりも、物憂げでいて退廃感を掘り下げた5「The Bitter Pill」や9「Keep Dreaming」では、Radioheadを彷彿とさせる絶望さをサウンドスケープで魅せてくれるいっぽうで、アンニュイで声を絞り出すように語りかけるヴァースの4「Run Me Through」やノイズを効かせた7「Sooner or Later」など、ハードなアプローチの楽曲もバランス良く配置されています。そして、静と動を効かせハイライトとも云うべき展開を魅せる8「Part zero」があるからこそ、「We Subside」をはじめとし、静けさからメロディアスに展開していく楽曲が印象的にも心に残るような気がします。
また、2「This Will Remain Unspoken」のクロージング直前のギターレスへと移行しながらもヴァースの処理や、3「Vapour Trails」の中間部の仄かなサイケデリックさ、1つのテーマをエレクトロなアプローチでリフレインさせるインストルメンタルの6「Resident Alien」など、各楽曲の浮遊さ溢れるアンサンブルを、より一層、スペースを効かせて、夢見心地なサウンドスケープを十分に感じさせてくれます。
そして、時を刻むようにカウントを重ねるイントロから堰を切ったようにヴァースがはじまる10「Remember Us」は、前半部の刹那さ溢れる唄メロのメロディラインと、その唄メロをイメージングさせるように、長尺のインストルメンタルの後半部が印象的な楽曲です。1「We Subside」と同様に、オープニングからの流れを大切にし淡々と重ねて奏でるアンサンブルと違和感なく移行し聴かせる7分前後のサイケデリック/スペース系の浮遊さ溢れるサウンド処理、いったん小休止し、アルバムのリプライズかのようにはじまる9分前後からのアコースティック・ギターとエレクトロをメインとしたアンサンブルは、モダンなプログレッシブ系のエッセンスを濃厚に堪能出来ます。13分30秒前後の最後の咆哮とも取れるヴァースもアクセントに、クロージングに向け、刹那さが積み重ねられるように展開し、楽曲はクロージングします。
仄かなサイケデリック/スペース系による空間処理に、エッジの効いたギターでよりも、鍵盤やアコースティカルなサウンドによる繊細にもテクニカルなアンサンブルでエモーショナルに心へ訴えかけてくるのは、いつの間にか白昼夢とも取れる心地にさせてくれる、そんなアルバムと思います。個人的には、アルバム全篇聴き終える頃には、「激情」よりも「メロウな刹那さ」に心は落ち着き癒される1枚です。
[収録曲]
1. We Subside
2. This Will Remain Unspoken
3. Vapour Trails
4. Run Me Through
5. The Bitter Pill
6. Resident Alien
7. Sooner or Later
8. Part zero
9. Keep Dreaming
10. Remember Us
薄暗系でもメタリックなギターのアプローチを差し引いたPorcupine Treeに近く、より穏やかさから刹那さ溢れるロマンチックでいて、エモーショナルなサウンドを求める方におすすめです。アコースティカルでいて、キーボード主体のアンサンブルに、囁きかけるようなスタイルのボーカル系のポストロックのバンドを聴いてきた方には、プログレッシブ・ロックの導入部としてもおすすめかもしれません。
当アルバム以降、エッジの効いたギターやエレクトロの比重が高まり、オーケストラを導入したアルバムもありますが、その音楽の根本には、Bruce Soordのスイートなボーカルに、浮遊さ溢れるサウンド・メイキングが中心と思います。当アルバムを聴き、The Pineapple Thiefを好きになった方は、すべてのアルバムがおすすめです。
アルバム「Variations On A Dream」のおすすめ曲
1曲目は、10曲目の「Remember Us」
ハードなアプローチの楽曲がありながらも、アルバム全篇のサウンド・メイキングを象徴するかのようなインストのパートのアプローチは、聴いていて白昼夢とも取れる心地良さを感じさせてくれるに十分であり、気が付けば長尺にも関係なく聴き入ってしまったからです。
2曲目は、5曲目の「The Bitter Pill」
アコースティック・ギターよりもピアノによるリリカルさが溢れ、クラシカルなイメージでポストロックを聴いているかのように感じてしまったからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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