プログレおすすめ:King Crimson「Red」(1974年イギリス)
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最終更新日:2015/12/03
1970年代, King Crimson(5大プログレ), イギリス, ヴァイオリン, メロトロン Bill Bruford, David Cross, Ian McDonald, John Wetton, king Crimson, Mark Charig, Mel Collins, Robert Fripp, Robin Miller
King Crimson -「Red」
第124回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:King Crimsonが1974年に発表した7thアルバム「Red」をご紹介します。
1969年の衝撃なデビュー作「In The Court Of The Crimson King(邦題:クリムゾン・キングの宮殿)」の発表前後から、プログレッシブ・ロックはイギリスばかりでなく、ヨーロッパ全土をはじめワールドワイドに拡がり、1970年代前半には隆盛期を迎えます。代表格とも云える5大プレグレ・バンド(King Crimson、YES、GENESIS、Emerson, Lake & Palmer、Pink Floyd)のサウンドやスタイルを彷彿とさせては、素晴らしいアルバムを残すバンドも出現していました。1974年前後は隆盛期に翳りを見せるだろう時期でした。
当アルバムは、5thアルバム「Larks’ Tongues in Aspic(邦題:太陽と戦慄)」以降、Robert Fripp(ギター、メロトロン)、Yesから引き抜いたBill Bruford(ドラム、パーカッション)、旧友のJohn Wetton(ベース兼ボーカル)の3人を軸に、1970年代のking Crimsonの終焉を迎えたラスト・アルバムです。
前作6thアルバム「Starless And Bible Black(邦題:暗黒の世界)」までメンバーであったDavid Cross(ヴァイオリン)、4thアルバム「Islands(アイランズ)」までメンバーであったMel Collins(ソプラノ・サックス)、1stアルバム「In The Court Of The Crimson King(邦題:クリムゾン・キングの宮殿)」でメンバーだったIan McDonald(アルト・サックス)、Keith Tippetとともに、3rdアルバム「Lizard(リザード)」と4thアルバム「Islands(アイランズ)」に参加していたMark Charig(コルネット)とRobin Miller(オーボエ)など、の管弦楽奏者の過去メンバーやゲストが再参加することで、
過去アルバムを彩った管弦楽が色を添え、有終の美に相応しいKing Crimsonが持つ音楽クオリティが詰まったアルバムです。
1970年代のking Crimsonの終焉にも、過去アルバムを凌駕する緊張感溢れる素晴らしき演奏が聴けます。
楽曲について
冒頭曲「Red」は、メタリックさのある硬質なギターのリフを中心としたインストルメンタル楽曲です。1981年のアルバム「Deciplin」や1995年のアルバム「THRAK」の再編でのライブや、最近では2014年の再結成にともなうライブにも、レパートリーにも取り上げられており、代表曲というべき1曲です。タイトなリズムセクションも含め、緻密に練り上げられた様が伝わる3人のアンサンブルには、同じトリオ編成によるEmerson, Lake & Palmerとは異なり、冷ややかで重厚さのある殺伐としたサウンドスケープを魅せてくれますね。
2「Fallen Angel」も楽曲「Red」と同様に硬質なギターのリフが楽曲で聴けるものの、印象的なメロトロンの音とアコースティックなギターのフレーズをメインとしたヴァースのアンサンブルに、憂いを帯びたJohn Wettonのボーカリゼーションとヴァースの一節「Fallen Angel」に呼応するかのようなオーボエのフレーズは、楽曲全体へ悲哀を讃えているように、それでいて張りつめた緊張感のままクロージングまで貫く世界観に聴き入ってしまいます。当楽曲でのRobert Frippの弾くギターのスケールやリフ、世界観は現代の日本のビジュアル・ロックシーンにも影響を及ぼしているだろうとは思います。
3「One More Red Nightmare」は、どことなく名曲「21st Century Schizoid Man」(1stアルバム「In The Court Of The Crimson King」収録)にシャッフルさを加えたイメージを彷彿させ、5thアルバム「Larks’ Tongues in Aspic(邦題:太陽と戦慄)」以降のメタリックさ溢れるギターの質感が結実したアンサンブルが愉しめる楽曲です。いっぽうで、そのシャッフルさあるリズムセクションが心地良く、ただメタリックさが醸し出すアンサンブルとならないクオリティが素晴らしいですね。
4「Providence」は、ヴァイオリンのフレーズで幕を上げ、5thアルバム「Larks’ Tongues in Aspic(邦題:太陽と戦慄)」以降のアルバムで見受けられるサウンド・コラージュさもある即興性さが、名曲「Moonchild」以上に緊張感や切迫さを伝える楽曲です。楽曲後半で展開される刺々しいギターと唸りをあげるラウドなベースによる暴力的ともいえるインプレゼーションが醸し出す切迫さは、楽曲「Fracture(邦題:突破口)」(前作「Starless And Bible Black(暗黒の世界)」収録)が醸し出す威圧感までといかないまでも、「静」が楽曲「Trio」でいえば、その「動」ともいえる楽曲全体の構成を想起させてくれます。
最終曲「Starless」は、1stアルバム「In The Court Of The Crimson King」の楽曲(「Epitah(邦題:墓碑銘)や「The Court of the Crimson King(邦題:クリムゾン・キングの宮殿)」を彷彿とさせる楽曲ですが、メロトロンが効果的に扱われているだけでなく、叙情性溢れる唄メロのパートで時に儚げに、ジャズのエッセンスあるインプレゼーションで時に激しく、静と動のメリハリを効かせながら劇的に聴かせてくれます。「Starless And Bible Black」の一節でヴァースを結ぶJohn Wettonの歌声も印象的に、4分前後までのボーカルパートも含めた前半部にはノスタルジアが溢れています。そして、8分の13拍子による中間部では、ハイポジションで奏でるギターはGと#Fによる不規則なフレーズがサイレンのように木霊し、複数のエフェクトが乱雑に姿を現しては消え、不気味なアンサンブルを重ねては、次第に荒れ狂うギターは混沌さを魅せます。中間部よりサイレンのように木霊していたギターは遂に最後の時を迎えたかのように、複数のギターによる刺々しさのあるフレーズで感極まります。まるで、メーターがレッドゾーンに振りきれんばかりのアルバムの裏面ジャケットを想起させるかのように・・・。
その直後、9分10秒前後からIan McDonaldによるアルトサックスの独奏が聴かれます。楽曲のイメージが異なっていながらも、このアルトサックスのパートに、名曲「21st Century Schizoid Man」のサックスのフレーズを想起させるのは自分だけでしょうか。そして、10分前後からの前半部の叙情さ溢れるパート、10分30秒前後からの中間部を想起させるギターをメインとしたパート、11分20秒前後からの叙情さ溢れるパートのように、まるでジキルとハイドのように2つの顔(叙情さと激しさ)を短いタームで繰り返す手法には、いやがおうでも心を高揚させてくれます。また、名曲「Larks’ Tongues in Aspic, Part One(邦題:太陽と戦慄パート1)」(アルバム「Larks’ Tongues in Aspic(邦題:太陽と戦慄)」)の冒頭部のミニマルなパーカッシブさとはまた異なりながらも、当後半部のアルトサックスとギターをメインと各パートを支え、クロージングまでだれることなく、一気に聴かせてくれるには、ジャズ系のBill Bruffordによるテクニカルなパーカッションのプレイが冴えわたっていると感じました。前半部、中間部、後半部にわたる演奏には、King Crimsonの過去アルバムを含め、一世一代の気迫と緊張感に満ち溢れています。そう、楽曲がクロージングを迎えた頃には、メーターは0に戻るのではなく、完全に振りきれてしまったかのように。
当アルバムは、1969年当時の音楽シーンを考えれば、そのサウンド・メイキングやクリエイティブが衝撃的でもあった1stアルバム「In The Court Of The Crimson King」とも双璧を成すクオリティではないかと思います。2000年代以降のKing Crimsonのサウンドのメインのエッセンスを魅せる「Red」のメタリックさや、最終兵器とも形容しがたい「Starless」だけがアルバムの全てではないことは、聴いた方には伝わるでしょう。「混乱こそ我が墓碑銘(Confusion will be my epitaph)」も「星なき厳粛なる暗黒(Starless And Bible Black)」にすべても覆われるぐらいにトリオ編成による高密度なアンサンブルが聴けます。
[収録曲]
1. Red(レッド)
2. Fallen Angel(邦題:堕落天使)
3. One More Red Nightmare(邦題:再び赤い悪夢)
4. Providence(邦題:神の導き)
5. Starless(スターレス)
1stアルバム「In The Court Of The Crimson King」以降、King Crimsonの実質叙情性プログレッシブ・ロック時代の終焉でもありますが、その抒情性よりも、特に攻撃性に関して濃厚にも切迫さや緊張感が聴きたい方にはおすすめです。聴けば聴くほど、巷に溢れるKing Crimsonを彷彿とさせるサウンドの源流を感じられるアルバムでもあります。
また、King Crimsonのフォロワー以外でも、John WettonのファンやDream Theatreを代表格とするプログレ・メタルのフォロワーにもおすすめです。
攻撃性のキーワードであるメタリックさが好きになった方は、1995年発表のアルバム「Thrak」、2000年発表のアルバム「The ConstruKction of Light」、2003年発表のアルバム「The Power To Believe」も聴いてみてはいかがでしょうか。
「Red」のおすすめ曲
1曲目は目「Starless」
静と動、抒情さと攻撃さを緊張感を持って聴かせてくれるのですが、その緊張感にも、あくまでイメージなのですが、楽曲全体を包み込む、これまでのアルバムをより大人びた楽曲へ仕立てたジャズ系のテンションとの融合が凄まじいことと、意識して聴くと驚きを隠せない8分の13拍子の中間部とテンポアップした後半部が叙情性のあるボーカルパートの前半部ともバランス良いテンションさがあるからです。
2曲目は冒頭曲「Fallen Angel」
哀愁という言葉には、どことなくしっとりさも連想させてくれるのですが、メタリックさのあるギターリフもある当楽曲にはドライな独特な感覚をアンサンブルに感じさせてくれるからです。King Crimsonが魅せるミディアムテンポのバラード調の楽曲にして印象的過ぎるからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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