プログレおすすめ:Genesis「Foxtrot(フォックストロット)」(1972年イギリス)
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最終更新日:2015/12/23
1970年代, GENESIS(5大プログレ), イギリス, フルート, メロトロン Genesis, Mike Rutherford, Peter Gabriel, Phil Collins, Steve Hackett, Tony Banks
Genesis -「Foxtrot(フォックストロット)」
第101回目おすすめアルバムは、イギリスのシンフォニック系のプログレッシブなバンド:Genesisが1972年に発表した4thアルバム
「Foxtrot(フォックストロット)」をご紹介します。
前作3rdアルバム「Nursery Crime(邦題:怪奇骨董音楽箱)」に引き続き、Peter Gabriel(ボーカル)、Tony Banks(キーボード)、Mike Rutherford(ベースギター)、Steve Hackett(ギター)、Phil Collins(ドラム)による5人編成でアルバムは制作されています。更にシンフォニックさの増した奥行きのあるサウンドを聴かせてくれると同時に、Peter Gabrielによる寓話的なイメージの歌詞やライブでの変装も向上しています。
アルバムタイトルは、イギリスの伝統的な4分の4拍子となる「Foxtrot」を意味していますが、綴り前半3文字をもじった「Fox」による「赤いキツネ」をアルバムジャケットで表現するのも洒落が効いていると感じられますが、Peter Gabrielはライブでもオペラ歌手のように「赤いキツネ」の被りものを装ってました。日本のビジュアルシーンの一端がプログレ隆盛期の影響も受けているのではないかとも思いましたね。
いっぽうでアルバム全篇を聴けば、2ndアルバム「Trespass」でのクラシカルな器楽さや、3rdアルバムでの大胆極まりないシアトリカルさも、楽曲楽曲によって使い分けるだけでなく、1つの楽曲に共存させる構成力を感じさせてくれます。
アンサンブルもビジュアルもGenesisの最高傑作とも呼び声高いクオリティを魅せてくれます。
楽曲について
冒頭曲1「Watcher Of The Skies」は、King Crimsonに譲れ受けたことで有名なメロトロンで、何層も重ねた多重音による尊厳な響きと、フェードインするタイトなリズムセクションのイントロにただただ圧倒されそうになります。また、「The Knife」(2ndアルバム「Trespass」収録曲)や「The Mugical Box」(3rdアルバム「Nursery Crime」収録)と云った代表曲では、刺々しくもクールで大胆なアプローチのあったギター・ソロも、当楽曲では3分30秒や5分5秒前後での数秒のギター・ソロにあるとおり、楽曲の1つのアクセントに感じられるぐらいに、オルガンとベース・ギターのリフも含め、よりシンフォニックさのある楽曲として仕上げられていることによるからかもしれません。それでもなお、6分20秒前後からクロージングにかけて、イントロでも強烈な印象を与えたメロトロンがアンサンブルに加わると楽曲の様相が一変します。空は「Sky」の一人称なのに、「Skies」と複数形と捉え多くの空(=宇宙)を監視する人がいるように、これまでになく奥行きのある展開なんです。
2「Time Table」は、他5大プログレバンド(King Crimson、Yes、Pink Floyd、Emerson, Lake & Palmer)にはない、ブリティッシュらしさのあるGenesisの特徴である気品さが溢れています。もしも既に「忘れ形見」的なアルバムとなる1stアルバム「From Genesis To Revelation(邦題:創世記)」との共通を見出そうとするのであれば、この気品さという点で、Peter Gabrielのボーカリゼーションや、ピアノとチェンバロも含めたアンサンブルには、クラシカルさもあるバロック調の器楽さを感じずにいられません。
3「Get’em Out By Friday」は、「The Return Of The Giant Hogweed」や「Harold Barrel」(ともに前作3rdアルバム「Nursery Crime」収録)と同様に、シアトリカルさを発揮するるPeter Gabrielのボーカリゼーションが印象的な楽曲です。ただ、8分の6拍子に移行する4分15秒前後からのオルガンとメロトロン・フルートによる静寂さも伴う幻想感溢れるアンサンブルによる当パートは小休止のパートの印象に留まらず、その後に続く声色をいくつも変化させ、よりオペラチックに聴かせるPeter Gabrielのヴァースとも繋がっていきます。7分30秒前後にオープニングの勇ましいアンサンブルのパートに立ち戻りますが、決して唐突な印象をもたせないのはシンフォニックさの完成度ではないでしょうか。
2「Time Table」のピアノの単音によるイントロがギターに置き換えられたかのようなイントロをもつ4「Can-Utility And The Coastliners」は、そればかりではなく、アンサンブルの中心をとるギターがアコースティックとエレクトリックを行き交う構成が魅力な楽曲です。特に、1分45秒前後のコーラスワークの断片とともにはじまるパートにはただただ恍惚となってしまいます。韻をふむようなハモンド・オルガンのフレーズに、アコースティック・ギターによるストロークとメロトロンが重なり合い、焦燥感をあおるように展開しながら、Peter Gabrielのヴァースの一節とともに、3分22秒から3分45分前後のパート(ハモンド・オルガンのリフと12弦アコースティック・ギターのレガートを効かせたアルペジオによるアンサンブル)には、「The Knife」(2ndアルバム「Trespass」収録曲)や「The Mugical Box」(3rdアルバム「Nursery Crime」収録)と云った代表曲とは異なる繊細さによる刹那さや哀愁さのある表現から感じえるサウンドスケープに、いつもぐっと胸が鷲掴みにさせれてしまうんですよね。
溜息をつく暇さえもたせない束の間の刹那さに呆然としてしまう
3分45秒前後からのリズミカルなタッチのハモンド・オルガンやヴァースによるアンサンブルがメルヘンチックさを感じさせてくれることで、心はいつも救われている気がします。
5「Horizon’s」は、2「Time Table」や4「Can-Utility And The Coastliners」の前半部のイメージに近しいバロック調の器楽さのあるギターソロの小曲です。Steve Hackettによるクラシカルなギターのフレーズ、タッチには清涼感とともに、叙情性のある演奏で張りつめた心を落ち着かせてくれますね。
そして、最終曲6「Supper’s Ready」は、Genesisの物語風のシアトリカルな楽曲として約23分にも及ぶ代表曲です。7つのパートから分かれていることからも分かるとおり、変拍子も多分に含み、起伏に富んだ構成です。かといって、唐突にも異なるテーマが突如表現されたり重ねたりという印象ではなく、怖いぐらいに緊張感がありながら統一させている構築美が素晴らしいんです。寓話をもとにした歌詞に、さらに、Peter Gabrielは妻の体験(霊感)を盛り込みながら完成させたと云われていますが、特に、その表現に顕著なのが、11分前後の第4パート「v)Willow Farm」や、第5パート「VI Apocalypse in 9/8」のフルートソロ以降のPeter Gabrielのヴォーカリゼーションでしょうか。前者はThe Beatlesのコーラスワークやビートのイメージにも近い曲調とともに、後者は無音調とともに、劇的な表現を魅せてくれます。どことなく憂いを帯びた印象がありながらも力強い歌声が楽曲を包み込んでいきます。そして、20分20秒前後からの最終パート「VII As Sure as Eggs is Eggs」は、第1パート「I Lover’s Leap」をスローテンポに抑え気味ながらも、ギターとオルガンをメインとしたアンサンブルに、ベースとドラムによるリズムセクションがドラマチックに奏でてくれます。特に、22分前後のギターとオルガンがユニゾンするようなイメージすらあたえるクロージング寸前までの展開は圧巻です。
次作アルバム「Selling England By The Pound(邦題:月影の騎士)」に溢れる気品さのあるアンサンブルのクオリティがあがった良質なアルバムでもあり、さらに、大作「Supper’s Ready」があることからGenesisの最高傑作に上げる人も少なくないアルバムです。
[収録曲]
1. Watcher of the Skies
2. Time Table
3. Get ‘em out by Friday
4. Can-Utility and the Coastliners
5. Horizons
6. Supper’s Ready
– I Lover’s Leap
– II The Guaranteed Eternal Sanctuary Man
– III Ikhnaton and Itsacon and Their Band of Merry Men
– IV How Dare I Be So Beautiful?
– V Willow Farm
– VI Apocalypse in 9/8 (featuring the delicious talents of Gabble Ratchet)
– VII As Sure as Eggs is Eggs (Aching Men’s Feet)
フォーク寄りからシンフォニックな展開が好きな方や、流麗で切なげなメロディラインが好きな方、もしくは、寓話的やミュージカルさなども含めた音楽感を愉しみたいという方にも、ぜひおすすめなアルバムです。
当アルバムでGenesisを好きになった方ならば、その音楽の一端(フォーク、ファンタジック、メロウ、シアトリカル、気品など)が散りばめられた、其々特徴のある荒々しさも魅力の前々作2ndアルバム「Trespass」と前作3rdアルバム「The Mugical Box」や、当アルバム以降、Phil Collinsボーカル期の1997年発表のアルバム「Wind & Wuthering」ぐらいまでもおすすめです。
アルバム「Foxtrot」のおすすめ曲
1曲目は、4曲目の「Can-Utility and the Coastliners」
楽曲のほんの1パートであるにも関わらず。3分22秒からほんの数秒間のパートを聴くたびに、Genesisを聴けて良かった。当アルバムに巡り合えて良かった。プログレッシブ・ロックに出逢えて良かった。といつも感じます。オルガンとメロトロン・フルートをメインとしたアンサンブルに、アコースティック・ギターのフレーズが素敵すぎです。
2曲目は、冒頭曲の「Watcher of the Skies」
オープニングとクロージングのメロトロンを利用した表現もさることながら、楽曲中の静と動の展開にバンドメンバーによる統一感のあるアンサンブルを強く感じさせてくれるからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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