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プログレおすすめ:YES「Drama」(1980年イギリス)

公開日: : 最終更新日:2015/12/02 1980年代, YES(5大プログレ), イギリス , , , , ,


YES -「Drama」

第86回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:YESが1980年に発表したアルバム「Drama」をご紹介します。
YES「Drama」
前作9thアルバム「Tormato(邦題:トーマト)」の制作・発表時にメンバー間に音楽性の相違が発生し、結果的に、ボーカルのJon AndersonとキーボードのRick Wakemanが脱退してしまいます。残されたメンバー(ベースのChris Square、ギターのSteve Howe、ドラムのAlan White)は、メンバー2名をも失ったことから解散かメンバーの補充かで、Yes歴史上、大きな転機を迎えることになります。

・・・唯一無比の高音域を活かしたボーカリゼーションのJon Anderson

・・・アルバム「Going For The One(邦題:究極)」で再加入したRick Wakeman

アルバム「Relayer」制作前よりも大きなプレッシャーが残されたメンバーにのしかかったと思いますし、当時のYesファンも不安な気持ちを抑えきれなかったのではないでしょうか。

そして、新メンバーにThe Bugglesのボーカル:Trevor Hornとキーボード:Geoffrey Downesを迎え入れます。

アルバム「Drama」は当時ザワメキとともにYesファンの目の前に提示されました。

賛否両論はあったかもしれない。それでも1980年代を生き抜くYesのポジティブな回答だったはず

楽曲について

冒頭曲「Machine Messiah(邦題:マシン・メシア)」は、SEがこだまし、Yes史上でもアタック強く効かせたディスト―ションで張りのあるギターフレーズがうなり、不穏な空気がイントロを包みます。シンセのリフとともに爽やかなイメージへと移行し、唄メロのギターもコンプを活かしたライトなタッチのフレーズも聴かれます。ただ、前作「Tormato(トーマト)」の楽曲に垣間見えた「軽さ」とは異なるメロウさを感じるんです。イントロのギターには5大プログレバンド:King Crimsonのギタリスト:Robert Frippのプレイを連想してしまうし、ヴァース手前のギターのブレイクでは、今後、Steve Howeが加入するASIAでのギタープレイを予見するような、さらに7分前後ではThe Buggles風なイメージも感じえます。

また、最も注目していたボーカル:Trevor Hornの声質は、Jon Andersonほど高音域ではなく、韻を踏む発音に近しいところがあるものの、わずかなハスキーさの印象でした。

前作「Tormato(トーマト)」にはない、Yesのアクティビティを強く感じる良質な楽曲と感じましたよ。

2「White Car(邦題:白い車)」は、The Buggles風な前半部から、ボーカルがJohn Payneの第2期ASIAで聴かれたミディアム曲に垣間見えたGeoffrey Downes色が強い哀愁あるスローな後半部が聴ける小曲。ASIAの楽曲で良く聴くフレーズを想定し、この小曲が短くも完成版としてリリースされてしまったことに、もっと尺を長く創作して欲しかったと溜息ついてしまいます。

3「Does It Really Happen?(邦題:夢の出来事)」もこれまでにないYesの楽曲として、1991年のアルバム「Union」以降の楽曲に
見受けられるリズムチェンジを活かし、器楽的にプレグレを落とし込んだ楽曲。The Bugglesによるエレクトロニクポップともいうべき要素がブレンドしたメタリック感があり、「Heat Of The Sunrise(邦題:燃える朝焼け)」に代表される切迫さのあるテクニカルな楽曲とは異なる印象ですね。Chris SquireとAlan Whiteによるリズムセクションもきっちりとしており、この張りの良さにYesのアクティビティが活性化されたと感じました。特に、Chris Squireのベースのアタックはゴリゴリの質感は違うがとても元気に感じるんです。

タイトなリズムでシンコペーションを活かしたイントロが印象的な4「Into the Lens(邦題:レンズの中へ)」は2「White Car(邦題:白い車)」の後半部のように哀愁のあるヴァースの唄メロが印象的なんです。The Bugglesのヒット曲「Video Killd The Radio Star(邦題:ラジオスターの悲劇)」よりもスマートな哀愁さを感じてしまいます。この楽曲の良さは、翌年1981年に、Trevor Hornが「I Am A Camera」としてThe Buggles名義で発表していることからも物語っているでしょう。曲後半のTrevor Hornによるヴァースに、Steve Howeのギターが呼応するかのようにギターフレーズが絡む様が素敵ですね。

4「Into the Lens(邦題:レンズの中へ)」の曲調に委ねるようにはじまる5「Run Through the Light(邦題:光を越えて)」は、ベース、ギター、キーボードがそれぞれに交錯しうる不思議なフレーズを重ねるアンサンブルが印象的です。当アルバムでも最も空間を活かした楽曲であり、これまでのYesでは異色の部類ではないでしょうか。違和感なく聴けてしまうのはアルバム全篇にわたるサウンド・メイキングの妙によるものと思います。

最終曲6「Tempus Fugit(邦題:光陰矢のごとし)」は、フライジングしたギターを活かしたパッキンシュなロック楽曲で、どことなくフュージュン要素も含み、Yesの過去の名曲に代表される切迫さとは異なるスリリングなアンサンブルです。当アルバムで最も前作「Tormato(邦題:トーマト)」寄りな楽曲ではないでしょうか。たとえば、同イギリスのStingが所属していたバンド:Policeが1981年に発表したアルバム「Ghost in the Machine」の挿入歌となっていても遜色なく聴けます。

Yesは、前作「Tormato(トーマト)」で新しいYesサウンドを模索しアプローチしています。そして、当アルバムでは、新メンバーであるThe Bugglesの2人が、YES外部から客観的に感じたクリエイティビティをこうだ!と言わんばかりに、いっぽうで従来のメンバーは刺激を受け、アクティビティ溢れるYesサウンドが産まれたのではないかと感じました。

もしも過小評価されたアルバムなら、くつがえしたいと感じるアルバムですね。

[収録曲]

1. Machine Messiah(邦題:マシン・メシア)
2. White Car(邦題:白い車)
3. Does It Really Happen?(邦題:夢の出来事)
4. Into the Lens(邦題:レンズの中へ)
5. Run Through the Light(邦題:光を越えて)
6. Tempus Fugit(邦題:光陰矢のごとし)

1978年発表アルバム「Tormato(邦題:トーマト)」よりも、いくぶんファンタスティックさが溢れ、スマートなキャッチーさもある1977年発表アルバム「Going For The One(邦題:究極)」の楽曲の印象に近く、それでいてTrevor HornとGeoffrey Downesの所属バンド:The Bugglesの曲調のようにPOPさもあります。その後、Geoffrey DownesとSteve Howeが加わるバンド:ASIAの楽曲群にリンクするプロトタイプな印象も感じえます。

1977年発表アルバム「Going For The One(邦題:究極)」や、テクニカルさよりもプログレッシブ・ロックのスキルをさりげなくもコンパクトに纏めたヒット曲、ヒットアルバムを出すASIAなどを好む方におすすめです。

時を越えた「Fly From Here」で想う

当時、アルバム「Drama」に収録予定だった楽曲「We Can Fly From Here」はライブでしか演奏されませんでした・・・。

そして、21年の時を経て2011年発表のアルバム「Fly From Here」のタイトル楽曲「Fly From Here」の約23分にも及ぶ大作の一部「We Can Fly」として発表されます。当アルバム「Drama」のボーカルは、これまでのアルバムで唯一無比ともいうべき存在のJon AndersonではなくTrevor Hornでした。アルバム「Fly From Here」もまた同様に、その前作アルバム「Magnification」でボーカルを担当したJon AndersonからBenoit Davidへ変わっていました。当アルバム「Drama」の次アルバム「90125」からアルバム「Magnification」までのボーカルがJon Andersonであったことを考えれば、アルバム「Drama」と「Fly From Here」はYes史上重要な位置付けのアルバムといえるのではないでしょうか。

Jon AndersonとRick Wakemanが不在ということや、時代に変革しようとしたYesの音楽性は、Yesファンをはじめとするプログレッ
シブ・ロックファンに当時賛否両論で迎え入れられたそうです。

2010年のプログレッシブ・シーンに、唯一無比の存在であるJon Anderson不在で発表したアルバム「Fly From Here」に対し、逆に、時を遡ること1980年代のプログレッシブ・シーンへの回答ともいうべきアルバム「Drama」にあらためて想いを馳せるのはいかがでしょうか。

2015年現在は、1970年代ほどプログレッシブ・ロックは隆盛した時代ではないと思います。多種多様なロックバンドがプログレッシブ・ロックにクロスオーヴァーすることで素晴らしいプログレッシブ・ロックの「財産」が残されていますが、本来プログレッシブ・ロックを奏でていたYesに代表されるバンドが、時代時代の音楽の変革に合わせて、変貌をし続けてきたことがどれほど素晴らしい「プログレシッブ」なのか、感じ聴き続けたいです。

アルバム「Drama」のおすすめ曲

1曲目は5「Into the Lens(邦題:レンズの中へ)」
Yesのこれまでにない哀愁ある唄メロが新鮮でした。曲後半のTrevor Hornによるヴァースと、Steve Howeのギターが呼応するかの
ようなギターフレーズは冗長せず、穏やかに疾走するイメージにも刹那さを感じて素敵です。
The Bugglesのバージョン「I Am A Camera」はよりしっとりしたアレンジで必聴です。

2曲目は2「White Car(邦題:白い車)」
後半部の哀愁のある唄メロが短いがゆえに、ASIAの楽曲で同様な唄メロを連想する曲を聴いてはいろいろと考えてしまいます。完全なる尺の楽曲なのか完成版を聴いてみたいと。Geoffrey Downesの1992年発表のアルバム「Vox Humana」でボーカル楽曲としてセルフカバーしています。アルバムの12曲目にあたり、次に続く13曲目のラスト楽曲「Adagio」(アルビノーニのアダージョ)への序曲として印象的なのですが、それも本来の位置づけではないと感じてるんです。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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