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プログレおすすめ:La’cryma Christi「Sculpture of Time」(1997年日本)

公開日: : 最終更新日:2016/01/11 1990年代, 日本, 関連プログレ[日本]


La’cryma Christi -「Sculpture of Time」

第52回目おすすめアルバムは、日本のロックバンド:La’cryma Christiが1997年に発表したメジャー第1弾となる1stアルバム「Sculpture of Time」をご紹介します。

La'cryma Christi「Sculpture of Time」

ヴィジュアル系の皮を被ったプログレッシブさ

La’cryma Christiは、1994年に、TAKA(ボーカル)、HIRO(ギター)を中心とし、KOJI(ギター)、SHUSE(ベース)、LEVIN(ドラム)の5人で結成された、その名が「キリストの涙」に由来するバンドです。

当時のオリコンで初登場8位を記録した当アルバム「Sculpture of Time」は、1998年に発表された次作アルバム「Lhasa」とともに、個人的に、1990年代後半の日本のプログレッシブ・ロックに於いて、有数のアルバムと思ってます。そのクオリティは、ロックシーン、とりわけ、当時ビジュアル系で「ビジュアル系の四天王」と云われていたバンドの印象とは思えないぐらいのクオリティさえ感じるのです。そして、どれほどの聴き手にプログレッシブ・ロックとして捉えられていたのだろう?と考えさせれます。1998年に発表となるシングル曲「In Forest」など、マイナー調の疾走感のある楽曲が好きでしたが、同時期に聴いていたLuna Seaと同様にヴィジュアル系の皮を被ったアンサンブルを感じずに入れません。

オリエンタルな風情とミステリアスさによる統一感

アルバム全篇、3つのシングル曲(「Ivory trees」、「The Scent」、「南国」)など、キャッチーなメロディがある楽曲がありながらも、5大プログレバンド:YesやカナダのRushに代表される変拍子やリズムチェンジを多用し、フュージュン系も盛り込んだプログレッシブ・ロックのエッセンスが溢れています。

そのキャッチさとプログレッシブ・ロックのバランス感覚だけでなく、忘れてならないのは、南国や地中海などをイメージさせるような、暖かみのある雰囲気と異国情緒さ漂うサウンド・メイキングの統一感を感じてしまう点でしょうか。テンション・コード、モードスケールを駆使したギターのフレーズが随所に盛り込まれ、オリエンタルな風情とミステリアスさを感じます。

楽曲について

冒頭曲1「Night Flight」は、ボードビル調でいてコミカルな世界観を感じさせる数秒間から、2台のギターをメインとしたアンサンブルへ切り替わり、メルヘンチックさやオリエンタルさなど、La’cryma Christiらしさが溢れた楽曲です。大らかなメロディラインにシングル曲のようなキャッチさがありながらも、随所にリズムチェンジを挟みつつ、アルバム冒頭曲からして「ビジュアル系の四天王」と捉えられることに「何か違わないか?」と十分なインパクトが感じられます。

3rdシングルとなった2「南国」はサビなども含めシングル曲となったことも頷けるキャッチさに溢れていますが、2分24秒前後からのギター・ソロ、左右のPANを巧みに利用したコンビネーション、ギター・ソロ後のサビでのアンサンブルで聴かれるギターのフレーズには、プログレッシブ・ロックのエッセンスとともに、ギター・テクニックと云う点でスキルフルさを感じずにいられません。

3「Sanskrit Shower」は、サビの開放的な唄メロも印象ながらも、和訳である「にわか雨」の一瞬一瞬さを想起させるように、当アルバム中で最もプログレッシブさを濃厚に感じる楽曲です。ツイン・ギターによるヴァースやサビのコンビネーションは前2曲よりも複雑に絡み合うアンサンブルだけでなく、2分30秒前後からのギター・ソロは、ディレイを利用したプレイから変拍子とリズムチェンジを多用し、24連符の高速フレーズも盛り込み、聴きどころの1つです。

また、歌詞の一節「ふられて流れる雲を感じてる」に、楽曲のテーマから「雨に降られて」と「恋に振られて」によるダブル・ネーミングに聴こえてしまうんです。テクニックやスキルフルなだけでなく、プログレッシブな感性を代表するLa’cryma Christiの楽曲と思います。

1stシングルとなった4「Ivory trees」は、ギターによる小刻みなフレージングのストロークで幕を上げ、カッティング、リフ、ワウを活かした左右のギターによるアンサンブルで展開していく楽曲です。キャッチなサビのメロディまで突き抜けていくような2台のギターのアンサンブル、2分15秒前後からの間奏のギターのプレイなど、爽快さを感じる楽曲のイメージはたまりません。そして、4分前後からのギター・ソロに続き、4分15秒前後からのアコースティックなエンディング・パートで楽曲はクロージングします。

5「Angolmois」は、3「Sanskrit Shower」と同様にプログレッシブなエッセンスが溢れていますが、陰鬱さ、ダークさ、ヘビーさを伴うスローテンポの楽曲です。拡声器を通じたかのようなボーカリゼーションやノイジーさあるアンサンブルとともに、いっぽうで、静寂さと、音と音の狭間の無音による効果には、楽曲のテーマであるクローン人間を意識したような「無意識さ」を表現しているように思えてなりません。

6「Letters」は、前曲5「Angolmois」のヘビーで重苦しくずっしりとした質感さから一転し、イントロやクロージング直前のギターのフレーズや名曲「In Forest」を予見させるかのようなコーラスワークやヴァースの唄メロのメロディラインにギャップを感じてしまいます。ただ、明るくメロディックさに溢れていても、楽曲のテーマが『不倫のはじまり』と云うらしい点と、2分15秒前後からのスロー・ワルツへのリズム・チェンジや変拍子による続くギターの旋律とエンディングのパートでのプログレッシブな展開に一筋縄ではいかないLa’cryma Christiのクリエイティビティに溢れてます。

7「偏西風」は、変拍子を多用しクリーントーンによるギターのアルペジオとディスト―ションを効かせたギターのリフがリードし、楽曲全体でプログレッシブな感性が映える楽曲です。アルバム中では「過ぎ去った恋に思いを寄せる」イメージを楽曲タイトルの「偏西風」にかけ合わせた歌詞感を表現するかのような物悲しい唄メロのメロディラインにも、歌詞にもある「蜉蝣」さを表現しているかのような幻想さやエンディング直前のツイン・ギターならではのユニゾン・プレイがたまりませんね。キーボードを一切利用せずに、2台のギターとベースとドラムによるリズムセクションとのアンサンブルで、これほどまでにイメージに富む表現力が素晴らしすぎます。

8「ねむり薬」は、アグレッシブさよりも楽曲全体でスイング感が子守唄のように展開する楽曲です。ギターによる静と動を意識したアンサンブルに、名曲「カリブで生まれた月」を想起させるような奥行きさもあり、歌詞の一節「白夜の鳥かご」ってなんなんだろう?とふと考えつつ、ワルツのリズムに身を委ねながら、ただただ聴き入ってしまう楽曲です。一瞬の無音後(5分45秒前後)に転調し繰り広げられるギターのプレイとベースの短いブレイクにも、子供のコーラスによるクロージングは微笑ましく、ほっこりとさせてくれます。

6「Letters」と同様に、ギターのアンサンブルや唄メロのメロディックさに爽快さが溢れ2ndシングルになった9「The Scent」に続く最終曲10「Blueberry Rain」は、リズム・チェンジとテンポ・チェンジに富むアルバムの全楽曲を象徴するかのような展開が聴ける楽曲です。ワウを効かせたギターのフレーズによるイントロ部からはじまるヴァース、インストルメンタルのパートなどは、3分前後のパートを皮切りにめくるめくリズムやテンポがチェンジしていきます。そして、最後のリズム・チェンジ後、5分5秒前後の歌詞の一節「ナイトフライトに行こうよ」ではアルバム冒頭の1「Night Flight」が脳裏をよぎりつつ、ミディアム・テンポに2台のギターによるクロージング・ソロが聴けます。

アルバム全篇、キーボードで表現しうるだろう旋律でさえキーボードを一切利用せず、ギターを中心としたアンサンブルだけで表現する演奏力で感じる音の繊細さや緻密さは、リズム・チェンジや変拍子と云ったプログレッシブ・ロックのテクニックだけではないクリエイティビティの高さを感じずにいられないLa’cryma Christiのプログレッシブ・ロック期の代表的なアルバムです。

[収録曲]

1.Night Flight
2.南国
3.Sanskrit Shower
4.Ivory trees
5.Angolmois
6.Letters
7.偏西風
8.ねむり薬
9.THE SCENT
10.Blueberry Rain

ピアノやシンセなどの鍵盤による演奏は一切なく、ツイン・ギターとベースの奏でるテクニカルな演奏に、YESやRushを想起してしまう瞬間があるかもしれません。そんな演奏スタイルが好きな方にぜひおすすめです。

ヴィジュアル系と先入観なくぜひ聞いて欲しいそんなアルバムです。

当アルバム「Sculpture of Time」でLa’cryma Christiを好きになった方には、インディーズで1996年に発表されたミニアルバム「Dwellers of a sandcastle」や、1998年に発表された次作2ndアルバム「Lhasa」もおすすめです。4thアルバム「&・U」以降はプログレッシブ色が薄れていきますが、ギターを中心としたテクニカルな演奏で聴かせるスタイルは変わりはありません。

ヴィジュアル系のバンドの認識から

1990年代後半、SHAZNA、FANATIC◇CRISIS、 MALICE MIZERとともに「ビジュアル系の四天王」と呼ばれていましたが、それはその外見の印象から与えられるものであり、よく類似しカテゴライズされたビジュアル系ハード・ロック・バンドとしての認識だったんじゃないかと思います。もちろんメロウな楽曲、「未来航路」や「With-you」など数多くのヒット・シングルがありながらも、たとえば、アルバム「Sculpture of Time」ではシングル楽曲が散りばめられながらも、リズム・チェンジや変拍子を交えた楽曲が多く、おそらく売れていた頃にはシングル楽曲やハイトーンなボーカルのヴォイスなどの印象が大きかったかもしれません。2010年代になって、一時期復活もありましたが、プログレッシブ・ロック色が強い本格的な復活を期待せずにはいられません。

アルバム「Sculpture of Time」のおすすめ曲

1曲目は、8「ねむり薬」
ワルツによるゆったりとしたテンポと、エンディング直前の子供のコーラスをまじえ子守唄を感じると同時に、アルバム楽曲中でも、もっともエモーショナルさを感じるギターの静と動を効かせた旋律が聴けます。

2曲目は、7「偏西風」
変拍子とリズム・チェンジによるテクニカルさ、当アルバム全体が醸し出すオリエンタルさに、さらに幻想さもあり、La’cryma Christiのバンドらしさ溢れた代表曲と思います。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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