プログレおすすめ:Keith Cross & Peter Ross「Bored Civilians」(1972年イギリス)
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最終更新日:2015/12/29
1970年代, イギリス, フォーク, フルート Caravan, Jimmy Hastings, Keith Cross & Peter Ross
Keith Cross & Peter Ross – 「Bored Civilians」
第47回目おすすめアルバムは、イギリスのフォーク系のデュオ:Keith Cross & Peter Rossが1972年に発表した唯一のアルバム「Bored Civilians」をご紹介します。
イギリスのプログレ・ハードロックなバンド:T2で活躍したギタリスト:Keith Crossが、シンガーソングライターのPeter Rossと組んだ唯一の作品です。T2在籍時のKeith Crossは、T2唯一のアルバム「It’ll All Work Out in Boomland」でかなりハードエッジに轟音なギターサウンドを聴かせてくれましたが、そのイメージとはかけ離れたギターによるアンサンブルが聴けることが当アルバムの特徴です(※T2在籍時のギタープレイについて詳しくは当ページの後半にて。)
T2在籍時にもアコースティックギターによるストロークを弾いていましたが、当アルバムではプログレ・フォーク然としており、ストロークだけでなく、1つ1つのフレットを意識したフレーズによるギター奏法も大きな特徴でしょうか。アコースティックギター基本2本をストロークとアルペジオに弾き分け、パート次第でエレキギター、ペダル・スティールが加わり、幾つものギターが重なり合うアンサンブルやソロの音像は本当に素敵なんです。たとえば、同国のロックバンド:Wishbone Ashのようなギターのオーケストレーションのようなイメージを想起させるんです。
楽曲について
冒頭曲1「The Last Ocean Rider」は、前述にあるデュオのギターのアンサンブルに、コーラスハーモニー、2番目のヴァースからのリズム隊、後半部のパートでの複数のギター、およびタンバリンが紡ぎ合うサウンドなど、このデュオの特徴が存分に聴けます。また、2人の歌唱は、ヴァースがPeter Ross、サビがKeith Crossではないかと想像し、以降の楽曲でも同様な構成が見受けられるんです。
冒頭曲を聴き終える頃にはデュオが紡ぎ合うクリエイティブさにうっとりしてしまう。
憂いを帯びた唄メロをアコースティックギターとクリシェを活かしたメロトロンが繊細で伴奏する2「Bored Civilians」、牧歌的であり原曲はSandy Denieeが唄うバンド:Fotheringayの唯一のアルバム「Fotheringay」の挿入歌のカバー曲3「Peace in the End」という小曲を挟み、当アルバムで大曲の部類に入る4「Story To A Friend」へと繋がります。
ジャージなピアノのイントロが印象的な4「Story To A Friend Side」はヴァースのボーカリゼーションばかりだけでなく、癖のある唄メロやワウを効かせたギターのリフなどからは、当アルバムが普通のブリティッシュ・フォークではなく、プログレ・フォークの括りであることを再認識させてくれます。間奏の2分30秒前後からは、同国のカンタベリーバンド:CaravanのJimmy Hastingsがフルートでゲスト参加し、印象的なフレーズを聴かせてくれます。ピアノ、パーカッション、ヴィブラフォンによる伴奏が聴ければ、そのJimmy Hastingsの存在やピアノの演奏スタイルも含め、カンタベリー風なジャズロックを堪能出来るのではないかと思います。フルートがメインのパートは6分前後まで続き、その後、8分30秒以降の後半部ではラテンっぽさを感じさせてくれるグルーブのインプレに、サックスのソロも聴けることで、冒頭曲1「The Last Ocean Rider」とは異なる心地で聴き入ってしまいます。
この4「Story To A Friend Side」を挟み、後半には、3分前後からの哀愁を帯びたコーラスを聴けば感傷的になってしまいそうなピアノ主体の楽曲5「Loving You Takes So Long」や、ギターとコーラスワークが主体の6「Pastels」など、ギターとピアノがそれぞれメインとする楽曲が並んでいます。
そして、最終曲9「Fly Home」はT2在籍時のKeith Crossが静のパートで奏でていたギターのストロークではじまる楽曲。「Fly Home」というワードを交えたコーラスワークに、2分過ぎから加わるオーケストレーションなど、どことなく霞みがかり淡々と進行していく様相は、モノトーンによるアルバムジャケット表紙にPeter RossとKeith Crossと思わしき2人が2つの道へ別つ背中からの構図やアルバムジャケット背表紙のセピア色でいて、2人が佇む姿を思い浮かべてしまい、アルバムの最終曲として相応しいサウンドスケープをみせてくれるんです。
センチメンタリズムや哀愁感が先行するジャケットですが、アルバム全篇を通じ、プログレ・フォークを基調に派生した様々な楽曲が聴ける素敵なアルバムなんです。
[収録曲]
1. The Last Ocean Rider
2. Bored Civilians
3. Peace In The End (Trevor Lucas & Sandy Denny)
4. Story To A Friend Side
5. Loving You Takes So Long
6. Pastels
7. The Dead Salute
8. Bo Radley
9. Fly Home
イギリスのmellow Candle、Renaissance、Keith Cross & Peter Ross、Heron、カナダのHARMONIUM、ドイツのCarol Of Harvestなどのブリティッシュ・フォークを想起させるプログレ・フォークなバンドのサウンドが好きな方におすすめです。
たとえば、イギリスのロックバンド:Winshbone Ashのようにプログレ・フォークのみならず、複数のギターの紡ぎ合いが好きな方にもおすすめです。
プログレ・ハードロックのバンド:T2で・・・
T2在籍時のKeith Crossは、T2の唯一のアルバム「It’ll All Work Out in Boomland」で、たとえば約22分にわたる最終曲4「Morning」に代表されるようにかなりハードエッジに効かせたギターサウンドを聴かせてくれます。そのギターのフレーズはサイケデリックを想起させるイメージさえありました。ただし、各楽曲にはアコースティックギターによる唄メロのヴァースのパートもあり、今思えば、その4「Morning」の冒頭から2分30秒前後までのヴァースや後半18分過ぎからほんの2分程度のヴァースには、楽曲全体とは対照的なアコースティックギターによる繊細な伴奏があり、当アルバム「Bored Civilians」に近しい世界観を持っているといえるかもしれません。
T2の楽曲にの静のパート(アコースティックギターとヴァースのみ)と、動のパート(轟音でいてハードエッジに効かせて、インプレの果てにはサイケデリックにも通ずるギター)はダイナミックな構成であり、こちらも必聴です。
アルバム「Bored Civilians」のおすすめ曲
1曲目は、冒頭曲1「The Last Ocean Rider」
このデュオの特徴がよく表現されていることや、後半部のクロージングまでのギターのアンサンブルが素敵です。
2曲目は、5曲目の「Loving You Takes So Long」
3分前後からの「anyway」哀愁を帯びた輪唱を交えたコーラスとメロトロン、そして4分以降の「ルルル」とも聴こえるコーラスがアルバム中で最も心を捉えて離れません。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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