プログレおすすめ:Astralis「Voces Del Bosque」(2009年チリ)
Astralis -「Voces Del Bosque」
第137回目おすすめアルバムは、チリのネオ・プログレ系のプログレッシブ・バンドの:Astralisが2009年に発表した2ndアルバム「Voces Del Bosque」をご紹介します。
Astralisは、1999年にボーカル兼ギタリストであるPatricio Veraをメインに、Sergio Heredia(ドラム、パーカッション)、Mauricio Arcis(ベース)、Mauricio Gaggero(キーボード)で結成された4人編成のバンドです。
イギリスのMarillonやPendragonに代表されるネオ・プログレ系のエッセンスを盛り込んだシンフォニック系のプログレッシブ・ロックがバンドの音楽性の特徴ですが、当アルバムでは、2006年に発表された1stアルバム「Bienvenida Al Interior」以上に、そして、4年後に発表される3rdアルバム「Fantasía de Invierno」よりも、そのネオ・プログレ系のエッセンスを濃厚に感じさせてくれます。
特に、モダンにもバリエーションが豊富なフレーズを聴かせてくれてキーボードの立ち振る舞いや、サスティーンを効かせた伸びやかさ、憂いと力強さを使い分けたメロディアスさ溢れるフレーズを奏でるギターとのアンサンブルが印象的なんです。
そして、スペイン語で唄われる唄メロと、南アメリカ大陸に位置するチリの地特有のラテン・フレーバーも合い間って、
憂いさと力強さをメロディアスに感じさせてくれる
溢れんばかりのアンサンブルを愉しめるアルバムと思います。
楽曲について
冒頭曲1「Voces Del Bosque」は、自然の音のSEとシンバルがこだまし、徐々にギターのフレーズが合わさっていく1分40秒前後の展開が印象的な楽曲です。1分40秒前後からはディスト―ションを効かせたギター、そして、ベースとドラムが高らかにアンサンブルに加わる展開は、瑞々しいシンフォニックさに溢れています。ヴァースにも躊躇いもなく晴やかさを讃えたように唄うPatricio Veraのボーカリゼーションも合い間って、ゆったりとし、あたたかみの印象もある楽曲構成です。5分30秒前後のギターとキーボードによるユニゾン・プレイには、ネオ・プログレ系のエッセンスが強く感じえますし、6分15秒後からのエンディングまでのギターのメロディアスなソロをメインとした展開は圧巻です。
まるで5大プログレバンドの1つ:Yesの名曲「Close To The Edge(邦題:危機)」を想起させる生命力さえ感じるんです。
そう、Yesの特徴ともいえるSteve Howeの刺々しさのあるフレーズのギター、Chris Squireのゴリゴリしたベース、Bill BrufordのJazz系で手数の多いドラムといったアンサンブルにあるテクニカルさを除いた感覚でしょうか。この冒頭曲だけでも、草木が茂り、河川に水が流れている風景を魅せてくれるアルバム・ジャケットの世界観を十分にサウンドスケープしてくれます。
2「Caminos Internos」は、タンゴ調のリズムを交えた楽器のアンサンブルに、ラテン・フレーバーが唄メロに濃厚に感じさせてくれる楽曲です。ディスト―ションの効いたギターには力強さがありながらも、3分前後からギターは速弾きを交えながらもメロディアスなギターのフレーズを聴かせてくれます。ネオ・プログレ系にもある憂いや哀感もあるフレーズでエンディングを迎えます。
3「Los Pasantes」は、2「Caminos Internos」よりも行進曲のようなドラムのリズムが印象的なインストルメンタルの楽曲です。楽曲全体のリズムに合わせギターとキーボードが奏でるフレーズもリズミカルさを交えながらも、憂いさも含むメロディアスな展開は他楽曲とも同様です。まるで森林の奥深くサーカスの一団が陽気にも活動しているかのように終始あたたかみアンサンブルは、ポップな唄メロのメロディラインをもつ4「Nectar De Luz」と同様に、自然と心に微笑ましくなりながら聴き込んでしまいます。
5「Estas Aqu」は、他楽曲と異なり物憂げでアンニュイさもあるギターのフレーズで幕を上げる約13分にも及ぶ楽曲です。ギターの一定のシークエンスのフレーズに、呼応するフレーズやマーチ風のフレーズを聴かせるドラムも印象的です。3分30秒前後からの憂いを帯びたギターのソロ、5分前後からのパイプオルガンの音色を奏でるキーボードと焦燥感をあおるボーカリゼーションによるヴァースのパート、6分50秒前後からの直前までのボーカルに呼応するかのようなハードなエッジを効かせるギターのダイナミックなパート、8分前後からのささくれだったギターのフレーズなど、サイケデリック/スペース系よりも洗練されたスペースさのある物憂げな楽曲全体で、メロディアスさを活かしつつ、徐々に狂気じみたアンサンブルを重ねる展開には、他楽曲と比べてしまうと、ただただ圧倒されますね。
最終曲6「Saraswati」は、冒頭曲1「Voces Del Bosque」と同様に自然のSEがオープニングで印象的な約10分の楽曲です。前曲5「Estas Aqu」の様相も覚めぬままに、1分前後からはまるで5大プレグレバンドの1つ:Pink Floydを彷彿とさせるギターのフレーズや、スペースを活かした浮遊さで聴かせてくれます。イギリスのミュージシャン:Ian McDonaldの楽曲を彷彿とさせる唄メロの哀感さや、5分30秒前後からのスパニッシュさ溢れるつづれ織りのギターのフレーズや、7分30秒前後や8分30秒前後からのギターのパートなども含め、どこまでも刹那さ果てなく溢れ、心掻き毟られそうな想いになってしまいます。そして、自然のSEとともに、アルバムはクロージングします。
冒頭曲1「Voces Del Bosque」と最終曲6「Saraswati」がともに自然のSEを交えながらはじまるものの、コントラストを成すギターとキーボードとのサウンド・メイキングが冴え、アルバムの最初から最後まで聴くことで、アルバム・ジャケットから連想する感覚を覆されてしまうアルバムです。その他楽曲も含め、どちらかというとアルバムのタイトル「Voces Del Bosque」の和訳「温帯および寒帯低木林の声」が似つかわしいアルバムかもしれません。
ボーカルの唄メロ以上に「唄う」ギターのフレージングとバリエーション豊かなキーボードの音色に、バンドが表現しようとした音の世界観にただただ耳を傾け、サウンドスケープに浸りたいと思わせてくれるアルバムです。
[収録曲]
1. Voces Del Bosque
2. Caminos Internos
3. Los Pasantes
4. Nectar De Luz
5. Estas Aqui
6. Saraswati
Pendragon、Pallas、Marillionといったネオ・プログレ系のプログレッシブ・バンドを好きな方におすすめです。
また、シンフォニック系のエッセンスでいう冒頭曲1「Voces Del Bosque」でのYes、最終曲6「Saraswati」のPink Floydを彷彿とさせる演奏には、それぞれのバンドを好きな方にもいちどは触れて欲しいとも思いますし、唄メロ以上に「唄う」ギターを中心としたシンフォニック系のプログレッシブ・バンドを効きたい方にもおすすめです。
アルバム「Voces Del Bosque」のおすすめ曲
1曲目は冒頭曲1の「Voces Del Bosque」
「生命力」と「希望」を感じさせてくれるサウンドスケープには、晴やかな気持ちになりたい時にぜひ聴きたいと思わせてくれた楽曲だからです。
2曲目は最終曲6の「Saraswati」
「絶望感」と「刹那」を感じさせてくれるサウンドスケープには、どうしても中で迷った時に、他のことに触れたくない心地を楽曲で穴埋めするか如く、楽曲に心掻き毟られそうな想いになることでかえって安堵を憶えるような気持ちにさせてくれそうな楽曲だからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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