プログレおすすめ:Zartong「1st Album」(1978年アルメニア)
Zartong -「1st Album」
第177回目おすすめアルバムは、アルメニアのプログレ・フォーク系のプログレッシブ・ロックバンド:Zartongが1978年に発表した1st同名アルバム「Zartong」をご紹介します。
Zartongは、1978年後半に、アルメニア人のLorys Tildian(kematcha、ボーカル)、Richard Tanelian(ドラム)、Franck Tildian(ベース)、Stepan Akian(santour、シンセ)の4人で結成されたバンドです。当アルバムは、2015年現在唯一のスタジオアルバムとして、1978年にフランスのレーベルから発売されてます。
バンドの特徴は、東欧とも西アジアにも分類されるアルメニアの地特有のメロディ感を活かしたプログレ・フュージュンにも通じるようなプログレ・フォークのエッセンスです。
イランのペルシア伝統の打弦楽器santourと弦楽器kematchaが奏でるエスニックな音色の数々は、その後、中東を介しインドまで伝わっていく伝承楽器は、インドのシタールやタブラとも同様なイメージのままに、音楽性そのものもラガー・ロックや1960年代後半のサイケデリックさも仄かに感じさせてくれます。
ペルシア伝承の楽器の旋律が鮮やかにオリエンタルな雰囲気を醸し出すフォーク
な1枚としてぜひ聴きたいアルバムです。
楽曲について
kematchaがメインのテーマを奏で、santourとリズムセクションではじまる冒頭曲1「Dzamone(Part.1)」は、そのオープニング約1分前後のアンサンブルが醸し出すラガー・ロックともサイケデリックさがまさにアルバム全体の楽曲のイメージを象徴していると思います。続く2「Dzamone(Part.2)」のビート感もあるロックな展開と移行しますが、ヴァースでのリフレインを活かした独特なボーカルのメロディ、kematchaとsantourが絡み合うアンサンブルの独特さが特筆難いですね。
シンセが旋律を拡げる3「Parhelie」でさえ、後半部でもkematchaとsantourがポイントを抑えたかのようなスキルフルなフレーズを聴かせてくれます。特に、ヴァイオリンの音色で響かせてくれるkematchaの旋律は、オリエンタルなムードを讃えながらも、優雅さと云う言葉が似つかわしです。5「Prosopopee」では、楽曲後半部でのメンバーによるスキャットもアクセントに、そのkematchaがsantourやベース・ギターとともにアルバム中で最も優雅なアンサンブルです。優雅さだけでなく、どことなく儚くても不安定さあるサウンドスケープも感じてしまう独特な世界観なんです。
ベースのビートを活かしたシンセ、および男性のスキャットを中心とした5「I Verine(Part.1)」と6「I Verine(Part.2)」に続き、7「Toy Narguiz」ではsantourをメインとしたアンサンブルに、絡み合うkematchaの旋律の妙と、5と6に立ち返るビート感など、楽曲1つ1つを独立した楽曲として捉えるのではなく、組曲以上に、自らのセールスポイントとなる楽器の旋律の妙を活かした構成美を強く感じます。
モダンなビートを予見したような感覚も交えたロックテイストの8「Eveil」や9「Kele Kele」に続き、浮遊さやサイケデリックさを満喫出来る11「Dele Yaman」を、10「Armenian Hore(Part.1)」と12「Armenian Hore(Part.2)」のパターンが異なる民族舞踊をロックテイストにしたような魅惑的な楽曲で挟み込み、そのまま最終曲13「Hoy Nazan」へと雪崩込む展開は圧巻です。
アルバム全篇、ハードエッジなギターの演奏は見受けられず、kematchaとsantourの2つの楽器が醸し出すアルメニアの地独特のメロディが冴えわたります。シンセやフランジャーがかかったアタックの強いベースがアンサンブルに加わることで、当バンドの独自性を強く感じさせてくれますね。たった1枚だけのリリースに、2枚目以降、どのようなプログレッシブな展開を魅せるアルバムを制作してくれるのかと想いを馳せてやみません。
[収録曲]
1. Dzamone(Part.1)
2. Dzamone(Part.2)
3. Parhelie
4. Prosopopee
5. I Verine(Part.1)
6. I Verine(Part.2)
7. Toy Narguiz
8. Eveil
9. Kele Kele
10. Armenian Hore(Part.1)
11. Dele Yaman
12. Armenian Hore(Part.2)
13. Hoy Nazan
ペルシャの民族楽器kematchaとsantourをメインに利用した独特なアンサンブルに、ラガー・ロックやサイケデリックさのキーワードに気になったらぜひ聴いてみて下さい。フュージュン系やサイケデリックさのエッセンスも感じてしまうため、巷に溢れるプログレ・フォークのエッセンスだけをイメージしてしてしまうと、違和感を感じてしまうかもしれません。アルメニアから発進するプログレ・フォークと思い、聴いてみることをおすすめいたします。
また、個人的には、1968年のJane Birkin主演イギリス映画「Wanderwall」のサウンドトラックのようなラガー・ロック、サイケデリックさをイメージしてしまいましたし、また、アタックが強くフランジャーのかかったベースには、たとえばイギリスの著名なバンド:The Rolling Stonesの元ベーシスト:Bill Wymanの1970年代後半のプレイを彷彿させてくれました。聴き手によって、イメージするものは異なるかもしれません。
アルバム「Zarong」のおすすめ曲
1曲目は11曲目の「Dele Yaman」
当アルバムをプログレ・フォークだと一筋縄では抑えることが出来ない浮遊さはそれほどなくとも、ラガー・ロック寄りのサイケデリックさも感じさせてくれる楽曲だからです。4分40秒前後以降のsantourによるたたみかけるアンサンブルも素敵です。
2曲目は5曲目の「Prosopopee」
アルバム中で最もkematchaとsantourによる優雅さをサウンドスケープを魅せてくれるアンサンブルの前半部と、嘆願をしているかのように響く男性のスキャットによる不安げなパートの後半部が対象的で印象強く残るからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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