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プログレおすすめ:Pink Floyd「The Divison Bell(邦題:対)」(1994年イギリス)


Pink Floyd -「The Divison Bell」

第271回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:Pink Floydが1994年に発表したアルバム「The Divison Bell(邦題:対)」をご紹介します。

Pink Floyd「The Divison Bell(邦題:対)」
Pink Floydの12枚目にあたるスタジオ・アルバム「The Divison Bell(邦題:対)」は、1998年に発表されたライブアルバム「Delicate Sound Of Thunder」を挟み、1987年に発表されたアルバム「A Momentary Lapse of Reason(邦題:鬱)」以来、7年振りのアルバムです。

遡ること1985年にバンドのフロントマンであるRoger Watersがバンドを脱退し、制作された前作アルバム「A Momentary Lapse of Reason」は、著名なゲスト・ミュージシャンを迎えたことや、やはりRoger Watersに負うところが多かった詞作など、作り手としてのPink Floydとしても、聴き手としてのPink Floydにとっても、どこかしら感じることがあったと思います。

ですが、当アルバムでは、David Gilmour(ギター兼ボーカル)とNick Mason(ドラム)に、Richard Wright(キーボード)が正式なメンバーに復帰したこと、アルバム・ジャケットにも如実にコンセプト「人と人とがコミュニケーションが欠如することで起こる対立」をベースにした女性のPolly Samsonによる詞作がおのずと統一感をもたらすイメージを持ち合わせたこと、20年後の2014年に発表されるラストアルバム「The Endless River」のマテリアルともなる約20時間にも及ぶ音源のマテリアルが物語るように、質にも量にも充実した背景で制作されています。

Roger Waters脱退後、David Gilmour主導による2枚目のアルバムともなり、並々ならむ想いが込められたであろう

1900年代は最新のPink Floydのメロディアスで明朗さと奥行きあるサウンドに溢れた傑作アルバムです。

それは、たとえば、同じくイギリスの5大プログレバンドの1つ:King Crimsonが1995年に発表した傑作アルバム「Thrak」が、サイケデリック/スペース系さ漂うメタル・クリムゾンのモダンなサウンドと同様に、当アルバムもまた、当時のモダンなサウンドを意識しつつもPink Floyd特有のアトモスフェリックさと明朗なサウンドが、多くのプログレッシブ・ロックバンドに多大な影響を与えた思わずにいられないからです。

プログレッシブ・ロックの衰退期ともなる1980年代を超え、1990年代に遺した軌跡へぜひ耳を傾けていきましょう。

楽曲について

ノイジーなSEに導かれ始まる冒頭曲1「Cluster One」は、ほのかに鳴り響くオーケストレーションを挟み、1分50秒前後からは、Pink Floydのサウンドの特徴ともいうべき特有のシンセサイザーの旋律に、ギターとピアノが断片的なフレーズを交互に奏でていきます。Roger WatersではなくDavid Gilmour主導だからこそのささくれだった印象とは異なるアンビエント風のパートから、3分40秒前後からはギターとピアノが交互に奏で哀愁を帯びたテーマを構築していく様は、アプローチは違えど、ブルージーにも、ディープに沈み込むようなダークな世界観ではなく、ほどよい明朗さに溢れています。

David Gilmourのギターがメインに全篇インストルメンタルで展開する冒頭に、じわじわと感情を揺さぶらつつも聴き終えれば、何故か心穏やかに感じるのは、たとえば、アルバム「Animals」よりもアルバム「Wish You Were Here(炎)」や「A Momentary Lapse of Reason(鬱)」に近いアプローチをイメージ頂ければと思うのです。

2「What Do You Want From Me」は、ヘビーでブルージ―なメロディラインを際立たせるリズムセクション、女性によるコーラスワークなどのアプローチには、名曲「Money」(アルバム「Dark Side Of The Moon」収録)や楽曲「Have a Cigar」(アルバム「Wish You Were Here」収録)よりは痛々しさはなくとも、当アルバムの楽曲の中では、ロック的なシリアスさある楽曲です。

3「Poles Apart」は、アルバム「The Wall」でも一種の清涼さあるサウンド・メイキングを担っていたアコースティック・ギターのストロークをメインとしたアンサンブルに、スペース系を醸し出す奥行きさあるサウンド・メイキングと当アルバムならではのハートフルさに満ちています。2分前後からアンサンブルに加わるオルガンの旋律や、3分前後からのオーケストラやサーカスを想起させるサウンド・エフェクトは、サイケデリックさや不穏さというディープなサウンド・メイキングをアルバム全篇に通じる明朗としたサウンド・メイキングが程良く包み込むかのように、バランスの良いサウンド・クオリティを感じさせてくれます。

David Gilmourによる情感を讃えたギターのプレイが冴えわたるインストルメンタルな楽曲4「Marooned」は、グラミー賞ベスト・ロック・インストゥルメンタル部門を受賞しています。もちろんDavid Gilmourがメインテーマをギターで奏でるのが最大の聴きどころと思いますが、冒頭曲1「Cluster One」のようにギターと交互に繰り返す旋律ではなく、カウンターメロディが織りなし、楽曲のボトムを支えるかのようにキーボードをプレイするRichard Wrightの存在も大きいと思うのです。

5「A Great Day For Freedom」は、「壁が崩壊した日」をポジティブな気持ちで語る楽曲であれど、絶望や悲劇を感じさせてしまう失望さともとれるメロディラインは、その楽曲のテーマとは裏腹に、心を鷲掴みされそうな思いになってしまいます。ディープな沈み込む直前でいられることも不思議と思しき、ヴァースの唄メロに続くDavid Gilmourによるギターのプレイがクロージングへ向けてフェードアウトするまで伸びやかに響き渡ることで、救われた気持ちになってしまうのです。

続く6「Wearing The Inside Out」は、Richard Wrightがボーカルを取り、女性のコーラスワークと並奏するギターのプレイがミディアムに展開するは、5「A Great Day For Freedom」からの延長にも、3分前後からのテナー・サックスとギターによるソロのパートなど、よりアダルトタッチなサウンド・メイキングから、同じくイギリスのバンド:Alan Person Projectのミディアムテンポの楽曲を想起させてくれます。

シングルヒットとした7「Take Tt Back」は、Pink Floyd特有のディレイを効かせたギターのフレーズをベースとしたアンサンブルに、清涼さ溢れるメロディラインが聴ける楽曲です。初期のサイケデリック系のサウンド・メイキングや、名盤「Dark Side Of The Moon」や名盤「The Wall」などのシリアスさとは無縁の仕上がりで、一聴し、ふと脳裏を掠めたのは、同じくギターのアプローチをとるアイルランドのバンド:U2の楽曲です。モダンなテイストを取り込み、重苦しさを感じさせず、憂いさを微塵としない感覚は、次曲8「Coming Back To Life」のイントロへと通じていくかのようです。澄み切った青空を悠々と飛翔しているような爽やかさに、そのままアンビエントなサウンドによる第1ヴァースから、リズミカルな第2ヴァースな展開が聴ければ、2「What Do You Want From Me」のみが、当アルバムで異端のように思えてくるにちがいありません。

この8「Coming Back To Life」でのDavid Gilmourによるギター・ソロにも、他楽曲でのソロ・フレーズよりも明朗さに溢れ、温かみが素朴に心へ伝わってきそうです。

9「Keep Talking」は、前曲と、サウンドと云う面で「対」を成すかのように、1970年代のPink Floydのギターのアプローチに近いアンサンブル、ゲスト参加によるStephen Hawkingのヴォイス・サンプリング、刺々しくもブルージ―なギター・ソロ、そして、女性コーラスと掛け合いをするDavid Gilmourの唄メロなど、2「What Do You Want From Me」同様にシリアスな楽曲です。

10「Lost For Words」は、アコースティック・ギターとピアノをメインとしたアンサンブルの楽曲で、7「Take Tt Back」、8「Coming Back To Life」に続き味わい深いメロディラインが印象的な楽曲です。2分40秒前後から3分前後まで人の声によるSEを挟むも、4分前後からクロージングへ向けてのアコースティック・ギターのソロとともに、ふと、傑作アルバム「Atomic Heart Mother(邦題:原子心母)」のサウンドによる世界観が脳裏を横切ってしまうほど、どこまでも優しい気持ちにさせてくれます。

鐘の音に導かれはじまる最終曲11「High Hopes」は、5「A Great Day For Freedom」同様に、憂いを帯びたメロディラインが「過去の栄光に焦がれるかのように」問いかけるかのように綴られていきます。5分15秒前後からのDavid Gilmourによるギター・ソロはむせび泣くか如く奏でられクロージング直前にフェードアウトするも、鐘の音は楽曲を象徴するかのように終始鳴り響き、最後に役目を終えたかのように途絶えます。

アルバム全篇、過去のアルバムで感じられたサイケデリックさやシリアスさのエッセンスはあるものの、全篇を包み込むかののような明朗さを維持させたサウンド・メイキングが冴えわたる好アルバムと思います。

Roger Waters在籍時のディープすぎるほどの世界観を好むファンにとっては、その明朗さがバランスを保つアルバムのアクティビティを好めない方もいらっしゃるかと思いますが、David Gilmourのソロ扱い的なアルバムと一蹴せずに聴いて欲しい、素晴らしいアルバムです。

そして、最終曲11「High Hopes」の一節・・・

The grass was greener・・・The light was brighter

The taste was sweeter・・・The nights of wonder

With friends surrounded・・・The dawn mist glowing

The water flowing・・・The endless river・・・

と綴られ、20年後の2014年に発売されることとなるアルバム「The Endless River」のアルバム・タイトルと繋がることから、次に合わせて、アルバム「The Endless River」も聴きたいものですね。それが、デビュー当時のSyd Barrett在籍時のサイケデリック感やブルーズ感、その後のより洗練されてスタイリッシュなサウンドへ変貌した幻想感など、過去のPink Floydの様々なクリエイティブを散りばめていることは、故Richard Wrightに捧げられた以上に印象的過ぎます・・・。

[収録曲]

1. Cluster One(クラスター・ワン)
2. What Do You Want From Me
3. Poles Apart(邦題:極)
4. Marooned(邦題:孤立)
5. A Great Day For Freedom(邦題:壁が崩壊した日)
6. Wearing The Inside Out
7. Take Tt Back
8. Coming Back To Life(邦題:転生)
9. Keep Talking
10. Lost For Words
11. High Hopes(邦題:運命の鐘)

たとえば、スウェーデンのA Secret Riverなど、アトモスフェリックさよりもスペースや奥行きのあるサウンドを好きな方におすすめです。

Pink Floydであれば、アルバム「Wish You Were Here」やアルバム「Atomic Heart Mother(邦題:原子心母)」を好む方におすすめです。

また、当アルバムではじめてPink Floydの音楽に触れる方で、その音楽にご興味を持たれた方は、前作アルバム「A Momentary Lapse of Reason(鬱)」や次作アルバム「The Endless River」に手を伸ばしてみてはいかがでしょうか。

アルバム「The Divison Bell」のおすすめ曲

1曲目は、4「Marooned」
メインテーマを奏でるギターと、そのギター・プレイの印象を損なわぬように展開するキーボード・プレイの柔らかなサウンドがマッチしています。

2曲目は、冒頭曲「Cluster One」
ふと、名曲「Shine On You Crazy Diamond(邦題:狂ったダイアモンド)」のようなアルバム冒頭部をふと脳裏に思い浮かべてしまいました。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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