プログレおすすめ:King Crimson「Starless And Bible Black(邦題:暗黒の世界)」(1974年イギリス)
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最終更新日:2015/12/12
1970年代, King Crimson(5大プログレ), イギリス, ヴァイオリン, メロトロン Bill Bruford, David Cross, John Wetton, king Crimson, Robert Fripp
King Crimson -「Starless And Bible Black」
第202回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:King Crimsonが1974年に発表した6thアルバム「Starless And Bible Black」をご紹介します。
コアなKing Crimsonファンで知っているであろう。もちろん、これからはじめてKing Crimsonを聴く方にも、その音楽にのめり込んでしまえば、きっと1970年代の第1期や第2期のライブ音源やブートレグに手を伸ばしたくなるだろう。
当時のKing Crimsonは、楽曲の骨子を制作してはライブで演奏し、また、ライブのたびに楽曲構成を変えていった。そこでは、多くのインプロビゼーションがうまれ、クリエイティビティに磨きがかかると云うよりも、その一瞬々々に奏でられる予測不可能な音にカタルシスへと誘われたであろう。
・・・そう感じながら耳を傾けてしまうのが、当アルバム「Starless And Bible Black(邦題:暗黒の世界)」だと思うんです。ライブ・レコーディングしアルバム発売するミュージシャンは多いと思いますが、当アルバムもまた、スタジオ収録だけではおさまりきらない緊張感を包括してます。ただ、楽曲によって、スタジオ録音のみで、イントロのみはライブ・レコーディングでイントロ以外はスタジオ・レコーディングで、ライブ・レコーディングにスタジオでボーカル収録で、といくつか手法を変えています。
前作5thアルバム「Larks’ Tongues in Aspic(邦題:太陽と戦慄)」以降、Robert Fripp(ギター、メロトロン)、Yesから引き抜いたBill Bruford(ドラム、パーカッション)、旧友のJohn Wetton(ベース兼ボーカル)の3人を軸に、第2期King Crimsonは活動を続け、次作7thアルバム「Red」を最後に1970年代のKing Crimsonは終焉を迎えてしまいます。個人的には、そのパーカッシブさにインプロビゼーションの一端を見て、大好きなJamie Muirはバンドを離れ、当アルバムは、Bill Bruford(ドラム、パーカッション)、David Cross(ヴァイオリン、ヴィオラ、キーボード)、Robert Fripp(ギター、メロトロン)、John Wetton(ベース、ボーカル)の4人体制で制作されていますが、アクテビティや経緯を知れば知るほどに、
表現豊かに音楽を創造するKing Crimsonの極みとして、忘れてはいけない傑作アルバムです。
楽曲について
当時発売されたレコードでは、A面に、冒頭曲1「The Great Deceiver」と2「Lament」はスタジオ録音、3「We’ll Let You Know」と5「Trio」はライブ・レコーディング、4「The Night Watch」はイントロがライブ・レコーディングでイントロ以外がスタジオ・レコーディング、6「The Mincer」はライブ・レコーディングに、ボーカルをスタジオ収録の計6曲、B面には、7「Starless And Bible Black」と8「Fracture」がライブ・レコーディングされています。
メタリックにもミニマルなギターのリフと変則に富むリズムセクションに圧倒される冒頭曲「The Great Deceiver」で幕を上げるアルバムを聴きすすめば、それぞれの楽曲のレコーディングの手法など考えずに、何も知らずに聴き入れば、緊張感や切迫さに心は苛まれ、そのヘビィ―でノイジーなサウンドにただ圧倒されてしまいますね。
鐘の音を想起させるキーボードのリフで幕を上げる2「Lament」は、John Wettonのどことなく憂いを帯びつつも優しげなボーカリゼーションとともに、途中から加わるメロトロンやヴァイオリンの旋律が叙情さを讃える最初のヴァースから、1分20秒前後からは、Bill Brufordのパーカッシブな演奏を挟み、メタリックな質感のヘビーなアンサンブルへと移行していきます。John WettonによるベースとBill Brufordのドラムのパーカッシブさから派生したかのようなシャッフルなアンサンブルは、Robert Frippのギターの旋律に劣ることなく迫力がありますし、最後にギターとベースがユニゾンしクロージングするまで、息つく暇もなく聴かせてくれます。
3「We’ll Let You Know」は、冒頭部からインプロビゼーション豊かに展開する楽曲で、ファンキーと云う言葉も似つかわしい各メンバーのフレーズが交錯し合うさまにただただ陶酔し聴き入ってしまいます。ライブ・レコーディングともなり、テンションの高さから伺える冒頭部から突如として終わるクロージングまでの「音の断片」には、不穏さがあるものの、聴き手の心を不安定へと苛まされるには十分ではないでしょうか。
不安定な心地に惹きづられながらも、続いてはじまる4「The Night Watch」と5「Trio」では、徐々にホッと心を安堵させられるかもしれません。ライブ・レコーディングによる幽玄さを醸し出す冒頭部にオリエンタルな雰囲気を讃えた4「The Night Watch」は、その冒頭部からスタジオ・レコーディングされた唄メロへの流麗さが素敵し過ぎます。仄かに緊張感を保ちつつも、やはりオリエンタルさもあるギター・ソロには、母国であるイギリスよりも、東欧を含めたヨーロッパへの情景をサウンドスケープしてしまいます。そして、ヴァイオリンとメロトロン、ベースによる5「Trio」は、フレーズの1つ1つには、4「The Night Watch」より緊張感を下げた感触のアンサンブルには、より心穏やかな気持ちにさせてくれますね。3つの楽器が奏でるフレーズは徐々に音量を上げ、束の間の平穏を愉しむかのように聴き心地を埋め尽くしてくれるような気がします。
レコードではA面の最後に位置する楽曲6「The Mincer」では、ボーカルをスタジオ収録で追加したとはいえ、3「We’ll Let You Know」と同様に「音の断片」的な展開を魅せ、心を不安定へと苛まされてしまいます。どれほどまでにB面への期待感を煽ろうとするのだろうか、もうすでに、4「The Night Watch」を通じ5「Trio」で得た平穏さは消え伏せたままな心地になってしまいますね。
そして、名曲「Starless」(7thアルバム「Red」収録)でそのタイトルが一節として唄われる7「Starless And Bible Black」と最終曲8「Fracture」は、7thアルバムで極めるインプロビゼーションさと緻密なアンサンブルが醸し出す緊張感と混沌さをライブ・レコーディングされています。耳にするのは、ノイジーなギター、テクニカルにもメタリックさあるミニマルなリフのギター、たえまなく高速なピッキングのギターのフレーズ、不協和音を漂わすメロトロンの旋律などが重ねられていくアンサンブルにて、そこにはメタリックなメロディとリズムが交錯し合っては、擦り切れてしまうほどに破壊を続ける構築美を感じずにいられません。もととなるライブによる先の予測もつかないアンサンブルには、どうしたものか相反する「破壊」と「構築」という言葉しかたとえようがないのです。
アルバム全篇、制作した楽曲をライブで精度を上げていくために積み重なれる演奏と、ライブならではの先の予測もつかないインプロビゼーションを含んだ演奏が極限でなんとかバランスを保ち、緊張感と切迫さを醸し出すヘビーな様相は、次作7thアルバム「Red」には感じえない魅力と思います。
[収録曲]
1. The Great Deceiver(邦題:偉大なる詐欺師)
2. Lament(邦題:人々の嘆き)
3. We’ll Let You Know
4. The Night Watch(邦題:夜を支配する人)
5. Trio
6. The Mincer
7. Starless And Bible Black(邦題:暗黒の世界)
8. Fracture(邦題:突破口)
第2期King Crimsonにて、抒情さは一部感じられるものの、ヘビーなアンサンブルによる切迫さや緊張感が聴きたい方にはおすすめです。
攻撃性のキーワードであるメタリックさが好きになった方は、1974年発表の次作7thアルバム「Red」、1995年発表のアルバム「Thrak」、2000年発表のアルバム「The ConstruKction of Light」、2003年発表のアルバム「The Power To Believe」も聴いてみてはいかがでしょうか。
また、当アルバムの一部はライブ・レコーディングともあり、現在では「Night Watch」、「The Great Deceiver 1: Live 1973-1974」、「The Great Deceiver 2: Live 1973-1974」など、当時のライブ・パフォーマンスが収録されたアルバムが数多く流通していますので、ぜひ聴くことをおすすめします。当アルバムのリマスター盤に追加収録された楽曲も含め、「Dr. Diamond」、「Guts On My Side」などの未発表曲や未発表テイクや異なるライブ・バージョンなどを愉しむことで、当アルバムの原型の一端を感じえることが出来ると思います。
「Starless And Bible Black」のおすすめ曲
1曲目は最終曲8「Fracture」
静と動と、破壊と構築と・・・当楽曲をライブ・レコーディングにて一部手直したとはいえ、ライブならではのインプロビゼーションと楽曲の精度を上げる両面での迸る緊張感や切迫さ、混沌さが溢れていると思うからです。
2曲目は5曲目「Trio」
名曲「Exiles」(5thアルバム「Larks’ Tongues In Aspic」収録)から音数を極限に減らしたかのような印象に感じてしまいつつも、当アルバムは他楽曲のヘビーさやアヴァンギャルドさもあるアンサンブルはなすがままに耳に入ってくるので、トリオ(ヴァイオリン、メロトロン、ベース)が奏でる1つ1つのフレーズと定位が交錯し合うさま、そして、徐々に音量を上げていき盛り上がっていく構成に、なすがままではなく最初から耳を凝らし聴いてしまいそうになりますね。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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