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プログレおすすめ:King Crimson「The Power To Believe」(2003年イギリス)


King Crimson -「The Power To Believe」

第279回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:King Crimsonが2003年に発表したアルバム「The Power To Believe」をご紹介します。
King Crimson「The Power To Believe」
当アルバム「The Power To Believe」は、前作アルバム「The ConstruKction of Light」から3年振りのアルバムで、Robert Fripp(ギター)とAdrian Brew(ボーカル、ギター)、Pat Mastelotto(ドラム)、Trey Gunn(ベース・タッチ・ギター、バリトン・ギター)の4人体制で制作されています。

当アルバムを制作するに当たり、リーダーであるRobert Frippは「Nuovo Metal」なるコンセプトを掲げていますが、前作アルバム「The ConstruKction of Light」で感じえた、King Crimsonのバンド史を集約したかのようなギター・オリエンテッドなアンサンブルとインスピレーションは維持しつつ、あからさまに過去の楽曲を引き合いに出した楽曲「Larks’ Tongues in Aspic, Part IV」といった楽曲を収録することなく、

コンセプト「Nuovo Metal」のもと、アルバム1枚に統一感のある「メタルクリムゾン」が聴けるアルバムと思います。

アルバムタイトルを見て、一目で「信じる力=信念=(The Power To Believe)」と云うプジティブな想いが伝わると同時に、楽曲では、「信じてもいい、その考えが間違っていたとしても」と語られる裏腹さが表裏一体に感じる擦り切れるまでのメタルな質感を聴いてみよう。

楽曲について

ボコーダを通じた声とシンセサイザーによる約40秒ほどの小曲である冒頭曲1「The Power to Believe I: A Cappella」に続き、2「Level Five」へと雪崩込みます。

2「Level Five」は、デジタルな打込みサウンドを取り入れることで、ジャストなタメを効かせ、ハードエッジなギターによる旋律が聴く耳に強烈に迫ってきます。1分50秒前後からのオブストラクトなアンサンブルなどは、前作のタイトル楽曲「The ConstruKction of Light」を彷彿とさせてくれます。3分20秒前後から随所に加わるミニマルで超絶技巧なギターの高速フレーズは圧巻です。前々作アルバム「Thrak」と前作アルバム「The ConstruKction of Light」で体感したとはいえ、まるで、退廃し、狂気に満ちた世界観を表現したかのような風景を目を瞑ればサウンドスケープしてしまい、身震いしてしまいます。

3「Eyes Wide Open」は、不協和を感じえるアンサンブルとサウンド・メイキングに、唄メロのメロディラインには、楽曲「One Time」や楽曲「Walking On Air」など、アルバム「Thrak」の世界観が脳裏を過ります。ただし、唄メロのメロディラインはひねられ、随所にギターのフレーズがユニゾンし、ミスティックさを漂わせ進行していきますが、2分25秒前後の数小節の唄メロのブリッジ部で哀愁さを感じえたと思ったら、フィードバックするギター・サウンドなども交え、いつの間にかクロージングまで哀愁さに包まれていることに気が付くサウンド・メイキングのクオリティの高さに、ただただ脱帽です。

4「Elektrik」は、まず、冒頭部とクロージングに、楽曲「Prelude: Song of the Gulls(邦題:かもめの歌)」(アルバム「islands」収録)を想起させるオーボエのサンプリングと思しべき旋律が聴けます。寂しげなイメージから、45秒前後からは一転し、変拍子を交えつつ2台のギターのフレーズがミニマルさとダンサンブルさのあるアンサンブルで繰り広げられるは、楽曲「Discipline」(アルバム「Discipline」収録曲)の発展系、もしくは、完成系を感じてしまいます。そして、その煮えたぎぬように沸々としたアンサンブルは、遂に、5分40前後からメタリックな質感を強め、まさにヘビネスなアンサンブルへを噴き出し、6分30秒前後からは、いったんは全てを噴き出したか如く、楽曲前半のミニマルさとダンサンブルさによるギターのアンサンブルへ戻り、クロージングを迎えます。

約1分30秒ほどのシンセサイザーとSEによる小曲5「Facts of Life: Intro」を挟み、6「Facts of Life」は、楽曲「Sailor’s Tale」(アルバム「islands」収録)に系譜し、前作の楽曲「ProzaKc Blues」(アルバム「The ConstruKction of Light」)と同系統でハードなエッジ―で刻むギターの単音リフが圧倒的なヘビネスを創出する当アルバムでは数少ないボーカル楽曲です。

7「The Power to Believe II」は、アルバム「Thrak」で感じえたサイケデリック/スペース系のオブストラクトで幕をあげ、軟質系の物質感ある音をサンプリングしたかのようなフレーズがシーケンスされ、中東アジア系を想起させる旋律が展開されます。そして、気が付けば、2分35秒前後からは、その軟質系さは硬質な鉄筋系の音に変わり、まるで名曲「Larks’ Tongues In Aspic, PartⅠ」(アルバム「Larks’ Tongues In Aspic」収録曲)の冒頭部を彷彿とさせるアンサンブルが聴けます。4分25秒前後からは、1「The Power to Believe I: A Cappella」に続く楽曲であることを認識させるだろう、随所にラバー・ベースがユニークなラインをアクセントに、ボコーダを通じた声が繰り返されます。パーカッシブな打込みの音、そして、中東アジア系のギターの旋律とシンセの揺らめく不協和とともにクロージングします。

8「Dangerous Curves」は、ただただ6拍子がリフレインされ、打込みにもボレロを想起させる楽曲です。まるで楽曲「Mars」(アルバム「In The Wake Of Poseidon」収録)のように進行するも、打込みであることや、メタリックさやサイケデリック/スペース系のオブストラクト、断末魔のようなヴォイシングなど、2番煎じとは言わせないアグレッシブに飛躍した緊迫感溢れるアンサンブルが堪能出来ます。そして、5分10秒前後に、解き放たれるギターのリフ一閃、そのリフの残響とともに、崩壊し消え入るように渦巻くサウンドの中、クロージングを迎えます。

9「Happy With What You Have to Be Happy With」は、6「Facts of Life」と同様に、圧倒的なヘビネスで迫るボーカル入りの楽曲です。特に、1分25秒前後から1分55秒前後と、2分45秒前からクロージングまでにわたるボーカル・パートでは、タイトルをリフレインする「Happy With What You Have to Be Happy With」の韻の踏み方か、ワード「Happy With」の妙なのか、楽器のアンサンブルよりも、唄メロでのワードの妙が変拍子を作り上げているかのような斬新さがたまりません。

サイケデリック/スペース系のサウンドに、トリッキーなギターの旋律とタイトなリズムセクションが聴かれるインストルメンタルな楽曲10「The Power to Believe III」を挟み、最終曲11「The Power to Believe IV: Coda」では、ボコーダを通じたヴォイシングで聴き取れなかった歌詞がようやく聴き取れる・・・。

She Carries Me Through Days Of apathy

She Washes Over Me

She Saved My Life In A Manner Of Spealing

When She Gave Me Back The Power To Believe

・・・彼女は、無気力な日々ずっと僕を支えてくれてる・・・

・・・彼女は、乾いた僕をたっぷりの水で潤してくれる・・・

・・・彼女は、ある意味、僕の人生を救ってくれたんだ・・・

・・・信じる力を 僕に取り戻させてくれた時にね・・・

まるで、デビュー当時、狂気に満ちた世界の絶望さを唄った「21st Century Schizoid Man(邦題:21世紀の精神異常者)」から、それは、実は夢だったんだ、夢から覚めたと唄う楽曲「Coda: I Have a Dream」を通じ、絶望から目が覚めて、人生が救われたポジティブさを取り戻したと伝えてくれるが如くに。

ポジティブさを感じさせるエンディングに、かえって身震いするほどな気持ちになってしまうものの・・・

アルバム「Larks’ Tongues in Aspic(邦題:太陽と戦慄)」から連なる「メタルクリムゾン」と、1980年代「Dispiline」期の音楽的なクリエイティビティが融合し、過去のKing Crimsonの楽曲で聴かれるエッセンスを感じさせつつ、コンセプト「Nuovo Metal」と「The Power to Believe」で纏め上げ、今まで以上にアルバムのトータル性を高めた作品といえるのではないでしょうか。

[収録曲]

1. The Power to Believe I: A Cappella
2. Level Five
3. Eyes Wide Open
4. Elektrik
5. Facts of Life: Intro
6. Facts of Life
7. The Power to Believe II
8. Dangerous Curves
9. Happy With What You Have to Be Happy With
10. The Power to Believe III
11. The Power to Believe IV: Coda

ギターをメインとしたメタル系のプログレッシブ・ロックのアンサンブルが聴きたい方、俗に云う「メタル・クリムゾン」を体験したい方におすすめです。また、King Crimsonのファンであれば、アルバム「Disipline」でのミニマルさ、アルバム「Thark」でのサイケデリック/スペースさ、アルバム「The ConstruKction of Light」でのヘビネスさを全て好きな人にとっては好きになるアルバムです。

前作アルバム「The ConstruKction of Light」のレビューでも書きましたが・・・

第1期King Crimsonのアンサンブルの特徴であるメロトロンやフルートが醸し出す抒情さや陰鬱さはほぼ皆無です。また、「メタル・クリムゾン」としてのKing Crimsonの過去作品に目を向けてしまいがちです。しかしながら、過去のKing Crimsonを集約したかのような音楽性には、当アルバムを聴いたら、よりその音楽の流れを感じえるためにも、可能であれば、1969年発表の名盤「In The Court Of The Crimson King」から順を追って、King Crimsonのアルバムを聴くことをおすすめします。

「The Power To Believe」のおすすめ曲

1曲目は、7曲目の「The Power to Believe II」
人によりけりかと思いますが、個人的には、アルバム「Larks’ Tongues In Aspic」収録曲でバリエーションが2つある楽曲「Larks’ Tongues In Aspic, PartⅠ」と楽曲「Larks’ Tongues In Aspic, PartⅡ」では、前者の「PartⅠ」が好きなのです。特に、楽曲冒頭部のインプレゼーションが好きなため、音の質感を大きく3つのバリエーションに変え、楽曲を分けることなく、1つの楽曲での展開が好きになりました。

2曲目は、11曲目の「The Power to Believe IV: Coda」
条件付きとはいえ、King Crimsonの過去の楽曲や数々のアルバムの世界観からすれば、怖いぐらいなポジティブな想いに馳せてしまいます。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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