プログレおすすめ:Genesis「Selling England By The Pound(邦題:月影の騎士)」(1973年イギリス)
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最終更新日:2015/12/02
1970年代, GENESIS(5大プログレ), イギリス, フルート, メロトロン Genesis, Mike Rutherford, Peter Gabriel, Phil Collins, Steve Hackett, Tony Banks
Genesis -「Selling England By The Pound」
第102回目おすすめアルバムは、イギリスのシンフォニック系のプログレッシブ・ロックバンド:Genesisが1973年に発表した5thアルバム「Selling England By The Pound(邦題:月影の騎士)」をご紹介します。
当アルバムは、Peter Gabriel(ボーカル、フルート)、Tony Banks(キーボード、シンセサイザー)、Mike Rutherford(ベースギター、12弦アコースティックギター)、Steve Hackett(ギター)、Phil Collins(ドラム)の5人編成で制作したアルバムとして、世間一般的に、Genesisの数々あるアルバムの中でも最高傑作に挙げる人が多いアルバムです。俗にいう他の5大プログレバンド(King Crimson、Yes、Pink Floyd、Emerson, Lake & Palmer)と比べると、特に、2ndアルバム「Trespass(邦題:侵入)」以降、アルバム発売のたびに着実にプログレッシブ・ロックのクオリティを上げ続けている印象で、プログレッシブ・ロックの名盤の1つに到達した素晴らしいアルバムではないでしょうか。
楽曲について
前作4thアルバム「Foxtrot」の約23分にも及ぶ最終曲「Supper’s Ready」でPeter Gabrielらしさ溢れる寓話的でいてシアトリカルさに、どろどろとしたおぞましい歌詞感など出しきったのか、過去のアルバム以上に、全篇メロウでファンタステックなアンサンブルの楽曲で占められています。
個人的に、2ndアルバム「Trespass」や3rdアルバム「Nursery Crime(邦題:怪奇骨董音楽箱)」の楽曲で、Steve Hackettによる刺々しさもあるギターのフレーズに代表される大胆さある「荒削りなアンサンブル」も好きなのです。当アルバムでは、前述のおぞましい歌詞感は控えめに、寓話的なアプローチでさえ、たとえば、楽曲「I Know What I Like」の世界観(芝刈り機)をイメージすることからも分かるとおり、ほんのりと明るめと暖かみがあるサウンド感なんです。シンセサイザーを導入し、オルガンのリフの出し方も工夫をしていることが、洗練されたサウンドに変貌しているともいえます。
冒頭曲「Dancing With The Moonlit Knight」は、Peter Gabrielによるアカペラによるボーカル・パートから、ピアノやアコースティックギターによるアンサンブルが続くのが印象的です。優雅さや気品さを感じながらも、どことこなく儚さがあり、1973年当時の楽曲と思えないぐらいに「聴かせる緊張感」が溢れています。1分20秒前後から、Yesのようなスペースを意識したサウンドメイキングで、一定のギターのフレーズにシークエンスを経て、Phil Collinsがドラムを高らかに叩き上げるとともに、Peter Gabrielのヴァースとそのボーカルに呼応するかのようなオルガンのリフのパートは、まさに「劇的な展開」という言葉が相応しいです。2分20秒以降、楽曲はスピード感を強め、ギターと鍵盤によるインタープレイともいうべき応酬は、過去の同系統の楽曲(「The knife」や「The Musical Box」)より洗練されたアンサンブルによるものと解釈出来ます。高らかに唄い上げればシアトリカルなイメージのボーカリゼーションのイメージが大きかったPeter Gabrielもバンドのアンサンブルとも一体感がり、メロウでスマートなドラマチック性を伴う楽曲へと影響を及ぼしているのではないでしょうか。6分30秒前後からクロージングまでのサウンド・メイキングも楽曲の余韻を残す素敵な演出とも思えます。
約8分にも及ぶ唄世界に陶酔してしまう。
2「I Know What I Like」は、芝刈り機のノイジーな音のSEからはじまり、無音さに歌詞の朗読のPeter Gabrielのようなクラウトロックっぽさに、一聴した時には風変りと思えた楽曲です。ただ、40秒前後のサビにあたるヴァースには、ポップさを持ちながらも素敵なハーモニーを効かせる楽曲です。アンサンブルは、芝刈り機を想起させるポリリズム的なリズム感に、シタール、フレット・ベース、シンセがメインです。2分50秒前後からはオルガンが印象的にアンサンブルに加わり、フルートによるソロ・パートなど、カンタベリー系のエッセンスも感じさせてくれながら、Genesisが当楽曲でイメージさせたいサウンド・メイキングが十二分に出来た充実な構成ではないでしょうか。
3「Firth Of Fifth」は、冒頭1分のピアノの華麗な独奏に惹き込まれてしまいそうになります。ピアノ、シンセサイザー、フルート、エレキ・ギター、アコースティック・ギターは、それぞれメインのインストルメンタル各パートを持ち、どのパートもファンタジックさが溢れています。また、各パートは、メインとなるモチーフのメロディを1つ前のパートに受け継ぐかのように奏でているので、楽曲全体で統一感を強く感じさせてくれます。その統一感の一端を担っているのは、終始きめ細やかなドラミングをするPhil Collinsでしょう。そのドラミングも聴きどころです。メインのパートを奏でる楽器でも、強いて言えば、Steve Hackettのギターのフレーズは必聴に値します。フルートが奏で受け継がれたメロディのモチーフを、ギターのヴァイオリン奏法とヴィヴラードを駆使し応え表現しており、そのギターのスキルフルさをさりげなくも聴かせている感があり素敵な楽曲です。
4「More Fool Me」は、アコースティックギターのアンサンブルを中心としたメロウなフォーク寄りも楽曲ですが、ドラムのPhil CollinsがGenesisではじめてボーカルをとる楽曲です。聴けば誰もが感じるPeter Gabrielに似ている声質にも驚きますよね。
前作アルバムまでのシアトリカルさを大いに踏襲した印象があるのは5「The Battle Of Epping Forest」でしょうか。イントロのマーチ風のドラミングから、オルガンのリフをメインとしたアンサンブルに、Peter Gabrielのボーカリゼーションや、ヴァースの合間を行き交うピアノのフレーズからもコミカルらしさを感じえます。リズムチェンジが絶え間なくあったり、ベース・ギターの異常とも感じるリフがあっても、それでいて「奇」と感じないのは、シンセサイザーの導入がアンサンブルに大きな影響を及ぼしていると考えられます。
6「After The Ordeal」は、アコースティックギターとピアノによるアンサンブルが気品さのあるGenesisの1つの特徴である英国宮廷のような優雅さを素敵に演出している前半のパートと、ドラミングが入りゆったりと哀愁溢れるギターのソロ・フレーズに、そのカウンターメロディのように奏でるフルートの並奏が素敵な後半のパートに、聴き入ってしまいますね。
そして、続く7「The Cinema Show」も、優雅さと気品さあるシンフォニック感に圧倒される楽曲です。かすれ気味の声に抑制を効かせたPeter Gabrielによる最初のヴァースから、アコースティックギターによる重奏ともいうべきアンサンブルは、これまで以上にきめ細やかなフレーズタッチであり、ギリシャはカリブ海の地中海音楽の大らかな弦の演奏を聴いているかのような質感です。たとえば、「The Fountain Of Salmacis(邦題:サルマシスの泉)」(4thアルバム「Nursery Crime」収録)以上にメロウでいてファンタジックさある音の洪水が溢れるようなイメージでしょうか。7分前後からのSteve Hackettのロングトーンを効かせたたおやかなギターのソロ・パートも、3「Firth Of Fifth」でのSteve Hackettのアプローチとはまた異なり、素敵な演奏です。また、シンセサイザーによるクワイアボイスのコーラスなどもアクセントに、その後もTony Banksによるシンセサイザーによるソロ・パートなど、各楽器が水を得た魚の如く、流麗でメロウなシンフォニックのエッセンスに溢れるアンサンブルを聴かせてくれます。
そして7「The Cinema Show」のクロージング直前のフレーズにアコースティックギターのフレーズが合わさりはじまる最終曲「Aisle Of Plenty」は、冒頭曲「Dancing With The Moonlit Knight」のメロディラインをなぞりながら、淡々とクロージングしていきます。
結果的に、冒頭曲「Dancing With The Moonlit Knight」をリプライズする位置付けの8「Aisle Of Plenty」があるかないかにしても、シンセサイザー導入により洗練され、アルバム全篇に統一感があるんです。ならばこそ、8「Aisle Of Plenty」があることで、よりいっそう当アルバムのクオリティを上げていると思いました。
[収録曲]
1. Dancing With The Moonlit Knight(邦題:月影の騎士)
2. I Know What I Like (In Your Wardrobe)
3. Firth Of Fifth
4. More Fool Me
5. The Battle Of Epping Forest(邦題:エピング森の戦い)
6. After The Ordeal
7. The Cinema Show
8. Aisle Of Plenty
世間一般的にも、名盤と誉れ高い当アルバムは、Genesisをはじめて聴く方におすすめです。
また、プログレッシブ・ロックのエッセンス(フォーク、ファンタジック、メロウ、シアトリカル、気品など)という切り口でプログレッシブ・ロックを聴く方にも「聴きやすさ」の点でもおすすめです。
いっぽうで、楽曲レベルでも、名曲としてよく取り上げられる3「Firth Of Fifth」や7「The Cinema Show」のように、Tony BanksとSteve Hackettによる流麗な名演が含まれています。Genesisを聴いたことがないプログレッシブ・ロックのフォロワーがGenesisを知り、プログレッシブ好きを膨らませていくには、最良のアルバムですね。
アルバム「Selling England By The Pound」のおすすめ曲
1曲目は、冒頭曲の「Dancing With The Moonlit Knight」
静と動のアプローチが過去アルバムの同系統の楽曲以上に「聴かせる緊張感」と「劇的な展開」のバランスが素晴らしいからです。
2曲目は、6曲目の「After The Ordeal」
3「Firth Of Fifth」や7「The Cinema Show」のいずれかを選んだしまいたい気持ちもあります。しかしながら、全篇インストルメンタルで同様なプログレのエッセンスで聴かせつつも、前半と後半のパートで2極化し展開しているのが素敵だからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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