プログレおすすめ:Grendel「The Helpless」(2008年ポーランド)
Grendel -「The Helpless」
第285回目おすすめアルバムは、ポーランドのネオ・プログレ系のプログレッシブ・ロックなバンド:Grendelが2008年に発表した1stアルバム「The Helpless」をご紹介します。
Grendelは、2002年に、Sebastian Kowgier(ギター、ボーカル)、Ula Swider(キーボード)、Czarek Swider(ベース)、Wojciech Bilinski(パーカッション)の4人で結成したバンドです。バンド名には、英文学最後の伝承でもあるデネ(デンマーク)を舞台とした主人公である英雄ベーオウルフの冒険譚にでてくる「Grendel」なる巨人と同一の名称であり、また、バンドが影響を受けたと云うイギリスのプログレッシブ・ロックバンド:Marillionの3rdシングル楽曲に収録された「Grendel」というのも印象的です。
Marillion、Riverside、Porcupine Treeからの影響を受けていると云うバンドの音楽の特徴は、やはり東欧ヨーロッパやポーランドといえば、特有の薄暗くもメランコリックさあるサウンド・メイキングが特徴で、イギリスのGenesisやMarillionネオ・プログレ系にカテゴライズされるかと思います。また、アンサンブルやメロディラインにはヘビーさやポップなエッセンスも垣間見せつつ、ボーカリストであるSebastian Kowgierの声質に、ふとRiversideのボーカリスト:Mariusz Dudaを彷彿とさせるマイルドさが際立ち、そして醸し出されるボーカリゼーションを活かすかのような、人柄に溢れた唄メロのメロディラインと、その奏でるエモーショナル溢れるギターのフレーズにメロウさを感じてしまいます。
2007年に、当アルバム収録楽曲(「Signal」、「Towards the Light」、「The Helpless」、「Main」)を含む計7曲のアルバム「DEMO 2007」を挟み、6年の月日をかけた1stアルバム「The Helpless」を2008年に発表します。当アルバムは、
人生のさまざまの場面でどうすることも出来ない無力な男性をコンセプトな一枚です。
気が付けば、ゆったりとアンビエントな時の流れに身を委ねてしまいそうになる音に耳を傾けてみませんか?
楽曲について
群衆のSEに導かれ、エッジの効いたギターのリフとエモーショナルなギター・ソロで幕を上げる冒頭曲1「Signal」は、アコースティック・ギターのストロークをメインとしたアンサンブル、デリケートなボーカリゼーションにメランコリックなメロディラインに、ゆったりと叙情さ溢れる時間が流れていきます。ただただ溜息まじりに、切ない気持ちになってしまう、既にアルバム・コンセプトを象徴するかのようなクリエイティブさを感じずにいられないですね。
冒頭部のハードな展開に心躍動しながらも、気が付けばゆったりとした世界観に酔いしれてしまう。
2「Matter of Time」は、前曲1「Signal」と同様な曲調のミディアムな楽曲です。通常ならサビ直前の期待感を寄せるパートにて、程良く切なくもポップさが溢れ、それでいて起伏激しくなく展開する唄メロのメロディラインは前曲1「Signal」以上に切なくも心へ響いてきます。3分40秒前後からのパートでは、シンセとベースをメインに、フィードバック奏法も取り入れ、アトモスフェリックなパートを醸し出してます。当然の如く4分30秒前後からのエモーショナルなギター・ソロが聴かれ、5分30秒前後にボーカル・パートへと戻り、唄メロのメロディラインと並奏するギター・ソロもありつつ、楽曲はそのイメージを壊すことのないかのようにピアノが穏やかなフレーズを弾き、クロージングします。
3「Towards the Light」は、冒頭部からいくぶんシリアスさやミステリアスさのある展開を魅せながらも、2分40秒前後からのヴァースとなれば、楽曲の空気が一変してしまう。突如、3分10秒前後からは、再度、冒頭部からの展開に戻るのを耳にすれば、やはり、Sebastian Kowgierのボーカリゼーションに抱いてしまうイメージに、楽曲への先入観を拭い去れなくなってしまいますね。
4「Fade Memories」は、前後の楽曲と比べれば、淡々とした曲調が、薄れていき途切れる記憶を想起させるようでいて、不思議と惹き込まれていきます。
そして、アルバムタイトル楽曲5「The Helpless」は、冒頭部からのピアノとクリーン・トーンのギターをメインに、2「Matter of Time」よりも穏やかさに溢れ優しげなアンサンブルでのヴァース、2分55秒前後からのピアノがリードする静寂さに溢れたヴァース、そして、一瞬の沈黙とととに、3分40秒前後からのエモーショナルなギター・ソロ、スタッカートを効かせたギター・フレーズに導かれ、5分15秒前後からはドラムとベースのパートの比重が増したアンサンブルでいくぶんサウンドに盛り上がりを魅せながらも、他楽曲と同様にどこまでもメロウな印象です。そして、綴られるヴァースの数々に、エモーショナルなギターの印象的なフレーズが聴かれ、ギターのフレーズがエコーしながら、次曲「Main」へと繋がります。
エレクトリック・ピアノのメインに、アブストラクトなボーカルのパートやドラムの緩急が聴いたタムのパートを挟み、フュージュン系も想起させるジャージなギター・ソロや2分25秒前後のエモーショナルなギター・ソロ、3分前後からのツイン・ギターによるメロディックなリフなどが盛り込まれた約4分30秒のインストルメンタル6「Main」に続く7「Full of Pride」は、前曲までとは異なりボーカリゼーションを変えたかのようなヴァース、無音調のようなパート、エッジの効いたギター、クロックなリズムの刻みなど、当アルバム中でもプログレッシブなエッセンスを散りばめた展開の楽曲です。
冒頭曲1「Signal」の雑踏の音を想起させるSEを対をなすように、サイレンのSEに導かれてはじまる最終曲8「Illusions」は、前曲7「Full of Pride」や3「Towards the Light」と同様に、いくぶんシリアスな展開で進行していきますが、アルバム中でも最もギターに比重を置いたかのようなパートなど、やはりプログレッシブな展開の約12分にも及ぶ楽曲です。もちろん、メロウで優しげな唄メロのメロディラインのパートも挟み込みながら、7「Full of Pride」以上にパートはめくるめく変わっていきます。芯の太いハードエッジな展開はない分、荒涼と殺伐としたサウンドスケープを感じてしまいます。そして、10分30秒前後からクロージングまでの約1分30秒間は、各アンサンブルがフェードアウトしながら、シンセによるアブストラクトと雷のSEが楽曲タイトルの和訳である「幻想」をサウンドスケープするか如く、ゆったりと流れクロージングします。
アルバム全篇、Sebastian Kowgierの優しげなボーカリゼーションと、それを活かすかのような唄メロのメロディラインを中心に、さらにエモーショナルに溢れたギター奏法が印象的過ぎます。アシッド・フォーク系や木漏れ日サウンド、ポスト・ロック系とは異なるかもしれませんが、日曜日の午後のひとときにふとカフェでくつろぎ聴きたくなるアルバムですね。
バンドにとって、2016年現在、唯一のアルバムであることが悲し過ぎて、このアルバムをさらに発展させて2ndアルバムを制作したらどんなアルバムになっていたのだろう、と感じずにいられないアルバムです。そして、もちろん、数々のアーティストやバンドが、10年以上など長期に渡る沈黙を経て、次のアルバムを発表するケースは過去に多くあります。Grendalもまた、2ndアルバムが発表されることを待ちわびてしまうバンドなんです。
[収録曲]
1. Signal
2. Matter of Time
3. Towards the Light
4. Fade Memories
5. The Helpless
6. Main
7. Full of Pride
8. Illusions
メランコリックさやメロディアスさと程良くポップさのあるプログレッシブ・ロックを聴いてみたい方におすすめです。
もちろんバンドが影響を受けたと云うMarillion、Riverside、Porcupine Treeや、ネオ・プログレ系で他にも代表格である1980年代のGenesis、Pendragon、 Jadisが好きな方におすすめです。
個人的には、Porcupine TreeよりもThe Pineapple Thief、Camel、Quidamが好きな方が聴かれたどう感じるだろう、と思わずにいられない心がリラックスして聴いてしまう1枚です。さらに突き詰めれば、イギリスの1980年代のネオ・アコースティックのバンドを聴いた方々なら、メロウさのあるパートにどう感じるだろうとも。
アルバム「The Helpless」のおすすめ曲
1曲目は、2曲目の「Matter of Time」
程よくポップさ寸前に響く唄メロのメロディラインに、Sebastian Kowgierの優しげでいて、デリケートなボーカリゼーションが活きるかのようなサウンド・メイキングに心委ねて聴いていたいと思う、長尺7分を忘れてしまう楽曲です。
2曲目は、5曲目の「The Helpless」
「Matter of Time」よりも優しげにはじまりつつ、唄メロのメロディラインを損なうことないバンド全体のアンサンブルを感じます。他楽曲も含めじんわりと聴かせる中で、当楽曲の後半でのリズム隊によるタイトにも程よくメロディラインを際立たせるアンサンブルも素敵です。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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