プログレッシブ・ロックのおすすめアルバム、楽曲、関連話など

   

プログレおすすめ:Karl Hyde「Edgeland」(2013年イギリス)


Karl Hyde-「Edgeland」

第283回目おすすめアルバムは、イギリスのエレクトロニック・ミュージック・グループ:Underworldのメンバー:Karl Hydeが2013年に発表した1stソロ・アルバム「Edgeland」をご紹介します。
Karl Hyde「Edgeland」

そのアンセム「Born Slippy」が1986年のEwan McGregor主演でイギリス映画「トレインスポッティング(原題:Trainspotting)」の挿入歌「Born Slippy.NUXX」として利用されたのをはじめ、特に、アメリカでの1997年のEwan McGregorとDiaz主演映画「普通じゃない(現代:A Life Less Ordinary)」の挿入歌「Oh」、1997年のVal Kilmer主演映画「セイント(原題:The Saint)」の挿入歌「Pearls Girl」、2001年のTom Cruise主演映画「Vanilla Sky」の挿入歌「Rez」(※ただサウンドトラックには収録されず映画本編のみ)など、Underworldは、数々の映像シーン、および、クラブシーンを彩ってきました。

・・・そんなイメージとともに、2010年にはUnderworldとしてアルバム「Barking」や、2013年にロンドンオリンピック開会式の音楽監督を務めたことを知っていたため、翌年2013年に、当アルバム「Edgeland」を、55歳にしてキャリア発となる発売となったことを知り、驚きを隠せませんでした(もちろん、すぐに滅多に利用しないAmazonで確実に購入しました。)

当アルバムは、元Roxy Musicで、プログレ人脈とも繋がりの深いBrian Enoによるプロジェクト「Pure Scenius」に参加した際に知り合ったLeo Abrahamsとのコラボレーションによって生まれた作品とのことです。

アルバムのサウンドの特徴は、一聴すれば、イギリスのロックバンド:Coldplay、アイスランドのロックバンド:Sigur Ros、アメリカのバンド:The Album Leafを想起させるポストロック系やアンビエント系、ヒーリング系の部類ではないかと思います。

Underworldのトランスっぽさもある、クラブシーンやダンスフロア―向けとは異なる世界観に違和感を感じるかもしれませんが、もともとUnderworldも、映画「トレインスポッティング(原題:Trainspotting)」のDanny Boyle監督や、映画「BREAKING and ENTERING」のAnthony Minghella監督などとの、映画スコアに全面的に携わることなど、サウンドスケープを呼び覚ます奥の深い心情風景を描き出す音楽制作をしていたことを知るファンも多いかと思います。

karl Hydeは、アルバムジャケットからもイメージしうるロンドン郊外の「No Mans Land」に触発され、都市の奥地や隠れた街角にインスピレーションを強く受けたことをコンセプトに練り、一切の決めごともせず、自由気ままに、それでいて全て1テイクと云うアルバムは、

1つ1つの音の断片が抽象的にも叙情的にもオーガニックさとアンビエントさが織りなすサウンドに溢れています。

そして、それはプログレッシブ・ロックとは直接に関係なく、ポストロック系やアンビエント系、ヒーリング系を感じさせますが、個人的には「プログレッシブ・エレクトロ」に分類される感性を感じてなりません。

さあ、都市と田舎の間の風景に、想い描いたkarl Hydeの内省的な音楽に触れていきましょう!

楽曲について

冒頭曲1「The Night Slips Us Smiling Underneath It’s Dress」は、4拍子のずっしりとしたリズムに合わせ、ピアノの音色がアブストラクトに幕を上げます。サンプリングと、karl Hydeの優しげなボーカルによるヴァース部が幽玄さを醸し出すも、ずっしりとしたリズムが全てを拒絶するかのようにシュールさもあり、ニュートラルな気持ちにさせてくれます。第2ヴァースからはベースラインが入り、Underworldのスローなナンバーにもあるアンサンブルな感覚も憶えます。

Karl Hydeは、「都市にある、減衰していくことの美しさ、タイヤ痕、雑に描かれたいたずら書き、工場の音、漏れ聞こえる会話、流行するカフェ、眠らないドライバーが運転する車の後部座席に座り、街を走る夜の風景」とあり、そこには相反する「人工的に増設された草原の草を食べ、空気が汚染された場所」でもあるとのことです。きらびやかな都会と牧歌的な田舎に住む「Edgeland」で生活を表現したかったと語るサウンド・メイキングに、ただただ身を委ねて聴き入りたいですね。

・・・夜10時過ぎ、誰もいない広々としたオフィス、関わらぬエリアの照明は電源が落ち、デスクと手元にあるPCに照明は当たり、皮肉にもオフィスのウィンドウにぼやけて映る己のシルエット、そこには自ら動かねば音は1つもない・・・

当CDを購入した2013年当時は、そんな情景で、よくこのCDを聴いていました。特に、冒頭曲1「The Night Slips Us Smiling Underneath It’s Dress」のオープニングの1分前後のサウンドは、その場で目にする、何も言葉で発しないオブジェクトをただ見つめ、そして、また手元にあるPCのキーボードをブラインドタッチする繰り返しばかりが憶えています。と口説き入るサンプリングされた歪みが、ネジが取れたかのように、イヤホンの向こう側の世界へ手を伸ばしたくなるシュールな感覚で聴いていました。本当に、音楽を聴き、サウンドスケープしやすい場が、そこにあったのです。

冒頭曲1でのシュールでニュートラルな世界観にどっぷりと浸ったかと思えば、続く2「Your Perfume Was The Best Thing」で、不思議と心を落ち着かせてくれます。Karl Hydeのボーカリゼーションも、シンセサイザーのストリングスも、エレクトリック・ギターのリフも、唄メロのメロウなメロディラインに寄り添うような印象です。

さらに、3「Angel Cafe」、4「Cut Clouds」、5「The Boy With The Jigsaw Puzzle Fingers」、6「Slummin’ It For The Weekend」、7「Shoulda Been A Painter」、8「Shadow Boy」を通じ、最終曲9「Sleepless」までの全篇9曲には、サウンド・
コラージュによるサンプリング、Sigur RosやThe Album Leafを感じさせるポストロック的な感覚などがあるものの、時に
フォーキ―に、時に壮大さで感じえるアンビエントさもあるアコースティック・ギター、ピアノ、シンセサイザーをメインとしたアンサンブルと、Karl Hydeの時に優しげで時に物憂げな唄メロのメロディラインとボーカリゼーションは、都市と田舎の間にある、都市寄りの「Edgeland」を、叙情的にも、優美で瞑想的に、サウンドスケープさせてくれます。

最終曲9「Sleepless」を聴き終えるまで、たとえば、5月のGW連休最後の夜、音楽を聴くゆとりが残された自由な時間がもてる時などに、耳にしたい音楽です。ブルジョワジーなのかワーキングクラスなのか、どこまでがタウンでどこまでがカントリーなのか、そのボーダーラインさえ忘れ、目の前にサウンドスケープする心地、ふと心に問いかけてくれます。

[収録曲]

1. The Night Slips Us Smiling Underneath It’s Dress
2. Your Perfume Was The Best Thing
3. Angel Café
4. Cut Clouds
5. The Boy With The Jigsaw Puzzle Fingers
6. Slummin’ It For The Weekend
7. Shoulda Been A Painter
8. Shadow Boy
9. Sleepless

イギリスのロックバンド:Coldplay、アイスランドのロックバンド:Sigur Ros、アメリカのバンド:The Album Leafを想起させるポストロック系、アンビエント系、ヒーリング系が好きな方におすすめです。

シンセサイザーによる色彩豊かで、プログレッシブ・ロックさはないため、たとえば、ドイツのTangerine Dream、ギリシャのVangelisなどのシンセサイザーも含むインストルメンタルをメインとしたプログレッシブ・ロックが好きな方は、クロスオーバー系と捉えて、聴いて頂けると嬉しいです。

そして、2014年には、Brian Enoとコラボレーションし、いよいよエレクトロ・プログレッシブ系のアルバム「Someday World」を発売します。当アルバムが内省的なアルバムのイメージがあれば、より華やかなポップさがあるアルバムですが、ご興味がありましたら、ぜひ、チェックしてみて下さい。

アルバム「Edgeland」のおすすめ曲

1曲目は、冒頭曲1「The Night Slips Us Smiling Underneath It’s Dress」
オフィス空間での思い入れが強く残っているからです。あまりにも私的過ぎる理由ですが、それでもなお、冒頭部から1つ1つの音を、静寂の空間で聴いて欲しいです。

2曲目は、8曲目「Shadow Boy」
サウンド・コラージュやサンプリングよりも、アンサンブルの比重が高く、徐々にドラマチックに盛り上がる叙情さと、当アルバムの楽曲の中では、優しさよりも最も嘆きを感じてしまいます。

・・・I’ve lost my confidence to write these words to you・・・

・・・君に向けてこの言葉を書き綴る自信がなくなってしまったんだ・・・

赤裸々にも取れる言葉が心に突き刺さります。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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