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プログレおすすめ:YES「The Ladder」(1999年イギリス)


YES -「The Ladder」

第282回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:YESが1999年に発表したアルバム「The Ladder」をご紹介します。
YES「The Ladder」

天空のハシゴに9つの声が届くように

・・・They began to sing a new song Of forces that surround us・・・

・・・Nine voices・・・

・・・This dialogue・・・

・・・Nine voices・・・

・・・Singing as one・・・

・・・我々を取り巻く新しい歌が始まった。9つの声が対話となり、1つの歌となるように・・・

Bruce Fairbairnの葬式の際、YESのJon AndersonとSteve Howeは、この「Nine voices」を面前で唄ったといいます。

当アルバム「The Ladder」をプロデューサーしたBruce Fairbairnは、アルバム正式発表前、アルバムの音源をミックスダウン中に、自宅で心臓発作に見舞われ、アルバムの最後のミックス作業の日にスタジオに出向くことなく急逝していました。

・・・天空に立ち並ぶ多くの梯子の先、Bruce Fairbairnの功績に、集った「9つの声」が届く気ますように、そして1つの歌となった想いが当アルバムと思うのです・・・。

当アルバム「The Ladder」は、前作「Open Your Eyes」から2年振りに発表されたアルバムで、Jon Anderson(ボーカル)、Steve Howe(ギター)、Chris Squire(ベース)、Alan White(ドラム)、そして、前作アルバムから正式メンバーとなったBilly Sherwood(キーボード、ギター)と、Rick Wakeman不在の穴埋めをする形として、Igor Khoroshev(キーボード)を新たに迎え、6人編成で制作されています。

アルバム制作にあたり、メンバー全員がスタジオに籠り、曲を練り上げたと云われています。1983年発表のアルバム「910125」以降、メンバーのいずれかによるソロ・プロジェクトや主導のマテリアル、そのクリエイティビティからの方向性に、アルバムを発表するたびに、戸惑いを感じたに違いありません。

Bruce Fairbairnのアルバムの功績は、そのバンドの音楽性の本質やバランスを考えつつも、時代性に合うプロデュース―ではないかと思います。「90125YES」でのTrevor Horn、Trever、Trevor Rabin、強いては、YESのChris Squireが主導でもたらすのではなく、バンド外部からの客観的なサウンド・プロダクションは、当アルバムを完成に良い方向へと導いています。例えば、同国イギリスの著名なバンド:元The BealtesのPaul MaCartneyがアルバムを制作するにあたり、自身でプロデュースするよりも、George MartionやNigel Godrichによるプロデュース、および、Elvis Costelloによる「自分が関わっているとなれば、なおさらだ。先入観みたいなものが実際に差し障ってくるなんてことはなかった。」と云う率直な意見など、新たなケミストリーが緊張感やビジョンを拡げることになると思うんです。

そう、アルバムの最終ミックスに立ち会えなかったBruce Fairbairnの遺作ということだけでなく、その功績が散りばめられた傑作です。

楽曲について

冒頭曲1「Homeworld(The Ladder)」は、SF風のSEが醸し出し、Igor Khoroshevによるシンセサイザーのサウンド・オブストラクトが散りばめられ、1980年代以降のYESの楽曲の中ではマイナー調で重苦しく、切迫さもある第一ヴァースが進行する楽曲です。ただ、ギター、キーボード、ベース、ドラムによるアンサンブルはしっかりとバランスがあり、また、前作アルバム「Open Your Eyes」での薄れがちなJon Andersonは、サビ部でのJon Andersonのメイン・ボーカルに沿えるが如く誇張しなさも含め、際立っています。そして、4分15秒前後からのギターのリフに、オルガン・ソロが加わり、リズムセクションがフィルインするパートには、1970年代の英国ロックがシンプルに伝わり、聴いていて心地良さがあります。

さらに、6分前後からのオルガン・ソロから、ホーンの音色、ピアノの旋律、ギター・ソロなど、楽曲に多種多様な音色が彩りを添え、ここではじめて時はたれるかのようにこだまする7分前後からの抑え気味にもぶ厚いコーラスワークに拡がりを魅せます。7分15秒前後のギター・リフと、冒頭のSF風のSEが再度提示され、続くアコースティック・ギターとピアノの旋律が響き合うパートにおいて、楽曲はクロージングを迎えることを伝えるか如く、8分20秒前後からのクロージングのボーカル・パートでのピアノの旋律で楽曲はクロージングします。

音の繊細さと仄かにシンフォニックと連なり、Jon Andersonのボーカルの良さも伝わる。

2「It Will Be A Good Day(The River)」は、和の三味線と思しべきフレーズと、シンセサイザーのサウンドに、スローテンポで進行する楽曲です。やはり、Jon Andersonのボーカルが伝わってくるかのように、スティール・ギターやアコースティック・ギターが織り交ざるSteve HoweとBilly Sherwoodのコンビネーションと、YESの清涼なイメージをもたらすシンセサイザーのサウンドを奏でるIgor Khoroshevに、とてもメロウなアンサンブルを聴かせてくれます。そして、YESのトレードマークともいうべきコーラスワークは、4分前後からの「La La La」がとても活きてくると思う、素敵仕上がりですね。

3「Lightning Strikes」は、フルートのメルヘンチックなフレーズで幕を上げ、ラテン・フレーバーを感じるアコースティック・ギターによるアンサンブルで進行する楽曲です。アコースティック・ギターとエレクトリック・ギターによるギター・オリエンテッドなアンサンブルが冴え、1分20秒前後からはオルガン、シンセサイザー、そして、ゲスト参加のホーンセクション(アルト、ピッコロ、テナー・サックス、トロンボーン、トランペット、チューバ)がアンサンブルに加わり始め、サンバのリズムで魅せる快活な仕上がりです。Jon Andersonの楽しげさから、弾けっぷりなボーカリゼーションまでのハイテンションさを聴かせてくれるのは、1989年発表のアルバム「Anderson-Bruford-Wakeman-Howe(邦題:閃光)」でのワールド・ミュージックからの流れの1つの完成系とも感じさせてくれます。

そして、2分弱の4「Can I ?」は、楽曲「We Have Heaven」(アルバム「Fragie」収録)に、前曲3「Lightning Strikes」からのワールド・ミュージックを踏襲しつつエスニック系を感じる楽曲です。

そしてそして、前曲4「Can I ?」からシンセサイザーのサウンドがフェードし幕を上げる5「Face To Face」は、前々曲3「Lightning Strikes」から繋がりを魅せつつも、ポップに弾ける楽曲です。ミニマルなベースラインのChris Squireが印象的にも、アルバム全体を通じて云えることですが、ギター、シーケンス、ドラムのリズムなどの音のバランスが良く軽快さがたまりません。3分30秒前後からのヴァースに対するコーラスワーク、オブリガードに絡み合うシンセサイザー、ギターのフレーズなど、ただポップに弾けるだけでなく、1曲を通じ練り上げられたアレンジの高さが伺えます。

6「If Only You Knew」は、穏やかにもメロウな唄メロのメロディラインが聴ける楽曲です。「90125YES」期よりも、ヴァースからサビ部へのスムーズに展開するメロディラインも然ることながら、冒頭部からのアコースティック・ギターとハープシコード風やピアノの音色によるキーボード、シンセサイザーなど、多種多様な旋律が溢れては消え、それでいて、散漫にならない・・・月並みですが、素敵な楽曲です。だからこそ、3分55秒前後からのシンセ・ストリングからはじまるヴァースが贅沢すぎるぐらいに聴こえてしまんです。そして、4分30秒前後から、再度提示されるサビ部のメロディラインに、ただのサビの繰り返しと感じさせない、より一層心へ迫ってくる盛り上がりを感じてやみません。

7「To Be Alive(Hep Yadda)」は、前作「Open Your Eyes」でのシタール系の音色を彷彿とさせるサウンド・メイキングを感じさせつつも、メロディラインにアジアをイメージをしてしまうポップな楽曲です。メリハリを効かせたこまかなシンバルワークやユニークなベースラインによるリズムセクションが楽曲をリズミカルにさせ、アコースティック・ギター、シンセサイザーのフレーズ、サビ部の「Yadda」と云うコーラスワークも含めた清涼さなど、YESらしさ溢れるファンタジックなサウンド・メイキングを感じます。

8「Finally」は、シャウトをベースとし、アップテンポで進行する楽曲です。Igor Khoroshevのシンセサイザーの旋律が楽曲をリードし、アコースティック・ギターの歯切れ良いストロークに、Steve Howeのギター・ソロなどによる動のパート、3分20秒前後からのIgor Khoroshevのシンセサイザーのサウンドが、押し寄せる海の波が如くイメージに、アコースティック・ギターやペダル・スティール・ギターを交え、高らかに唄うJon Andersonのボーカリゼーションの静のパートへと、動から静へ展開します。

9「The Messenger」は、アタック感の強いベースラインに、同様にアタック感の強いクリーン・トーン・ギターの旋律がアンサンブルをリードし、ヴァースが展開する楽曲です。ぶ厚いコーラスワークのパートもあるボーカル・パートに、アメリカン・プレグレ・ハード系を仄かに感じさせつつも、Steve Howeらしさ溢れるギターの旋律が聴ければ、一気にYESの楽曲を聴いていると気持ちが戻ってしまうのが不思議ですね。3分30秒前後からのギターとキーボードのソロを交え、4分前後からのアコースティック・ギターの歯切れ良いストロークをアンサンブルに進行するヴァース、その唄メロのメロディラインに添えるコーラスワークなど、最後まで気の抜けないアンサンブルが堪能出来ます。

10「New Language」は、当アルバム中でも「90125YES」期を想起させ、最もプログレッシブな展開が聴ける楽曲です。オルガンとギターによるソリッドなアンサンブルで幕を上げ、ハードロック系のギターのリフやIgor Khoroshevによるオルガン・ソロの冒頭部を皮切りに、2分前後からのエレクトリック・ピアノをメインのアンサンブルに、ポップさが弾けた唄メロのヴァースでは、シーケンスに導かれヴォコーダによるコーラスワークとアンニュイな唄メロのヴァースや、「Talk」期を想起させるコーラスワーク(「Talk To Me」、「Speak To Me」)のヴァースが印象的です。そして、6分15秒前後からのアコースティック・ギター2台によるアタック感の強いギター・ストロークに、タイトなリズムセクションが決め、Chris Squireのベースラインと、アコースティック・ギターによるささくれだった高速ソロが聴けます。この緊張感あるパートに、シンセサイザーのサウンドが拍車をかけ、8分前後からは、アンニュイな唄メロのヴァース、そして、「Talk」期を想起させるコーラスワーク(「Talk To Me」、「Speak To Me」)のヴァースへと戻ります。1980年代や1990年代のYESが、1970年代のYESを彷彿とさせるエッセンスを盛り込むのではなく、「90125YES」を彷彿とさせるエッセンスでプログレッシブな展開の楽曲に仕上げるの印象的ですね。

最終曲11「Nine Voices(Longwalker)」は、Steve Howeの12弦アコースティック・ギターに、Jon Andersonのボーカルによるオリエンタル・ムードを讃えたスローな楽曲です。アンサンブルの途中からパーカッションやシタール風の音色によるアフリカン系やラガー系のエッセンス、ほんのりと盛り上げるハモンド・オルガンに、サビ部でのコーラスワークなど、楽曲に色を添えていきます。特に、Steve Howeによる感情剥き出しのようなギター・ワークに、プログレ・フォーク系よりもトラッド・フォーク系の洗練されていないエッセンスを感じずにいられない名演と思います。

楽曲「Holy Lamb」(アルバム「Big Generator」収録)や楽曲「Even Song」(アルバム「Union」収録)などのスピリッチュアルさを、よりオーガニックなサウンドに、楽曲「You And I」(アルバム「Close To The Edge」収録)や楽曲「Your Move」(アルバム「The Third Album」収録)で感じえたYESの牧歌的な音楽の側面をより、押し進めた感覚な印象です。

・・・天空のハシゴに9つの声が届くように・・・

世界の9人に1人は健康で活動的な暮らしを営むための十分な食糧を得られないことへの「1つの歌」なのだろうか。ただ、分かるのは散らばった想いが1つになり、1つの楽曲になることで、新しい「想い」が生まれるということ。そう思ってみやません。あらためて、Bruce Fairbairnの音楽業界に対する多大なる貢献にお悔やみ申し上げます。

アルバム全篇、YESのポップさの側面が活きつつも、1970年代のYES本来のテクニカルさやスキルフルさ、メロウさやファンタジックさのエッセンスが散りばめられた楽曲が並ぶんでいます。突然、1970年代のYESに戻ったわけではありません。1977年発表のアルバム「Going For The One」以降のコンパクトに仕上げられた楽曲路線を中心に、当アルバムまでに発表され続けてきた数々のアルバムでYESが追い求めてきた音楽性も含め、Bruce Fairbairnのプロデュースの貢献度も高いアルバムと思うのです。

[収録曲]

1. Homeworld (The Ladder)
2. It Will Be A Good Day (The River)
3. Lightning Strikes
4. Can I?
5. Face to Face
6. If Only You Knew
7. To Be Alive (Hep Yadda)
8. Finally
9. The Messenger
10. New Language
11. Nine Voices (Longwalker)

YESファンであれば、1989年発表のアルバム「Anderson-Bruford-Wakeman-Howe(邦題:閃光)」でのワールド・ミュージック性の提示、1987年発表のアルバム「Big Generator」でのハードなアプローチにもポップさ、1994年発表のアルバム「Talk」のソリッドさなど、とともに、1970年代のアルバムが好きな方には、ぜひ聴いて欲しい傑作アルバムです。

また、プログレッシブ・ロックの中では、ポップさ、ワールド・ミュージックさ、ギターとシンセサイザーによるシンフォニックさなどをキーワードに聴いて欲しい1枚です。

アルバム「The Ladder」のおすすめ曲

1曲目は、1曲目の「Homeworld (The Ladder)」
アルバムの冒頭曲を聴くことで、アルバムを聴き入ろうとする気持ちが膨らむものです。楽曲「Close To The Edge」や楽曲「Machine Messiah」のような不穏な雰囲気からはじまりつつ、ファンタジックさもあるアンサンブルには、「90125YES」で過去のアルバムでは感じなかったものであることと、何よりも、個人的に、Jon Andersonのボーカルと、Steve Howeのギターの粒だった繊細さを感じられたからです。

2曲目は、11曲目の「Nine Voices (Longwalker)」
Bruce Fairbairn葬儀時のパフォーマンスを知ることで記憶に留まると同時に、当時のYESの楽曲における、トラッド・フォーク系とワールド・ミュージック系の融合の完成系を感じさせてくれます。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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