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プログレおすすめ:YES「90125」(1983年イギリス)


YES -「90125」

第280回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:YESが1983年に発表したアルバム「90125」です。
90125

孤独の心が目覚める

遡ること1980年のアルバム「Drama」にて、The Bugglesの元メンバー:Trevor Hornは、現Yes、現Asiaのキーボード奏者:Geoffrey Downesとともに生み出した名曲「Rideo Killed the Radio Star(邦題:ラジオ・スターの悲劇)」のクリエイティビティ性などを盛り込み、1970年代プログレ衰退期を迎えつつあったYESに、新たな息吹を与えることとなります。ただし、のちにThe Bugglesで取り上げる楽曲やThe Bugglesらしさある楽曲を含むアルバム「Drama」でのパフォーマンスは、元メンバーのJon Andersonの幻影に苛まれ、Trevor Hornは、プロデューサーとしての道を歩み出すことになったそうです。

いっぽうで、YES側といえば、Chris Squire(ベース)がAlan White(ドラム)とともに、元Led ZeppelinのJimmy Page(ギター)とXYZなるグループを組みますが、リハーサルのみで音源を発表せず解散し、あらたなギターリスト:Trevor Rabinに近づき新バンド「Cinema」を結成します。制作した音源をJon Anderson(ボーカル)に聴かせることで、遂には、バンド名をいわゆる「90125YES」と呼ばれる、YESの再結成に繋がります。

当アルバム「90125」は、Jon Anderson(ボーカル)、Chris Squire(ベース)、Tony Kaye(ハモンド・オルガン)、Alan White(ドラム)、Trevor Rabin(ギター、キーボード)の5人で制作されていますが、プロデューサーであるTrevor Hornによるサンプラー(たとえば、楽曲「Owner Of Lonely Heart(ロンリー・ハート)」の冒頭部のオーケストラヒット)などの最新技術の導入や、たとえば、The Policeなど当時イギリスで隆盛したニュー・ウェーブ系を彷彿とさせるギター・アンサンブルが盛り込まれたことと、YESのアンサンブルの特徴の一翼を担ったギタリスト:Steve Howeの代わりに、Trevor Rabinがギターを担当することで、デジタル・ロックを感じさせるスタリッシュでソリッドなアンサンブルが聴けます。

マルチプレイヤー:Trevor Rabinの存在は、以降のライブ・ツアーを含め、YESの元メンバー:Tony Key、Charles Olins、元Roxy Music元UKのEddie Jobson、Casey Youngなど、キーボード奏者が入れ替わり事態を招くことにもなりますが、新たな息吹は、YESが1980年代から1990年代にかけて、音楽シーンに痕跡を残すための原動力となったことは確かなことでしょう。

さらに、1970年代YES黄金期を知るプログレッシブ・ロックのファンにはためらいを感じたかもしれませんが、YES、Trevor Horn、Trevor Rabinの三者が均衡し高水準のケミストリーが生まれ、

プログレと云うジャンルを超越し、1980年代のロック名盤ともなるアルバムが生まれたのです。

楽曲について

オーケストラヒットとディスト―ションが効いたギターのリフで幕を上げる1「Owner Of A Lonely Heart」は、全米チャート1位を飾った1980年代を代表するヒット曲です。

テレビCM、洋楽コンピ、はたまた、アニメ:ジョジョの奇妙な冒険第一部の第12話で似たようなフレーズがでるぐらい有名で、耳にした人は多いのではないでしょうか。ただ、それはYESを1970年代から知るファンと、当楽曲でYESをはじめて知ってからのファンとでは異なる受け止め方をしたに違いありません。同じく5大プログレバンド:Genesisが1980年に発表したアルバム「Duke」、1970年代のプログレッシブ・ロックシーンを歩んできたミュージシャン(Geoffrey Downes、Steve Howe、John Wetton、Carl Palmer)で結成されたロックバンド:ASIAが1982年に発表したアルバム「Asia(邦題:詠時感~時へのロマン~)」などと同様に、当時の音楽シーンの時流にのり新しい音楽ファン層を拡げたのかと云う点です。

兎にも角にも、フェアライトCMIのシンセサイザーによるオーケストラヒットなど随所に盛り込まれるサウンド、ディスト―ションが効いたギターのリフ、ミュートされたギターのリフ、リフレインされるベースライン、モダンなコーラスワーク、サンプリングに呼応する咆哮するボーカリゼーション、ヴァース部とサビ部での独立されたメロディライン、ロックバンド:The Rolling Stonesの名曲「Satisfaction」を想起してしまうソウルフルなミドル部の展開、などなど、明らかに従来のYESの音楽性とは異なるアクティビティは、前作アルバム「Drama」以上に、文字通り「90125YES」による「前進(=プログレッシブ)」です。

哀愁を帯びたギターのフレーズで幕を上げる2「Hold On」でもまた、サビ部の「Hold on」のシンガロング感覚に耳を奪われがちも、ヴァースのアンサンブルにふんだんに盛り込まれるサンプリングされたサウンド、そして、そのサウンドを活かした2分35秒前後からの楽曲「We Have Heaven」(アルバム「Fragie」収録)で魅せたアカペラとは異質なモダンなフィーリングによるアカペラなど、「90125YES」を感じさせてくれます。いっぽうで、4分30秒前後からのChris Squireのベースプレイを聴くとホッともしてしまいます。

3「It Can Happen」は、ゲストで参加するタブラとシタール奏者:Dipak Khazanchiがアンサンブルに加わり、オリエンタルなサウンド・メイキングが聴ける楽曲です。3分45秒前後から4分10秒前後までの、ドラムの拍打ちに、リフレインするユニークなベースライン、タブラとシタールの旋律、コーラスワークによるパートは、1970年代のYESのプログレッシブなエッセンスが聴けます。個人的には、そのエッセンスは1つのアクセントに、カタチを変えパートが繋がっていくのが聴いてて心地良いんです。

4「Changes」は、金管風のサウンドがパーカッシブな響き、ユニゾンするベースラインとドラムによるリズムセクションが徐々に盛り上げ、ギターの旋律も加わる変拍子を多用したオープニングのスリリングさ、1分15秒前後からのThe Police風のギター・プレイにシンセサイザー、オブリガードするアコースティック・ギターのフレーズのパートに導かれるようにはじまる、1分40秒前後からのヴァースでは、緊迫さがミステリアスさへと展開していきます。オープニングやクロージング・パート以外に、英米混合バンド:Foreignerやアメリカのバンド:TOTOなどの側面にあるマイナー調のメロディック・ハード系のエッセンスを感じます。

5「Cinema」は、7拍子によるフュージュン系なエッセンスを感じるスリリングなアンサンブルのインストルメンタルな楽曲です。もしも、1970年代YESからの発展系と思しべきは、アルバム「Tormato」、アルバム「Drama」を通じて聴くことで当楽曲に感じるかもしれません。

6「Leave It」は、「90125YES」の典型的なオープニングのコーラスワークにも、アカペラやコーラスワークがアンサンブルのメインで展開する楽曲です。デビュー当時からコーラスワークに特徴あるYESの根源が活きた楽曲と感じつつも、モダンな仕上がりのコーラスワークを楽器の1つ、アンサンブルの1つと捉えたクリエイティビティ性が活きてますね。また、アカペラやコーラスワークにカウンターメロディを奏でるような、スタッカートを効かせたベースラインが印象的です。

7「Our Song」は、フェードインするシンセサイザーの旋律に、ギターのリフが絡み、30秒前後から両者がユニゾンするなど、プログレ・ハード系のエッセンスを感じるアップテンポな楽曲です。1分30秒前後や3分前後にリズムチェンジを入れるなど、メリハリを効かせてるのが、1970年代YESのテクニカルなエッセンスを感じられるところといえるかもしれません。

8「City Of Love」は、アルバムの楽曲中でもヘビーなアプローチでアンサンブルが進行する楽曲です。ベースラインに代表されるように、力強いサビ部のコーラスワーク、アタックの強いシンセサイザーの旋律、繰り返されるヘビーなギターリフとソロ、たたみかけるドラムなど、アンサンブルに重厚さが満載なサウンド・メイキングを聴かせてくれます。

最終曲9「Hearts」は、金管風のサウンドで幕を上げ、唄メロのメロディラインが、そのカウンター・メロディに聴こえ、随所にプログレッシブな感性をくすぐる楽曲です。1分40秒前後からのコーラル風のコーラスが加わるアンニュイなヴァース部のミステリアスさ、2分50秒前後のミステリアスな唄メロのミドル部、3分15秒前後からのハードロック調のギター・ソロ、4分40秒前後からのオルガンとギターのリフによるヘビーなパートなど、めまぐるしく曲調を変えつつも、2分25秒前後、4分10秒前後、5分30秒前後に繰り返されるサビ部のメロディラインには、楽曲「Time And A Word」の系譜に連なるふくよかなメロディラインが聴かれます。

特に、7分前後からクロージングまでの数秒間の唄メロのメロディラインでは、名曲「Close To The Edge」(アルバム「Close To The Edge(邦題:危機)」)のクロージングを彷彿とさせるシンセサイザーのサウンド・メイキングを脳裏を掠めます。サビ部のメロディラインを聴くだけで、1970年代YESの唄メロのメロディラインに穏やかな心地になるも、このクロージングの数秒間に直面することで、一瞬で、1970年代のYESにフラッシュバックしてしまうんです。

アルバム全篇、1970年代のYESと云う先入観を捨てて聴きたいアルバムですね。最新技術を盛り込んだ時代性が活きたサウンド・メイキングと、プログレッシブ・ロックシーンを経験した確かなテクニックに裏打ちされたアンサンブルのクオリティの高さが堪能出来る、1980年代のロック名盤です!

[収録曲]

1. Owner Of A Lonely Heart
2. Hold On
3. It Can Happen
4. Changes
5. Cinema
6. Leave It
7. Our Song
8. City Of Love
9. Hearts

1980年代のロックの名盤を聴きたい方におすすめです。

また、1980年代のGenesisに代表されるメロディック・ポップ系、ASIAなどのプログレ・ハード系、The Policeなどのニューウェーブ系、アメリカのToto、Bostonなどのメロディック・ハード系などを好きな方におすすめです。

当アルバムを聴き、Yesの「90125YES」期のサンプリングも導入しポップでハードなアプローチのサウンドを好きになった方は、次作1987年発表の次作アルバム「Big Generator」、1991年発表のアルバム「Union(邦題:結晶)」、そして、アルバム「Talk」を聴いてみてはいかがでしょうか。

アルバム「90125」のおすすめ曲

1曲目は、4曲目の「Changes」
オープニングとクロージングのスリリングさ、中間部のメロディック・ハード系のアンサンブルと唄メロのメロディラインの構成は、アルバム「Talk」の組曲「Endless Dream」の世界観のプロトタイプと感じるとともに、YESのメンバーによるテクニカルさとメロディックな面が見える素敵な構成だからです。

2曲目は、7曲目の「Owner Of A Lonely Heart」
プログレッシブ・ロックを聴くと云うフィルターを捨てて聴きたい名曲です。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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