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プログレおすすめ:YES「Big Generator」(1987年イギリス)

公開日: : 最終更新日:2016/05/04 1980年代, YES(5大プログレ), イギリス , , , , ,


YES -「Big Generator」

第278回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:YESが1987年に発表したアルバム「Big Generator」です。
Big Generator

孤独の心の記憶が去り過ぎ頃に

1983年に発表され、1984年1月21日付けで、全米シングルチャート1位を2週連続獲得したシングル楽曲「Owner Of Lonely Heart(ロンリー・ハート)」の記憶も忘れかけた・・・1987年に当アルバムは発表されました。

当時の最新技術によるサウンド・メイキングが盛り込まれた前作アルバム「90125」は、サウンド・オブストラクトが際立ち、シャープで、かつデジタル・ロックに近しいアンサンブルの印象です。アルバム「Drama」期よりも更に変貌した華麗なるYESの復活劇と印象を残したにちがいありません。

当アルバム「Big Generator」は、Jon Anderson(ボーカル)、Chris Squire(ベース)、Tony Kaye(ハモンド・オルガン)、Alan White(ドラム)、Trevor Rabin(ギター、キーボード)による5人のメンバーは前作から引き続き変わることなく制作に参加しています。いっぽうで、前作を成功へと導いたキー・パーソンの一人であるプロデューサーのTrevor Hornはバンドから離れてしまいますが、

「90125」の遺産を残しつつも、Trevor Rabinの比重も濃厚にハードなアンサンブルが聴けるアルバムです。

「90125」から4年の月日が過ぎ、Trevor Hornの「孤独の心」の記憶が去り過ぎ頃に目の前に現れたアルバムは、サウンド・オブストラクトな感覚よりもアメリカのプログレ・ハード系を想起させるアンサンブル、そして、YESの1970年代に提示していたプログレッシブ・ロックのエッセンスを仄かに体感出来る内容と思います。

楽曲について

シンセサイザーのサウンドに、清涼なコーラスワークが映えて幕を上げる冒頭曲1「Rhythm Of Love」は、前作「90125」期のギター・スタイルを踏襲するクリーン・トーンのギターにディレィをかけた単音リフをメインのアンサンブルに、Jon Andersonの韻をふむリズミカルなボーカリゼーション、YESならではのコーラスワーク、ヴァースとサビ部(Rhythm Of Love)のコンビネーション、呼応するディスト―ションが効いたギターなど、リズミックで爽快なYESサウンドが聴けます。前作「90125」期よりもプログレ・ハード系を想起させるアンサンブルは、同国のASIA、Magnum、Pallas、It Bitesなど、当時の音楽シーンにおいて、時流を感じさせてくれます。

ユニークなコーラスワークで幕を上げる2「Big Generator」でもまた、ハードなギターのリフ、サンプラーによるサウンド・オブストラクトを感じさせるヴァース部のアンサンブルに、力強く重厚なコーラスワークとギターリフによるサビ部などは、個人的に、切れ味抜群で、ヘビーにバージョンアップした楽曲「Owner Of Lonely Heart」との印象を感じえました。

3「Shoot High Aim Low」は、ニューウェーブ期の著名なスコットランドのバンド:Simple Mindsを想起させるソフィケイトされ淡々としたサウンドが印象的な楽曲です。クールなイメージにも、ロマンティシズム溢れる楽曲展開は「YES meets ニューウェーブ」と感じてしまう、当時の音楽が好きな方にとってはニンマリしてしまう仕上がりを感じてしまいますね。

4「Almost Like Love」は、ドラムの4部打ちに導かれ、ワイルドなリフを弾くギターに、オルガンの音色と、ゲスト参加のホルン・アンサンブルが畳み掛けるオープニングに、心躍りそうになりますね。たとえば、同国イギリスの著名なハードロック・バンド:Deep Purpleの楽曲「Lay Down, Stay Down」(アルバム「Burn」収録)などを想起させるファンキーでワイルドさを想起してしまいます。ただ、35秒前後からのヴァース部では、ファンキーさは保持しつつも、突如としてクリーントーンのギターをメインとしたアンサンブル編成に変化してしまうところに、少し心残りを感じてしまうんです。ディスト―ションを効かせたギターか、クリーントーンを効かせたギターか、いずれかで楽曲を欲しいな、と。ただ、そのヴァース部のアンサンブル構成は、ホルン・アンサンブルやギターのソロ・パートを際立たせているとも思うんです。ダイナミックにソウルフルで、あきらかに従来のYESにはない楽曲ですね。

5「Love Will Find A Way」は、哀愁を帯びたヴァイオリンの旋律によるサンプリングで幕を上げ、大らかなクリーン・トーンによるギターのリフに導かれ、心美良さにメロディアスな唄メロのメロディラインが印象的な楽曲です。もともと、Trevor Rabinが元Fleetwood Macの歌姫:Stevie Nicksに楽曲提供を予定していたところを、Alan WhiteがYESの楽曲としてレコーディングしようと経緯もあるほどに、YESらしからぬ「愛の唄」や程よくポップさは新鮮です。また、ほんのわずかですが、3分50秒前後からのゲスト参加のホルン・アンサンブルの一員:James Zavalaによるハーモニカのプレイが聴けます。

6「Final Eyes」は、デジタルさを感じさせる冒頭に導かれ、Yesの1つの側面であるアコースティカルで牧歌的なギターをメインとしたアンサンブルのパートが聴ける約6分にも及ぶ楽曲です。多少、名曲「And You And I」(アルバム「Close To The Edge」収録)や名曲「I’ve Seen All Good People」などにあるアコースティカルさを感じられ、従来のYESファンにとっては嬉しい楽曲ではないでしょうか。1分40秒からのエレクトロ・サイドへと展開しTrevor Rabinのボーカルのパートを挟み、2分15秒前後からのJon Andersonのボーカルと、Steve Howeを想起させる伸びやかなギターの旋律のパートには、1970年代のYESのファンタジックでシンフォニックなサウンドを感じてしまいますね。3分25秒前後のハードなギター・リフとコーラスワークのパートを挟み、再度、Trevor Rabinのボーカルによるエレクトロ・サイドのパート、Jon Andersonのボーカルによるファンタジックなサウンド・メイキングのパートなど、シンフォニック系のエッセンスある1970年代のYESを彷彿とさせてくれます。

7「I’m Running」は、おそらくJon Anderson指向の強いワールド・ミュージック的なギターとベースのアンサンブルで幕を上げる楽曲です。30秒前後からのヴァース部や1分40秒前後からのテンポアップしたサビ部へでは、この楽しげでトロピカルさを感じられるメジャー調の冒頭部から打って変わり、マイナー調に沈み込んだ曲調へと移行します。その世界観には、イメージが異なるはずなのにどうしたものか、ふと、ジャズ系のエッセンスを感じた楽曲「Everydays」(アルバム「Time And A Word」収録)が脳裏を掠めてしまいます。冒頭部のアンサンブルを忘れかけていた頃に、短めのギター・ソロを挟み、2分50秒前後からは冒頭部のアンサンブルを活かしたヴァース部へに戻ります。そして、またもや編集したかのように突如、3分40秒前後からは哀愁を帯びたギター・ソロに、マイナー調に沈み込んだ曲調、5分10秒前後からは冒頭部のアンサンブルと繰り返します。静と動によるシンフォニック系というよりも、異なる音楽ジャンルのメジャー調とマイナー調でテクニカルに仕上げたシンフォニック系のエッセンスを感じてしまいます。複数の多重人格ではなく、二面性をもつ表情が表裏一体のように表現する様をサウンドスケープしてしまいますね。

そして、最終曲8「Holy Lamb」は、アコースティック・ギターとシンセサイザーをメインとしたサウンド・オブストラクトを想起させるアンサンブルに、優しげでハートフルな唄メロのメロディラインを唄い上げるJon Andersonのボーカリゼーションが印象的な楽曲です。ふと、名曲「To Be Over」(アルバム「Relayer」収録)や楽曲「Onward」(アルバム「Tormato」収録)を想起させる、穏やかな感覚も、ただ優しげにクロージングするよりも、エッジの効いたギターのリフなども含め、当アルバム全体に連なるハードなサウンド・メイキングとなっています。

アルバム全篇、Trevor Hornが離れ、前作「90125」の遺産を受け継ぎながら、本来のYESの音楽性の面影もちらつかせながらも、Trevor Rabin主導により仕上げられたプログレ・ハード系を想起させるハードなアンサンブルとサウンド・メイキングで成されたアルバムです。

[収録曲]

1. Rhythm Of Love
2. Big Generator
3. Shoot High Aim Low
4. Almost Like Love
5. Love Will Find A Way
6. Final Eyes
7. I’m Running
8. Holy Lamb (Song for Harmonic Convergence)

同国イギリスのASIA、Magnum、Pallas、It Bitesなどのプログレ・ハード系やメロディック・ハード系が好きな方におすすめです。

当アルバムを聴き、Yesの「90125YES」期のサンプリングも導入しポップでハードなアプローチのサウンドを好きになった方は、1983年発表の前作アルバム「90125」、1991年発表のアルバム「Union(邦題:結晶)」、そして、アルバム「Talk」を聴いてみてはいかがでしょうか。

また、アルバム後半曲(6~8)で興味を持たれた方は、1971年発表のアルバム「The Yes Album」から1978年発表のアルバム「Tormato」までの、1970年代YES黄金期のメンバーによるアルバムに触れてみることもおすすめいたします。

アルバム「Big Generator」のおすすめ曲

1曲目は、6曲目の「Final Eyes」
1970年代のシンフォニック系のエッセンスを感じられるからです。

2曲目は、7曲目の「I’m Running」
2面性のある音楽ジャンルを纏め上げる手法は、2000年代以降の多様化するプログレッシブ・ロックでも、オルタナティブ・プログレッシブ系のエッセンスで感じられると思います。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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