プログレおすすめ:Genesis「…And Then There Were Three…(邦題:そして3人が残った)」(1978年イギリス)
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1970年代, GENESIS(5大プログレ), イギリス Genesis, Mike Rutherford, Phil Collins, Tony Banks
Genesis -「…And Then There Were Three…」
第274回目おすすめアルバムは、イギリスのシンフォニック系のプログレッシブ・ロックバンド:Genesisが1978年に発表した9thアルバム「…And Then There Were Three…」をご紹介します。
当アルバム「…And Then There Were Three…(邦題:そして3人が残った)」は、前作8thアルバム「Wind & Wuthering(邦題:静寂の嵐)」を最後に脱退してしまうギタリストのSteve Hackett以外の、Tony Banks(キーボード、シンセサイザー)、Mike Rutherford(ギター、ベースギター、12弦アコースティックギター)、Phil Collins(ドラム)の3人で制作されたGenesisの最初のアルバムです。
Peter Gabrielボーカル期からの英国文学らしさと、メロウでファンタジックなプログレッシブなサウンドのバランスが有終の美を飾ると称された前作アルバムに対し、過去の数々の名曲でアンサンブルとしての一翼を担ったSteve Hackettの不在は、自然とメロウさやファンタジックさが薄れたと云う印象を与えるかもしれません。
そして『3人が残った』ことで、人数が少なくなれば、多くのバンドは個々のメンバーの結束が強まるか、メンバーのワンマン・プロジェクト的な様相へと移行することも想像しがたいと思います。Genesisからの回答は、Steve Hackettの不在に対し、あらたなギタリストをメンバーに加えるのではなく、Mike Rutherfordがギターを兼務することでした。確かに、Phil Collinsを主導となるポップさの比重が出てくるものの、3人体制としてのGenesisは結束は強めたのではないかと思います。
それは、1980年代の一連のアルバム(「Duke」、「Abacab」、「Genesis」、「Invisible Touch」)が、当時の音楽ファンに受け入れられ、イギリスでアルバム・チャート1位を3作で記録したことや、シングル・チャート40位圏内のシングルヒットを生み出したことが物語っています。1970年代にプログレッシブ・ロックを志した多くのバンドやミュージシャンが、1980年代を迎え、音楽性を変えることを余儀なくされ、バンド名やクリエイティビティ性を変えることでヒット作を数枚生み出すに至ってはいます。いっぽうで、Genesisは、シンフォニック系としてもポップ性としても両側面が発揮したバンドとして、類まれなる存在ではないでしょうか。ただ、Genesisに音楽ファンが最初に出逢うのがリアルタイムで、1970年代か1980年代かと云う点に焦点が当てられます。出逢うのかいずれかにより、当アルバムの印象も異なって見えてくると思うのです。当アルバムは、
1970年代と1980年代の「狭間」に揺れる両者の特性が入り乱れたサウンドが聴けるアルバムです。
そう、アンサンブルにみるファンタジックさや、リズムセクションのスキルフルさにプログレッシブなエッセンスがあり、聞き逃してはもったいないです!
楽曲について
Tony Banksによる不穏さからファンタジックさまで多種多様なキーボードの音色で分厚くアンサンブルを覆い、過去作以上に複雑でタイトなリズムで進行するリズムセクションの冒頭曲1「Down And Out」を聴けば、従来のGeneisisサウンドは、さらに力強く複雑さを伴ったと感じずにいられません。同様に、3「Ballad Of Big」、8「Scenes From A Nights Dream」など、過去2作で感じえた複雑なリズムをベースとした楽曲も聴けますが、それ以上にアルバム全篇を包み込むのは、アルバム・ジャケットの薄暗くも赤く淡い情景、冬の季節に暖炉を囲む冷たい情景を感じるようなアタタカミです。
5「Burning Rope」での4分10秒前後から5分10秒前後のギター・ソロ、6「Deep In The Motherlode」での2分前後から3分10秒前後までのボーカルと掛け合うギターとキーボードのフレーズなど、Tony BanksのキーボードとMike Rutherfordのギターの音色や奏法には、新たなアンサンブルを模索するのが感じられますが、アルバム・ジャケットに携わったHipgnosisによる「たいまつ、自動車、タバコの光の跡によるストーリーの表現」とは異なるかもしれませんが、Steve Hackettによる哀愁を帯びたギターの旋律がないものか、統一感のあるアンサンブルとサウンド・メイキングを感じてしまうんです。
ウォール・サウンドな分厚さやリバーブかかった奥ゆかしさが、より素朴な叙情的なサウンド・メイキングで聴ける2「Undertow」、4「Snowbound」、7「Many Too Many」は心ほっこりさせてくれますが、楽曲「Your Own Special Way」(アルバム「Wind & Wuthering」収録)や楽曲「Entangled」(アルバム「A Trick Of The Tail」収録)よりも贅肉を落としたアンサンブルで聴けます。
また、アルバムの後半はハイライトともいうべき楽曲が並んでいます。叙情さによる静のパートに、Phil Collinsボーカル期以降の力強さもあるリズムセクションによる動のパートも散りばめられた9「Say It’s Alright Joe」や、楽曲「A Trick Of The Tail」(アルバム「A Trick Of The Tail」収録)に通じるポップなメロディに、複雑なリズムセクションのパートを挟む10「The Lady Lies」、シングルとしてヒットしたアルバム中で最もメロディアスでポップな最終曲11「Follow You, Follow Me」まで、ファンタジックさをベースとしたアンサンブルが聴けます。
特に、最終曲11「Follow You, Follow Me」は、キーボードでは、プレイウォール・サウンドの分厚さは控えめに、どちらかといえば、唄メロのメロディラインにユニゾンする旋律が印象深いんです。また、リバーブかかったギターがもたらす奥ゆかしさは、クリーン・トーンのギターによるアルペジオをベースに軽快さ溢れるアンサンブルに華を添えます。個人的には、5大プログレバンドでいえば、同1978年に発表されたYesのアルバム「Tormato」の最終曲11「On The Silent Wings Of Freedom(邦題:自由への翼)」を最初に聴いた時の感覚を憶えました。冒頭曲1「Down And Out」での重厚さからとは真逆に、軽快な曲調でアルバムをクロージングするのは、過去アルバムとは異なる印象を感じるとともに、次作アルバム以降の展開を予見しているかのようですね。
もしかすると、1970年代からのGenesisファンにとっては、Steve Hackettのスキルフルさがもたらす要素が当アルバムにないことから溜息をついたかもしれません。また、当アルバムではじめてGenesisに出逢い1980年代の一連のアルバムを聴くGenesisファンにとっては、プログレッシブな感性とポップさが交じ合う楽曲に戸惑いもあったのではないかと思います。
でもね。Yesは、2年後の1980年にメンバーを変えて発表したアルバム「Drama」では新加入のメンバーがもたらすアクティビティが濃厚に反映され、さらに変貌したサウンドで、1980年代の音楽シーンに突入していきます。いっぽうで、Genesisは、同年1980年に発表されたアルバム「Duke」ではポップさに比重を置いたサウンドを魅せ、その音楽性をベースに1980年代を走り抜けていくのですが、1978年以降のYesと異なる点は、メンバー3人による結束さで、数々のアルバムを作り上げている点です。
アルバム全篇、3人の織りなすクオリティ高きアンサンブルは、1980年代以降に続く素晴らしき発展性(=ポップなサウンド)へと繋がる好アルバムと思います。
[収録曲]
1. Down And Out
2. Undertow
3. Ballad Of Big
4. Snowbound
5. Burning Rope
6. Deep In The Motherlode
7. Many Too Many
8. Scenes From A Nights Dream
9. Say It’s Alright Joe
10. The Lady Lies
11. Follow You, Follow Me
キーボードをメインとしたメロウさやファンタジックさなサウンドが好きな方におすすめです。
当アルバムを聴き、Genesisを好きになった方は、Phil Collons期ボーカルで、Steve Hackett在籍時の2枚のアルバム(「A Trick Of The Tail」と「Wind & Wuthering(邦題:静寂の嵐)」)に手を伸ばしてみて下さい。当アルバムへのサウンド移行を感じ取れると思います。
また、メロウさやファンタジックさ溢れるキーボード・サウンドに、華麗さや大仰さと云う点で、1980年代以降のGenesisフォロワーのネオ・プログレ系のバンド(Marillion、Pendragon、Twelfth Night、It Bits、Abel Ganz、Third Quardrant、IQ、Pallas、Quasarなど)をを好きな方にも聴いて欲しいアルバムです。
アルバム「…And Then There Were Three…」のおすすめ曲
1曲目は、11「Follow You, Follow Me」
プログレッシブ・ロックの面影を見るよりも、プログレッシブ・ロックを志してきた3人のメンバーが、唄メロのメロディラインの世界観を、スキルフルさやテクニカルさを活かすアンサンブルは、Genesisを1stアルバムから順を追い当楽曲に辿りつき聴くことで、より感慨深く聴き込んでしまいます。ただ単にポップな楽曲と語りたくない素晴らしさに溢れていると思うのです。
2曲目は、5「Burning Rope」
1「Down and Out」では、「そして3人が残った」ことで、バンドは3人になっても大丈夫だという意思表明を感じるのですが、当楽曲では、Tony BanksのキーボードとMike Rutherfordのギターの音色や奏法のアンサンブル、Mike Rutherfordによるギター・ソロなど、個人的には、Steve HackettがTony Banksのパートに被らないように、お互いの個性を活かすかのようなプレイを魅せてくれた印象とは異なり、唄メロを重視したアンサンブルの更なる追求と、キーボードとギターがより一体感ある旋律を感じずにいられません。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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