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プログレおすすめ:King Crimson「Thrak」(1995年イギリス)


King Crimson -「Thrak」

第212回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:King Crimsonが1995年に発表したアルバム「Thrak」をご紹介します。
King Crimson「Thrak」

メタル・クリムゾン

大胆にもミニマルミュージックを取り入れた1981年に発表したアルバム「Discipline」から1984年までの3年間の活動を終え、また、Robert Frippは沈黙の期間へと入ります。

その沈黙を打ち破る・・・King Crimsonとしての再々始動するきっかけとなったのは、Robert Frippが妻とTrey Gunn(スティック)とバンド:Sunday All Over The Worldを結成し、1991年に発表した唯一のアルバム「Kneeling At The Shirine」だったのではないかと思うんです。アルバム「Discipline」で見せた音楽性よりもニューウェーブ的なサウンド・メイキングが提示されたアルバムを皮切りに、1993年には、元Japanのdavid sylvianが発表したアルバム「The First Day」で共演をし、以降、数々のコラボレーションをし続けます。

いっぽうで、Trey Gunnと知り合い、さらにアルバム「Discipline」の制作メンバーであるAdrian Brew(ボーカル、ギター)、Tony Levin(スティック、ベース)、Bill Bruford(ドラム)に、Pat Mastelotto(ドラム)とそのTrey Gunnによる新たな体制で、1994年発表のミニ・アルバム「Vroom」で復活を果たします。

新たな体制での音楽性は、アルバム「Discipline」での超絶プレイの感覚を踏襲しつつも、ダブルドラムを含むダブル・トリオによるアンサンブルは、先行で発表されたミニ・アルバム「Vroom」以上に濃厚に表現されており、1970年代の第2期King Crimsonに近いメカニカルでヘビーなアンサンブルに近しい印象です。さらに、Robert Frippが描き出すアトモスフェリックさや残響さあるサイケデリック/スペース系のエッセンスがアルバム全体を包み込んでいます。

サイケデリック/スペース系の香りも高き、6人編成のダブル・トリオなる「メタル・クリムゾン」の傑作アルバムです。

楽曲について

冒頭曲1「Vroom」では、第2期King Crimsonの2人体制のリズムセクション(Bill BrufordとJamie Muir)とは異なるアプローチを示す楽曲だと高らかに宣言しつつ、メタリックなリフが名曲「Red」(7thアルバム「Red」収録曲)を彷彿とさせてくれます。1970年代のグラム・ロックをモダンなテイストに仕上げたイメージやRobert Frippが携わったDavid Bowieのベルリン三部作の第2作目「Heros(邦題:英雄夢語り)」の世界観も彷彿とさせてくれるリズム・セクションさえ想起してしまいます。そう、Robert Frippが過去に携わった音楽性を垣間見せながらも、それ以上に、

サイケデリックさと硬質感溢れる「メタル・クリムゾン」にただただ聴き入ってしまう。

かといって、サイケデリックさと硬質さだけが当アルバムの特徴なのではなく、2「Coda: Marine 475」以降には、Adrian Brewによる唄メロのメロディラインにはメロディックさや、ヘビーなアンサンブルの中にもシンセサイザーやメロトロンの旋律を交え、叙情さやロマンチシズム溢れているんです。

メカニカルさにもどことなくサイケデリックさを醸し出す2「Coda: Marine 475」、同国イギリスのRoxy MusicのBryan Ferryのようなロマンチシズムさ溢れるボーカリゼーションと幻想的な浮遊さを伴うサウンド・メイキングのある4「Walking On Air」、ボサノバ調のスタリッシュさを感じる憂いを帯びた儚い10「One Time」など、随所に溢れています。個人的には、1980年代のKing Crimsonの楽曲ではAdrian Brewの高音でメロウさもある声質が活かしきれていないのではないかと感じていたため、3「Dinosar」での鬼気迫るようなボーカリゼーションがありながらも、当アルバムのメロウな楽曲に溶け込んだAdrian Brewの声質が活きていると感じました。

そして、これまでのKing Crimsonのサウンド・メイキングをほぼ網羅していると感じるのは、3「Dinosar」ではないでしょうか。King Crimsonの無機質なメタリックさ、Robert FrippのヘビーなギターとAdrian Brewの偏屈さや恐竜を想起させる独特なフレーズ、陰鬱さを醸し出すメロトロンなど、これまでのKing Crimsonの音楽性に濃厚に感じさせてくれます。さらに、楽曲全体を包み込むサイケデリック/スペース系のサウンド・メイキングによって、現代社会には存在しない「恐竜」と云う存在が夢幻の中で体験してそうなサウンドスケープを魅せてくれます。

また、当体制での新機軸と云えるツイン・ドラムの特性は、5「B’Boom」や6「Thrak」、と、冒頭曲1「Vrooom」のバージョン違いの変奏曲の印象がある14「Vrooom Vrooom」、15「Vrooom Vrooom: Coda」に溢れていると思うんです。ベースやスティックも交えた4人のリズムセクションが織りなす複雑さ極まりないアンサンブルには、何度聴いて理解しがたく、ただただ打音による眩惑された音世界へと心奪われてしまうんです。

いっぽうで、ミステリアスさにもファンキーな曲調の8「People」には、バンド:Sunday All Over The Worldで提示したニューウェーブ系のダンサンブルさに溢れた躍動的なアンサンブルが聴けます。

アルバム全篇、ミニ・アルバム「Vroom」の楽曲(1「 Vrooom」、6「Thrak」、10「One Time」、13「Sex Sleep Eat Drink Dream」)をより洗練された方向にリアレンジし、第2期King Crimonのメカニカルさによる硬質さをメインとしながらも、アルバム全体に漂わせるサイケデリック/スペース系でのサイケデリックさ、アトモスフェリックさ、実験音楽性で包み込み、時として随所に抒情さやロマンシズムさを感じさせてくれる素敵なアルバムです。

[収録曲]

1. Vrooom
2. Coda: Marine 475
3. Dinosar
4. Walking On Air
5. B’Boom
6. Thrak
7. Inner Garden I
8. People
9. Radio I
10. One Time
11. Radio II
12. Inner Garden II
13. Sex Sleep Eat Drink Dream
14. Vrooom Vrooom
15. Vrooom Vrooom: Coda

リーダーのRobert Fripp自身が傑作と語る3枚のアルバム(1stアルバム「In The Court Of Crimson King」と7thアルバム「Red」、8thアルバム「Discipline」)に続き、個人的に、4枚目の傑作アルバムと言いたくなるようなアルバムです。

俗に云う「メタル・クリムゾン」を体験したい方、もしくは、2000年代以降に活躍する、たとえば、同イギリスのPorcupine Treeなど、King Crimsonチルドレンと語られることもあるバンドを聴く方におすすめです。

当アルバムを聴き、「メタル・クリムゾン」としてのKing Crimsonの音楽性を好きになった方は、続けて、ヘビーなギターの印象が高い2000年発表のアルバム「The ConstruKction of Light」、2003年発表のアルバム「The Power To Believe」も聴いてみてはいかがでしょうか。いっぽうで、年代を遡り、第2期King Crimsonの3枚のアルバム(1973年発表の5thアルバム「Larks’ Tongues in Aspic(邦題:太陽と戦慄)」、1974年発表の6thアルバム「Starless And Bible Black(邦題:暗黒の世界)」、7thアルバム「Red」)を聴くこともおすすめします

「Thrak」のおすすめ曲

1曲目は3曲目の「Dinosar」
これまでのKing Crimsonのサウンド・メイキングをほぼ網羅しつつ、Adrian Brewの鬼気迫るボーカルが聴ける点と、King Crimsonチルドレンなバンドは多くあれど、楽曲のタイトルの和訳である「恐竜」が大地をのしのしと歩いているイメージがサウンドスケープしうる、唯一無比なKing Crimsonのアクテビティを濃厚に感じます。また、Adrian Brewのボーカリゼーションには「Discipline」期よりもKing Crimsonにフィットし聴けるきっかけとなった楽曲です。

2曲目は13曲目の「Sex Sleep Eat Drink Dream」
The Beatlesの1969年に発表したヒット曲「Come Together」のメイン・リフを想起させるギターとベースのリフが印象的にも、第2期King Crimsonのメタリックさのある凶暴さが溢れ、サイケデリックなサウンド・エフェクトと横ノリのファンキーなリズムが心地良いです。第1期King Crimsonの楽曲「Catfood」(2ndアルバム「In The Wake Of Poseidon(邦題:ポセイドンのめざめ)」)がフリージャズなアプローチだったのに対し、当楽曲はメタリックでヘビーなアプローチというバージョンとも感じずにいられませんね。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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