プログレおすすめ:Pink Floyd「Ummagumma(ウマグマ)」(1969年イギリス)
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最終更新日:2015/12/12
1960年代, Pink Floyd(5大プログレ), イギリス David Gilmour, Nick Mason, Pink Floyd, Richard Wright, Roger Waters
Pink Floyd -「Ummagumma」
第203回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:Pink Floydが1971年に発表したアルバム「Ummagumma」をご紹介します。
Hipgnosisの描いたアルバム・ジャケットのアートワークに描かれた左上前方の窓を覗いてみよう。覗いたその先に、バンドの各メンバーが入れ替わり立ち位置を変えている・・・。
「Ummagumma(ウマグマ)」は、普通に語ってしまえば、従来の代表曲をライブ・レコーディングした1枚目と、各メンバーが個々にソロ風の組曲を作曲しスタジオ・レコーディングされた2枚目と云う変則的な2枚組アルバムによると紹介出来るのではないかと思います。名盤となる6thスタジオ・アルバム「Dark Side Of The Moon(邦題:狂気)」や9thスタジオ・アルバム「The Wall」などと比べれば、サイケデリックな音と実験性に富む音が敷き詰められている印象と捉えるだけかもしれません。
それでもなお、今回、「プログレおすすめアルバム」として紹介したかったのは、このアルバム前後におけるバンドの背景によるものです。
当アルバムは、映画「More」のサウンドトラックとなる前作アルバム「More」を含め、1968年からRoger Waters(ベース兼ボーカル)、David Gilmour(ギター)、Richard Wright(キーボード)、Nick Mason(ドラム、パーカッション)の4人構成という固定メンバーで制作しています。1968年発表の前々作アルバム「A Scuceful Of Secrets(邦題:神秘)」の制作途中で脱退してしまったSyd Barrettの存在によるサイケデリック思考は、当アルバムを通じて、次作の4thスタジオ・アルバム「Atom Heart Mother(邦題:原子心母)」では洗練かけたサイケデリック/スペース系の音処理によるサウンド・メイキングへと徐々に移行しています。
つまり、1枚目(Live Side)では、サイケデリック・カルチャーに溢れるクールさ、退廃さ、気怠さ、妖しさ、虚無さを醸し出し実験性を旺盛に詰め込んだサウンド・メイキングの極みを当時のライブ音源として残し、2枚目(Studio Side)では、アルバム「Atom Heart Mother」へと連なり、アートワークの印象深さを例えるか如く更なる実験性に富み、
アトモスフェリックさへと変貌しかける2、3歩手前のバンド過剰期の淡いサウンドが聴ける重要なアルバムと思うのです。
さあ、サイケデリックな色彩にどっぷりと浸かりつつも、次なる音楽ステップへと模索する実験的な楽曲を聴いていきましょう。その先に、きっと名盤アルバム「Dark Side Of The Moon」が見えてくるはずです。
[Live Side]楽曲について
ライブ・レコーディングされた4曲とも全て当時の代表曲ともいうべき楽曲です。
1969年発表の1stアルバム「The Piper at the Gates of Dawn(邦題:夜明けの口笛吹き)」の冒頭を飾っていた冒頭曲1「Astronomy Domine(邦題:天の支配)」、1968年発表のシングル楽曲「Point Me at the Sky」のレコードB面として発表された2「Careful With That Axe, Eugene(邦題:ユージン、斧に気をつけろ)」、1970年発表の2ndアルバム「A Saucerful of Secrets」に収録されていた3「Set the Controls for the Heart of the Sun(邦題:太陽賛歌)」と4「A Saucerful of Secrets(邦題:神秘)」には、サイケデリックなサウンドがふんだんに盛り込まれているだけでなく、ライブならではの躍動的でダイナミックなアンサンブルが聴けます。
とりわけ、
1「Astronomy Domine」での、レッド・メーターを振り切ったままのような仄かなハモンド・オルガンの旋律と口笛なイメージで何度も繰り返される呪術的なスキャットの存在さはどうだろうか?
2「Careful With That Axe, Eugene」での、いくぶんサイケデリック/スペース系にも不穏さやミステリアスさを醸し出す前半部から、狂気乱舞し錯乱したかのような雄叫びと緊張感と切迫さに溢れるアンサンブルはどうだろうか?
3「Set the Controls for the Heart of the Sun」での、パーカッシブなアグレッシブさからアフリカン・ムードやオリエンタル・ムードが交錯し合うエキゾチックなサイケデリックなサウンドはどうだろうか?そして、その先に現代のアトモスフェリック系のプログレッシブ・ロック系のバンドの幻影はみえないか?
4「A Saucerful of Secrets」での、狂気に満ちたコラージュとも取れるアヴァンギャルドさはどうだろうか?
Syd Barrettが描こうとした音楽世界が、唄メロの気怠さ溢れる淡々としたメロディラインなども含め、LSDやドラッグによる妄想的な世界へトリップしているかのように渦巻くサウンドは、聴くたびに圧倒されてしまいます。
[Studio Side]楽曲について
スタジオ音源は、各メンバーのソロ組曲が収録されています。
4部構成から成るRichard Wrightによる「Sysyphus(邦題:シンファス組曲)」、Rogers Watersによる「Grantchester Meadows」と「Several Species of Small Furry Animals Gathered Together in a Cave and Grooving with a Pict」、3部構成から成るDavid Gilmourによる「Narrow Way(邦題:ナロウ・ウェイ三部作)」、3部構成から成るNick Masonによる「Grand Vizier’s Garden Party(邦題:統領のガーデン・パーティ三部作)」には、もちろんメンバー個々のソロ作であることからも、バンドが一体化したサイケデリック系のサウンドというよりも、新しいサウンドを模索しようとする姿勢が強く伺えます。
・・・「Sysyphus」での、映画「More」のサウンドトラックを想起させるサウンド・コラージュやクラシカルのオペ
ラ要素
・・・「Grantchester Meadows」での、フォーキ―さ
・・・「Several Species of Small Furry Animals Gathered Together in a Cave and Grooving with a Pict」での、The Beatlesの名曲「Revolution No.9」(アルバム「White Album」収録)を彷彿とさせるミニマルなエッセンスを含む前衛的音楽性
・・・「Narrow Way」での、カントリー系の軽快さとドゥーム・メタル風のミニマルさを弾くギターのフレーズを使い分けつつもアヴァンギャルドなサウンド・コラージュが重なるモダンなアンサンブル、「Narrow Way, Pt. 3」にみる憂いさある唄メロのメロディラインによるドリーミィーさ
・・・「Grand Vizier’s Garden Party」での、前衛的音楽性
など、きっと、アルバム「Dark Side Of The Moon」をはじめとする楽曲に垣間見えるサウンド・コラージュな世界観を感じえるはずです。
[収録曲]
[Live Side]
1. Astronomy Domine(邦題:天の支配)
2. Careful With That Axe, Eugene(邦題:ユージン、斧に気をつけろ)
3. Set the Controls for the Heart of the Sun(邦題:太陽賛歌)
4. A Saucerful of Secrets(邦題:神秘)
[Studio Side]
1. Sysyphus, Pt. 1(邦題:シンファス組曲)
2. Sysyphus, Pt. 2
3. Sysyphus, Pt. 3
4. Sysyphus, Pt. 4
5. Grantchester Meadows
6. Several Species of Small Furry Animals Gathered Together in a Cave and Grooving with a Pict
(邦題:毛のふさふさした動物の不思議な歌)
7. Narrow Way, Pt. 1(邦題:ナロウ・ウェイ三部作)
8. Narrow Way, Pt. 2
9. Narrow Way, Pt. 3
10. Grand Vizier’s Garden Party: Enterance, Pt. 1(邦題:統領のガーデン・パーティ三部作)
11. Grand Vizier’s Garden Party: Entertainment, Pt. 2
12. Grand Vizier’s Garden Party: Exit, Pt. 3
純然たるサイケデリックや実験的音楽などが好きな方におすすめです。
1枚目のライブ音源は、「サイケデリック」なロックを聴き続け、さらにトリップ感を求める方に、もちろんプログレッシブさに「幻想感」を感じたい方におすすめです。また、2枚目のスタジオ音源は、最も売れた6thスタジオ・アルバム「Dark Side Of The Moon(邦題:狂気)」や9thスタジオ・アルバム「The Wall」に垣間見せる、前衛的なサウンド・コラージュの原型を聴いてみたい方におすすめです。
はじめてPink Floydを聴く方には、2枚目のスタジオ音源はとっつきにくい感じをしてしまうかもしれません。
1枚目のライブ音源で、サイケデリック時代のPink Floydのライブを楽しみ、一連の名盤や傑作のアルバム(「Atom Heart Mother(邦題:原子心母)」、「Middle(邦題:おせっかい)」、「The Dark Side Of The Moon(邦題:狂気)」、「Wish You Were Here」、「Animals(アニマルズ)」、「The Wall」)を一通り聴いてから、2枚目のスタジオ音源を聴くことをおすすめします。
アルバム「Ummagumma」のおすすめ曲
1曲目は、2枚目[Studio Side]の9曲目「Narrow Way, Pt. 3」
どことなくThe Beatlesの楽曲「Sexy Sedie」のコード進行やラインを感じさせてくれます。名曲「One Of These Days(邦題:吹けよ風、呼べよ嵐)」で感じえるブルーズを基調としたギターのフレーズはなくとも、憂いを帯びた唄メロのメロディラインには、David Gilmour主導で制作される今後の楽曲のプロトタイプを感じずにいられません。
2曲目は、1枚目[Live Side]の4曲目「A Saucerful of Secrets」
2ndアルバム制作時、当時のプロデューサーに「アルバムの12分間だけ、自分たちの好きなようにプレイして良い」と云われ、制作したというエピソードと4人のメンバー全員が制作クレジットに入っていることを知ったことで、バンドの個性が思う存分と発揮させたのかと思うと、感慨深くなってしまからです。数多くある代表曲の中でも、エピソード通りいえば、代表曲から絶対に外せない1曲と思います。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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