プログレおすすめ:King Crimson「Islands(アイランズ)」(1971年イギリス)
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最終更新日:2020/01/04
1970年代, King Crimson(5大プログレ), イギリス, フルート, メロトロン Keith Tippet, king Crimson, Mark Charig, Mel Collins, Peter Sinfield, Robert Fripp, Robin Miller
King Crimson -「Islands」
第181回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:King Crimsonが1971年に発表した4thアルバム「Islands」をご紹介します。
当アルバム「Islands」を耳にしたイメージは、1stアルバム「In The Court Of The Crimson King(邦題:クリムゾン・キングの宮殿)」と2ndアルバム「In The Wake Of Poseidon(邦題:ポセイドンのめざめ)」の表裏で姉妹版とは異なるイメージですが、どうしても前作3rdアルバム「Lizard」と対となるイメージを抱いてしまいます。
アルバム制作にあたり、即興性も豊かにRobert Frippが徹底的にコントロールした3rdアルバム「Lizard」とは異なり、アルバム制作過程で楽曲の骨組みを構築するにあたり、ライブの合間をみて、思いついては制作していったというエピソードが残っていますが、Robert Fripp以外に、3rdアルバム「Lizard」に参加していたMel Collins(フルート&サックス)、Peter Sinfield(詩、照明)、Keith Tippet(ピアノ)が自身のバンド・メンバーで引き連れて参加させたMark Charig(コルネット)らやRobin Miller(オーボエ)の存在がそのクリエティビティを維持させて、サウンドに反映されているからかもしれません。
ただし、リード・ボーカルとリズム・セクションは、Keith TippetがRobert Frippに協力を仰ぎジャズ系のバンドに参加していたBoz Burrell(ボーカル、ベース)とIan Wallace(ドラム、パーカッション)に入れ替わっているし、サウンドに高音と低音の比重を高める妖艶なボーカリゼーションで聴かせる女性ソプラノ歌手:Paulina LucasとHarry Miller(ストリング・ベース)らが参加することで、3rdアルバムの「危うさ」を継続させながらも、それ以上に
King Crimson史上、最も生の弦楽器と管楽器が多用され、肌触りも豊かなサウンド
の印象になったのかと思います。ジャズ系に不慣れな方でも、前作3rdアルバム「Lizard」よりもさらにしとやかなクラシックさがあり、聴きやすさはあるかもしれません。
そして、アルバムのクロージングでは「静けさ」を感じずにいられない、第1期King Crimsonの終焉を象徴するかのように微かに消え入りそうな静寂さへ向けて、1曲目から聴いていきましょう。
楽曲について
Robert Frippによるアコースティック・ギターによる不穏な旋律に導かれ幕を上げる冒頭曲「Formentera Lady」は、Keith Tippetによるフリー・タッチのピアノの調べ、Harry Millerによるストリング・ベースが交錯し合うインプロビゼーションは、現在(いま)目の前から消えいりそうに、切れてしまいそうな糸がたるむことなく儚くも揺れているようなサウンドスケープを魅せてくれます。また、オリエンタルなムードを讃えるような洗練された唄メロを聴かせてくれるヴァースのパートもあるため、聴き終わると、どことなく謎めいた不可思議な世界観の印象かもしれません。ただ、前作3rdアルバム「Lizard」で前衛的にも思えたサウンド感と異なるように思えるのは、Paulina Lucasのソプラノ・ヴォイスも加わる後半部のパートの印象や、エッジの効いたギターのフレーズよりも生々しさの印象が高いからかもしれません。
Paulina Lucasのソプラノ・ヴォイスが消え入るや否やシンバルによる音に導かれ2「Sailor’s Tale」は、ほとばしる8分の6拍子のビートに乗り、エレクトリック・ギターとサックスがロングトーンでユニゾンを奏でたり、インプロビゼーションも豊かに交錯し合う猛々しいフレーズの応酬、3分前後から突如として猫が掻き毟るようなイメージに近しくかき鳴らされるギターのフレーズとじわじわと充満していくメロトロンの旋律には、アルバム・ジャケットでいう宇宙で星が生まれ消滅するかのように混沌さとヘビネスに乱れ狂うアンサンブルが聴けます。3rdアルバムでのAndy McCullochのねばっちこさとは異なり、打音的に叩きまくるIan Wallaceのドラミングも圧巻です。クロージングに向けてRobert Frippがかき鳴らすギターの乱雑なフレーズも含め、名曲「The Devil’s Triangle」(アルバム「In The Wake Of Poseidon」収録)の後半部の発展系の印象ももちました。荒々しさ溢れるインプレゼーションの様相は、第2期のサウンドを予見もさせるかもしれませんね。
ギターによるリリカルさあるアンサンブルに落ち着いた佇まいではじまる3「The Letters」は、1分前後からのエッジの効いたギターによる暴力的ともいえるアンサンブルは、3rdアルバムの楽曲「Happy Family」におけるフルートを除いたフリーキーさを呼び起こしてくれるに十分で、クロージング直前のBoz Burrellの狂気にもじみたボーカリゼーションも含め、ただただ圧倒され、言葉を失ってしまいます。
4「Ladies Of The Road」もまた3rdアルバムの楽曲「Indoor Games」を想起させる歪んだポップとBoz Burrellによるボーカリゼーションの偏屈さ極まりないアンサンブルが展開する楽曲です。2分前後や3分15秒前後で優しげでいてメロディックな唄メロがひとときの清涼でホッとさせてくれますが、その清涼ささえすぐに断ち切るようにサックスとギターによるフリーキーな旋律の数々は、楽曲がスローテンポだからこそ聴いていて後味の悪さが凄まじく、このエキセントリックな世界観を描き切った当時のKing Crimsonのクオリティの高さを感じずにはいられません。
5「Prelude: Song Of The Gulls」は、オーボエ、ストリング・ベースをメインのアンサンブルとしたインストルメンタルの室内楽的な楽曲です。2「Sailor’s Tale」から4「Ladies Of The Road」までのフリーキーさやエクセントリックなエッセンスに心触りが悪くなったのも、当楽曲を聴けば、黄昏の海でかもめがはためく姿が脳裏に浮かんできそうに、やや涙ぐましさ溢れるサウンドスケープを魅せてくれます。
続く最終曲6「Islands」もオーボエ、コルネット、ストリング・ベースをメインのアンサンブルに、ピアノが唄メロに合わせて即興で聴かせる第1ヴァースと、リリカルなピアノに聖歌を唄うかの如くBoz Burrellのボーカリゼーションの第2ヴァース、コルネットが鳴り響くパートなど、晴やかに美しく紡ぎ合うメロディの数々に身を委ねながら、クロージングを迎えます。
アルバム全篇、King Crimson史上、最も生の弦楽器と管楽器が多用されたからこそ、「肌触りも豊かに」とは「生の響き」が重要視されることで、痛々しさはより痛々しく、哀しみはより哀しく、心の奥底へ問いかけてくるようなサウンド・アプローチを感じずにいられません。King Crimsonが過去のアルバムで提示してきた狂気さ、翳りさ、抒情さなどがジャズ系のエッセンスとともに感性豊かに反映され、聴き手に迫ってくるでしょう。そのインプレゼーション溢れるアンサンブルは、第2期King Crimsonのアンサンブルへと発展していきますが、ただ今は、アルバム中盤の楽曲で痛々しさも感じたサウンドスケープを、最終曲「Islands」に心落ち着かせるように聴き入りたいアルバムです。
[収録曲]
1. Formentera Lady(フォーメンテラ・レディ)
2. Sailor’s Tale(船乗りの話)
3. The Letters(レターズ)
4. Ladies Of The Road(レディース・オブ・ザ・ロード)
5. Prelude: Song Of The Gulls(プレリュード:かもめの歌)
6. Islands(アイランズ)
King Crimsonの音楽のイメージする狂気さ、翳りさ、抒情さなどが溢れてたサウンドですが、1stアルバム「In The Court Of The Crimson King」や2ndアルバム「In The Wake Of Poseidon」のメロトロンやエレキ・ギターを交えたロック要素よりも、3rdアルバムでのよりフリー・ジャズ的な展開が好きな方におすすめです。
当アルバムを聴き、King Crimsonを好きになった方は、ロックの要素の比重もある前作3rdアルバム「Lizard」もおすすめです。また、フリー・ジャズ系からのアプローチとして、カンタベリー系のプログレッシブ・ロックや、Keith Tippet Groupのアルバムもおすすめです。
生の管弦楽器を多用したインプロビゼーションを重視したアコースティカルなアンサンブルは、言葉では「混沌さ」という形容を超越したかのようなクオリティが詰まったアルバムです。2015年現在も活動するKing Crimsonは、ライブのレパートリーに当アルバムの楽曲からの選曲も多い印象があります。まるで、1971年当時にKing Crimsonが提示した音楽性に時代がやっと追いついただろう。と言わんばかりに・・・。
そんなプログレな気持ち。みなさんはいかがですか?
「Islands」のおすすめ曲
1曲目は6曲目「Islands」
いつの間にかアルバム・ジャケットに映る「いて座三裂星雲」にすっと吸い込まれそうに、第1期King Crimsonの終焉を「音源」の中で立ち会っているようにただただ約9分弱の尺を感慨深く聴き入ってしまいます。
2曲目は2曲目「Sailor’s Tale」
荒れ狂うインプロビゼーションをアルバム中で最も強く感じさせてくれます。ここにはもうロックではなくフリー・ジャズに染まりゆくKing Crimsonの姿を感じずにいられません。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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